「創造性を培う学習指導」
 研究の趣旨
   創造性を培う学習指導[国語,社会・地理歴史・公民,算数・数学,外国語(英語)]について実践的な研究を行い,各学校での教科の学習指導の改善・充実に役立てる。
   
 研究主題
  (1) 研究主題
創造性を培う学習指導
  (2) 教科別研究主題
    国   語 …… 一人一人の豊かな表現力が育つ国語科学習の指導の在り方
    社会・地理歴史・公民 …… 自ら問題を見付け,問題解決に主体的に取り組む社会科学習の指導の在り方
    算数・数学 …… 多様な見方や考え方が育つ算数・数学科学習の指導の在り方
    外国語(英語) …… 自ら表現する力を育てる書くことの指導の在り方
   
研究を行う教科(校種)
  国語(小学校・中学校・高等学校),社会・地理歴史・公民(小学校・中学校・高等学校), 算数・数学(小学校・中学校・高等学校),外国語(英語)(中学校・高等学校)
   
研究期間
  平成10年度から平成11年度の2年間
   
研究方法及び研究経過
   研究協力員を委嘱して,年4回の研究協議会を開催した。
   研究主題「創造性を培う学習指導」を設定するとともに,各教科ごとに教科別研究主題を設定して研究を進めた。
   研究主題に係る創造性について理論研究を行うとともに,創造性に係る教師・児童生徒の意識・実態について調査研究を行った。調査は,県内小学校7校,中学校9校,高等学校9校で,児童生徒延べ11,561人,教師延べ826人を対象とした。また,教科別研究主題に基づき,研究協力員の所属学校で,校種(小学校・中学校・高等学校)ごとに,平成10年度,平成11年度ともに,9月から11月にかけて授業研究を実施した。
   
研究内容
  (1) 研究主題に関する基本的な考え方
    研究の視点
       第15期中央教育審議会の第一次答申は,21世紀を展望し,[ゆとり]の中で[生きる力]をはぐくむことを提言している。[生きる力]について,同答申は「自分で課題を見つけ,自ら学び,自ら考え,主体的に判断し,行動し,よりよく問題を解決する資質や能力」,「自らを律しつつ,他人とともに強調し,他人を思いやる心や感動する心など,豊かな人間性」,そして「たくましく生きるための健康や体力」を重要な要素として挙げている。
 この提言を受けて,文部大臣は,教育課程の基準の改善について諮問するに当たり,完全学校週5日制の下で,各学校がゆとりのある教育活動を展開し,一人一人の幼児児童生徒に[生きる力]を育成するための教育内容の在り方について検討することとして五つの観点を示している。@自ら学び,自ら考える力などをはぐくみ,創造性を育てること。A一人一人の個性を生かし,豊かな人間性を育てること。B基礎・基本の指導の徹底を図ること。C社会の変化に適切に対応すること。D各学校段階を通じて調和と統一を図ること。
 このように,これからの社会がさらに変化の激しい社会であると予想される中にあって,創造性を育てることを一層重視していることがうかがえる。
 次に,現行の学習指導要領について,創造性にかかわる考え方の流れをとらえてみる。中央教育審議会の教育内容等小委員会審議経過報告(昭和58年11月15日)では,「自己教育力の育成」とともに,「個性と創造性の伸長」を挙げている。また,臨時教育審議会第一次答申(昭和60年6月26日)においては,教育改革の基本的な考え方として,「個性重視の原則」や「基礎・基本の重視」とともに「創造性・考える力・表現力の育成」を取り上げている。教育課程審議会答申(昭和62年12月24日)では,「自ら学ぶ意欲と社会の変化に主体的に対応できる能力の育成を重視すること」の中で,「新たな発想を生み出すもととなる論理的な思考力や想像力,直観力などを重視しなければならない」としている。このことは,「創造性の素地としての思考力の重視をあげ,その思考力についても,いわゆる論理的な思考力と拡散的な思考力に重点がおかれる想像力(創造的な想像力を含む)をあげ,その両者にかかわる直観力をあげているのである。この論理的な思考力と想像力及び直観力がともに働いたとき創造性が発揮されるものであるといわれ,その考えが示されたもの」(文部省小学校課初等教育資料 平成3年7月号東洋館出版社)ととらえることができる。 一方,本県でも,「個性と創造性に富むこころ豊かな人づくり」を基本テーマに「いばらき教育プラン」を策定し,平成7年度からその実践に当たっている。「いばらき教育プラン」の基本テーマの設定に当たり,著しい社会の変化があろう21世紀という時代を生きる子どもたちに対して教育が重視していかなければならない視点は,特に,基礎・基本の土台のうえに築き上げられた豊かで,多様な「個性」であり,「創造性」であるとしている。
 このようなこれからの教育の課題に基づき,教科に関する研究においては,「創造性を培う」ことに視点を当てて研究を進めることにした。
    前研究「豊かな感性の育成」と本研究「創造性を培う」との関連
       平成8年度から平成9年度の2か年,教科教育第一課(平成11年度から教科教育課に統合)では,「豊かな感性を育てる学習指導」をテーマに掲げて,実践的な研究に取り組んできた。これは,物質的な豊かさの裏に子どもの感性の不毛が問題として挙げられていること,人間性の教育と有能性の教育の調和を図る基盤として豊かな感性を取り上げることができること,[生きる力]は,理性的な判断力や合理的な精神だけではなく,美しいものや自然に感動するといった柔らかな感性を含むものとしてとらえられていることなどから「豊かな感性の育成」に視点を当てて研究に取り組んだものである。
 名古屋大学教授の安彦忠彦氏は,「豊かな学力とは,柔軟性があり,知的な部分に,感情的なものも結び付いていて,個性的,創造的な広範囲に働く学力」ととらえている。(教育展望臨時増刊 N0.27 教育開発研究所)また,聖徳大学教授の渋谷憲一氏は,児童生徒の新たな学力の視点として「感性にうらづけられた知性」の育成を学校教育の課題とし,感性にうらづけられた言葉の使い方の多彩であることは,豊かな思考力・創造性を生み出すものであると述べている。(教育展望1995 6月号)さらに,筑波大学教授の渡邊光雄氏は,「創造性の育成は,感性の育成に支えられている。」(教職研修実践ハンドブックN0.4)とし,感性を磨くことは創造性の育成の基礎になると述べている。このように,創造性の育成は,感性の育成と密接な関係にあると考えられ,前研究との関連を見いだすことができる。
    創造性のとらえ方
      創造性の定義は,研究者によって次のように様々である。
       新しい価値あるもの,または,アイディアを創り出す能力すなわち創造力,及びそれを基礎づける人格的特性すなわち創造的人格である。この際「新しい」という意味には,社会的,文化的に価値ある質的な変革をもたらす場合,個人にとって新しい経験という場合がある。子どもでは,その個人にとって価値ある新しさが評価される。
      (恩田彰 「現代学校教育事典」 ぎょうせい)
       個性と基礎・基本はともに育つ。個性を生かすことは創造性の教育の要件である。豊かな自己実現は創造性の教育と深くかかわるものである。自己実現とは意欲とともに,思考力,すなわち,論理的な思考力や豊かな想像力,直観力などを働かせた思考,判断,表現,行動などを主体的に繰り返しながら,次第に,自分の見方や考え方などのよさを発揮し,生かしたり,高めたり,深めたりして自分なりによりよい生き方を目指していくことであるといえる。
 創造性とは,新しい価値あるもの,あるいは考え方を生み出す能力,または,それを生み出す人間としての資質である。この創造性を個々の人間が自分を充実するという筋道において,よりよい新しい価値を創りだすという観点(これが自己実現の創造性といわれるものである)からとらえると,小学校教育において扱うことは十分に可能となる。
      (文部省小学校課 「初等教育資料」 平成3年7月号 東洋館出版社)
       創造性とは,新しいものを生む活動や思考である。
      (吉崎静夫  日本女子大学教授)
       創創造性とは,個人あるいは集団,社会にとって新しい価値あるアイデアを生み出し,それを具体的な産出物として仕上げる能力および人格的特性のことである。
      (江川王文成 「発想のヒント」 大日本図書)
      これらの考えから,創造性を次のようにとらえた。
児童生徒一人一人が,自分のよさや可能性を発揮しながら主体的に基礎的・基本的な内容を身に付け,自分にとって新しい価値あるものを創り出すこと。
    創造性と現行の学習指導要領における学力との関連
       創造性と新しい学力観との関連を恩田彰氏の助言や著書を参考に作成した図(研究報告書第27号 平成8・9年度教科に関する研究「観察・実験、実技創造的に取り組む学習の指導」茨城県教育研修センター)に恩田氏の著書から補足し,次のようにとらえた。
    創造性と新しい学力観との関連
    学校教育で創造性を育てるための具体的な視点
       創造性を培うために,各教科[国語,社会・地理歴史・公民,算数・数学,外国語(英語)]における指導の視点および学習の場を次のようにとらえた。
    指導の視点
    学習の場
  (2)  研究主題に関する意識・実態調査
     各教科の調査研究の項を参照していただきたい。
  (3)  研究主題に基づく授業研究
     教科・校種ごとに,研究協力員の所属学校12校[小学校(国語,社会,算数)中学校(国語,社会,数学,英語),高等学校(国語,地理歴史,公民,数学,英語)]で授業研究を行った。


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