【授業研究3】
高等学校第2学年 「自分の意見を相手に伝える方法を身に付けよう
−論理的な思考力や表現力を身に付けるために−」
(1) 授業の構想
   意見文の指導における生徒の活動の様子や文章から,年々論理的思考力や表現力が低下しているのではないかと考えた。その原因として,本を読むなどして落ち着いて考えることをせず,短時間に効率良くという社会的風潮から答えだけを求めることが多くなったことが考えられる。また,生徒は昨年度の「国語学習に関する調査」の結果から,どのような順序で組み立てればよいかということや具体的な文章の書き方や話し方などの表現技能に関しての問題意識が高いことがうかがえる。これは,書いたものが成績に大きく影響し,さらには推薦入試に代表される進学,就職の試験に小論文・作文が出題されているためである。ところが,物事を考えることは,対象をどうとらえるかということであり,どのように表現するかはその上に成り立つものである。
 このように考えると,技能的な側面に重点を置いた指導や,課題をどのようにとらえるかの指導が重要となる。さらに,現行の高等学校学習指導要領によると,自ら論理的に思考し問題を解決していく能力を育成することが重要であると示されている。
 このことから,生徒自らが論理的思考力や表現力を身に付けるために意見文の指導に取り組んだ。ある程度自由な課題設定のもとに行うことで取り組みやすくし,推敲及び相互添削をすることで,自ら取り組む姿勢をもたせられるのではないかと考えた。また,その際,生徒の主体的な発見を促すような指導の方法を工夫した。
(2) 指導の手だて
  課題設定の工夫
 文章を書くことに苦手意識をもっている生徒が多いので,生徒の書きやすい課題を設定できるようにする。今回は新聞記事や短い意見文など内容の異なる6種類の課題文を用意し,その中から一つを選択して意見文を書くようにした。
  目的意識をもたせるために
 祖父母から教えてもらった 「昔の遊び」 を,幼稚園児に教えるという学習活動を設定していく。そのような活動を通して,教えたい内容を具体的にとらえることができるようにするとともに,一人一人が明確な目的意識をもって言語活動に取り組むことができるようにする。
  指導のためのプリント作成の工夫
 授業展開や文章構成については,事前学習すれば理解できるようなプリントを作成した。
  推敲と相互添削・相互評価
 自分自身だけではなく,友人やグループの意見文を読み添削をすることで,多くの人の意見を参考にするようにした。また,添削中に何を中心に添削を行うかを明確にするために,添削ポイントのプリントを作成した。また,最後に相互評価を行うことでお互いの良さをわかるようにした。
  全体での発表
 グループ内で一つ意見文を選び,全体の前で発表をすることにした。このことにより,相手意識や目的意識をもって,主体的,創造的に取り組み,ものの考え方や学び方を身に付けることができるようになると考える。
(3) 学習指導案
  単  元
  自分の意見を相手に伝える方法を身に付けよう
  ー論理的思考力や表現力を身に付けるためにー
  目  標
    (ア) 自ら課題を考え,論理的思考により問題を解決する能力を高めることができるようにする。
    (イ) 意見文の形式をよく理解し,他者によりよく理解してもらえるような工夫をすることができるようにする。
    (ウ) 他者の表現や意見を謙虚に受け止め,自分の表現の糧とすることができるようにする。
    (エ) 言葉への関心を深め,適切な言語活動を行う能力を高めることができるようにする。
  学習計画(8時間)
学習
内容
学習活動 教師の支援 評価の視点
課題
設定
  • 6種類の課題文の中から一つを選択し,課題文から読み取れる問題点について各自の意見を考える。
  • 自分の興味・関心及び図書室にある資料や自分の持っている資料などをもとに考える。
  • 自分の設定した課題についてどのような結論を導き出すか考え,生徒が相互に批評し合う。
  • 最近の出来事や重要と思われる出来事についてプリントし,意見を考えさせる。
  • 自分で考えることが基本であるが,生徒相互の意見交換を積極的に行わせる。
  • 自らの考えで,課題が設定できたか。
  • 積極的に意見交換が行えたか。
  • 仮説が立てられたか。
調査
研究
  • 自分の課題にあわせた文献を読み,仮説を検証する。
  • 図書館担当者との連携を図り,生徒が興味をもちそうな図書を用意しておいてもらうとともに,生徒の「こんなことを調べたい。」「こんな本はないか。」という質問に応じてもらう。
  • 自主的に調べたか。
  • 結論を導き出そうと努力したか。
下書き
  • 意見文を書く。
  • ワープロを使用したい生徒はワープロを使用する。
  • 書き方の助言を適宜行う。
  • 落ちついて取り組めたか。
  • 下書きが時間内に終了したか。
推敲
(1)
文法
事項
  • 「短文で書く」「主述関係」「係り受けの関係」「書き言葉と話し言葉の違い」に注意して自分の意見文を読み,推敲する。
  • 意見文を交換し,生徒が相互に添削する。
  • 文法的な注意点をプリントし,説明する。
  • 一人一人が真剣に一語一語と向き合い,取り組むよう指導する。
  • 個別に指導を行うが,生徒の発見の妨げにならないように注意する。
  • 生徒相互の意見交換が積極的に行えるように配慮する。
  • 文法事項を理解したか。
  • 一人一人が真剣に取り組んだか。



推敲
(2)
文章
構成
  • 自分の意見文が適切な構成によって書かれているかどうかを確認しながら読み返し,校正する。
  • 意見文を生徒が相互に交換し,構成に注意しながら添削する。
  • 文章構成についてのプリントを配付し,説明する。
  • 個別に指導を行うが,生徒の発見の妨げにならないように注意する。
  • 生徒相互の批評が積極的に行えるようにする。
  • 文章構成を理解できたか。
  • 自主的に推敲できたか。
清書
  • 意見文を書く。
  • ワープロを使用したい生徒はワープロを使用する。
  • 書き方の助言を適宜行う。
  • 落ち着いて取り組めたか。
  • 時間内に終了したか。
相互
評価
  • 6人程度のグループに分かれ,各自の意見文を読み,批評する。
  • 評価用のプリントを用意し,評価の観点を明確にする。
  • 誰もが公平に判断できるようにする。
  • 積極的に取り組めたか。
  • 公平な目で意見文を読めたか。
発表
  • 各グループの代表作品を読み,内容等を確認する。
  • 意見文は事前に提出させ,印刷し全員で読み合わせる。
  • 評価の観点を理解して発表を聞けたか。
  本時の指導
    (ア)  目標
意見文の構成を知る。
客観的根拠に基づく論理的思考に慣れる。
    (イ)  準備・資料
文章の構成についてまとめたプリントを用意する。
    (ウ)  展開
時間 学習活動 教師の支援
5分
  1. 本時の学習内容をつかむ。
  • 意見文には意見文としてのスタイルがあり,また論理性が必要であることを説明する。
25分
  1. 各自の意見文を読み,構成や論理性に注意しながら添削(傍線,加筆)をする。
  2. 友人と相互に交換しながら,添削をする。
  • 文章構成についてのプリントを配付し,説明する。
  • 個別に指導を行うが,生徒の発見の妨げにならないように注意する。
  • 生徒相互の批評が積極的に行えるようにする。
15分
  1. 友人の意見に対する反論を書く。
  • どのような意見にも批判的な見方があることに気付かせる。
5分
  1. 本時のまとめと次時の予告をする。
  • 意見文の構成と論理性について十分に配慮した文章を書かなければならないことを理解させる。
  • 各自時間を作って意見文の清書をしておくように促す。
  評価
文章の構成を正しく理解できたか。
文章の添削を適切に出来たか。
(4) 授業の考察と課題
  授業考察
 本時の授業の中心である文章の添削は,ほとんどの生徒が初めてであることや,これまでの授業の中での進度の差もあったことからスムーズに取りかかれない生徒もいた。そのような中でも生徒は文章構成のプリントに沿って自分や友人の意見文を読み,文章全体の流れを整えようとしていた。やり方がわからない,どのような構成がよいのかわからないなど,基本的な事項でのつまずきも見られたが,それでも生徒は自分の文章を読んでもらったり,友人の文章を読んだりすることに興味をもち,積極的な意見の交換がみられた。また,わからない点が明確になったことで,問題解決に意欲的に取り組むことができた。
    (ア) 資料1 課題例 課題設定の工夫
 今回の課題文は生徒が興味・関心をもち,取り組みやすそうな文章(資料1)や,新聞の社会的な記事など6種類とし,生徒に選択をさせた。これは,生徒一人一人の興味・関心に応じるとともに,図書館という限られた数の資料の中で調べなければならず,課題を分散する必要があったためで,生徒は各自の好みに応じて課題を選択していた。
    (イ) 図書館との連携
 今回の授業は,原則として,図書館を利用した。そのため,辞書・参考図書などがすぐ利用でき,円滑な授業展開ができた。図書館担当者の協力が得られたため,生徒が探している図書の内容を相談すると探してもらえたことで,生徒も意欲的に資料集めをしていた。課題文の内容によって(玄倉川の中州に取り残された事件のようなこと)は資料となるものが乏しく,生徒は困った様子であったが,課題のとらえ方を変えてみることを助言したところ,抵抗なく取り組めた。
資料2 論文を書くための学習過程を示したプリント
    (ウ) 資料3 意見文の書き方(概略) プリント作成の工夫
 今回の授業を始める前に,課題文とともに「学習過程を示したプリント」(資料2)と「意見文の書き方のポイントを示したプリント」(資料3) 資料3 意見文の書き方(概略)を配付した。それは,毎時間の授業ではできる限り生徒が自分で考え活動できるようにしたかったからである。そのため,このプリントを作成するに当たっては,生徒が読めば一通りの書き方がわかるように工夫した。生徒は,授業中,常にこのプリントを持っており,時々読み返しながら意見文を書いていた。
 また,それぞれの時間ごとに,その時間にやる事柄をはっきりとさせるために「○○の添削ポイント」(資料4)というプリントを配付し,原稿用紙に直接添削をさせるとともに,そのプリントにコメントを書かせた。これによって,生徒は目的をもって授業に取り組むことができた。また,このプリントは毎時間回収することで,生徒の取り組みを積極的にさせる効果もあった。
    (エ) 資料4 添削ポイント(概略) 推敲と相互添削・相互評価
 友人と交換して添削することによって,自分だけでは気付かない点に気が付いたり,いろいろな考え方に接することができたりして,よい刺激を受けたようである。初めは,恥ずかしがって交換しないのではと心配したが,円滑にできた。また,相互評価は評価表を配付し、グループの中で読み合いながらそれぞれに各観点から評価し,さらに点数化した。総合得点の多いものをグループの代表にしたが,生徒はそれぞれの意見文を真剣に読みながら評価していた。
    (オ) 資料5 評価表 全体での発表
 生徒の励みにと思い,最後にグループ分けをして,その中で代表作を出して全員に発表した。初めは全生徒の前で書いた生徒本人に読ませようと思ったが,反対意見が多かったので今回は印刷して配付し,コメントをあわせて読んだ。
    (カ) 資料6 意見文完成後に実施したアンケート結果 授業後のアンケート結果から
 意見文完成後のアンケート結果(資料6) からわかるように,今回の授業を通して,自分で書いたという満足感を得られたようである。また取り組みも慣れないことが多かったためなかなか進まない生徒もいたがほとんどが時間内あるいは放課後の時間で少し補う程度で終わらせることができた。
 また,今回は,生徒が自分で問題を発見し,それを解決することで文章の書き方を体得するという趣旨か ,できるだけ教師は細かい書き方の指導を行わなかった。そのため,生徒は何が正解なのか,どのような文章が適切なものなのかと不安になっていたことがアンケート結果にあらわれている。しかし,あらかじめ書き方のプリントを用意しておいので,生徒は試行錯誤をしながらも,各自の作品を完成させている。何度か繰り返していくうちには不安が自信に変わっていくと考えられる。
授業の様子
授業の様子
  評価
文章の構成を正しく理解できたか。
文章の添削を適切に出来たか。
  今後の課題
    (ア) 時間確保の難しさ
 今回の意見文指導は,計画通りに進めても8時間かかり,遅れがちな生徒や個々の生徒の質問にゆっくりと答えると,さらに多くの時間がかかってしまう。これを平常の授業の中に組み込み,繰り返し指導していくことには課題も多い。そこで,学期末の定期考査後から長期休業に入る前の期間など利用してみるのも一つの方法であろう。
    (イ) 生徒の興味・関心
 今回一番苦慮したことが生徒の興味・関心をいかに保つかということである。その工夫点として課題の設定の在り方がある。タイムリーで,興味をもちそうな課題を選ぶことが必要である。また,分量も十分に考慮する必要がある。しかし,指導を継続していくと慣れが生じ,最初は面白がっていた生徒も飽きてしまうことがある。そのときは,個別に書 かせたり,グループにして話合いをもつなど,支援の工夫が必要である。
    (ウ) 課題考察の指導について
 論理的な思考,創造的な思考の中心は,物事をどのようにとらえ,どのように考えるかである。その力をはぐくむ指導は想像力・思考力を育成する指導に欠くことはできない。今回の指導は,表現の方法を身に付けることで,思ったことを正確に表現する力を養うことが目的であり,その力は着実に身に付くと思われるが,課題をどのようにとらえるかの指導についてはまだ十分ではない。この点についての指導方法は今後の課題として残っている。一つの方法として考えていることは,ある課題に対して多くの見方を話し合い,その中から一つの問いをつくっていき,さらにその答えを考える方法である。つまり,一つのことについて拡散的思考により多くの視点から検討し,その情報をもとに収束的思考により一つの問題点をつくっていく。このような過程を授業の中で繰り返すことによって、ものを見る目が養われるのではないかと考える。

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