【授業研究2】 | 第3学年 基本の運動(跳び箱遊び〈運動〉) |
(1) | はじめに | ||||||||
第3学年の器械・器具を使っての運動(跳び箱)は,第1・2学年の器械器具を使っての運動遊びと第4学年以上の跳び箱運動との間に位置するため,次のように単元を捉えた。まず第1・2学年の跳び箱遊びは,跳び箱を使っていろいろな跳び越し方を見つけたり,体験したりしてだれもが楽しく運動できる単元である。第4学年以上の跳び箱運動は,系統性を持った技を身に付けることを追求し,克服して行く過程及び克服することを楽しむ運動である。そのため,出来栄えやできる跳び方に個人差が生じたり,跳び箱に対する恐怖感をもち,楽しめない児童が見られるようになってくる。 跳び箱遊びと跳び箱運動の間に位置する第3学年の単元では,跳び箱運動へ発展できるよ うに運動の系統性を考え,跳び箱運動に必要な感覚を養うことができるようにする必要があ る。しかも,遊びとしての要素も取り入れ,誰もが楽しく運動できるようにしたいと考えた。 この単元でいう跳び箱運動に必要な感覚とは,これまでに学習した踏み切り,着手,着地 を一連の運動と捉え,リズミカルに跳ぶことであると考えている。また,遊びの要素とは, 跳び方を工夫したり発見したりしながら,どの児童もオリジナルの跳び方を作る楽しさを体 験することと考えている。 以上を基本となる考え方とし,第3学年の跳び箱遊び(運動)を通して,創造性を培いな がら,技能の向上を目指し,跳び箱遊び(運動)を楽しませたいと考えた。 |
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(2) | 仮説について | ||||||||
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(3) | 実践例 | ||||||||
児童に自由に跳び箱を跳ばせると,2〜3種類の限られた跳び方で高さや距離に挑戦しよ うとしたり,跳び箱を組み合わせて,連続で跳んだり乗ったりして楽しんでいた。跳び方をいろいろと楽しむことよりも,跳び箱の高さを変えて挑戦するということに熱心であった。これでは,技能の差が明確になり,跳び箱運動を楽しめない児童が生じてくることが心配される。 このような状況から,第3学年の段階で跳び箱遊び(運動)を楽しむことができるように二つの工夫を考えた。一つ目は,ある跳び方を身に付けようと練習するのではなく,できる跳び方に変化を持たせ,工夫しているうちに様々な跳び方に挑戦したくなり,跳び方を見付けられるような授業を展開する。二つ目として,この単元で跳び箱を跳ぶという事は,踏み切って跳び箱に手を着き,体を腕で支えてそのままマットに着地することと考えている。つまり,跳ぶという運動は,跳び箱に向かって踏み切り,反対側に跳び越すことばかりではなく,腕支持の後は,跳び箱のどこの位置に着地してもよいとする。このことにより,着地位置や着地の際の体の向きが変われば,新しい跳び方として認められる訳である。誰もが跳び方を工夫したり発見できることになるので意欲を持続させると同時に,工夫することを容易にすることになると考えた。しかし,危険な跳び方に挑戦することも予想される。そこで,着地時に1歩以内の移動で止まることができた場合を「ピョン太」になれたと称して,安定した着地ができることの大切さを強調する。同じ跳び方で3回「ピョン太」になれれば,その跳び方ができたと判断し,自分でその跳び方ができた証として合格の印を付けさせる。 これらの考えを学習過程に取り入れ,ねらい@では,自由に跳び方を工夫して楽しむ段階から,着地の位置や向きに条件を出すゲームを取り入れ,跳び方を作り出す楽しさを体験する段階へと学習を進める。ねらいAでは,これまでに身に付けた跳び越し方で,連続して跳ぶ楽しさや跳び方のコンビネーションを楽しむ段階から,児童自ら跳び箱の高さや向き,配列を工夫して楽しむ段階へ学習を進める。 |
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(4) | 授業実践のまとめ | ||||||||
ア | 授業分析と考察 | ||||||||
(ア) | 仮説について | ||||||||
授業前には,支持跳びとして児童が認識していたのは,「開脚跳び」「かかえ込み跳び」「下向き跳び」「台上前転」「頭はね跳び」の5種類であった。全て跳び箱に正対して踏み切り,跳び箱を背にして着地する跳び方である。以後,これらの跳び方を反対側へ着地する跳び方と呼ぶことにする。 この跳び方に対しこの単元では,跳び箱に正対して踏み切り,跳び箱の横に着地する跳び方がある。場を工夫することで,児童は新しい跳び方ができる。例えば,跳び箱を二つ並べてその間を跳ぶ跳び方である。 以上のように,これまでのできる跳び方の概念を変えたことにより,図1ような変化が見られた。場を工夫しての跳び方と横着地の跳び方以外にこれまでの反対側着地の跳び方も増加している。このことは,跳び方の概念を拡大したことにより,工夫して多くの跳び方を考えたことになる。横着地でできる跳び方として多く取り入れられていたのは下向き跳びである。下向き跳びは,工夫した跳び方の7割程度を占めている。工夫の仕方としては,主に着手後に体をひねる運動を加えることであった。これまでの児童の発想では,「ひねる」という運動はあまり見られなかった。このひねりの発想の源が,着地の位置と向きの書かれたメッセージカードであると考えた。ひねる跳び方は児童にとって新鮮であり,着手後ひねりを4分の1,2分の1,4分の3、1回転ひねりを加えた跳び方が生まれ,横着地や反対側着地が考えられた。かかえ込み跳びと開脚跳びでは,それぞれ踏み切りから着手までに4分の1ひねって着手し,横着地する跳び方が考え出された。図2は 工夫・発見した跳び方の種類と児童数を示したものであるが,少なくても五つの跳び方ができるようになっている。児童は,工夫や発見をしながら,いろいろな跳び方(かかえ込み跳 び・台上前転)ができるようになり,楽しく跳び箱遊び(運動)を体験した。と同時に,新たな楽しみ方である連続で跳び箱を跳ぶ学習に移行していった。 表1は,授業後の感想から,楽しかったことの項目から,その理由を集計したものである。これらの結果からも,児童は,いろいろな跳び方ができた事で楽しさを感じていたことがわかった。また,跳び方を工夫することも楽しんでいたことがわかった。 跳び箱遊び(運動)の授業前と授業後のアンケートではどのような変容が表われているのかを分析してみた。質問5「どうやればもっと楽しくなるか,考えていますか」と質問6「動きを工夫して運動していますか。」,質問10「用具の使い方をくふうしていますか。」という質問に対する回答を5段階で求め,その平均値に対して,差の検定(t検 定)を行った。図3で示 した項目,全て5%水準 で有意な差が認められた。 児童がいろいろな跳び方 を楽しめるような学習過 程を展開すれば,どうす ればもっと楽しくなるか を考えながら,児童が用 具の使い方や動きを工夫 して運動することができ ると推測できる。 |
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イ | 成果と今後の課題 | ||||||||
(ア) | 成果 | ||||||||
めあて@では,「ピョン太」になるために,いろいろな跳び方に挑戦した。めあてAでは,跳び箱を連続して跳び,一連の運動を数多く体験した。授業のまとめの時間に,友達の跳び方を見て,それにみんなで挑戦してみた。その結果,児童はいろいろな跳び方を工夫して跳ぶことを楽しんでいた。また,工夫した場で跳び方を工夫することも楽しんでいた。特に,工夫や発見が多く見られたのは,着地の向きについて条件をメッセージとして提示した時である。初めのうち開脚跳びなどのできる跳び方でチャレンジしていたが,なかなかうまくいかなかったので,これまで取り組みの少なかった下向き跳びで挑戦するようになった。このように,これまでの跳び方の概念を広げるようなメッセージという働きかけによって,跳び方の工夫・発見が一気に見られるようになった。児童の感想からも,跳ぶことに楽しさを感じている児童や場の工夫に楽しさを感じている児童もいたので,工夫する楽しさを味わわせることがとても重要であると感じた。 また,技能的な面の変化を見てみると,これまでできなかった反対側へ着地する跳び方のできる(開脚跳び,かかえ込み跳び,下向き跳び,台上前転,頭はね跳び)の延べ数が増えていることが図4から分かる。3年生における跳び箱遊び(運動)は,跳び方を工夫したり発見したりしながら楽しんでいるうちに,跳び箱運動に必要な運動感覚が身に付くと考えられる。 以上のようなことから,今回の跳び箱遊び(運動)の授業は,児童一人一人が楽しく運動することができ,なおかつ児童の工夫を引き出す効果があると考えられる。 また,「運動に親しむ習慣の育成」という視点からこの授業をみるために,児童に対し「体育の学習で学んだことを生かして遊んでいるか。」という質問を,授業の前後にした。その結果を表2に示した。平均値の差の検定を行ったところ,1%水準で有意な差が認められた。今回の授業で学んだことが,運動に親しむ習慣の育成にも有効であったと推測できる。 |
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(イ) | 今後の課題 | ||||||||
児童がいろいろな跳び方を楽しめるような学習過程の展開を試みた今回の授業では,教師の予想以上に,児童はいろいろな工夫をしながら楽しく跳び箱遊び(運動)に取り組んでいた。今回は,跳び箱運動でのみ検証を実施したが,今後は他の運動についても,今回のような学習過程の展開が児童の創造性を培うのに有効であるかどうかを明らかにしていきたい。 |
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