【授業研究3】 第4学年 基本の運動(布・長なわを操作する運動)
(1)  はじめに
   小学校学習指導要領解説体育編(平成11年5月)によると,小学校第4学年の基本の運動(用具を操作する運動)の内容は,長なわ・短なわや輪を操作する運動と竹馬や一輪車を操作する運動が示されている。ここでは,体力の向上という点を少しずつ児童に意識させるとともに,高学年から行う「体ほぐしの運動」や「体力を高める運動」につながるような内容で授業を展開していきたいと考え,布を操作する運動と長なわを操作する運動を組み合わせて展開することにした。
 具体的には,授業前半において,布を操作する運動をする。1枚のふろしきと1個のドッジボールを2人で操作する基本的な運動を行った後,いろいろな動きを導き出すようにする。授業後半では,長なわを操作する運動をする。8の字跳びや平行跳びなど基本的な跳び方を練習した後,グループで音楽に合わせて跳んだり,他の用具を組み合わせたりして,3分間から4分間くらいの運動を創作する。さらに,長なわを操作する運動では,毎時間,ミニ発表会の場を設定し,児童の向上心をより高められるようにする。
 このような授業を展開することにより,児童は,創造性を培いながら,運動を楽しく行うことができるとともに,技能が高まり,結果として体力の向上にもつながるのではないかと考えた。
(2)  仮説について
 
  仮    説 検       証
 長なわを操作する運動において,ミニ発表会を取り入れた授業展開は,向上心を高め,工夫を引き出すことができるであろう。
a  本研究を進めるにあたり,「体育の学習について」のアンケートを実施する。その中に向上心と工夫についての質問項目を設ける。単元前と単元後を比較して,高い数値になれば,向上心が高められ,工夫を引き出すことができたと考える。
b  単元前と単元後に,筑波大学教授の高橋健夫氏らが考えた診断的・総括的授業評価を実施する。これは,体育授業に対する児童の態度の変容をみるものである。質問項目は,20項目からなっているが,その中でミニ発表会における工夫と関係があると思われる項目の変容を比べる。高い数値になっていれば,工夫しながら学習を進めることができたといえるだろう。
 より運動に従事できるような授業の展開は,児童の工夫を引き出すことができるであろう。  運動従事については,授業の様子を毎時間VTRに撮り,「集団的時間標本法(GTS)」により調べる。工夫については,学習カードより工夫した動きの数を調べる。非従事の数が減り,工夫の数値が高くなれば,より運動に従事できるような授業は,工夫を引き出す授業といえるだろう。
(3)  授業実践
  基本の運動単元計画
(4) 授業実践のまとめ
   授業分析と考察
    (ア)  仮説1について
    a 向上心と工夫についての児童の変容
       本研究を進めるにあたり,「体育の学習について」のアンケートを実施した。その中で,向上心と工夫についての質問項目を設け,単元前と単元後での児童の変容をみることにした。特に,今回の授業で関わりがあると思われる4つの項目について,比較してみた。向上心では,「どうやればもっと上手になるか,考えている。」「どうやればもっと楽しくなるか,考えている。」という2つの項目から,その変容をみた。工夫では,「動きを工夫して運動している。」「用具の使い方を工夫している。」という2つの項目からその変容をみた。図1が,その結果である。
  図1 向上心と工夫に関するアンケート結果
       向上心に関するアンケート結果をみると,2つの項目とも単元前に比べると,単元後は高い値を示している。工夫に関するアンケート結果をみても,同様に高い値を示している。このことから,ミニ発表会を取り入れた今回の授業展開は,向上心を高め,児童の工夫を引き出したことができたと考えられる。
    b 診断的・総括的授業評価から
       単元前と単元後に,診断的・総括的授業評価を実施した。これは,体育授業に対する児童の態度の変容をみるものであり,20項目からなっている。表1は,その分析結果である。
 単元前の結果をみると,どの領域でも5段階のうち「4」ないし,「5」の評価を示しており,合計得点でも「5」評価であった。このことから,クラス全体としては,児童は体育授業に対して愛好的な態度を示していることがわかる。特に,Q1「楽しく勉強」,Q4「精一杯の運動」,Q8「めあてをもつ」に置いては,授業前の評価が「5」であったことから,児童は「めあてをもって,精一杯,楽しく運動している。」ということがわかる。しかし,Q7「他人を参考」,Q13「自発的運動」などが「3」の評価であったことから,精一杯運動するけれども,比較的,他人を参考にするということも少なく,自発的に活動しているという意識も低くかったと思われる。
 そこで,仮説構造にもあげられている「友達とのかかわり」や「主体となる体験」が必要であると考え,用具を使って創作する活動にポイントをおき,ペアやグループで主体的に学習を進めることができるようにした。
  表1 体育授業態度の変容
       単元後の結果をみると,単元前には「4」の評価だった「たのしむ」「学び方」「まもる」の各領域が「5」の評価へと向上し,全ての領域において児童は最高の評価をしていた。特徴ある項目をみると,Q6「工夫して勉強」,Q7「他人を参考」,Q13「自発的運動」などの評価が高まった。特に,Q7「他人を参考」は5%水準で有意にその評価が向上していた。これらのことから,「以前に比べて,より他人を参考にしながら工夫して,自発的に運動していた。」と児童が感じていることがわかる。ミニ発表会での児童の様子を観察してみても,単元前半では,体を動かすことだけで十分に満足しているようであり,他のグループの動きを参考にする様子はなかった。しかし,単元が進むに従って,友達のよい面を認め合うようになってきたと同時に,よりよい動きを取り入れようとしてミニ発表会を見るようになった。発表する側も,自分たちで動くことだけに満足せず,オリジナルな動きを他のグループに見 せようとしている様子であった。これらのことから,ミニ発表会を取り入れた今回の授業展開は,よりよい動きをしようといった児童の向上心を高め,動きの工夫を引き出すことができたのではないかと考えられる。
    (イ)  仮説2について
       運動従事について,「集団的時間標本法(GTS)」を用いて授業分析を行った。GTSとは,高橋氏らが考えた分析法で,一定時間内(例えば12秒間)のある集団成員(典型的に は,クラス集団,あるいはクラス内の下位集団等)の行動を対象にしてデータを収集する方法である。図2は,課題非従事行動をとった児童の推移である。
  図2 課題非従事行動の出現頻度(1授業あたりの延べ人数)
       単元前半は,2時間目で73人,3時間目は60人とかなり高い数値が示された。「布を操作する運動」では,初めて行う教材のせいか,ふろしきを使ってボールを高く上げたり,キャッチボールをしたりする運動に強い関心を示し,友達と大きな歓声を上げながら活動していた。そのため,課題非従事行動をとった児童は,ほとんど見られなかった。「長なわを操作する運動」では,学習の進め方やミニ発表会でのマナーが確立していなかったために,友達とふざけあう児童が見られた。
 そこで,ミニ発表会での活動を充実させることに努め,他のグループの良い点を発表し合う場や自分たちの発表を振り返り,話し合う場を継続して設定するようにした。そのため,単元が進むにつれて,課題非従事行動をとった児童の数は減少していった。5時間目では,「布を操作する運動」において,ややあきが見られ,課題非従事行動をとった児童が男子に見られたが,「長なわを操作する運動」では,各グループが発表会に向けてさまざまな工夫を凝らしながら技に取り組むようになり,その数がかなり少なくなった。このことから,ミニ発表会を取り入れた授業を展開することは,より運動に従事するのに効果的だったと考えられる。さらに,学習カードから「長なわを操作する運動」での工夫した数を調べてみると,単元が進むにつれて,工夫した動きの数が増えていった。課題非従事行動をとる児童の数が減少し,工夫の数が増えたことから,より運動に従事できるような授業を展開すれば,多くの工夫が見られると推測することができる。
  図3 工夫した動きの数 図4 学習カード
   成果と今後の課題
    (ア)  成果
       創造性を培う体育学習の指導の在り方という研究主題のもと,第4学年の用具を操作する運動で授業実践をした結果,次のような成果が得られた。
 長なわを操作する運動において,ミニ発表会をする場を設けることは,他人の動きを参考にするなど友達とのかかわりが深まり,児童の向上心を高め,工夫を引き出すのに有効であった。また,創作をする活動は,自発的に運動でき,より運動に従事できることがわかった。
 さらに,技能を身に付け,体力を養う視点から見ると,布を操作する運動での連続キャッチボールは,クラス平均値で2時間目4.4回,3時間目4.8回,4時間目6.0回,5時間目16.8 回と時間を追うに従って記録が向上した。最高では,47回もできる児童も出てきた。長なわを操作する運動では,長なわに引っかかる回数が少なくなり,8の字跳びなどスムーズに跳べるようになった。
 これらのことから,本単元は,創造性を培いながら,運動を楽しく行わせ,体力の向上も図ることができたのではないかと推測できる。
    (イ)  今後の課題
       創造性を培うのに,ミニ発表会がある程度有効であることはわかったが,ミニ発表会そのものの有効性について,さらに研究を深める必要がある。また,創造性を引き出すための支援の在り方として,発達段階に応じた児童へのかかわり方や学習資料の提示の仕方などもさらに研究していきたい。

[目次へ]