【授業研究2】 中学校第1学年歴史的分野「室町時代」
  1. 授業の構想
     「自分とのかかわりを通して,問題意識を高め,問い続ける社会科学習の指導の在り方」という研究テーマに迫るためには,社会的事象との出会いを通して,自分なりに問題を発見し,解決方法を考え,追究の結果や過程を通し,社会的事象のもつ意味を問い続けることができるような学習を展開することが大切である。
     本単元においては,単元全体を見通す学習問題を設定し,それを基に生徒が自分なりの視点から問題を追究できるような授業を展開する。まず,学習問題づくりの段階では,単元全体を見通す学習問題をつくり,問題解決の手がかりとなる五つの観点(政治,貿易,民衆の成長,文化,郷土の様子)を示し,その中から生徒が選択し,個別の問題をつくるようにする。追究の段階では,調査していく過程で見いだした問いや新たな発見を次時の学習に生かすようにする。表現の段階では,生徒が自分なりに方法を考えて表現し,単元全体を見通す学習問題に対する結論を明示できるように支援する。発展の段階では,生徒がそれぞれの観点から追究した結果や考えを発表し合い,自分で調べたこととのかかわりから質問したり検討したりして,単元全体を見通す学習問題について多角的な視点から話合いができるようにする。

  2. 指導の手だて
    (1) 問題意識を高め,問い続けることができるようにするための工夫
     複線型の追究の場
     単元全体を見通す学習問題をつくった後に,問題を追究するために五つの観点を提示し,生徒が選択できるようにする。そして,生徒の興味・関心を生かしてそれぞれの観点から個別の問題をつくり,問題解決に向けて調査内容や方法の計画を立てるようにする。調査の過程で生じた疑問点をワークシートに記録し,次時につながる問いがもてるようにする。
     身近な地域の歴史を生かす
     単元全体を見通す学習問題を解決する手がかりの一つに,「郷土の様子」を入れ,室町時代の茨城の様子や那珂町の様子を調べるようにする。生徒が町の民俗資料館や城趾などを見学することにより,身近な地域の歴史的事象と出会い,その中から自分なりに問題を発見し,意欲的に追究できるようにする。
    (2) 自分とのかかわりを通して問題解決ができるようにするための工夫
     グループ内での意見交換の場
     同じ観点から調査した生徒でグループを編成し,自分の調査方法や考えを交換し合う場を設定する。友達の意見を参考にし,単元全体を見通す学習問題に対する結論をレポートにまとめるようにする。
     自分の考えを問い直す場
     観点別に追究した内容をグループ別に発表し合う場を設定する。単元全体を見通す学習問題に対する自分なりの結論と他の観点から追究したグループの結論を比較し,自分の考えを問い直す。友達の発表を聞いたり,意見を交換し合ったりして,「室町時代」を多角的にとらえられるようにする。
     室町時代に関するイメージを図や言葉に表す
     学習の中で,自分なりの室町時代に関するイメージを図や言葉に表すようにする。友達と自分のイメージを比較することにより,室町時代に対する見方や考え方を深める。

  3. 学習指導案
    (1) 学習計画
      学習計画(g49_01.tif)
    (2) 本時の学習
      本時の学習(g50_01.tif)

  4. 授業の考察
    (1) 問題意識を高め,問い続けることができるようにするための工夫
     複線型の追究の場
     単元全体を見通す学習問題「室町幕府が弱まり,戦国時代へと進むのはなぜだろうか。」に対して,五つの観点(政治,貿易,民衆の成長,文化,郷土の様子)を提示し,生徒が興味・関心を生かし,選択して個別の問題を追究できるようにした。生徒は,自分の選択した観点から個別の問題をつくり,調査計画を立てていた。調査したことを記録するために,ワ−クシ−トを使用し,調査の途中で生じた疑問点を記入し,自分なりの問いを次時に生かしていた。
    資料3 「貿易」を選択した生徒の問いの変化と結論の例
    個別の問題  貿易と幕府の力とはどんな関係があったのだろうか。
    第 3 時  勘合貿易はどんな人が中心になり,どのように行ったのか。
    第 4 時  合い札の使い方と輸出入品にはどんなものがあったのか。
    第 5 時  東アジアの貿易はどのように行ったのか。
    第 6 時  なぜ,商人の力だけで幕府の力が弱まったのだろうか。
    結   論  貿易により戦国大名と商人が利益を得て幕府に対抗するようになった。
     身近な地域の歴史を生かす
     生徒の興味や関心を生かし,意欲的な追究ができるようにするために,観点の一つとして「郷土の様子」を入れ,室町時代の茨城県や那珂町について調査するようにした。図書室で郷土の参考図書を探したり,那珂町歴史民俗資料館や那珂町内の城趾へ見学に出かけたりし,意欲的に調査していた。身近な地域を調査した結果,生徒は,「京都を中心とする南北朝の対立が茨城にも影響したこと」「那珂町にも戦国大名である佐竹氏の出城として額田城や戸村城,江戸城があったこと」など歴史的なかかわりの深い出来事があることを知った。そして自分たちが住む茨城県や那珂町が,南北朝の争乱の影響を受けていたことにびっくりしていた。生徒は,郷土の様子について調べてよかったと感想を述べていた。自分たちの住む身近な地域の歴史を生かす見学を取り入れたことで,新たな事実を発見したり,生徒が意欲的に調査したり,地域の歴史的事象に対する問題意識を高めることができたと考える。
    (2) 自分とのかかわりを通して問題解決ができるようにするための工夫
     グループ内での意見交換の場
     追究の段階の最後に,同じ観点で調査している生徒でグループをつくり,自分の調査方法や結論などを述べ合う意見交換の場を設定した。友達の調査方法や考えを聞き,自分の考えと比較する生徒が見られた。また,自分の調査では結論が見いだせないでいる生徒が見られたが,友達と意見を交換したり,説明を聞いたりして自分なりの結論を導くことができ,単元全体を見通す学習問題についての結論をレポートにまとめることができた。
     自分の考えを問い直す場
     自分の考えを問い直す場として,発表会を設定した。観点別に調査した内容をグループで発表し合い,質問や意見を出し合った。グループごとにOHPや模造紙,寸劇など発表方法を工夫し,発表内容を聞きながら,他のグループの発表と自分の調査したことと比較したり,関連付けたりしていた。協議の時間には,結論についての質問や意見が多く出された。
     自分の考えを問い直す場として,全体で発表会を設定したことは,学習問題を異なった観点から考察することができ,歴史的な見方や考え方を深める点で有効だったと考える。

    発表会の様子
    発表会の様子
     イメージを図や言葉に表す
     資料4の学習前と中間(第5時後),学習後の室町時代に関するイメージ図を見ると,学習が進むにつれて室町時代に対する生徒の見方や考え方に広がりや深まりが見られる。これは自分の選択した観点に関する調査や発表会における自分の考えの問い直しを通しての広がりや深まりであると考えられる。

    資料4「政治」を選択した生徒のイメージ図(左から学習前,中間,学習後)
    学習前  イメージ図   氏名 中 間  観点(政 治)   氏名(   )
    学習前 イメージ図 中間 イメージ図
    学習後  観点(政 治)   氏名(   )
    学習後 イメージ図

     また,資料5のように発表会の最後に,「室町時代は○○○時代である。」という文で,自分なりの室町時代観を言葉でまとめるようにした。これらの結果を見ると,学習後は学習前より室町時代に関するイメージが広がっていることが分かる。

    資料5 生徒の室町時代観(左 学習前,右 学習後)
    金閣と銀閣の時代 12人
    戦乱の時代 6人
    文化の発達した時代 4人
    義満の時代 3人
    足利氏の時代 2人
    無回答 7人
    争いや戦いの多い時代 10人 農業や文化が発達した時代 1人
    貿易が栄えた時代 7人 貿易と戦いの時代 1人
    一揆の多い時代 3人 市や商業がさかんな時代 1人
    文化の栄えた時代 3人 民衆が成長した時代 1人
    戦国時代の始まりの時代 3人 こわい時代 1人
    戦乱と交流の時代 2人 金や銀が似合う時代 1人
     これまでの単元全体の学習を通して,生徒の室町時代に対する見方や考え方に広がりや深まりが見られた。これは,室町時代を五つの観点から追究して自分なりの結論を見いだし,発表会を通して他の観点から追究したことと自分の考えを比較し,質問や意見を交換することによって,室町時代を多角的に考察したためと考えられる。
    (3) 今後の改善策
     今回の研究では,単元全体を見通す学習問題を五つの観点から追究したが,生徒の個別の問題のすべてに対して十分に支援することが難しかった。今後は,テイ−ム・テイ−チングを導入するなど,個別の問題に対して資料の準備や助言ができるようにしたい。


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