授業研究
  〈1年目の授業研究〉
  (1)  小学校第6学年「ボール運動」(フラッグフットボール)の指導
   
 主題に迫るための指導の手だて
  (1)  教材の精選
     未習教材であるフラッグフットボールを実践することで,次のような点が期待できる。
     児童たちは,フラッグボールに対する経験が無いため,技術面では同じスタートラインからの学習ができる。
     ゲームでは,作戦を立ててプレーするため,一人一人の役割が明確になる。
     作戦立案段階で,運動能力の低い児童も,その能力に応じて生かされる場をつくることができる。
     少人数でゲームを実施することで,運動の質や量が高まる。
  (2)  学習過程の工夫
     作戦立案や作戦遂行に向けての集団的思考場面を設けた。
     ドリルゲームや課題ゲームを設け,基礎的・基本的な技能の習得や戦術的学習が,ゲーム感覚でみんなで楽しく学習できるようにした。
     ねらい1(基礎的・基本的な技能や作戦の習得),ねらい2(チームの特長に応じた作戦によるゲーム)の発展的学習過程を設定し,個から集団への発展が段階的に進むようにした。
  (3)  指導上の工夫
     個々に対する言葉かけを工夫した。(個々のねらいに応じて肯定的な言葉かけを多用し,学習意欲を高める。「前よりもこんなところが良くなったね」等)
     形成的授業評価を実施し.次時の指導や支援に役立てた。
     学習中,仲間に対する文句や非難をルールとして禁止し,肯定的な雰囲気の中で学習できるようにした。
  (4)  資料の工夫
     学習の手引き(学習の流れ,ドリルゲーム,課題ゲームの内容,基本ルール等を示した)を作成したり,学習カード(振り返りカード)を活用したりした。
     基本的な作戦例を提示し,作戦立案を支援した。
     フラッグフットボールのデモテープやVTRを活用した。
 学習の道すじ
 
 授業の結果と考察
  (1)  教材の精選
     本実践で取り上げたフラッグフットボールは,児童たちにとって初めて学習するボール運動であったため,苦手意識をもつことなく取り組むことができた。ボールを操作する技術も簡単で,運動の苦手な児童にも受け入れられた。ゲームでは,3人のプレーヤーすべてに大切な役割が与えられ,それぞれが役割を果たすことによって作戦が成功する。そのため,協力して意欲的に練習やゲームに取り組むことができた。
  (2)  学習過程の工夫
     学習過程では,基礎的・基本的な技能の習得をねらったドリルゲームを行い,主ゲームに必要な技能を楽しみながら確実に身に付けることができた。また,課題ゲームでは,自分たちの考えた作戦をどう実践したらよいか,また,失敗した作戦のどこが悪かったかについて話し合う等の集団的思考場面をしっかり確保することができた。
  (3)  指導上の工夫
     場面に応じた言葉かけでは,その内容を矯正的なものと励まし・賞賛的なものを意識して使い分けた。また,名前を呼んだり肩をたたいたりして注意を引いてから行ったので,意識的に聞くようになり,学習に有効であった。
  (4)  資料の工夫
     学習の手引きやデモテープ,VTRを活用したことで,動きのイメージや学習の道すじがとらえられ,効果的な学習が進められた。また,作戦の立案段階で基本的な作戦例を提示したことは,作戦づくりの話合いに有効だった。
(2)  中学校第1学年「球技」(バレーボール)の指導
   
 主題に迫るための指導の手だて
  (1)  学習内容の明確化
     セッターの動きに着目した学習内容の設定
       球技の指導では,作戦を生かした攻防を展開してゲームができるようにしなければならない。戦術的な課題を目標に掲げ,その課題を解決するために,ボール操作の技術とボールをもたない動きを習得させるようにした。本単元では,「アタックにつながるトス」を中心課題とし,「アンダーハンドパスというボール操作の技術」と,そのレシーブの受け役である「セッターが頭上を越えたボールに対してレシーバーの正面に体を向ける」というボールをもたない動きを全員に練習させた。
  (2)  指導上の工夫
     ゲーム形式での個人的技能の習得
       バレーボールのゲームの中心は,3人組のフォーメーションである。そのため,3人組のゲーム形式で練習を進めた。例えば,アンダーハンドパスの練習では,ボールの出し役,パス役,セッター役の役割を担う3人組で行った。また,レシーブ−トス−パスアタックなどのゲームで使われる技術と戦術を組み合わせた3人組の練習は,ゲームでの流れとテンポをつくり,練習の成果をゲームの中に生かすことができるようになると考える。
     ゲームの条件の工夫
       ゲームの様相は人数,コートのサイズ,用具のタイプ(ボール)や工夫(ネットの高さ),その他の特殊の条件(ネット越しのやさしい山なりのボールでサーブなど)といった条件に左右される。そこで,人数は3人組とし,コートは塩化ビニル管で作った2mの支柱を立てたバドミントンコートを使い,ボールは痛みを緩和させ,円滑にバレーボールに移行させるためにソフトミニバレーボールを使用することにした。また,「ねらい1」の段階ではやさしい山なりの投げ入れサーブを取り入れ,レシーバーがセッターにパスしやすいように配慮した。また,すべての生徒にすべてのポジションでの動きとボール操作の技術を習得させるためにサーブは交互に,ワンポイントごとにローテーションさせた。
     グループ編成の工夫
       3人組で練習させていくが,3人組だと練習が停滞してしまうことがある。そこで6〜7人組の班を2つに分け,3人組を流動的に変えられるようにした。
  (3)  自己評価カードの活用
     集団的スポーツでは,これまで主にグループカードが用いられてきたが,グループの評価はできても,個人の評価が必ずしも反映できない生徒もみられた。そこで,観点別評価規準を明記した学習カードを活用した。
 学習の道すじ
 
 授業の結果と考察
  (1)  学習内容の明確化
     セッターがどんな役割で,どんな動きをすればよいのかを分かりやすく説明し,繰り返し練習させたことにより,頭上を越えて自分では処理できないボールに対して,ボールの方向へ体の向けることができるようになった。このことにより,チーム内でボールをセッターにつなぎ,できるだけ3回で返球しようとする意図が感じられるようになり,3段攻撃の出現率が高まった。
  (2)  指導上の工夫
     ゲーム形式での個人的技能の習得
       3人組でゲーム形式で個人的技能の練習をしたことにより,カバーリングやサポートなどのポールをもたない動きに対する意識が早い段階から芽生えた。
     ゲーム条件の工夫
       3人組でのゲームにしたため,触球回数が増え,役割分担が明確になりゲームパフォーマンスが向上した。「3人組の練習やゲームは,いつも自分のところへボールが来るような気がして気を抜くことができなかった。」という生徒の感想からも運動従事時間が十分に確保できたと推察できる。
 また,ソフトミニバレーボールを使用したことによりラリーが続き,バレーボールの機能的特性にも触れさせることができた。
     グループ編成の工夫
       6〜7人を2つに分ける3人組のチーム編成にしたため,相手によって選手構成を考えるなど,作戦を立てる楽しさを味わっている姿がみられた。また,3人組がマンネリ化せず,変化のある練習ができた。
  (3)  自己評価カードの活用
     集団的スポーツであるバレーボールでも自己評価カードを活用することにより,集団における個人の課題が明確になり,集団的技能が向上した。
 また,観察では確認できなかった生徒のつまずきをカードで見つけることができた。なお,カードの記述や観察で不明確な事柄については,直接本人に尋ねたことにより,何につまずいているのかが明確になった。
(3)  高等学校第1学年「球技」の指導
   
 主題に迫るための指導の手だて
  (1)  ポートフォリオを活用した学習
     個人的技能や集団的技能の学習では,ポートフォリオを活用した学習の振り返りにより自己の成長を確認するとともに,自己やチームの課題に気付かせたい。そして,個人やチームの課題に応じた練習内容や方法を仲間とともに作り上げ,その情報を共有する学習過程を導入したいと考えた。
    《ポートフォリオについて》
     上手な友達のちょっとした動きの観察や調べ学習などから,新しい技術の発見,はっとした感動や気付いた点などをつぶさに書きとめておくことにより,個人個人の成長の証となるとともに,その後の学習活動における課題の設定やその解決に役立つと考えた。
     内容については個人個人が自由に記入できるようにし,徐々に蓄積されていくポートフォリオを見て,自らが課題や課題解決の仕方に気付くのをできるだけ待つようにする。
     内容
       調べ学習によって得た資料
       プレーの観察より得た気付き・発見
       教師の助言から得た気付き・発見
       チーム内からの情報
       ゲームの分析,チームの分析によるその結果・気付き・発見
       学習成果
       フィードバックによる新たな気付き・発見
 学習の道すじ
 
 授業の結果と考察
  (1)  ポートフォリオを使用することにより,集団的スポーツにおいても,過去の自分の考えや気付き,発見を基に,より発展した個人個人のめあてをしっかり立てられるようになった。
  (2)  毎時間の授業で発見したことや気付いたことがポートフォリオ形式のファイルに蓄積され,それを見直すことにより,新たな課題の設定につながった。
  (3)  本時の課題がファイルから明らかになり,そこから更に「何かひとつでもいいから発見や収穫があるような授業にしよう」等の活動への意欲が見られた。
  (4)  ポートフォリオ形式にして自由に伸び伸び記入できることから,生徒は,絵や図を用いたり,好きなスポーツ選手の写真などをはるなどして自分の宝物のようにして大事にする者も見られ,時間とともに趣のあるファイルに変化し,内容の濃い物となっていった。また,それを参考に自ら活動を決定していく学習は,自主的な行動を促し,少しずつではあるがそれぞれのレベルに合った動きができるようになっていった。
  (5)  「自分の技能レベルに応じた運動の計画立案・学び方ができたか」というアンケートによる質問に,実践前より実施後の方が「できる」,「ややできる」と答えた生徒が増えた。「生涯にわたって計画的に運動に親しむ」という目標達成のための資質や能力の一つである運動プログラムを作成する力や実践力などを養うことができたと考える(図1)


[目次へ]