【授業研究1】
  高等学校農業
「課題研究」における生徒の創意工夫する態度を育てる授業の実践
 ―――――インタ−ロッキング技術の習得を通して―――――
(1)  授業研究のねらい
   現在の農業土木分野は,コンクリ−トの施工から土地改良,環境保全まで広範囲におよんでおり,従来のような「測量」「水利」「土木施工」といった独立した科目の狭い知識や技術だけを,一方的に詰め込むだけの授業では対応できなくなってきている。そのため作業現場において柔軟に対応できる能力を育成していくことが早急の課題となっている。
 そこで,生徒が興味・関心を持ち,自ら学ぶ意欲を高め,創意工夫する態度を育てるための授業について,昨年の「測量」における授業研究の反省をもとに,課題研究において実践してみることとした。材料施工班を対象とし,身近にある土木技術であるインタ−ロッキングの習得を通して,生徒の興味・関心を高め,実際に役立つ技術を習得させることにより,生徒が喜びを感じ,主体的に学習に取り組む態度や柔軟性を培う授業の在り方を試みた。
(2)  生徒の創意工夫する態度を育てるための手だて
   本校農業土木科3年生課題研究のテ−マは次のとおりである。
    測 量 班 (10名) トランシット・レベルを使った応用測量
    土木設計班 (14名) 橋梁模型の作製および土木施工管理技術者試験対策
    材料施工班 (14名) インタ−ロッキング技術の習得および擬木の作製
   いずれも実習を中心とした授業であり,農業土木の基礎知識があれば十分に対応できる内容となっている。そこで,材料施工班では次のような手だてを考慮して授業実践を行った。
   実用的な題材を選ぶことにより生徒の興味・関心を高める
     日常生活においてよく目にする土木構造物の中で,将来,生徒が自分の力だけで施工が可能であり,ぜひ造ってみたいと思うような題材を複数用意し,オリエンテ−ションにより生徒自身が選択する。
   簡単な作業の中にも発想の重要性が認識できる
     インタ−ロッキングは,一見化粧レンガを地面に敷きつめるだけの単純な作業に思えるが,実は非常に高度な技術を要するものであり,作業を進める上でちょっとした工夫や発想がいかに大切であるかを認識できるようにする。
   既習の学習で得た知識・技術を生かす
     現場における区割りの設定や丁張り,水平面設定の作業など,全てが今まで習得してき  た「測量」・「材料施工」等の内容を応用していけばよいことを気づかせる。
   生徒の創意工夫を生かす
     授業全般を通して,生徒が自ら進んで作業に取り組めるようにするため,教師側は「生徒が自分たちだけで何とかなりそうだ」という見通しをもてる情報を与えるに留めた。当然のことながら何度も失敗を繰り返すものと思われるが,そうした中で素直に反省する心や問題に取り組む態度を育むことにより,柔軟性のある考えや創意工夫する態度が育つものと考え,実習中におけるアドバイスはできるだけ最小限にとどめる。
(3) 年間指導計画
  年間指導計画
(4) 授業の実践
  単元名  インタ−ロッキングの施工
  単元目標  土木・建築分野の施工の一つとして,身近に見られるインタ−ロッキング技術の習得を通して,土木技術に対する興味・関心を高める。
  指導計画
    概要説明 4時間  
    施工の段取り 4時間  
    施工 14時間 (本時はその10,11時)
  本時の学習
    (ア)  目標
       インタ−ロッキング施工の善し悪しを決定する作業である砂入れを,オ−トレベルを用い,施工面全体に砂を水平に敷きつめる方法を工夫させる。
    (イ)  準 備
      a 使用器具
        オ−トレベル,標尺,巻尺,鉄筋棒,鉄筋カッタ−,かなづち,水糸,こて,一輪車,スコップ,ペイント
      b 資 料
        実習プリント(まとめ用)
  授業の展開
授業の展開
写真1 作業現場の測量
写真1 作業現場の測量
写真2 砕石締め固め
写真2 砕石締め固め
写真3 砂入れ
写真3 砂入れ
写真4 ブロック敷き
写真4 ブロック敷き
(5) 授業の結果と考察
   実用的な題材を選ぶことにより興味・関心を高める
     身近な題材を選んだことにより,生徒が興味・関心を示し意欲的に実習に取り組み,技術の習得が図られた。
   簡単な作業の中にも発想の重要性が認識できる
     基準点を設定し,施工区全面に50cm間隔で鉄棒を打ち込み先端の高さをそろえることは,一見簡単そうにみえるが,生徒は,水糸を使うなどの発想の柔軟性なくしては効率よく作業を進めることが不可能であることを認識できた。
   既習の学習で得た知識・技術を生かす
     基準点の設定や,鉄棒先端の高さをそろえることのように,今回の授業だけではなく,作業区域の設定から完成まであらゆる作業工程において,今まで学習してきた「測量」・「材料施工」・「土木施工」等の知識を応用することにより,作業が促進できることを生徒が認識できたと考える。生徒は各科目で得た知識・技術の関連の必要性が実感できたと思われる。
   生徒の創意工夫を生かす
     打ち込んだ鉄棒を目安に砂入れを行ったところ,砂と鉄棒の色が似ているため見づらく,砂を水平にする作業に支障がでたが,生徒の発案で鉄棒を着色することにより容易に作業を進めることができた。このように,結果にこだわらず生徒の意見や考えを積極的に取り入れたり賞賛したりすることにより,生徒の発言が増し,さらによりよい発想を導き出すことができた。
   失敗から学ぶ
     水平面の設定を効率よく行う工夫として水糸を使用したが,結果としてうまくいかなかった。肉眼による小さな高低差の測定のあいまいさが原因であったため,生徒はその原因を全員で考え,自ら他の方法を模索する過程において,新たな発想の意欲を示していた。
(6) 授業研究の成果と課題
   授業研究の成果
    (ア)  実習内容については,オリエンテ−ションを十分行い,いくつかの選択肢を用意し,生徒たちに選ばせたことによりやる気が生まれ,同時に責任感を持たせることができた。
    (イ)  身近に見られる土木技術「インタ−ロッキング施工」を取り上げたことにより,生徒の興味・関心を高めることができた。また,事前に実習内容の中身を,今までの資料を基に十分に説明し理解させたことにより,生徒の中に「わかる」「できる」という自信が芽ばえ,自ら進んで学ぶ意欲が高まり,自主的に取り組む姿勢が見られた。
    (ウ)  作業を効率よく進める手段として,各自の能力を考慮し,二つのグル−プをつくり,交代制で実施した結果,互いのグル−プに競争心が沸き積極的に取り組む姿勢が見られた。また,グル−プ内においてもお互いを気遣う態度が見られるようになった。
    (エ)  一見簡単そうなインタ−ロッキング施工も,砂入れやレンガ敷きなどの作業を通して,生徒の柔軟な発想や工夫を生かすことにより,仕上がりに大きく影響することを認識させることができた。
    (オ)  作業全般を通して,生徒の発想を大切にし,失敗を恐れず彼らのアイデアを積極的に取り入れて進めたことにより,生徒からの発言が増え,創意工夫する態度が芽生え,主体的に学習に取り組む姿勢を育むことができた。
    (カ)  教科書にない実用的な技術を習得したことにより,面白さや素晴らしさ,そして完成したときの満足感を体験させることができた。将来,土木技術者となったとき,必ずやこの経験が役に立つとものと確信する。
   今後の課題
    (ア)  日常生活の中で,さらに生徒が関心を示し,自ら進んで授業に参加できるよう,題材の選択肢をもっと増やす必要がある。そのためには,我々教師がさらに研鑽を積みしっかりとした知識と技術をもつ必要があろう。 完成作品
完成作品
    (イ)  今回の授業研究においては,「やる気」や「創意工夫する態度」を培うための手段として,あえて実習科目を選んだが,今後は専門科目の座学においても実践していきたい。

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