【授業研究1】 | |||||
中学校第3学年 POP BOX 1 Let's Talk about Japan. | |||||
(1) | 授業の構想 | ||||
POP BOX 1 では,日本の文化や習慣の紹介文を通して,説明文の基本的な論理構成を理解することがねらいの一つとなっている。その学習の発展として,「自分たちの町や自分たちの文化や習慣」を外国の人に紹介することについての授業を設定することにした。相手のことを理解し,相手に伝えたいことを分かりやすくまとまった英文で表現することができるようになることを目標とする。相手に伝えたいと感じたものを,自ら英語で表現する充実感を味わわせたい。そこで,市のALTの働きかけにより,現在,3年生で海外の人と文通している生徒がクラスに10人程度いることを踏まえ,生徒が英文を書く必然性を高めるために,文通という場面設定をすることにした。今までに文通相手から送られてきた手紙を読みとり,相手の人柄や趣味を把握した上で,書く内容ごとのグループを編成し,相手が興味を持ちそうなことや,自分たちの町や日本のことについて英文を作成し,実際にその相手に送ろうと考えている。手紙を書く過程においては,ALTの協力を得て,生徒が作成した英文が伝えたい内容を表しているか,適切な表現が使われているかなどについて助言していくことにする。また,できあがった手紙をグループで交換し読み合うことで,互いの成果を認め合い,読んでくれる相手を意識しながら英文を書くことの大切さを実感させたい。さらに,手紙の返事が来たら授業の中で内容を紹介し合い,生徒にコミュニケーションができた喜びを感じさせたい。それらの活動を通して,英文を書く自信を生徒に与え,相手に通じる英文が書けた喜びを感じさせ,今後も自分の考えを英文で表現したいという意欲を持たせたい。 | |||||
(2) | 指導の手だて | ||||
ア |
場面設定の工夫 実際に海外の人と文通をしている生徒が本校にいることを生かし,「自分たちの町や自分たちの文化や習慣」を紹介する手紙を作成し,文通相手に出すことにする。文通という場面設定をすることにより,実際の相手に対して,目的を持って英文を書くコミュニケーション活動が行える。擬似的なコミュニケーション活動ではなく,本当のコミュニケーション活動を行うことで生徒の意欲を引き出したい。 |
||||
イ |
「書くこと」と他の領域を関連付けた授業展開 前時までに生徒が教科書POP BOX 1 の本文を読み,内容理解と説明文の構成の仕方について学習する時間を設定する。そして,本時のねらいである「相手を理解して,伝えたいことを分かりやすくまとめる。」ということが十分達成されるように,相手の手紙から,相手が興味を持っていること,知りたいと思っていること,などについて読みとらせる。次に,文通相手が住んでいるニュージーランドについて,国や人々の様子,独特の言葉等についてALTによる説明を聞かせ,その国に対する理解が深まるようにする。その後, グループ別のブレイン・ストーミングによって,書く内容の構想を練り,それを豊かに膨らます過程を経て,実際に「書くこと」の活動に入る。さらに,できた手紙文をグループ間で交換し,相互に読み合い,評価し合うという一連の流れを設定する。読んだり聞いたりする活動と「書くこと」の活動を関連付け,無理なく,段階を踏んで「書くこと」のコミュニケーション活動に発展するような工夫をする。また,コミュニケーションが成立した喜びを味わわせるために,相手からの返事の手紙を授業の中で紹介し合い,読ませる。 |
||||
ウ |
効果的なグループ活動 文通は個人の活動であるという性質はあるものの,個別に手紙を書く活動をした場合,英語の習熟度によっては,思うように英文が書けない生徒が現れることも考えられる。そこで,グループごとに手紙を書くことにする。グループ編成にあたっては,実際に文通をしている生徒をリーダーとする。リーダーを中心にグループ内でブレイン・ストーミングを行い,書く内容の構想を練り,それを豊かに膨らます時間を設定する。紹介する内容を調べたり,英文をまとめる分担を決めたりし,個々の生徒が活動の中で生きるようにする。また,一人ではなかなか英文作成が難しいという生徒も,メンバー相互の支援により手紙をまとめることに積極的に参加できるような配慮をする。さらに,グループで作成した手紙が相手にとって分かりやすい内容になっているか,内容は適切であるかなどを確認するために,できあがった手紙をグループ間で交換して読み合い,相互評価をさせる。 |
||||
エ |
ALTの活用 実際に手紙を書く前に,ALTが日本に来る前に日本に対して持っていたイメージ,日本について知りたかったこと,北茨城市が交流しているニュージーランドの文化などについての話をALTから直接聞かせることで,手紙を書く動機付けとなるようにする。また,ALTは,手紙の作成中各グループを回り,表現の仕方や手紙の内容について,生徒の書く意欲が高まるように助言する。 |
||||
(3) | 学習指導案 | ||||
ア | 題材 POP BOX 1 Let's Talk about Japan. | ||||
イ | 時間配当 4時間(本時は第4時,1授業時間50分) | ||||
第1時 | ○ | 本文を読み,日本の習慣についての内容を読みとったり,紹介文の書き方を理解する。 | |||
○ | ALTから日本に対するイメージやニュージーランドの文化についての話を聞く。 | ||||
○ | 文通をしている生徒は文通相手の人柄や趣味などを簡単に学級に紹介する。 | ||||
第2時 | ○ | 海外の人と文通をしている生徒を中心に小グループを作る。 | |||
○ | グループごとに,海外文通をしている生徒から,今までもらった手紙を紹介してもらい,相手の人柄やどんなことに興味・関心があるのかを詳しく知る | ||||
第3時 | ○ | ALTの助言を受けながら,ブレイン・ストーミングを行い,自分たちの町や日本のことで相手が興味・関心があることをどのように紹介するか相談し,書く内容の構想を練る。 | |||
第4時 | ○ | グループごとに手紙を作成する。 | |||
○ | できた手紙を他のグループと交換し読み合って,相互評価する。 |
ウ | 本時の学習 | ||||
(ア) |
目 標 相手のことを理解し,相手に伝えたいことを分かりやすくまとまった英文で表現することができる。 |
||||
(イ) | 展開 | ||||
(4) | 授業についての考察とまとめ | ||||
ア |
1学期の実践から 1学期に3年生のクラスで「日本のことをカナダの人たちに紹介しよう」という授業を行った。ALTが夏休みにカナダに帰国するときに,オタワ市のカルチャーセンターに日本を紹介するものを掲示したいという考えを生徒に話したところ,日本を紹介する壁新聞を作ることが提案された。そこで3〜4人のグループを作り,「日本の食べ物」「日本のスポーツ」「日本の行事」など生徒が思いつく身近なものをテーマに英文を書いた。英文の作り方は,ほとんどの生徒がまず日本語で文章を作り,和英辞典で単語を調べ,それをつないでいくというものであった。単語は調べたが,自分では文にできずに,教師に全面的に援助してもらいながら文を作成した生徒が多かった。それにもかかわらず,自己評価では,約8割の生徒が,「自分の考えを英語で書くことは楽しい」と答えていた。この授業を通して,英語を書く動機付けを適切に行い,英文作成の指導法を工夫すれば,生徒は意欲的に書く活動に取り組み,表現力が高まるであろうという手ごたえを感じた。 |
||||
イ | 本授業について | ||||
(ア) | 場面設定の工夫による成果について | ||||
本授業では,実際に手紙の読み手がいる本物のコミュニケーション場面を設定し,自分から英文を書こうという意欲を高めることに配慮した。授業後のアンケート(本校生徒3年5組36名)の結果を見ると,「あなたはどの場面で英文を書こうとする気持ちが一番強くなりましたか。」の質問に対する答えは,「相手からの手紙を読んだとき」14人,「班で話し合い自分の分担が決まったとき」8人,「ALTから外国の文化について話を聞いたとき」6人,の順に多かった。相手からの手紙を読んでいるときは,生徒それぞれの目も輝いていて,読みながら何について書くかという相談もグループ内で自然に始まった。実際に読み手が存在し,相手が何を求めているか知ることが,書くことの意欲を高める上で重要であることが確認できた。また,手紙の書き方の上でも変容がみられた。1学期の授業では,日本語の文章から英訳する生徒が圧倒的に多かったが,本授業では,書きたいことのアイディアメモを活用し,既習の文型をうまく利用しながら直接英文を書いている生徒が増えていた。これは,書くべき相手や書きたいことが明確になっていたためであると考えられる。 | |||||
(イ) | グループ活動の効果について | ||||
本時では,グループによる書く活動を行ったが,前時のブレイン・ストーミングの際,書く内容の情報収集をメンバーで分担するグループが多かった。たとえば,文通相手が音楽に興味を持っているというグループでは,「校歌の紹介」「今の日本の人気歌手」などの話題から各自が紹介したい内容を選んでいた。日本で人気がある食べ物を紹介するグループでは,自宅のインターネットでマクドナルドについて調べた生徒もいた。同じ興味を持つ生徒同士でグループができているため,お互いにアイディアを交換したり資料を持ち寄ったりするなど工夫し,リーダーを中心にして協力しながら1つの手紙をまとめていこうとする意欲が,全てのグループに感じられた。また,手紙作成が終了した段階で,できあがった英文をグループ間で交換し,読み合い,相互評価する場面を設定したことで,直接の相手に届く前に,級友からコメントをもらい,それに応じて必要な修正も加えられた。グループ活動は工夫して自分たちのアイディアを表現しようとする意欲を持たせ,創造性を引き出す上で効果があったと考える。 | |||||
(ウ) | ALTの活用について | ||||
文通相手が全てニュージーランドに住んでいるため,事前にALTからニュージーランドの文化や言語について話をしてもらった。その話をヒントにして書くことの内容が明確になったり,この時点で書く意欲が高まったという生徒も少なくなかった。 さらに,書いている途中や書き上がった時に,相手に通じる英文になっているか,各グループに対して援助指導してもらった。ALTから助言を受けるとともに書いた英文が相手に自分の考えを十分に伝えられるものであることを認められ,ほめてもらったことで,生徒は自信がついた様子であった。 |
|||||
ウ |
まとめ この授業研究を通して,自分の考えを伝えたい相手が実際にいて,手紙でコミュニケーション活動をするという場面を設定することにより,生徒は意欲を持って書くことに取り組むことが明らかになった。 「書くこと」の活動を他の活動と関連付けることで,無理なく段階的に「書くこと」の活動に生徒が取り組めることが分かった。さらに,グループという形態でブレイン・ストーミングを行い,書く内容の構想を練り,それを豊かに膨らます時間を設定することが生徒の創造性を引き出す上で効果的であることが分かった。ブレイン・ストーミングにより出されたアイディアがカードに記されていたことで,それを見ながら直接英語で書く生徒が増えてきた。自分の知っている文型をうまく使い,誤りに過敏にならず,伝えたい内容を重視して書こうとする気持ちが生徒の中にも育っていたように思われる。 |
||||
[目次へ]