【授業研究2】
  中学校第3学年「動く図形の作図」
(1) 授業の構想
   本研究のねらいには「多様な見方や考え方を発見するまでの数学的な直観力にかかわる学習の工夫」と「多様な見方や考え方を生かして話し合い,論理的な思考力を育てる学習にかかわる工夫」の二つの視点がある。このような視点をもった課題を解決する過程においては,作業,観察,実験,調査などの活動を重視し,生徒の主体的な学習を促すようにすることが大切である。したがって,本授業では生徒の主体的な学習を促し数学的な見方や考え方の育成を図ることを意図して課題学習を実施することとした。また,多様な見方や考え方を生かすためには課題設定の工夫が不可欠であると考える。そこで,既習の知識や技能,見方や考え方などを総合して解決できるような総合的な課題を設定したいと考えた。
 中学校学習指導要領解説数学編(平成11年9月)には,課題学習において「数学を思考の道 具としてうまく使い,数学的活動を楽しむことも積極的に取り入れたい」とある。また,「教具としてのコンピュータ活用」においては「生徒自身が学習したり,数学的活動を楽しくる道具として考えたい」とある。本校第3学年でおこなった数学科学習に関する調査(平成11年9月3日実施,生徒35人実施)では,やりがいのある学習場面はどんな時かという問いに「コンピュータで学習する」が18人いる。また,本学級では,数学や美術の授業において図形を自由に変形できるコンピュータソフト(以下「作図ツール」)を活用しており,本学級において作図ツールを活用した図形についての学習を実践することが課題解決に対して有効であると考えた。
 図形の動きを観察するとき, その動きや軌跡に注目するのは自然なことである。そこで,図形の動きを課題とすることで図形の「変形」における探究過程の多様性を期待した。また作図ツールを使って作図する場合は, 何を基にして, どう構成するべきかを意識化しないと「動かない図」さえ描けない。しかも自分の思い通りに動かして調べるための図を作るには何を動かしたときに何が連動してほしいのか, その時にどういう条件が保存されるべきなのかを意識化しなければならない。したがって,作図ツールを活用した課題に取り組むことで既習の知識や技能,見方や考え方などを総合して解決する活動ができるのではないかと考えた。
 以上のことから,本授業では作図ツールを活用した図形の動きを探究する活動において,生徒の多様な発想を生かす面と,課題において既習事項を多様に活用する面を具体化し多様な見方や考え方を育てる学習指導における学習過程や指導の在り方を究明しようと考えた。
(2) 指導の手だて
  「動く図形」について
 作図ツールは図形を自由に変形できたり異なる図形を関連づけして連動させたりすることができる。図形の関連づけを意図的に行うことで,生徒は自分なりの幾何学模様のアニメーションを作ることができる。図1は線分の比の関係を意図的に活用して作った「伸びる図形」である。動点は中央の線分AB上を動くように限定されている。動点と三角形の頂点は点線で結ばれている。点線は支点を中心に稼動することができる。
 この作図で動点を動かすと動点と支点までの距離に応じて三角形が上下に伸びたり縮んだりするのである。
 図2は交点と線対称の考えを利用した「羽ばたく図形の作図」である。まず円上に動点Pを置き動点Pを通る直線lと直線lに直交する直線mを作図する。直線lと直線mの交点をaとする。つぎに点aを頂点とする三角形abcを作る。三角形の下に直線nを引く。三角形abcと直線nに対して対称な三角形を作る。この作図で動点pを動かすと図3のように二つの三角形の頂点aが上下に動き三角形が伸び縮みをして羽ばたくような動作をするのである。また,図4のように図形を連結する直線をを非表示にすることによって動点と動く図形の関連
 図5は円上の回転運動が点Oを支点とした正多角形の運動に関連する軌跡の作図である。円上の動点pと点線で結ばれた正三角形が点Oを
 以上のように,「動く図形」は小学生から現在までの既習内容を活用して自分なりの見通しをもって異なる図形を関連させて図形を動かすものである。既習の図形の性質を一つでも二つでも関連させていくことで作図することができるので全員の生徒が興味をもって取り組めると考えた。また,一つ一つのステップでの選択の幅はあまり多くなくても,「ここで何を追加するか」→「どこをどう動かしてみて何を観察するか」→「それはどう解釈すべきか」→「次にどういう関連を持たせるべきか」と, いくつもの意思決定の場が連続することによって, 探究の多様性は大きなものになるであろう。
図1 動く図形(しくみ)
図2 羽ばたく図形の作図
図3 羽ばたく図形の動き
図4 図形の非表示
図5 正多角形の軌跡
作業の様子
  機器の活用について
 生徒は男女混合の8グループに分かれており各グループに作業のリーダーをおいている。各グループに1台ずつコンピュータを用意して難易度の高い作図の例題にはグループで対応できるよう配慮した(写真)。
 また,個人の作業の意欲をそがないように個別に作図ツールの使用可能なポータブルコンピュータも用意した(写真)。作業では個人のコンピュータで作図の見通しを立て,グループのコンピュータに清書して動きや色を確かめる流れを基本とした。一斉授業のデモンストレーションでは,テレビ画面を利用し実際に図形を動かしながら説明を行った。コンピュータは一人1台が常に良いとは限らない。特に本授業の課題のように試行錯誤を伴う場合グループで一つの画面を共有して相談することも大切な作業となる。
  評価について
 課題学習の評価は,学習指導要領総則の中で「生徒の良い点や進歩の状況などを積極的に評価する」と述べられている。本時の学習課題においても「興味をもって自分なりの動く図形を設計しようとする姿」や「既習の図形の性質を活用しようと試行錯誤する姿」など生徒の発見の意欲と活用の様子を学習の過程に目を向け,それを励まし,伸ばす評価をすることとした。
(3) 授業の展開
  単元名  課題学習(動く図形を作る)
  学習計画(3時間 本時はその第2時)
    学習計画
  本時の目標
  • 興味をもって動く図形の作図に取り組み,自分なりの動く図形を設計しようとしたり相互に作図のアイデアを交換したりすることができる。
  • 第3学年までに学習する図形の性質を活用して動きに対する見通しをもって作図することができる。
  展開
  展開
(4) 授業の記録(A〜Hの8グループ)
  授業の記録
(5) 授業の考察
 
  • コンピュータ画面上に交点や支点を設け,線分や図形を連結しただけの構成図で,図形を動かしたり,図形を出現させたりできることがわかり,興味深く作図に取り組んでいた。(A,Bグループ)
  • 直観的に思いえがいた図形の動きができるように,グループ全員で交点や円の性質等について「何を基にしているのか」,「どう構成したのか」相談することができた。(C,E,Hグループ)
  • 目標とする図形の動きに対して,既習の学習内容を論理的に組み立て,自分なりの見通しをたてながら構成することができた。(F,Gグループ)
  • 「数学の学習にとって大切なことは何か」という問いに対して,授業実践後には「いろいろな発想や考え方」,「友人との話し合い」,「考えを思い浮かべ,考えを組み立てていく楽しさ」等の意見が増加した。
(6) まとめと今後の課題
   作図ツールを活用した図形の動きを探究する活動をした結果,生徒は,図形についての興味・関心を高め,多様な発想を生かし,既習事項(交点,対称点,円の半径,内心の性質等)と結びつけながら,論理的な思考力や表現力を主体的に示すようになった。しかし,個別には作図が難しく例題を順に追うのが精一杯の生徒がみられた。自分なりの図形を作図する場面同様に,例題も一斉授業で行うのでなく,例題に隠された図形の数学的な関連について個別に探索していく学習過程にした方が,生徒相互のコミュニケーションも深まったろう。

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