【授業研究2】 | ||||
中学校第1学年 「言葉を使ってゲームをしよう『20のとびら』」 | ||||
(1) | 授業の構想 | |||
今回の授業を発想し,構想を練る基盤となったのは,以下の4点である。 まず,本研究の主題「創造性を培う学習指導」である。これまでに,創造性を「児童生徒一人一人が,自分のよさや可能性を発揮しながら主体的に基礎的・基本的な内容を身に付け,自分にとって新しい価値あるものを創り出すこと。」ととらえ,創造的態度・創造的な能力,学校教育で創造性を育てるための具体的な視点などを明確にしてきた。国語科では「一人一人の豊かな表現力が育つ国語科学習の指導の在り方」を分科会テーマとして掲げている。 また,新しい中学校学習指導要領から,今後の国語科指導の方向をとらえた。「伝え合う力」,「論理的」,「表現」などが,キーワードである。音声言語による表現・理解である「話すこと・聞くこと」が設けられたことにも注目した。 そして何より,本校1年生の実態である。授業中に限らず日常生活においても,音声言語によって交流したり,情報を発信・受信したりする力が弱い。しっかりと話を聞き,はっきりと話せる子にしたいという強い願いがある。 一方,数十年前のラジオ番組「20の扉」の話を聞くことがあった。出題者が「話す」,回答者が「聞く」ことによって,論理的思考を伴うゲームが成立している。このゲーム自体に内在する音声言語の教材としての可能性を強く感じた。 これらのことから,単元「言葉を使ってゲームをしよう」を設定し,「20のとびら」の教材化を試みることにした。ゲームを通して論理的に話したり,目的を持って聞いたりする力を伸ばすことを目指す。言語活動としては,例示された「説明」(客観的な事実認識に基づく表現)に当たる。教材選定の配慮事項(2)「イ 伝え合う力,思考力や想像力を養い,豊かな言語感覚を養うのに役立つこと。」に該当するものにしたいと考えた。 |
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(2) | 指導の手だて | |||
「20のとびら」のゲームは,次のように進める。出題者は,ある事物を回答者に言い当てさせたい。そのために,項目だけを示し内容を伏せた20のヒントを用意する。回答者は早く正解にたどり着けるようにヒントの項目を選び,出題者に説明をしてもらう。回答者は,開かれたすべてのヒントを根拠に考えをまとめ,回答するのである。 教材化に当たっては,学習活動とそれを支える手だて,出題者,回答者それぞれの立場で伸ばしたい力を明確にした。 (資料1 参照) |
(3) | 学習指導案 |
(4) | 授業の考察 | ||||
今回の授業を,まず「創造性を培う」ことから考察したい。 「児童生徒一人一人が,自分のよさや可能性を発揮しながら主体的に基礎的・基本的な内容を身に付け」ることができたか。 生徒の興味・関心に訴えて,一人一人が進んで学ぼうとする授業が展開できたと考える。問題作成の場面は,実際には文章表現をする際の題材探し,取材,選材と同様の活動であるが,「みんなで楽しくゲームをしたい」という目的意識に支えられて,いつもに増して意欲的であった。話合いの場面では,出題者の説明によって知り得た共通の内容を根拠とするので,どの生徒も積極的に参加することができた。「難しい問題」を力を合わせて(コミュニケーションを図って)解くことの楽しさを体感することもできたようだ。 また,授業中の生徒の活動を意図的に採り上げ,一層望ましい活動になるように全員で考えるようにした。そのため,生徒の提案や自己確認を生かした,伝え合う技能を自力で獲得できる授業になった。 第5時,「回答者側の言葉遣いが不適切である」の反省に対して,出題者が「こんなふうに聞いてくれたらうれしい」という例を挙げた。 第6時では,前時に「聞いただけでは分からない言葉がある」という指摘があった。早速,黒板に文字を書く,回答時に写真を示すなど,視覚に訴えて理解を助ける方法が採られた。 第7時になると,前時に「えっ,何だ」「もう一回」という発言をとらえて,言い方を考えようと促した。質問や確認によって積極的に理解しようとするようになった。 さらに,「自分にとって新しい価値あるものを創り出すこと」は,どうであったか。 生徒たちは,各グループそれぞれの内容をもったゲーム「20のとびら」を創り出した。生徒にとっての新たな価値とは何か。 まず,ゲームの作成過程で,表現内容の獲得の仕方を学んだことである。特に,ある事物について20の項目立てをすることは,発想の学習であり,拡散的思考を伴うものである。繰り返せば,生徒がよく口にする「何を書いたらいいか分からない。」という悩みを解消することもできよう。また,項目に合った確実な内容を説明するために,図書資料を活用して情報を収集することもできた。音声・文字表現に共通した表現活動の基盤である。 さらに,このゲームを実施する時間そのものである。普段,あまり活発とは言えない言葉を介しての交流が実現したことである。この授業を進めるにしたがって学級の雰囲気が和やかになった。その中で,生徒たちは出題者として音声による伝達技能を高めることができた。また,回答者としては,聞くことや話し合うことの大切さを体感することができた。回答を考えることは,創造的思考(拡散的思考→収束的思考,直観的思考と論理的思考の統合)のよいトレーニングになったと考える。 ところで,「教材開発」という視点からはどうか。 「20のとびら」を音声言語による表現指導の素材として注目したことは,適切だったと考える。「話すこと・聞くこと」の指導に不可欠な要素を,さまざまに盛り込むことのできる教材となった。どのような場面でも,その場にいる生徒全員に,それぞれに違った学習が成立し得る。指導者は,そこから音声言語の指導に関する大量の情報を読みとることができる。したがって,この教材を扱うときは,指導事項の重点化が課題となる。 しかし,これは今回提案した授業展開とは違った「20のとびら」の可能性も示唆している。 生徒の実態や指導の必要性に応じて,何を焦点化するかによって違った形のゲームとなるだろう。 事実,生徒の「話す・聞く」姿は,あくまで望ましい姿の通過点にある。生徒の学習状況を見極めて対応することで,ゲームは変化していった。初めに用意した「学習カード」も,指導計画も変更を重ねた。 第6時では,ゲームの形式が分かり,「出題マニュアル」通りでは冗漫になった。自分の言葉,グループのアイデアでスピードアップし,やりとりを楽しむようになる。 第7時では,聞き取ったことに対する直観的な反応・ささやきで,騒がしくなってきた。個人で聞きとり,話し合いの時にのみグループになるようにした。 第8時,第9時になると,「メモのとり方」「聞き手を見て話す(メモから離れる)」「適切な語彙の選択」など,学級によって指導する内容が違ってきた。解答の発表後に,質問に応じて出題者がヒントの内容を詳しく語るゲームも生まれた。この時間は,ゲームの興味に流されて,学習の機会を逸することがないように,ゲームと取り立て指導を組み合わせて行った。 さまざまな変更は,教材が未成熟なことによる。一層の改善を目指していきたい。しかし,生徒たちは「自分の成長に合わせてゲームが変化した」と,成就感を感じることができた。 今回は,1教材の開発に終わったが,今後は「話すこと・聞くこと」の系統性を考慮した指導計画を立て,全学年で実施していける音声言語指導の教材開発に臨みたい。 |
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ゲーム中の様子 |
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