【授業研究5】 第5学年 体つくり運動(長なわ跳び)
(1)  はじめに
   体つくり運動は,5年生になって初めて扱われる単元であり,他の領域の運動と違って健康や体力を維持増進することを直接ねらって行われる運動である。そこで,児童が体力の現状を認識し,運動を行うことの意義や目的について理解しながら学習を進める必要がある。また,これまでの体操領域の授業では,「楽しさ」があまり言及されていなかったことについても考える必要がある。今回の体つくりの運動では,創意・工夫ある動きの開発につながる「基になる動き」の十分な体験,友達と学び合い多様な動きを引き出せる場づくり,一人一人の体力に応じためあての設定などにポイントを置くことにより,楽しさを十分味わえるようにしたい。
 今回取り上げた長なわ跳びは,跳びなわが1本あれば手軽にできる運動であるが,その内容は,跳躍を主体とした全身運動により体力を高める効果とリズム,タイミング,空中感覚などを身につけていく中で運動能力を高める効果がある。また,いろいろな跳び方やその組み合わせを考えたりする中で,一人一人の能力に応じながら創造性を培うことができると考えられる。
 以上のようなことから,本単元では,学習の道筋を,「1本のなわを使ったいろいろな跳び方を体験しながら動き方や動きの工夫とその高め方を身につけ,友達とタイミングを合わせて跳ぶことを楽しむ」段階から,単元前半で身につけた動きや工夫を基に,「1〜2本のなわを使った新しい跳び方や友達とタイミングを合わせる跳び方を個人やグループで工夫して楽しむ」段階へと発展させていくことにした。
 この二つの段階を重視した長なわ跳びの授業は,児童に運動の楽しさや喜びを十分に味わわせながら,創造性を培い,体力を向上させるのに有効であると考える。
(2)  仮説について
 
  仮    説 検    証
 自分の力に合わせて目標設定ができる単元構成をすれば,向上心が高まり,工夫を引き出すことができるであろう。  本単元導入時と終了時の学習カードから「自分の力に合っためあてを設定できた」,「向上心が高まった」に対する自己評価と動きの工夫との関連をつかむ。
 自分の力に合っためあてを設定することができれば向上心が高まり,動きの工夫につながると考える。
 友達と学び合う場を重視した学習展開をすれば,友達とのかかわり合いの中で動きの工夫をすることができるであろう。  本単元の事前,事後のアンケートから友達と学び合う場を設けた学習と動きの工夫についての関連をつかむ。
 友達と学び合う学習の場が協力し合える場であれば友達とのかかわり合いの中で意見を出し合い,認め合う中で動きの工夫につながると考える。
(3)  授業の実践
  体つくり運動単元計画
(4) 授業実践のまとめ
   授業分析と考察
    (ア)  仮説1について
       自分の力に合っためあてを設定できるようにするため,図1のような項目を学習ファイルの中に入れ,オリエンテーション時にめあての立て方のポイントを説明した。また,毎時間のめあてを立てる段階で参考にするように話すとともに,必要に応じて個別に支援を行った。
  図1 めあての立て方の説明と設定例(学習カードから)
      図1 めあての立て方の説明と設定例(学習カードから)  このような支援を続けた結果,学習カードの中の「めあては自分の力に合っていましたか。(めあての設定)」について,「はい」と答えた児童の数は,図2のように2時より8時の方が大きく増えている。このことと,向上心や工夫との関係を見てみると,「もっと上手になりたいという気持ちやもっとがんばろうという気持ちが高まりましたか。(向上心)」について,「はい」と答えた児童の数は,図3のように2時より8時の方が増えている。また,図4のように「動きの工夫をすることができましたか。(工夫)」に対する自己評価平均値(5点満点)も3.7から4.0と向上している。
 以上のことから,本単元は自分に合っためあてを設定することができた単元となったといえる。そのことが,「さらに上手になりたい」,「もっとがんばろう」という向上心を高め,動きの工夫につながっていったと考えられる。
図3、図4
    (イ)  仮説2について
       図5は,友達と学び合う場を重視した本単元の学習(長なわ跳び)において,「友達と協力して運動できましたか。」の質問項目に対する2時から8時までの自己評価平均値(3点満点)を示したものである。評価平均値は,グラフからも分かるように,2.7〜2.8と毎時間高いレベルにあり,本単元の学習の場は,協力し合える場であったといえる。
 図6,7は,本単元の学習前と学習後にとったアンケート中の「意見を出したとき認めてくれる友達がいる。(受容)」に対する答えを「はい群」と「いいえ群」に分け,それぞれの群の児童の「動きの工夫をすることができましたか。(工夫)」に対する自己評価(5点満点)との関連を調べたものである。
 また,図8,9は,「誰もが意見を出しやすい。(意見)」と工夫との関連を同様に調べたものである。
 「はい群」の動きの工夫に対する評価平均値を見てみると,受容に関しては,4.1から4.5,意見に関しては4.4から4.6と単元後の方が向上している。
 一方,「いいえ群」は,この逆の傾向を示している。このことから,友達とのかかわり合いの中で意見を出し合い,認め合ったりする雰囲気が整っていき,それが動きの工夫につながっていったと考えられる。
 以上のことから,友達とかかわり合う場の雰囲気がよい状態になっていると,友達とのかかわり合いの中から動きの工夫につながるものが生まれてくると考えられる。
 たとえば,このことを仮説1と関連させて考えてみると,学習の場がよい雰囲気になっていれば,友達からの言葉かけなどによっても向上心が高まっていくのではないかと推測できる。
 友達とかかわりながら学習活動を進めることは,学校生活で日常行われていることである。このかかわりが良好な雰囲気の中で行われるようにするためには,集団づくりに対する教師の日頃の取り組みが大切であると痛感した。そして,そのことによって児童の工夫を引き出すことができることを今回の授業を通して確認できた。
図5 友達との協力

図6〜9

グループの友達と一緒に
    (ウ)  跳び方のレベルについて
       跳び方のレベルを調べることで技能の向上をつかむことができると考えた。跳び方のレベルについては,表1のように3段階に分けて考え,2時,5時,8時の児童の動きを調べ分類した。
  表1 跳び方のレベル
       跳び方のレベルは,図10を見ても分かるように,2時は一人での基本の跳び方が中心であったが,5時,8時では,一人や数名で入り方・跳び方に工夫を加えたものが中心となった。このことから,本単元が技能の向上にも大きく貢献していると考えられる。また,レベルの高い様々な跳び方が出たことからも,同時に工夫を引き出すことができたのではないかと推測できる。
  タイミングを合わせて 図10 跳び方のレベルの変化
       図11は,学習カードの中に書かれた児童の考えた跳び方の例である。@はレベル1の跳び方を基にして,空中でひねりを加えたもの,Aは友達と同時になわに入り,瞬間的に進行方向を変えて屈折跳びに変更するものである。Bは斜め跳びで入ってくる友達にタイミングを合わせて跳び,着地後すぐに向きを変えて次のなわを跳ぶものである。
  図11 児童の考えた跳び方
   成果と今後の課題
    (ア)  成果
       図12は,単元終了後にA児が書いた感想文である。
 1本のなわと一緒に活動する仲間とのかかわりの中からA児は長なわを使った運動の楽しさを味わえたことがわかる。この楽しさのもとになっているのが,「みんな」,「協力」,「工夫」という今回の授業の仮説に直結するものであり,本単元が  運動の楽しさ,喜びを味わいながら創造性を培っていくことができる単元であったと思われる。
 今回の授業中の児童の動きを見ていると,工夫した動きには,「前もって考えていた動き」と「瞬間的・直感的に生まれた動き」の2種類があった。前者の工夫は,学習の比較的前半で多く見られ,後者の工夫は,学習の比較的後半で多く見られた。
 これは,一人一人の跳び方のレベルがアップしてくると多人数で同時になわに入る場面が多くなることから,なわに入った瞬間に相手の動きを予想 して自分の体を操作する必要が出てきたためである。このような場面で,体の操作を工夫することができたのは,基になる動きを豊富に体験していたためであることも児童の動きを見ているとよくわかった。
 最後に,本研究を実施しての成果としてもう一つあげられるのが,図13のように体育学習を好きになった児童が増えたことである。このことは,創造性を培おうとしたこの授業が,体育学習を好きにさせるのに,何らかの貢献をしたと考えられる。特に,今までの体育学習が「大変嫌い」だった児童に対して,体育を少しでも好きにさせる効果があったと考えられる。このようなことから,これからの体育学習に意欲をもって取り組む児童が増えることが予想され,他単元の学習の中でも創造性を培う原動力になってくると思われる。
図12 単元終了後の児童の作文

図13 体育は好きですか
    (イ)  今後の課題
       長なわ跳びは遊びの中でも広く行われているものである。その遊びの中で,今回の学習のように工夫を加えた動きが生み出され,その工夫をもとに体育学習でさらに動きに工夫を加え,また遊びの中に取り入れていく。このような繰り返しの中で創造性をさらに培っていけると考える。このような,体育学習と遊びとの関連を高めるための方法について研究を深めたい。

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