3.理科における創造性に関する実態調査

 県内の公立小・中・高等学校の教師及び児童生徒を対象として,観察・実験に創造的に取り組む理科学習に関して実態調査を実施した。
(1)  調査対象
ア 児童生徒  県内の小学校10校の第5学年・中学校8校の第2学年・高等学校8校からそれぞれ1クラスを抽出した。回答数は,小学校295人,中学校287人,高等学校297人の計879人である。
イ 教師  無作為に抽出した県内の小学校100校・中学校100校・高等学校50校から,小学校については第5学年担当者1人,中学校については第2学年理科担当者1人,高等学校については理科担当者2人を対象とした。回答数は,小学校98人,中学校99人,高等学校97人の計294人である。
(2)  実施時期 平成8年10月21日から平成8年10月25日まで
(3)  調査項目,調査結果及び分析
 児童生徒を対象とした調査内容と結果については,表1〜8に示し,教師を対象とした調査内容と結果については,表A〜Fに示す。なお,数字は全て回答者数に対する各問の回答数の割合(%)である。

 児童生徒の実態調査
(ア)  理科の授業について(表1,表2)
 全体的に理科授業に対する興味・関心は高い。特に,小・中学校では約93%が「楽しい」「少し楽しい」と答えている。
 一方,高等学校においては約68%が理科授業は「楽しい」「少し楽しい」と答えているが,約32%が「楽しくない」と答えている。
 また,小・中・高等学校とも楽しい理由として,「観察,実験をしている時」「よく分かった時」「学習内容に興味がある時」を挙げている。よく分かる授業を展開するとともに,創造性を育てる前提としての興味・関心を高めるような授業を教師自ら創造していくことが望まれる。

表1 理科授業への興味・関心

理科の時間が楽しいですか。 全体
楽しい 44.1 36.6 15.8 32.1
少し楽しい 48.8 56.4 52.5 52.6
楽しくない  7.1  7.0 31.7 15.3
表2 理科授業が楽しい理由

理科の授業が楽しいのは,どんな時ですか。(2つまで) 全体
観察や実験をしている時 71.9 62.7 38.4 57.6
学習する内容に興味がある時 44.7 43.6 36.4 41.5
学習したことがよく分かった時 24.4 43.6 24.9 30.8
先生の興味ある話が聞ける時 11.5 18.5 14.5 14.8
学習したことが普段の生活に生かせると思った時 12.5  9.1  9.4 10.4
筋道を立てながら実験結果を予想したりする時  9.5  4.5  3.4  5.8
(イ)  観察,実験について(表3,表4)
 全体的に観察,実験への興味・関心は高く,小・中学校では約92%以上,高等学校でも約81%が「興味がある」「少し興味がある」と答えている。また,観察,実験には,小・中・高等学校とも約92%が「進んで参加している」「だいたい,参加している」と答えている。
 したがって,児童生徒は観察・実験に対する抵抗は少なく,むしろ意欲をもって取り組んでいると思われる。しかし,一方で高等学校においては,5人に対して1人の割合で観察・実験に興味・関心を示さない生徒がいる。その原因を見いだし,授業の工夫・改善を図っていく必要がある。

表3 観察,実験への興味・関心

観察や実験に興味がありますか。 全体
興味がある。 56.9 47.0 33.9 45.7
少し興味がある。 35.6 48.8 47.8 44.0
興味がない。  7.5  4.2 18.9 10.3
表4 観察,実験の取り組み

観察や実験に進んで参加しますか。 全体
進んで参加している。 37.3 47.7 36.7 40.5
だいたい,参加している。 55.6 47.7 55.9 53.1
参加していない。  7.1  4.6  7.4  6.4
(ウ)  観察,実験の取り組みについて
  1.  問題把握(表5)
     児童生徒自ら問題をつかんで解決に向かっていく学習は,全体的になされていない。特に,高等学校では約66%が調べたいことを見つけようとしていないことから,生徒が問題を意識しないまま,授業が展開されていると考えられる。創造的な取り組みにするためにも,児童生徒自ら学習問題が把握できるよう工夫する必要があると考える。

    表5 観察,実験の取り組み(問題把握)

    観察や実験の前に,調べたいことを見つけようとしていますか。 全体
    見つけようとしている。 22.4 16.0  6.4 14.9
    ときどき見つけようとしている。 53.6 52.3 27.3 44.3
    していない。 24.0 31.7 66.3 40.8
  2.  予想,仮説(表6)
     小・中学校は,約90%が予想を「立てている」「ときどき立てている」と答えている。しかし,高等学校は約43%が予想や仮説を立てることなく観察,実験に入っている。創造性の基礎となる論理的な思考力や想像力を培うためにも,予想や仮説を立てて観察,実験に入る必要があると考える。

    表6 観察,実験の取り組み(予想・仮説)

    観察や実験の結果がどうなるか予想を立てていますか。 全体
    立てている。 43.4 46.3 10.8 33.3
    ときどき立てている。 45.1 45.3 46.1 45.5
    立てていない。 11.5  8.4 43.1 21.2
  3.  実験方法(表7)
      自分たちが考えた方法を「取り入れている」が,小学校では約24%,中学校では約13%となっている。高等学校では約86%が「取り入れていない」としている。創造性を育成するため,児童生徒自ら実験方法が考えられるよう,児童生徒が主体となる授業の創造が望まれる。

    表7 観察,実験の取り組み(実験方法)

    自分たちで考えた方法も取り入れて観察や実験をしていますか。 全体
    取り入れている。 24.4 12.5  1.7 12.9
    ときどき取り入れている。 54.9 43.9 12.4 37.0
    取り入れていない。 20.7 43.6 85.9 50.1
  4.  比較検討及び考察(表8ー1,表8ー2)
     観察,実験後の話合いや考察をしているのは,小・中・高等学校とも20〜25%で,必ずしも話合い活動や考察が十分なされているとは言えない。創造性を生み出す集団思考の場としての話合い活動や論理的な思考力を養うための考察のさらなる充実が望まれる。

    表8−1 観察,実験の取り組み(比較検討)

    観察や実験の後,どうしてそのような結果になったか,話し合っていますか。 全体
    話合いをしている。 20.0 25.4 22.6
    ときどき話合いをしている。 50.2 46.7 48.5
    話合いをしていない。 29.8 27.9 28.9
    表8−2 観察,実験後の考察

    観察や実験をした後,結果について考察をしていますか。
    考察をしている。 25.3
    ときどき考察をしている。 45.8
    考察していない。 28.9

     以上,a〜dを総合すると,自ら問題をもち,解決方法を考えたり,結果について話し合ったり,考察することなど,創造的な能力を育む問題解決学習や探究学習が十分なされていないと考える。
 教師の実態調査
(ア)  創造性育成の意義(表A)
 小・中・高等学校とも,創造性育成の必要性の意識をもっている。その理由としては全体で約60%の教師が「自己実現のため」と答えている。多くの教師は,新しい価値あるものを創り出す自己実現の中で創造性を育てる必要があると考えている。

表A 創造性育成の意義

どのような意味で,子供の創造性を育てる必要があるか。 全体
自己実現のため 63.3 61.6 55.7 59.8
社会の変化に対応するため 17.3 21.2 13.4 17.7
生活の向上のため 11.2  9.1 13.4 11.2
社会的な問題の解決のため  8.2  6.1 15.5  9.9
必要性を感じない  0.0  0.0  0.0  0.0
その他  0.0  2.0  2.1  1.4
(イ) 育成したい創造的な能力及び態度(表B)
 小・中・高等学校とも理科の授業の中で,特に育成したい創造的な能力及び態度としては,好奇心,論理性,自発性が重要であるとし,これらを創造性育成の大きな要素としてとらえている。

表B 育成したい創造的な能力及び態度

理科の授業で,特に育てたい創造的な能力及び態度。(二つまで解答可) 全体
好 奇 心 64.3 38.4 51.5 51.4
論 理 性 34.7 32.3 38.1 35.0
自 発 性 29.6 39.4 32.0 33.7
柔 軟 性 19.4 33.3 30.9 27.9
ひ ら め き 17.3 22.2 13.4 17.7
独 自 性 19.4 20.2 10.3 16.7
持 続 力 11.2 10.1  6.2  9.2
集 中 力  2.0  1.0  5.2  2.7
共 感 性  2.0  1.0  2.1  1.7
そ の 他  0.0  0.0  4.0  1.0
(ウ) 創造性育成の手だて及び支援(表C,D)
 理科の授業の中で,児童生徒の創造性を育てるための手だてとしては,小・中・高等学校全体で「体験や活動を重視する学習活動」を約70%,「発想がふくらむ材料・用具の準備」を約50%としている。また創造性育成のための支援としては,小・中・高等学校全体で「創造性を育む教師の意識 や態度」を約50%,「学習指導方法の工夫・ 改善」を約40%としている。
 多くの教師は,創造性育成の手だて及び支援として,体験を重視した問題解決活動を展開することや教師自身が創造性を育む意識や態度をもつことが重要だと考えている。

表C 創造性育成の手だて

理科の授業で,子供の創造性を育てるためには。(二つまで回答可) 全体
体験や活動を重視する学習活動 77.6 66.7 56.7 67.0
発想がふくらむ材料・用具の準備 59.2 37.4 45.4 47.3
考えを自由に表現できる環境の整備 20.4 36.4 23.7 26.9
思う存分活動できる時間の確保 21.4 28.3 18.6 22.8
自由な活動で,課題を把握 18.4 18.2 17.5 18.1
協力しながら活動できる場の設定  5.1  7.1 15.5  9.2
特に考えたことはない  0.0  0.0  3.1  1.0
その他  0.0  0.0  7.2  2.4
表D 創造性育成のための支援

創造性育成のための支援として,重要なこと。(二つまで回答可) 全体
創造性を育む教師の意識や態度 57.1 45.5 51.5 51.4
学習指導方法の工夫・改善 46.9 35.4 39.2 40.5
理科的環境の充実 26.5 31.3 29.9 29.3
教材・教具の開発 29.6 13.1 18.6 20.4
学習内容の精選 11.2 34.3 18.6 21.4
温かい人間関係のある学級集団 19.4 25.3  6.2 17.0
学習時間の確保 13.3 12.1 21.6 15.6
特に重要と思われるものはない  0.0  0.0  0.0  0.0
その他  1.0  2.0  5.2  2.7
(エ)  観察・実験における創造性育成の手だての視点(表E)
 理科の授業で,小・中・高等学校とも観察・実験における創造性育成の手だての視点としては,課題や問題を児童生徒自ら見つけること,予想や仮説を立てること及び実験方法を児童生徒自ら考えることが特に重要なポイントと考えている。

観察・実験における創造性育成の手だての視点

理科の授業で,創造性を育てる手段や方法で重要なこと(二つ回答可) 全体
課題や問題を子供自ら見つけられる 64.3 60.6 44.3 56.5
予想や仮説が立てられる 46.9 40.4 48.5 45.2
実験方法を子供自ら考えられる 49.0 42.4 30.9 40.8
実験結果についての話合いの充実 23.5 33.3 37.1 31.3
子供自らまとめられる 15.3 18.2 17.5 17.0
特に重要と思われることはない  0.0  0.0  1.0  0.3
その他  1.0  1.0  8.2  3.4
(オ)  観察,実験における学習過程の実態(表F)
 小・中・高等学校とも児童生徒の発想を生かした課題作りや児童生徒の考えた観察・実験方法をよく取り入れて授業を展開している割合は少ない。特に,高等学校では,生徒の発想を生かした課題作りをしていないが約60%,生徒の考えた観察・実験の方法を取り入れていないが約70%である。
 次に小・中・高等学校とも児童生徒に予想を立てさせたり,すべての児童生徒が観察・実験に参加できような配慮をしたり,観察・実験の後に児童生徒の評価をしている。また小・中学校では,観察・実験の後に話合いの場を設定し,児童生徒たちの意見を尊重したまとめ方を行っているものの,高等学校では,50%がしていない状況である。
 これらの教師の観察・実験における学習過程の実態(表F)は,児童生徒の観察・実験の実態(表5〜表8−2)と同じ傾向を示している。また,表Eの観察・実験における創造性育成の手だての視点についての教師の意識と比較すると,問題の把握及び実験方法における実態(表F)との間に大きな隔たりがあることが分かる。特に,高等学校において問題解決活動がほとんど行われていないのは,新しい学力観のもとで取り入れられた探究活動や課題研究がまだ定着せず,今後,授業を活性化する実践研究が待たれる。

表F 観察・実験における学習過程の実態

質 問 項 目 回 答 事 項 全体
(1)  観察・実験における導入で,子供自ら課題をつかめるような事象提示をしていますか。
よくしている 19.4 16.2  9.2 14.7
ときどきしている 73.5 81.8 58.9 71.9
していない  7.1  2.0 31.9 13.4
(2)  観察・実験の場面で,子供の発想を生かした課題(観察,実験のテーマ)作りをしていますか。
よくしている 17.3 11.1  7.2 11.7
ときどきしている 70.5 62.6 36.1 56.9
していない 12.2 26.3 56.7 31.4
(3)  観察・実験で,子供に予想をたてさせていますか。
よくしている 82.7 74.7 22.7 60.7
ときどきしている 17.3 25.3 52.6 31.5
していない  0.0  0.0 24.7  7.8
(4)  子供の考えた観察,実験の方法を取り入れていますか。
よくしている 17.0  9.1  5.2 10.5
ときどきしている 71.1 70.7 23.7 55.8
していない 11.9 20.2 71.1 33.7
(5)  教材・教具の工夫・改善をしていますか。
よくしている 14.3 23.2 18.5 18.6
ときどきしている 72.4 72.8 64.9 69.9
していない 13.3  4.0 16.6 11.5
(6)  すべての子供が観察・実験に参加できるような配慮をしていますか。
よくしている 80.6 67.7 50.5 66.7
ときどきしている 19.4 29.3 34.0 26.9
していない  0.0  3.0 15.5  6.4
(7)  観察・実験の後に話合いの場を設定し,実際に話合いをさせていますか。
よくしている 57.1 42.4  6.2 35.4
ときどきしている 42.9 53.6 45.4 47.6
していない  0.0  4.0 48.4 17.0
(8)  子供たちの意見を尊重したまとめ方をしていますか。
よくしている 53.1 52.5 16.5 41.5
ときどきしている 44.9 45.5 40.2 43.2
していない  2.0  2.0 43.3 15.3
(9)  観察・実験の後,レポートやノートなどで子供の活動を評価していますか。
よくしている 50.0 70.7 52.6 57.5
ときどきしている 45.9 28.3 39.2 38.1
していない  4.1  1.0  8.3  4.4

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