体育・保健体育科における「個に応じた学習指導の工夫改善」に関する意識・実態調査
   県内の公立小・中・高等学校の児童生徒及び教師を対象として,「個に応じた学習指導の改善」に必要な基礎的データを得るために,体育・保健体育科の学習指導について意識・実態調査を実施した。
  (1)  調査の対象
   
 児童生徒…  県内の小学校10校の第5・6学年,中学校12校の第1・2・3学年,高等学校12校の第1・2・3学年から,それぞれ1学級を抽出して行った。回答者数は小学校557人,中学校1,436人,高等学校1,363人の計3,356人である。
 教師…  無作為に抽出した県内の小学校100校の6学年体育担当者,中学校100校の保健体育担当者,そして高等学校50校から各校2人ずつの保健体育担当者を対象とした。回答者数は小学校100人,中学校100人,高等学校100人,合計300人である。
  (2)  実施時期  平成14年9月12日(木)から9月20日(金)まで
  (3)  集計結果及び分析
   
  • 調査項目数は,小学生・中学生・高校生ともに共通する項目を17項目設け,中学生・高校生には選択制授業に関する項目を2項目設定した。教師対象の調査は小学校・中学校・高等学校ともに共通する項目を28項目設け,中学校・高等学校の教師には,選択制授業に関する項目を2項目設定した。
  • 結果及び分析については,特に研究主題にかかわる項目について示した。
  • 集計結果及び分析の文中あるいは表題における以下の表記は次のことを表す。
「体育」 ・・・ 小学校の教科「体育」及び中学校・高等学校の教科「保健体育」の体育分野
「球技」 ・・・ 小学校における「ボール運動」及び中学校・高等学校の「球技」の領域
「体育好き群」 ・・・ 児童生徒用調査の設問「あなたは体育の授業が好きですか」に「好き」あるいは「どちらかというと好き」と回答した児童生徒
「体育嫌い群」 ・・・ 児童生徒用調査の設問「あなたは体育の授業が好きですか」に「嫌い」あるいは「どちらかというと嫌い」と回答した児童生徒
「球技好き群」 ・・・ 児童生徒用調査の設問「サッカーやバスケットボールなどのチームで行う球技は好きですか」に「好き」あるいは「どちらかというと好き」と回答した児童生徒
「球技嫌い群」 ・・・ 児童生徒用調査の設問「サッカーやバスケットボールなどのチームで行う球技は好きですか」に「嫌い」あるいは「どちらかというと嫌い」と回答した児童生徒
「球技得意群」 ・・・ 児童生徒用調査の設問「サッカーやバスケットボールなどのチームで行う球技は得意ですか」に「得意」あるいは「どちらかというと得意」と回答した児童生徒
「球技苦手群」 ・・・ 児童生徒用調査の設問「サッカーやバスケットボールなどのチームで行う球技は得意ですか」に「苦手」あるいは「どちらかというと苦手」と回答した児童生徒
     児童生徒の興味・関心について
      表2 運動・体育・球技への興味関心(%)
好き どちらかと
いうと好き
どちらかと
いうと嫌い
嫌い
運動の好き嫌い 51.5 33.1 12.5 2.9
体育の授業の好き嫌い 46.6 36.0 13.1 4.3
球技の好き嫌い 49.7 30.5 14.3 5.5
設問 あなたは運動することが好きですか。
あなたは体育の授業が好きですか。
サッカーやバスケットボールなどのチームで行う球技は好きですか。
(%) 小学校・中学校・高等学校の総計で表示

 児童生徒の84.6%が「運動好き群」となり,82.6%が「体育好き群」であった。「球技」については,80.2%の児童生徒が「球技好き群」となり,いずれも高い割合を示した。(表2)そして,「体育好き群」と「体育嫌い群」に分け,球技の好き嫌いを考察したものが表3である。「体育好き群」においてはその87.7%とほとんどの児童生徒が,球技を好きと回答している。また,「体育好き群」の児童生徒においても,12.3%が「球技嫌い群」となっていることや全体の5.9%ではあるが「体育嫌い群」においても「球技好き群」が存在することは,その子ども自身に,あるいは球技に,特有の要因があるのではないかと考えられる。
     児童生徒の球技の得意・苦手及び試合中の活躍の意識について
      表3 「体育好き群」「体育嫌い群」別の球技の好き嫌い
球技好き群 球技嫌い群 総 計
体育好き群 人数 2,422 341 2,763
72.4 10.2 82.6
(87.7) (12.3) (100.0)
体育嫌い群 人数 196 387 583
5.9 11.6 17.4
(33.6) (66.4) (100.0)
総 計 人数 2,618 728 3,346
78.2 21.8 100.0

 人数は2つの設問に回答した小・中・高校生3346人に対する各項目該当者数であり,%はその割合を示す。また,( )内の数値は,「体育好き群」「体育嫌い群」それぞれの群内での割合を%表示した。

      表4 「球技得意群」「球技苦手群」別の活躍の意識
活躍している 活躍していない 総 計
球技得意群 人数 942 885 1,827
28.2 26.5 54.7
(51.6) (48.4) (100.0)
球技苦手群 人数 74 1,439 1,513
2.2 43.1 45.3
(4.9) (95.1) (100.0)
総計 人数 1,016 2,324 3,340
30.4 69.6 100.0
設問 自分は,球技の試合の中で活躍していると思いますか。
選択肢での回答
「そう思う」「どちらかというとそう思う」を「活躍している」「あまり思わない」「思わない」を「活躍していない」と表記
人数は2つの設問に回答した小・中・高校生3,340人に対する各項目該当者数であり,%はその割合を示す。また,( )内の数値は,「球技得意群」「球技苦手群」それぞれの群内での割合を%表示した。

 
      表5 「球技好き群」「球技嫌い群」別の球技の得意・苦手
球技得意群 球技苦手群 総 計
球技好き群 人数 1,801 877 2,678
53.9 26.3 80.2
(67.3) (32.7) (100.0)
球技嫌い群 人数 34 627 661
1.0 18.8 19.8
(5.1) (94.9) (100.0)
総 計 人数 1,835 1,504 3,339
55.0 45.0 100.0

人数は2つの設問に回答した小・中・高校生3,339人に対する各項目該当者数であり,%はその割合を示す。また,( )内の数値は,「球技好き群」「球技嫌い群」それぞれの群内での割合を%表示した。
      表6 「球技好き群」「球技嫌い群」別の活躍の意識(%)
活躍している 活躍していない
男子 「球技好き群] 43.8 56.2
「球技嫌い群] 8.4 91.6
小計 38.5 61.5
女子 「球技好き群] 28.4 71.6
「球技嫌い群] 4.1 95.9
小計 22.3 77.7
「球技好き群] 36.7 63.3
「球技嫌い群] 5.7 94.3
総  計 30.6 69.4

設問,回答の分類は表4に同じ。
       「球技好き群」が多かったことに比べ,「球技得意群」の割合は54.7%と低くなる。(表4)そして「球技好き群」がすべて「球技得意群」であるともいえない結果となっており,また,「球技嫌い群」では,「球技苦手群」の割合が高い。(表5)
 次に球技の試合中に活躍しているかどうかの意識について調べた。(表6)「活躍していると思うか」の問いに,「そう思う」「どちらかというとそう思う」と回答した児童生徒は30.6%であり,女子はその割合が更に低くなる。そして,「球技嫌い群」では5.7%という結果だった。
 また,「球技得意群」と「球技苦手群」とで比較してみると,苦手と感じている児童生徒が活躍していると感じている割合は4.9%にすぎない。そして,活躍していると考えられる「得意群」の児童生徒でも51.6%にとどまっている。(表4)
     授業の内容について
      (ア)  児童生徒の調査から(図2・3・4)
         球技の授業では,技能にかかわるどのような活動をしたいと考えているのかを知るために「個人練習」「チームの練習」「ゲーム」について尋ねた。その結果,「授業ではゲームをたくさんしたい」という問いに,「そう思う」「どちらかというとそう思う」と回答した児童生徒が86.1%と一番多く,「チームの練習」が76.2%,「個人練習」が46.3%であった。「チームの練習」と「個人練習」では学年が低いほど,それらを望んでいる傾向が見られる。
      (イ)  教師の調査から(図5・6・7)
         児童生徒が望むものと同様に,教師もゲームを中心として授業を進めていることが分かる。また,チームでの「集団的技能」にかかわる練習の取り上げ方も,児童生徒の意識と合ったものとなっていると考えられる。しかし,「個人の技術練習」については,特に小・中学生が多く望んでいるという実態に対し,教師の回答は逆の結果となっている。
     学び方について
      (ア)  児童生徒の調査から(図8・9・10・11)
         「チームの課題に気付くことが多い」という設問に「多い」「どちらかというと多い」と回答した児童生徒は42.5%と半数に満たない。「チームの練習方法を考えることが多い」と回答した児童生徒は26.6%にしかすぎなかった。また,「作戦や練習方法を話し合うことは楽しい」という設問に「そう思う」「どちらかというとそう思う」と回答した児童生徒は72.8%になる。また,「ルールを決めながらゲームをすることは楽しい」の設問に「そう思う」「どちらかというとそう思う」と回答した児童生徒は76.4%となった。
      (イ)  教師の調査から(図12・13・14・15・16)
         「児童生徒はチームの課題に気付くことができる」に「あてはまる」「どちらかというとあてはまる」と回答した教師は,小学校64.0%,中学校63.0%,高等学校47.0%であった。また,「課題解決の方法をもつことができる」には図13のような回答を得た。課題解決の状況とともにその割合が少ないと見ることができる。(図14)さらに,課題解決のためにどのような授業が行われているのかについて調査した。球技の指導において,「場やルールの工夫」は多く行われていることがうかがえる。「話合いの時間」に関しては高等学校において少ない実態であった。
  (4)  調査のまとめ
     調査の結果,以下のことが分かった。
     運動が好き,体育が好き,球技が好きという児童生徒は多い。
     球技を「得意」と感じている児童生徒は半数強である。球技を「苦手」と感じている児童生徒は,球技を「嫌い」とする傾向は強いが,全体の1/4程度は,「苦手」であっても「好き」であるという児童生徒である。
     球技の授業の中で「活躍している」と感じている児童生徒は,男子で約4割,女子で約2割となっている。さらに,球技が「苦手」と感じている児童生徒が「活躍している」と感じているのは,その中の4.9%にすぎず,「得意」であると感じている児童生徒も「活躍している」と感じているのは約半数である。
     児童生徒は,授業に「ゲーム」が多く取り入れられることを望んでおり,教師も同様の意識をもっている。また,学年が低いほど「個人技能」を高めるための練習をしたいと考えているが,教師の意識は児童生徒と反対である。
     チームの課題に気付いたり,その解決方法としての練習を考えたりという学習が身に付いていない状況が見られる。その結果,課題の解決が図られていない状況にある。課題の設定の仕方を学んだり,課題解決を図ることのできるような学習過程の計画が必要である。また,課題設定や課題解決のために「話し合う」ことや,誰もが楽しめるようにするためにルールを児童生徒自らが考えていくことに対しては,どの校種においてもおよそ7割以上の児童生徒が「楽しい」という回答をしている。


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