【授業研究3】 高等学校第3学年日本史「古墳時代の社会と文化」
  1. 授業の構想
     本研究のテーマは「自分とのかかわりを通して,生徒が問題意識を高め,問い続ける地理歴史科学習の指導の在り方」である。このテーマに迫るためには,生徒が社会的な事象とのかかわりや生徒同士のかかわりを深めながら,自分の問題を発見し,追究できるように学習の場を設定することが大切である。
     本単元では,地域の古墳を中心に,日本列島における文化的な画一性という視点から古墳時代の特質を概観する。夏季休業中に博物館や周辺地域の古墳を見学するなど体験的な学習活動を取り入れ,こうした活動を通して学んだ様々な事実から,自分なりに問題意識をもつことができるようにした。さらに,追究の過程で,生徒同士が話し合い情報を交換し合うことによって,従来のイメージを覆したり,深めたりするとともに,新たに生じた疑問の追究へ向けて取り組むことができるようにした。この過程では,生徒の思考を十分に促し,単に事実や事象の理解だけにとどまらず,事実と事実を関連づけて一定の共通性を引きだすことにより,歴史認識の座標軸となるような応用性の高い知識の獲得をめざしたい。

  2. 指導の手だて
    (1) 感性を触発し,問題意識を高める手だて
    ○  博物館見学,周辺地域の古墳見学
    夏季休業中に,日立市郷土博物館,周辺地域の古墳を見学し,「周辺地域の古墳について」というテーマでレポートを提出することを課題とした。博物館では,今年度,「久慈川流域の古墳文化」という特別企画があり,生徒たちのレポート作成は比較的容易であった。
    (2) 問題意識を高め.問い続ける学習の場の構成
    ア  アンケート調査(事前,事後)の実施
    授業で学んだことやレポート作成を通じて生じた古墳に関する疑問点を事前に調査し,それらをもとに授業を構成する。疑問点は「学習課題確認シート」にまとめ,生徒に提示する。さらに,授業後,解決できた疑問,新たに生じた疑問や,感想文などにより,今後の課題を整理し,評価に活用する。
    イ  班ごとの検討,レポート発表
    レポートで調べた結果を,班ごとに検討し合い班の代表が発表する。1班3〜4人の班編成により,意見交換,発表などを行い,生徒同士がかかわりあって学習する場を設定した。

  3. 学習指導案
    (1) 単元   古墳と大和政権
    (2) 目標
    ○ 古墳と弥生時代の墳丘との違いなどから,古墳の墳墓としての特色を理解する。
    ○ 古墳の造営やその内部構造の変化から,古墳時代の社会の変化をつかむ。
    ○ 大和政権の支配制度,地方首長の関係を具体的に理解する。
    ○ 大和政権の成立を東アジア社会の中に位置づける。
    ○ 古墳時代の人々の生活は具体的にどのようなものだったか理解する。
    (3) 学習計画
    ア  古墳と大和政権(3時間)
    イ  レポート作成「周辺地域の古墳について」(夏季休業中の課題)
    ウ  古墳時代の社会と文化(1時間,本時)
    (4) 本時の学習
    ア 目標 ○  地域の古墳を中心に,古墳時代の社会と文化の特色を概観する。
    ○  地域の歴史に対する関心を高める。
    イ 資料
    A. 教科書(「詳説 日本史」山川出版社)
    B. レポート「周辺地域の古墳について」
    C. VTR(「巨大古墳の謎」「謎の鉄剣」NHK)
    D. レプリカ(埼玉県稲荷山古墳鉄剣,福岡県志賀島出土「漢委奴国王」金印)
    E. プリント
    �@ 福岡県前原市三雲遺跡出土土器の線刻
    �A 学習課題確認シート
    �B 「茨城県古墳時代主要遺跡分布図」
    ウ 展開

  4. 授業の考察
    (1)  作業的・体験的な学習
     本研究のテーマは「自分とのかかわりを通して,問題意識を高め,問い続ける地理歴史科学習の指導の在り方」である。この研究主題に迫るための手だてとして,(a)問題意識を高め,問い続ける学習の場の構成,(b)感性を触発し,問題意識を高める,(c)生徒同士がかかわり合って学習する場の設定,などが挙げられる。この授業では,まず(a),(b)を踏まえ,日立市郷土博物館見学や周辺地域の古墳見学などをもとにレポートを作成するといった作業的・体験的な活動を取り入れ,五感を通して直接的に歴史的事象とのかかわりを持てるようにした。こうした活動は従来のイメージを覆したり,深めたりするとともに,新たに生じた疑問の追究へ向けてのエネルギーとなり,“問い続ける”生徒の姿勢へつながるであろう。また,問題解決の過程で,班編成による意見交換,発表などを行い,(c)の生徒同士がかかわりあって学習する場を設定した。自分の調べた結果や考えを相互にやりとりすることで,自分の考えを問い直したり,イメージを深めたりすることができるであろう。
    (2)  夏季休業中のレポート作成
     調べたことを発表している様子
    調べたことを発表している様子  「周辺地域の古墳について」というテーマでレポートを作成することを課した。こうした調べる活動をする上で大切なことは,何を調べるのかという課題を絞り込んで設定することであるという意見がある。漠然と「○○について調べよう」では,調べる中での充実感は得られないという指摘である。しかし,課題の設定が厳格にすぎると,型通りのレポート作成を要求することとなり,調べる活動への意欲や充実感を減退させてしまう面もあることに注意をしなければならない。

    資料6 古墳調査についての感想
     日本史特に考古学に興味をもちながらも,一つの事に時間をかけて調べるということができなかったので,このレポートはよい機会となった。古墳について様々なことがわかったが,一番強く感じた事は,歴史を知るためには様々な文化財を発掘などにより調査することが大切だが,一方でそれらを守っていかなければならないという両立の難しさだ。また,私の住んでいる津田に古墳群があったということに驚いた。これからは,教科書で学ぶ歴史だけでなく,このような身近な所にある小さな歴史にも目を向けてみようと思った。
    (3)  レポート発表と発表内容の検討
     夏季休暇中のレポートをもとに,各班ごとに古墳を一つ選んで発表した。班編成は,1班3〜4人で,班ごとにレポートの内容が偏らないように工夫した。さらに各班の発表の後,「各古墳に共通する点は何か」にポイントをおいて検討し合うこととした。発表しただけに終わらず,その成果をお互いに検討し合い,より高めていく場が設定できれば,生徒の充実感を高めることができるであろう。発表や討論を進める際に大切なことは,伸び伸びと発言できる雰囲気をもつ学習集団をつくることである。生徒からは「古墳が河川や湖の周辺や台地など見晴らしのよい場所に立地していること」「茨城県内の規模の大きな古墳が“前方後円”という共通の形式を持つ」などの意見が出た。これらの意見は,大和政権の同盟のシンボルであり権力の象徴としての前方後円墳の本質,また,水利の把握を志向する地域の首長らのありかたにせまる大切な指摘である。
     このように,共通性を背景に引き出された概念的知識は,適用範囲が広く,応用性も高いので,生徒が歴史的な事象をとらえたり,歴史認識を深めたりする際の手がかりとなる。この授業前に,日立市久慈町舟戸山古墳を調べ「被葬者は分からない」と述べた生徒が,授業後の感想では「この古墳は,久慈川と太平洋の広がりがみえる台地にあるから,被葬者は久慈川の水運をおさえていた人物ではないか」と書いている。この感想からは,概念的知識を駆使し,新たな問題の解決へ向けて,自分なりに追究しようとしている生徒の姿勢を見てとることができる。
    「いつ,どこで,誰が,何を」といった事実的知識に終始する限り「歴史学習=暗記」という生徒の認識を克服することは困難であろう。歴史認識の座標軸となるような,応用性の高い概念的知識の獲得をめざす授業でありたい。

    資料7 古墳についてのレポート
    資料7 古墳についてのレポート
    (4)  生徒の新たな課題追究活動への糸口
     この授業では,事前に古墳に関する生徒の疑問点を調査し,それらを踏まえて授業内容を構成した。生徒の疑問点は,プリント「学習課題確認シート」にまとめ,生徒に提示した。教師側が生徒の問題意識・疑問などを的確に把握し,それを授業に生かすことができれば生徒の学習に対する意欲を引き出し,問題意識を高めていくことができるであろう。授業後には,解決できた疑問,新たに生じた疑問,感想などについてアンケートを実施した。
     ある生徒は「なぜ,私がこんなに一生懸命古墳について調べたのか,不思議でしかたがありませんでした。でも,それは古墳の持っている人を引き付ける力があったからだと思います。一つの疑問が解けるたびに“なるほどな”と感心させられることが多く,楽しい授業だったです。また,時間があれば古墳について調べてみたいです。」と授業後の感想文に書いている。このように,学習することの楽しさを体験することは,問い続ける意欲を育てる基礎となるものである。さらに,生徒が「どうしても調べてみたい」という切実感,必要感のもとに学習課題を追究していくことができるためには,魅力ある教材が,魅力ある視点と授業展開の中で提供される必要がある。
     また,「私の友達が家を建てる時に鉄剣が出てきたらしい。古墳を残すことと住宅を建てたり道路をつくることとどちらが大切なのか。こういう問題もこれから解決しなければならない問題だ,ということが分かった」という感想がある。生徒たちは過去の歴史を学びながら,極めて現代的な課題を自ら発見しているのである。

    資料8 学習課題確認シート
    テーマ「古墳時代の社会と文化」
    年 組 番 氏名
    資料8 学習課題確認シート

社会・地理歴史・公民科目次