はじめに
 学習指導要領の生活科改訂の基本方針において,「子どもが身近な社会や自然,人と直接かかわることのできる活動や体験を一層重視し,創意工夫を生かした教育活動や,重点的・弾力的な指導が一層活発に展開できるようにする」ことが求められている。さらにこれからの生活科では,ゆとりのある教育活動が展開される中で,基礎的・基本的な内容を子どもがじっくり学習し,その確実な定着を図るとともに,学ぶことの楽しさや充実感を味わい,豊かに表現しながら感性を培い,個性を生かす教育の一層の充実を図ることが大切である。
 本研究では,現行及び新学習指導要領に示されているねらいを基に,研究主題に関する基本的な考え方に示されている「創造性は,子どもが新しい状況に出会ったとき,これまでに身に付けた知識や経験を十分に活用して,新しい解決をしようとする態度と能力」と概念規定し,創造性を培うための研究を進めてきた。
 研究の方向性としては,理論研究,実態調査及び授業研究を行うことであり,具体的には,表現力に関する生活科学習指導上の諸問題などの実態を把握し,課題を明確にするとともに,その課題解決に向けた授業実践を通して,創造性の育成のための支援の在り方について究明することである。
   
研究のねらい
   生活科における学習指導の実態調査をもとに,生活科学習において子どもの創造性を培うために,子どもの豊かな感性を伸ばし,表現力を育てる支援の工夫について研究する。
   
研究主題に関する基本的な考え方
   表現力は,直接体験と同様に生活科の学習の重要な事項の一つである。ここにおける「表現力」とは,内面的・精神的・主体的な思想や感情などを外面的・客観的な形あるもの,つまり言葉,絵,動作,劇化などで表現を可能にする力,表現を生み出す力と考える。
  (1) 「生活科における感性と表現力」について
     生活科における感性とは,「多様な直接体験を通して得た感覚・感情・知識を総合させながら,自ら考えた方法で答えを出すこと」であり,それにより感性を磨き,創造につながっていくと考える。豊かな感性は,自然などの身近な環境と十分にかかわることの中で美しいものや心を動かす出来事などに出会うこと,さらには自分の感情や体験を豊かに表現する充実感を味わうことによって育てられると考える。感性は表現することと相互に深い関係を持っている。感性を豊かにし,表現力を発揮するためには,多様な活動を展開したり,子どもに対する共感的理解を深めたりする姿勢が求められる。
 子どもは十分な体験活動をすることにより,一人一人の個性的な表現活動を展開するようになる。そこでは,子どもの感性が磨かれ,主体的に生きるための創造性が培われると考える。
  (2) 「子どもの豊かな感性を伸ばし,表現力を育てる支援」について
     生活科における表現活動とは,具体的な体験を通して,自分と身近な社会や自然とかかわったり,自分自身や自分の生活について考えたりする過程で,その楽しさを味わい,それを,言葉,絵,動作,劇化などによる手段や方法で表現できることをねらいとしている。
 子ども一人一人の豊かな感性を伸ばし,表現力を育てるために,思いや願い,気付きを的確に捉え,表現活動を十分に支援する必要がある。表現活動は,子ども一人一人が具体  的な体験を十分に味わい,その中から生まれる様々な気付きを生かし,子ども自らが情操豊かに自分の思いや願いをふくらませ,様々な方法を用いて生き生きと表現できることが大切である。
   
生活科における創造性に関する実態調査
   研究主題の基本的な考えに基づき,創造性を培う生活科学習を支援する上での諸問題について実態調査を実施した。
  (1) 調査対象  無作為に抽出した県内の公立小学校 100校の生活科主任に回答を依頼した。
 回答者数は100人である。
  (2) 実施時期  平成10年10月12日から平成10年10月17日まで
  (3) 調査項目,調査結果及び分析
    【表中の数値は,全て回答者数に対する各問の回答数の割合(%)である。】
    学校教育で創造性を育てる必要性
    表1 子どもの創造性を培うために重視している事項
       子どもが活動場面で,様々な問題に出会った時,その問題を解決したりする経験や体験が不十分な面が見受けられる。選択肢ウのように,子どもが体験を通して,思いや願い,気付きをもって,自分の経験の中から,どうすればいいのか一喜一憂して真剣に対象とかかわることにより,問題解決的な能力や態度が育成されると考える。そして体験的な活動を十分に展開することにより,子どもからの個性的なつぶやきや表情,動作,作品などの多様な表現を引き出すことが可能になると考える。さらにそれが,選択肢アの59%と高い回答率の「自ら学ぶ意欲や主体的に学ぶ力」につながると考えられる。
    創造的に思考する学習
    表2 授業で特に留意している事項
       子どもが創造的思考や創造的活動を身に付けるために,これまでの考え方ややり方にとらわれず,自分の考えを生かしたり,物事を多面的に検討したり,他のことと関連付けて考えられたりできるような場の設定に重点が置かれている。生活科においては,年間指導計画の見直しと修正や授業における学習活動の場の設定やその工夫が重要である。
    創造的な能力育成のための手だて
      表3 特に育てたい能力育成のための手だて  講じている手だての組み合わせで多かったのは,選択肢イとオ,イとカの順であった。
 答申には,具体的な体験が重要であると認識しながら,地域の特性を生かさず,画一的な指導に偏りがちな面が指摘されている。
 今後は,地域の特性を生かした体験活動の重視と自主的な問題解決的学習の展開を図ることが不可欠である。学習と地域とのかかわりを一層重視し,地域に関心をもつことや,愛着をもつことができるように配慮したい。そして表現活動を通しながら創造性を高め,さらに体験活動を促したい。
    創造性を育成する上での問題点
      表4 授業で子どもの創造性を育成する上での問題点  製作活動などで,その過程を表現する場合に,子どもの思いや願い,気付きを的確に捉えられず,子どもが意欲を失ってしまい,学習が発展しないことがある。
 表1と関連させて考えると,選択肢エの回答率は,主体的学習は重要であるが一人一人に応じた支援の難しさの現状を感じている。子どもが多様な活動をするために,思いや願い,気付きを的確にとらえる必要がある。発想や考え方を生かすための支援を適切にすることにより,子どもは活動に没頭し,新たな意欲をもって活動に取り組んでいくと考える。一人一人に応じた支援のために,ティーム・ティーチングなどの指導形態を授業に取り入れ,その活を通して授業の改善を図る必要があると考える。
    創造性を育成する上での問題点
      表5 表現力育成のための手だて  製作活動などでは,子どもが作品を作ったり作りかえたりする場合,子どもの活動を予測できず,十分な準備が足りずに子どもの活動が停滞する時がある。
 子どもの表現力育成のための手だてとして,選択肢イ,ア,オの順に回答率が高い。表現力の育成のために,ゆとりある学習計画,活動するための素材・用具の準備,話合いをするための場が必要であり,これらを実践することを通して子どもの発想を広げ,さらに深めることにつながると考えられる。具体的な方策としては,学校や学級,地域の実態をもとに年間指導計画の検討をしたり,修正をしたりする必要があると考える。よりよい授業づくりのために,子どもの活動を保証できるような,地域の特色を生かした年間指導計画やマップなどを作成した。
    授業で創造性を感じる場面
      表5 表現力育成のための手だて  様々な体験的な活動が用意されていても,その活動は単調に展開している場合があり,子どもの活動の盛り上がりや次の活動への移行時期を見逃す場合がある。
 表6から教師は,子どもが活動に熱中している場面,新たな気付きをした場面,工夫した表現活動をしている場面で,子どもの創造性を感じている。
 子どもが体全体で活発に活動の楽しさを味わいながら,気付いたことや楽しかったことなどを,絵や文や劇化などの表現活動で十分に生かせることが手だての一つになると考える。
    創造性の評価
      表7 創造性の評価方法(二つまで回答)  子どもの活動は,順調に自己実現に向かっていくとは限らず,つまずいたり,迷ったり,困難な場面に出会ったりすることが多く,自信や意欲が半減しやすい。選択肢ア,イの回答率は,子どもが創造性を発揮し,生き生きと活動する中での見取りの必要性を指摘している。そこで,教師は子どもの活動を発展させるために,子どもの心や感性の広がりと深さを十分に感じ取りたい。活動中の子どものちょっとした動きやつぶやきや表情, 作品やカードなどから子どもの思いや願いを読み取ったり,保護者との連携により評価を工夫したりすることが手だての一つとして必要であろう。
    創造性の育成に伴う能力
      表7 創造性の評価方法(二つまで回答)  創造性が育成されるとともに培われる能力では,考えを豊かに表現できること,興味・関心をもって活動できること,豊かな知恵と実践力などがあげられている。これらは各学年の目標に示されているところではあるが,さらに具現化した展開がなされるためには,自覚されていない気付きが知的な気付きを生み出すことができるような支援の工夫も必要であると考える。
  (4) 実態調査結果のまとめ
     教師は,創造性を培うために,子どもの学習に対して自ら学ぶ意欲や主体的に 学ぶ力を一番重視している。しかしその 重要性は認識しているが,子ども一人一 人に応じた支援の難しさを感じている。
 また,授業の展開にあたっては,従来 の考え方や方法にとらわれず,自分に適 合した考え方や方法を作り出すことに留 意をしている。子どもたちが生き生きと 具体的な体験活動を実施し,表現活動へ 発展するためには,ゆとりある指導計画 ・素材や用具の準備・話合いの場の必要 性もあげられている。
 さらに,授業の中の様々な場面で子どもの創造性を感じており,活動中のつぶ やきや表情の観察,発表や行動の観察などの見取りから多面的な評価も行われている。
 以上のようなことから,教師は,子どもが考えたことを豊かに表現できること,興味・ 関心をもち積極的に活動できること,豊かな知恵と実践力を持つことができると考えていることが判明した。
   
研究主題に迫るための手だて
  実態調査の結果を踏まえ,次の(1)〜(3)のような手だてを講じて研究を進めた。
  (1) 主体的活動を自発的に生み出すための場の設定及び学習環境などの環境構成を工夫する
  (2) 子どもの思いや願い,気付きや関心などを明確にし,さらに知的な気付きに発展していくような教師の支援を工夫する。
  (3) 子どもが自分とのかかわりの深い体験的な活動を進めるための活動計画作りを工夫する。
   
授業研究
   研究の基本的な考えと実態調査の結果を踏まえ,子どもの豊かな感性を伸ばし,表現力を 育てるために,場の設定及び学習環境,教師の支援,活動計画づくりを視点とした。


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