【授業研究3】
   中学校第1,2学年「グリーンコンシューマーをめざそう」における生活に生かす力をはぐくむための問題解決的な学習における指導の在り方
 
(1)  授業研究のねらい
   今日の生徒を取り巻く状況を見ると大量消費の生活に慣れ資源・エネルギーを消費し次々にものを買っては捨てる生活を繰り返しているのが現状である。こうした消費生活が,家庭や地域そして地球の環境にも大きく影響していると考えられる。子どもたち一人一人が環境の担い手であるという視点に立ち「生きる力」をはぐくんでいくためにも,自分たちのこれまでの生活を振り返り,改善していくことは重要であると考える。
 そこで,本題材であるかしこい消費者をめざしながら,グリーン・コンシューマー(環境や健康を考えて商品を選ぶ消費者のこと)として行動していくことで,日々の買い物で環境を大切にして商品やお店を選び,環境を大切にする心豊かな暮らしを創っていく楽しさや喜びを感じることができると考える。そのために,自らが消費生活を振り返り,見直して,環境に配慮しながら主体的に生活を工夫して営む能力を育てるために,課題を見い出し解決を図る問題解決的な学習を充実させていきたい。その結果,これまでの生活を少しでも改善しようとする創造性や主体的に取り組む態度,集中力や忍耐力,協調する態度を醸成することができると考え,本題材を設定した。
 学習内容の中に一人一人が環境づくりの担い手であるという視点から,かしこい消費者をめざすことは,同時に環境にもやさしい消費者になることに気づかせたい。このテーマを通して,環境を考えた消費生活に必要な基礎的な知識と技術や技能の定着と広がりを図る。さらに,それらの知識や技術を積極的に活用したり,工夫したり,創造したりする能力と実践しようとする意欲的な態度などの生活に生かす力を育てることを重要視して指導にあたる。
 また,一人一人の特性に応じた個性を生かす学習を念頭に,一人一人の生活経験や生活に対する意識の違いを把握し,それに応じた基礎的・基本的な内容を個別のきめ細かな指導により身に付けられるよう配慮していきたい。
 
(2)  研究主題に迫るための手だて
   自分の生活を見つめ,問題をとらえ実践化につなげるための指導計画の工夫
     消費者教育を行うにあたって,生徒たちの実態をとらえてみると家庭や家族のための買い物をする機会が少ない生徒が多く,興味・関心が高いとは言い難い。そこで,消費者教育の導入として1年生で消費者としての自覚を促すような学習を組み立て,知識・理解を定着させ,家庭で実践できるように期間をおき,もう一度2年生になってからより深い学習ができるような指導計画を立てる。
 このようにして,消費者として徐々に自立にできるよう適時性やねらい及び発達段階を考慮し,段階を踏んで繰り返し学習し,実践力を育てたい。
   とらえた問題を自分の生活に生かせるような課題として設定するための工夫
     この学習で最も力を入れなければならないのは,課題作りの際の生徒の「気づき」である。その手だてとして事前に家庭での観察・調査や自分の家庭生活を振り返るような実践的・体験的な活動が必要であると考えた。課題作りの前には,家庭での消費生活における問題点を洗い出し,その中から課題追究に相応しい問題点となる課題を決定していくようKJ法などを用いて細かいステップを踏んで学習できるようにする。
   学びを生活に生かそうとする意欲を高める多様な活動の場の設定
    (ア)  多岐にわたるグループ活動を充実させるためにTTにおける指導体制を取り入れるようにする。また,生徒の要望に応じてGTを招き,問題解決の手だてとなるような場面を設定する。
    (イ)  2年生では,図1に示すように問題解決的な学習の追究過程で「試す」ステップを設け,調べたことを実践する機会をつくり,調べたことの有効性を実感し,より実生活に生かそうとする意欲を高めるように支援する。
    (ウ)  学びを広める・深める過程では,ブース形式での発表会を行う。自分の生活に生かすための必要な情報が入手できるように,各自が聞きたいブースに行き,自由に交流できるようにする。また,発表内容か十分に伝わり,質の高い学び合いになるように多様な方法で表現できるよう援助する。
     
図1 「試す」ステップを設けた問題解決的な学習の流れ
 
(3)  授業の実践
   題材  グリーンコンシューマーをめざそう
   題材の目標
   
生活や技術への関心・意欲・態度  環境や資源に配慮した生活の工夫について関心をもち,よりよい環境にするために自分たちにできることを積極的に見つけようとする。
生活を工夫し創造する能力  環境や資源に配慮した生活について課題をもち,その解決をめざして自分なりの工夫をしたり,新たな方法を考えたりすることができる
生活の技能  自分の生活を点検し,環境や資源に配慮した生活の工夫について,計画を立てて実践することができる。
生活や技術についての知識・理解  生活の仕方と環境や資源とのかかわりに関する基礎的な知識を身につけることができる。
   本時にかかわる指導計画及び評価規準(本時はその第9・10時)
   
   本時の学習
    (ア)  目標
       各グループの発表をもとに,グリーンコンシューマーを目指して,よりよい生活を築こうとする。(生活や技術への関心・意欲・態度)
    (イ)  準備・資料
       発表原稿・掲示資料・実物資料・視聴覚機器・レジュメ・ワークシート
    (ウ)  展開
     
 
(4)  授業の結果と考察
   自分の生活を見つめ,問題をとらえ実践化につなげるための指導計画の工夫
     生徒の発達段階や興味関心をふまえて,指導内容の組み立て方を考慮した。1年時ではB(4)イにあたる環境に配慮した消費生活を中心に履修し,2年時ではB(6)イにあたる環境や資源に配慮した生活の工夫を中心に履修することとした。それによって,一人一人が自分の生活を見つめ問題をとらえるという学習を反復することにより,考え方や問題解決の仕方,実践力に発展や深まりが見られた。
   とらえた問題を自分の生活に生かせるような課題として設定するための工夫
     生活を見つめて気付くための手だてとして,家庭での観察・調査や自分の身近な消費生活を振り返るような実験的・体験的活動を取り入れた。生徒たちは,自分の身近な消費生活の問題点について関心をもち,今までにに学んだことを更に深めたいと意欲的であった。
 また,KJ法を用いて,自分の生活に生かせるような課題へと類型化し,同質の課題によるグループ学習の形態をとることによって話し合いの質の高まりや実験・発表での役割分担など,主体的な学びが見られた。
   学びを生活に生かそうとする意欲を高める多様な活動の場の設定
    (ア)  課題追究の場面ではTTの指導体制やGTの活用は個に応じた支援に有効であった。GTを招いた授業では,生徒の持つ疑問やつまずきが次々に解決され,学ぶ喜びを味うことができたようである。また,課題を追究する場面では,広いスペースを複数用意したり,十分な時間を確保できたので,自由に取り組むことができ,主体的な学びとなった。
    (イ)  事前アンケートによれば,環境保全の知識はあるがそのために何かを実践している生徒は約半数であった。知識だけでは実践化につながらないという現状から,課題追究の場面において。調べてわかったことを「試す」ステップを設けた実際に試すことで,調べたことが実感の伴った。学びとなり生活に生かせるか否かが体得された発表会では友達の学習内容を興味深く聞き,交流し合う様子が見られた。自己評価カードの感想に発表会で聞いたことを是非やってみたいという思いを多くの生徒が記入しており,実践化への意欲が高まったとみられる(図2)
    (ウ)  ブース形式の発表会は,各ブースごとに多様な表現方法(PCによるプレゼンテーションや実演など)で,少人数の聞き手にアピールすることができた。聞き手も興味のあるものや自分の生活に生かせるような発表を自由に聞くことができ,学びを共有化することができた。
 
(5)  授業研究の成果と今後の課題
   1,2年生の発達段階を考慮し,消費者教育を段階を踏んで,繰り返し学習できるような指導計画を工夫したので,一人一人が自分の生活を見つめ環境に配慮した消費生活に生かすことのできる力を育てることにつながった。
   生活をみつめ,問題に気付くために実践的・体験的活動を取り入れた結果,自分の身近な消費生活の問題点に気付き,課題の設定に役立った。
   課題追究の場面でのTTの指導体制やGTを活用することにより,個に応じた指導が充実できた。また,活動の場の設定や十分な時間の確保は学習意欲の向上につながった。
   課題追究の場面において「試す」ステップを設けたことにより,調べたことが実感の伴った学びとなり生活を改善する意欲につながった。
   ブース形式の発表会により,学びを共有化でき,聞き手は自分の生活に生かすことのできる情報が入手でき,実践意欲を喚起することにつながった。
   家庭での実践を促すための具体的な手だてをさらに工夫したい。
   指導と評価の一体化を目指した適切な評価場面や方法について研究したい。


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