| (1) | 題材について 中学校の技術・家庭科の情報基礎領域では,コンピュータの操作等の実践的な学習活動を通して,コンピュータの社会的な役割と,基本的な装置やソフトウェアの機能について理解させ,情報を適切に処理して日常生活や社会生活において活用する基礎的な能力を養うことを主な目標としている。
 こうしたいわゆる情報活用能力の育成は時代的な要請となってきており,小学校においても,コンピュータ等の情報手段の教育利用が加速的に進展するものと予想される。小学校段階では,児童がコンピュータに触れ,慣れ,親しむことを第一のねらいとして,ごく自然な形で取り入れ,日常化していくことが望まれている。具体的には,教科の学習活動やクラブ活動の中で,学習や遊びの道具として利用し,自分がコンピュータとの相互作用ができるのだという実感を持たせることが大切であるとされている。
 これからは,こうした小学校でのコンピュータ活用の実態を十分に考慮に入れて,中学校での情報基礎領域の指導計画を立てるとともに,学習内容を生徒の能力や興味・関心等に応じた教材となるように工夫していく必要がある。
 中学校指導書技術・家庭編では,「コンピュータの利用分野には,事務処理分野,制御分野,通信分野などがあることを知らせる。」とある。利用分野の学習では,それらの事例を具体的に体験させることによって,学習効果を高められる。利用分野の体験的学習として,これまでは事務処理について取り上げ,主にアプリケーションソフトウェアの利用を行ってきた。
 今回利用分野のもう一つの事例として,コンピュータによる制御を導入することにした。制御の学習において,新たな側面からコンピュータの機能を知ったり,プログラムの役割を考えたりする過程を通して,思考力を高めたり,創造性を伸ばしたりすることができる。
 プログラム作成のための言語であるBASICについては,クラス全員がはとんど初心者である。出来上がっているプログラムをそのまま入力した経験のある生徒は数名いるが,自分でプログラムを作成した経験のある生徒はまったくいなかった。授業前に行ったコンピュータ制御に関するアンケー
ト調査では,制御という言葉を聞いたことがあるとしながらも,コンピュータ制御が実際にどんなことであるか知らないと答えている。
 このような実態から,具体的な制御学習に入る前に,BASICを使ったプログラムの作成に十分な時間をかける。プログラムの内容については,できるだけ単純でわかりやすく,生徒の学力を考慮した無理のないものとする。高度な命令語は能力や習熱度に応じて使わせるように配慮する。また,コンピュータで制御する対象も,制御の結果が確実に目で見えて,「コンピュータで制御した」という実感が持てるものを用いる。ここでは,生徒が時計やストップウォッチなどでよく目にしているデジタル形式の数字を表示できる7セグメントLEDを制御対象として取り上げる。具体的には,1個の7セグメントLEDを7ビットの信号で制御して,3個の7セグメントLEDで3桁の数字を表現できる制御実習ボードを活用する。
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| (2) | 総括目標 7セグメントLEDで構成した制御実習ボードをBASICで制御する活動を通して,プログラムの機能を理解させ,基本的な情報処理の手順や手法を身に付けさせるとともに,制御するプログラムの作成を行うことができる。
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| (3) | 具体的目標 
 
   
   | ア | 関心・意欲・態度 プログラムが果たしている役割について関心を持ち,コンピュータによる7セグメントLEDの制御に意欲的に取り組もうとする。
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   | イ | 創意工夫 いろいろな命令語を組み合わせて,7セグメントLEDの表示法を考案できる。
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   | ウ | 技能 
 
      
      | (ア) | サンプルプログラムをもとに,考案した7セグメントLEDの表示法を制御プログラムに表現できる。 |  
      | (イ) | 制御プログラムを実行し,7セグメントLEDを点灯させて数字を表示できる。 |  |  
   | エ | 知識・理解 制御に必要な機器の機能やBASIC言語の役割を知るとともに,情報処理の手順や方法を知る。
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| (4) | 指導計画(15時間取り扱い) 
 
   
   | 第一次 | BASICプログラムの基本 | ……………… | 10時間 |  
   | 第二次 | コンピュータによる7セグメントLEDの制御 | ……………… | 5時間 |  
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      | 第1時 | コンピュータによる制御の概要 |  
      | 第2時 | 7セグメントLEDを点灯する |  
      | 第3時 | 0から9の数字を表示する |  
      | 第4時 | 3桁の数字を表示する |  
      | 第5時 | 数字を連続表示するプログラムの作成 |  |  | 
| (5) | 準備・資料 システムディスク(MS−DOS,BASIC98を含む。),インタフエース,制御実習ボード,生徒個人用データフロッピーディスク,OHP,TPシート,TPペン,LEDの数字確認カード,学習シート,基本プログラム確認カード
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| (6) | 授業の実際(第二次)<2〜4/5時> 
 
   
   | ア | 「7セグメントLEDを点灯する」<2/5時> 
 
      
      | (ア) | 目標 
 
         
         | a | コンピュータで7セグメントLEDを制御して,7セグメントLEDを点灯させることに関心を持つとともに意欲的に取り組むことができる。 | (関心・意欲・態度) |  
         | b | 基本プログラムに適当な数字を入力して,セグメントの一つずつを光らせる方法の規則性を見いだすことができる。 | (技能) |  |  
      | (イ) | 展開 |  
  
      
      | (ウ) | 授業の様子 第2時では,実際に7セグメントLEDのコンピュータ制御を行った。まず,生徒全員が教卓前に集まり,7セグメントLEDがプログラムで自動制御されて点滅する様子を観察して,本時の学習課題を確認した。
 次に,7セグメントLED点灯を制御する基本プログラムについて教師が提示し説明するのを聞き,学習課題解決のための見通しを持った。その後,班ごとに本時の課題解決の活動に移った。生徒は,図12に示す学習シートを使用した。
 基本プログラムを入力して7セグメントLEDを点灯させる活動では,5分はどの時間で全部の班で点灯させることができた。
 
 
         1つのセグメントを光らせる活動では,基本プログラムに1,2,3,4・・・と数字を順次入れて,7セグメントLEDの光る様子を確認しながら学習を進める班が多かった。数字を1,2,4,8としたときに7セグメントLEDの1つのセグメントだけが光ることを発見した班は,次の数字を16や32と予想し,実際に試してみて自分たちの予想が正しかったことを確かめ,規則性を独自に発見した。8班のうち6班は予定の時間内にすべての課題を,残りの2班も課題の半分程度を終了させた。
         
         | 図12 第2時での学習シート(一部省略) |  
         |   図13 生徒が発表に用いたTPシート |  
         |   写真14 7セグボードとインタフェース |  調べた結果を班ごとにOHPを使って発表する活動では,一つのセグメントを光らせるためにどういう数字をプログラムに入れたか,数字にはどのような規則性があったかについて,調べたり発見したりしたことを発表した。数字の規則性に気付かなかった生徒は,発表を聞いて規則性に気付いた。発表で使われたTPシートの1例を図13に示す。
 制御学習は生徒にとって初めてであったが,教師側が予想していた以上に精力的に7セグメントLEDの制御に取り組めた。授業を終えた生徒の表情には,自分でもコンピュータで制御することができたという自信と満足感が感じられた。また,コンピュータ制御に興味・関心を持ち始めた生徒が多く見られ,「もっといろいろな形に点灯させてみたい。」「もっと続けたい。」という意欲的な声もあった。
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   | イ | 「0から9までの数字を表示する」<3/5時> 
 
      
      | (ア) | 目標 
 
         
         | a | 7セグメントLEDをコンピュータで制御して,0から9までの数字を表示する活動に関心を持つとともに意欲的に取り組むことができる。 | (関心・意欲・態度) |  
         | b | 基本プログラムにいろいろな数字を入力して,7セグメントLEDに0から9までの数字を表示する方法や数字の規則性を見いだすことができる。 | (技能) |  |  
      | (イ) | 展開 |  
    
      
      | (ウ) | 授業の様子 第3時では,コンピュータで7セグメントLEDを制御して,7セグメントLEDに0から9までの数字を表示した。
 まず,生徒全員が教卓前に集まり,3つの7セグメントLEDに0から9までの数字が順次表示される様子やキーボードを押すたびに数字が止まる様子を観察して,本時の課題を確認した。生徒は数字が順次表示できることに興味を持ち,自分たちでもやってみたいという表情を示した。
 前時の復習として,基本プログラムに入れる数字を変えて,7セグメントLEDがさまざまに点灯すること,その数字を1,2,4,8,16,32,64とすると1つのセグメントが点灯することを確認した。そして,各セグメントの点灯を合成して0から9までの数字を表示するためには,基本プログラムに入れる数字をいくつにすればよいかを調べるとともに,その数字の規則性が発見できた班はTPシートにまとめた。
 課題解決の場面では,基本プログラムに1から順に2,3,4,5…と数字を入れながら調べたり,各自が考えた数字を入れたりしながら学習を進めた。数字を1,2,3,4,…と入れていった班は,6を入れたときに7セグメントLEDが「1」を表示することを発見した。さらに続けて,39を入れたときに「7」を表示することを発見した。その後さらに数字を入れて調べる班があったが,この時点で規則性に気付き始め,「3」や「4」の形に表示するための数字を予想して,試しながらその規則性の確かさを確認した班もあった。
 予定した時間内で,8班のうち5班は0から9までを表示できて,その規則性も発見できた。調べた結果を班ごとにOHPを使って発表する活動では,0から9までを表示するための数字とその規則性についてわかったことを発表した。規則性に気付かなかった生徒も,友達の発表を聞いて,その規則性を理解することができた。発表で使われたTPシートの1例を図15に示す。
 班の中での活動では,互いに自由に意見を出し合い,楽しく意欲的に課題解決に取り組めた。生徒たちは,協力して7セグメントLEDに数字を表示したり,規則性を発見したりすることができた。
 
 
         
         
         |   写真15 学習課題の提示の様子 |   写真16 プログラム作成の様子 |  
         | 図14 第3時の授業で使った学習シート |  
         |   図15 生徒が発表に用いたTPシート |  
         |   写真17 生徒の発表の様子 |  |  |  
   | ウ | 「3桁の数字を表示する」(4/5時) 
 
      
      | (ア) | 目標 
 
         
         | a | 基本プログラムに修正・改良を加えて,7セグメントLEDに3桁の数字を表示させることに関心を持っとともに意欲的に取り組むことができる。 | (関心・意欲・態度) |  
         | b | いくつかの命令語を組み合わせて,7セグメントLEDに3桁の数字を表示する方法を考案しようとする。 | (創意・工夫) |  
         | c | 考案した7セグメントLEDの表示法を制御プログラムに表現できるとともに,プログラムを実行して,3桁の数字を表示できる。 | (技能) |  |  
      | (イ) | 展開 |  
      
      | (ウ) | 授業の様子 第4時では,コンピュータで7セグメントLEDを制御して,3桁の数字を表示するプログラムを作成した。
 まず,生徒全員が教卓前に集まり,3桁の7セグメントLEDがプログラムで制御されて点滅する様子を観察して,本時の学習課題を確認した。
 次に,3桁の7セグメントLEDを同時に光らせる基本プログラムを入力して,動作を確認した。さらに,学習シート(図16)に記載されている他の基本プログラムも入力して,同様に動作を確認した。その後は,自由にプログラムを改良して,本時の課題解決の活動に移った。
 自分で新たにプログラムを考え始める生徒も一部に見られたが,基本プログラム3,4を変更し,実行したりデバッグしたりして試行錯誤を繰り返しながら,プログラムの作成に取り組む生徒が多かった。生徒は,自分で課題を設けて解決する活動を行う中で,7セグメントLEDに数字が表示される様子を観察し合ったり,プログラムリストを見せ合ったり,教え合ったりしながら,各自のプログラムにさらに修正や改良を加え,意欲的に学習に取り組んだ。
 考えながら自由にプログラムの作成ができたこと,7セグメントLEDで自分の点灯の様子を確認しながら学習を進められたことで,自分自身で7セグメントLEDを制御できたという実感を持つことができた。図17は,基本プログラムに修正や改良を加えながら作成したプログラムの一例である。
 
 
         
         
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 図16 第4時での学習シート |  
         | 図17 生徒のプログラム |  |  |  
   | エ | 考察 
 
      
      | (ア) | 事後のアンケート調査 制御の授業が終了してから生徒にアンケート調査したところ,次のようなことがわかった(調査対象生徒30人)。
 授業の前は,生徒はコンピュータ制御がどのようなものかわからなかったが,制御実習の後では「少しはわかる。」とする生徒が25人となった。また,コンピュータを使って何かを制御することが「できる。」あるいは「少しはできる。」とする生徒が26人となった(視点A 基本的な操作能力の習得)。一方,コンピュータによる制御が「楽しい。」あるいは「どちらかといえば楽しい。」という生徒が28人であった。また,コンピュータ制御することに「興味がある。」あるいは「どちらかと言えば興味がある。」という生徒が28人であった。
 このように,コンピュータ制御の実習を体験したことで,生徒はコンピュータによる制御に対して理解を深め,自分でもコンピュータ制御ができるという実感を持てたことがわかる。
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      | (イ) | 生徒の感想から 授業後の生徒の感想文には,次のようなことが書かれていた。
 
 
         
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             コンピュータで7セグメントLEDを光らせる方法がわかった。 制御はとてもおもしろかった。もっといろいろな光らせ方をやってみたい。 初めは本当にできるかどうか不安だったが,自分でも7セグメントLEDを光らせることができたときはうれしかった。制御に少し自信が持てた。 初めは制御と言われてもピンとこなかったけれど,実際にやってみて,これが制御なのかとわかってきて,だんだんおもしろくなってきた。 基本プログラムに数字を入れながら調べていったら,途中で次の数字がひらめいて,実際に入れたら当たっていた。規則性を発見できてうれしかった。 自分でプログラムを考えて,7セグメントLEDをいろいろ光らせたのがおもしろかった。7セグメントLEDのいろいろな光らせ方がわかってきた。 制御の授業はただプログラムを入力するだけではなく,自分たちで考えていろいろプログラムを作れたのが良かった。プログラムがわかってきた。 プログラムの中の数字を変えていろいろなプログラムを作ることで,7セグメントの数字が変わったり,光る速さが変わったり,いろいろに光らせることできた。制御のプログラムを作るのは本当に楽しかった。 |  |  
      | (ウ) | 第2時から第4時までの授業全体の様子から 第2時では,教師が提示した基本プログラムで簡単な制御を体験して,生徒は7セグメントLEDを光らせることができるという自信を持ち,制御の学習に対する不安が取り除かれた。また,一つのセグメントだけを光らせる方法とその規則性を発見できたことにより,制御学習への意欲が高まった。
 第3時では,第2時の学習をもとにして,7セグメントLEDに0から9までの数字を表示させる方法とその規則性を発見して,7セグメントLEDの制御に対する自信を持つとともに,興味・関心を高めることができた。
 第4時では,自由なプログラム作りの中で思考錯誤を繰り返しながら,独自にプログラムを作成して,3桁の7セグメントLEDの制御に取り組むことができた。特にこの授業では,互いに7セグメントLEDに表示される数字の様子を観察し合ったり,プログラムのリストを見合ったり,教え合ったりする活動が見られた(視点B 情報の判断,選択)。また,その中で互いに自分に必要な情報を取り入れ,プログラムの作成に生かし,よりよいものを作ろうと努力する姿が見られた(視点C 情報の整理,処理)。
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