ア | 児童の遊びの傾向 | ||||||||||||||||||||
東京工業大学の仙田教授は,これまでの調査結果から「子どもの遊びは,創造性,社会性,感性を育てる体験の場である」と述べている。そこで,児童に対し,遊びに関する調査を実施し,回答を得た。その結果を,表1に示した。休み時間や放課後にたくさん行っている遊びについては「ボールを使った遊び」,「おしゃべり」,「鬼ごっこなどの遊び」,「本を読む」の順で,回答が多かった。 日の遊びにおいては,「テレビやビデオを見る」,「テレビゲームやゲームボーイをする」,「ボールをつかった遊び」,「本を読む」の順で回答が多かった。休日には,1人で行うことができる遊びが主流となる傾向にある。また,体を動かし汗をかくような体力の向上につながる遊びは,比較的少ないといえる。 児童の遊びを更に検討するため,教師と児童に対し「(児童は)体を動かし,汗をかいて遊ぶのが好きですか」と質問した。「とても好き」を5点,「とても嫌い」を1点とした5段階の間隔尺度を設定し回答を得た。その平均値を学年ごとに示したものが図2である。教師は,児童が高学年になるほど,体を動かし,汗をかいて遊ぶことを好まなくなる傾向にあると感じている。 体育学習が,児童の運動習慣の育成に貢献しているか見るため,「体育の学習で学んだことを生かして遊んでいるか」との質問を教師と児童に行った。上記と同様に5段階の間隔尺度を設定し回答を得た。その結果を,図3に示した。学年が進むにつれ,体育の学習が遊びに生かされなくなっていく傾向が伺える。 体力が低下しているといった現状を考えたとき,体育の授業で体力の向上をねらうことに加えて,授業以外の自由な時間に,運動や運動遊びを行うような習慣を育成する必要性を感じる。児童においては,遊び感覚で体を動かし,いつのまにか夢中になって息を切らし,汗をかいてしまうような遊びに発展する体育の授業が,運動習慣の育成につながる授業であると考える。そのためには,体育学習で行った楽しい運動や運動遊びの体験に加え,学んだことを工夫し発展させて遊ぶことができる創造性を培うことが大切であると考える。 |
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イ | 授業の実態 | ||||||||||||||||||||
「基本の運動領域」と「体操領域」の授業が年間計画に基づき行われているのか,教師を対象に調査を行った。その結果を,表2に示した。70%以上の教師が,年間計画にもとづいて実施していることが分かった。年間計画が重視され,大半の教師が計画的に実施している状況が伺える。一方で,「各教師の判断で実施」との回答が全体の20.8%に達していた。また,今回の調査で,「実施していない」と回答した教師が,全部で8人いた。「基本の運動領域」や「体操領域」を計画的に実施することが望まれる。 学習指導要領の改訂に伴い,高学年の「体操」が,「体つくり運動」に変わるこの時期に,学校の年間計画を見直すと同時に,それを実施できる体制づくりが必要であると考える。 |
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ウ | 体育に関する好意的な意識 | ||||||||||||||||||||
4〜6年生の児童を対象に「体育が好きですか」との質問をした。どの学年でも,「好き(4年86.2%,5年79.7%,6年81.4%)」との回答が多かった。その理由を複数回答で得たところ,表3のように「いろいろな運動ができる」,「おもいきり体を動かすことができる」,「体力がつく」の順で回答が多かった。同様の調査を,4〜6年生を担当している教師(795人)に実施した。その結果を表4に示した。児童が3番目にあげていた「体力がつく」は,教師からの回答では,上位にあがってこない。このことから,4〜6年生の児童が体力をつけることを意識していることを受け,教師は,今行っている運動が体力つくりにつながっていることを意識させると共に,体力を養い・高めることができる十分な運動量を保証することが大切であると考える。 児童が,自発的・自主的に体育学習に取り組む要因の1つに,学習の楽しさが挙げられる。そこで,「体育が楽しいか」との質問を児童と教師に対し行った。その結果を,図4に示した。学年が進むにつれ「楽しい」といった感覚が,児童から薄れていく様子が伺える。一方,「体育をいやだと感じることがありますか」との質問を児童と教師に行った。その結果を,図5に示した。学年が進むにつれ,「いやだ」と感じている傾向が強くなっていく。 これまでの体育学習は「楽しい」といった情意的な面を大切にして行われてきた。しかし,学年が進むにつれ「楽しい」といった感覚は薄れ,「体育がいやだ」といった感覚が強まっていくことがわかった。この傾向を解消するためには,楽しい体育を重視しながらも「いろいろな運動ができる」,「おもいきり体を動かすことができる」といった視点で授業を充実させることが必要であると考える。また,「体力がつく」といった視点で授業を見直す必要があると考える。 |
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エ | 「基本の運動領域」,「体操領域」の授業に対する教師の意識 | ||||||||||||||||||||
教師を対象に,どんな意識のもとに「基本の運動領域」,「体操領域」の授業を行っているか調査した。「体力の向上をねらって運動させる」,「約束や決まりを守らせて運動させる」,「仲良く運動させる」,「精一杯運動させる」,「楽しく運動させる」,「工夫しながら運動させる」,「自主的に運動させる」,「意欲が高まるように運動させる」,「安全に運動させる」,「上手になるように運動させる」,「めあてにそって運動させる」の11項目に対し,どの程度意識しているかを質問した。それぞれの質問に,「強く意識している」5点から「まったく意識していない」1点までの等間隔の尺度を設定し,回答を得た。この結果を図6に示した。 | |||||||||||||||||||||
「基本の運動領域」,「体操領域」ともに同様の傾向を示している。中でも,他のことと比較して「安全」に対し強く意識して授業を行っている様子が伺える。児童に対し「安全」に授業を行おうとする意識は,非常に大切であり,授業を行う上で不可欠な意識である。逆に,「児童に工夫して運動させる」といった意識は,比較的低い。また,「体力の向上をねらって」,「自主的に」,「上手になるように」といった意識に対しても,比較的低い。これからの体育学習においては,これら比較的意識の低い項目も大切になっていくと考える。 | |||||||||||||||||||||
オ | 体育学習と創造性 | ||||||||||||||||||||
(ア) | 「体育学習の楽しさ」と「考え,工夫し,発見する児童」の関連 | ||||||||||||||||||||
児童に対し「体育の学習のときに,楽しいと感じているか」の質問をした。「とても感じている」と「少し感じている」と回答した児童を「楽しい」群,「まったく感じていない」と「あまり感じていない」と回答した児童を「楽しくない」群として,「考え・工夫し・発見しているか」を問う質問7項目への回答の違いを検討した。それぞれ7つの質問に,「まったくそう思う」5点から「まったくそう思わない」1点までの等間隔の尺度を設定し回答を得た。その平均値を図7に示した。 この結果から,体育学習を楽しいと感じる児童は,感じていない児童に比べ,考え,工夫し,発見していると意識する傾向にある。 |
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(イ) | 「自主性」と「考え,工夫し,発見する児童」の関連 | ||||||||||||||||||||
「自分から進んで取り組んでいるか」の質問に対する回答を,上記と同様に2群に分け平均値を求めた(図8)。この結果から,自分から進んで取り組んでいると意識している児童は,考え,工夫し,発見していると意識する傾向にある。 | |||||||||||||||||||||
4 | 研究主題に迫るための手だて | ||||||||||||||||||||
研究主題に迫るため以下のような仮説を立てた。 | |||||||||||||||||||||
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ここでいう「願い」とは,自己実現の願いであり,「もっと上手になりたい」,「もっとよい記録を出したい」,「もっと仲良く活動したい」,「もっと楽しく活動したい」といった願いであり,別なことばで表現すれば,児童にとっての「向上心」である。 「豊かな体験」とは,児童が主体となる体験であり,基本となる様々な動きの体験である。これらの考えを基に,更に仮説を構造化した。(図9) 仮説を構造化するにあたっては,教職経験15年以上の教員5人の協力を得て,小学校の低学年から高学年までの体育学習を念頭に置いて作成した。作成するにあたっては,5人が個別に考えた構造を1つにまとめ,それを各個人に返し,返されたものを再度個別に考え,それをもう一度まとめるといった手順を数回に渡って繰り返す「デルファイ法」を用いた。このようにして定性的に分析した結果を,フィッシュボーンダイアグラムにまとめたものが図9である。 この構造化した仮説に従って授業研究を行った。 |
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5 | 授業研究 | ||||||||||||||||||||
研究に関する基本的な考え方と構造化した仮説にもとづいて,県内の5つの小学校で以下の授業研究を行い,創造的な態度である児童の「工夫」を引き出す体育学習の指導の在り方について検討を加えた。 | |||||||||||||||||||||
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