【授業研究2】
   中学校第3学年「プログラムを用いて制御しよう」における生活に生かす力をはぐくむ問題解決的な学習指導の在り方
 
(1)  授業研究のねらい
   さまざまな情報機器活用の学習指導の中で,プログラミングと計測・制御は,技術分野特有のものであると考える。また,自律型制御ロボットの自動制御は,手動制御の発展的な内容として,より能率的に,何度でも同じ動作を繰り返して行わせることを可能にするプログラムの効用としてとらえることができる。
 コンピュータ制御の技術は,生活の中でさまざまな機器に広く用いられ,恩恵を受けている。生徒は,身の回りにある電気製品の多くが,コンピュータによって制御されていることを,ほとんど意識せずに活用しており,この段階では制御・計測について,生活の中からの疑問や課題としてとらえることは難しい。しかし,生徒に,自律型制御ロボットのプログラムの一つとして「センサーを用いて,障害物をよけて走る」動作を観察させると,これらの無関心は一変することが多い。この題材の設定意図には,課題意識の掘り起こし,もしくは,身近な機器の制御の仕組みを掘り下げて単純化することで,生活の中の制御とプログラムについての意識を高める点があげられる。また,この題材の学習では,プログラムと制御についての実践的な活動を経験することができる。これらの授業での学習成果を,生活の中の計測・制御の技術と結びつけてとらえていくことは,急速に発達し続けている科学技術への興味・関心を高め,生活にこれらの情報技術をうまく生かしていこうとする意欲をもたせる上で,重要な役割を担っていると考える。
 
(2)  研究主題に迫るための手だて
   生活の中から問題をとらえるための題材構成の工夫
     自律型ロボットの制御プログラムの前段階として,シミュレーションソフトウェアによるプログラミングを設定する。ここでは,単純なランプの点灯・点滅の制御プログラムから,交差点信号機による車の制御プログラムまでを行う。信号機の点灯・点滅は,生徒が日常的に目にしているものであり,実際の信号機もコンピュータによる制御であるため,生活との関連として,また,制御プログラムの入門編として位置づけ,関心を高めるよう工夫する。
   一人一人が主体的に課題を追究するための学習形態の工夫
     それぞれの課題追究が,次の段階のプログラム作成等に必要となる大切な学習活動であるという意識を高め,意欲的な取り組みとなるよう,ジグソー学習を取り入れる。この学習を取り入れることで,一人一人の生徒に役割と責任を意識させ,自力での問題解決への意欲と各生徒の存在感を高めていくことができると考える。また,他と共に学ぶという意味合いをもたせ,協力して解決に導こうとする態度を養いたい。
 まず,自律型ロボットの制御に関する事前アンケートや学習プロフィールによる実態把握を行い,生徒の制御学習に関する思いをとらえる。これらの調査結果から,プログラムの知識が身に付き,他の生徒へアドバイスできるリーダーを中心とする4名のグループ編成を検討し,互いに学び合い,話し合いが活発にできるグループ学習を構成する。グループ学習の中では,ともするとつまずきのある生徒が埋没し,受動的な学習になることがある。そこで,個々が習熟度に応じた学習コースを選択し,コースごとの同質の課題のグループで課題解決に臨めるようにする。
   一人一人が主体的な学習を進め,基礎的・基本的な内容を定着させるための学習環境の工夫
     事前アンケートや学習プロフィールから,生徒は制御プログラミングに多かれ少なかれ不安をもっていることがわかった。プログラム作成の基礎的・基本的な内容を定着させるためには,この不安を少しでも解消して,生徒の主体的な活動となるように,学習成果や達成感を感じる授業展開の工夫が大切であると考える。これらを考慮し,個に応じた学習指導の方法として,グループ学習を主体としながらも,個々の生徒に学習時間を保証し,自らの理解や技能の習得状況に対応できる学習の場を構成する必要がある。このため,学習を見通し,主体的な活動を支える学習シートや掲示物の工夫,段階的な学習や問題解決的な学習の過程を繰り返す時間を指導計画の中で検討する。習熟度に応じた学習を選択可能な複数の学習コースの中で,スモール・ステップによる段階的な課題解決を行い,繰り返し学ぶことで基礎的・基本的な内容の定着が図れるよう工夫する必要があると考える。
 
(3)  授業の実践
   題材  プログラムを用いて制御しよう
   題材の目標
   
生活や技術への関心・意欲・態度  コンピュータを用いたプログラムと計測・制御に関心をもち,課題に応じたプログラムの作成をめざして主体的に取り組もうとする。
生活を工夫し創造する能力  参考となるプログラムや試行錯誤した結果を生かして,制御物の動作をより的確に制御することで課題解決に導こうとする。
生活の技能  目的に応じた制御を行うためのプログラムを作成することができる。
生活や技術についての知識・理解  プログラムの構成・流れを理解し,プログラム作成の手順を説明することができる。
   指導計画
    (ア)  全体計画
     
第1次 生活の中の計測・制御を知ろう ……………… 1時間
第2次 シミュレーションで制御しよう ……………… 5時間
第3次 自律型ロボットを制御しよう ……………… 8時間
    (イ)  本時に関わる指導計画及び評価規準(第3次)
     
   本時の学習
    (ア)  目 標
       技能に応じた課題を選択し,話し合いや情報収集を自分の学習活動に生かしながら,すすんでプログラムを作成しようとする。
       コースに応じたプログラムを作成し,自律型ロボットを制御することができる。
    (イ)  準備・資料
       自律型制御ロボット20台,インターフェイス20台,制御用テキスト及び学習プリント,自己評価表,車輪の動作説明模型,動作ープログラム対応表,「反復の方法」説明図,「本時の学習の流れ」掲示用,発展学習用「車庫入れ」掲示用
    (ウ)  展開
     
 
(4)  授業の結果と考察
   生活の中から問題をとらえるための題材の工夫
       シミュレーションソフトウェアとして8つのランプの点滅と信号機・交差点の制御を取り入れた。これにより,生徒の身近な生活の場に見られる信号機の制御には,プログラムが存在することやその重要性に気づかせることができた。図1のように生徒の感想からは,実際の信号機の制御のはたらきを再認識する意見が多く得られた。命令を与え,車の流れを制御させるシミュレーションソフトウェアは,実習を通して,生活の場と授業における制御の学習をつなげることができ,この題材への関心を高めるのに役立った。
   一人一人が主体的に課題を追究するための学習形態の工夫
     実態把握による生徒の現状をふまえたグルーピングの工夫と,ジグソー学習の手法を取り入れた問題解決的な学習を設定することで,一人一人の生徒に役割と責任を意識させることができ,課題の自力解決への意欲を高めながら,個に応じた支援を十分に行うことができた。
 生徒は,制御プログラムは難しいという不安から学習内容を理解するためにグループやペアの形態による授業を望む傾向がある。これをふまえ,配慮を要する生徒への支援として,意図的なグループ編成を行った。リーダーとなる生徒のもと,制御プログラミングに不安がある生徒のうち,自己申告した生徒を優先して配置し,他の生徒を加える形でのグループ編成の方法をとった。これにより,話し合いや気軽に相談できる人的環境を生徒の身近に準備することができ,生徒相互が協力しながら課題解決を行うことができた。また,教師の個別指導も重点的にできるようになった。ジグソー学習による問題解決的な学習の中で各グループから集まったそれぞれのコースの生徒は,共に協力し,相互に情報交換しながら活動できた。この学習形態に関して多くの生徒は,同じ目的で学習している人と安心して学習できる点を挙げている。さらに,自己評価表の分析から,学習が進むにつれ,学習内容が難しくなったと感じる生徒が増えたものの,自分に与えられた役割とそれに対する責任を意識できたことで,学習意欲を維持することができたと考えられる。
   個を生かしながら主体的な学習をすすめるための学習環境の工夫
     生徒の実態に応じた4つの学習コースとスモール・ステップによる段階的な課題解決を行う学習展開や,そこで活用する走行コースや学習カード,掲示物などの学習の場の工夫を手だてとして取り入れたことで,生徒は,難しいと感じながらも制御プログラミングに主体的に学習に取り組むことができた。また,学習時間を保障したことで,一人一人がじっくりと取り組み,基礎的・基本的な内容の定着につながった。
 本時では,トライ1を解決できれば,目標達成となることを生徒に伝え,学習段階としての目標を明確にし,基礎的・基本的な内容の定着を図った。授業中の観察やプログラムデータの確認から,トライ1の「わからない」とする6人の生徒のうち,2名がプログラム作成の手順が不確かであること,その他の4名は,プログラムの方法・操作はわかるが,まだ不安を感じる生徒であることがわかった。これらの生徒に対しては,学び合いの場での他の生徒からアドバイスが受けられるよう配慮するとともに教師の個別指導を十分に行うことで対応した。
 学習の場において,生徒が作成したプログラムは,その善し悪しを教具である制御物の動作を通して自ら判断できる。課題追究の段階では,判断力や意欲を喚起し,生徒が主体的に学習に取り組めたようだ。また,走行コースの配置を中心とする場の設定や学習活動の見通しを示す掲示物,本時の学習展開と比較・検討のための記録としての学習カードは,学び合いとなる学習の場を構成し,生徒が協力関係を保ちながら主体的に課題解決しようとする意欲を持続する上で効果があったと考えられる。
 
(5)  授業研究の成果と課題
   授業研究の成果
    (ア)  生活の中から問題がとらえられるよう交差点・信号機の制御シミュレーションを取り入れたことで,制御プログラムの学習が生活の中で生かされる制御の例として,プログラムの重要性を認識させ,制御への関心を高めることができ,その後の学習意欲の持続につながった。
    (イ)  実態調査や制御学習プロフィールをもとにグルーピングを行い,ジグソー学習の学習形態を取り入れることにより,個別の役割と責任が明確となり,目的意識をもたせながら課題解決を意欲をもって行えた。また,共に協力し,情報交換しながら課題追究に取り組むことができた。
    (ウ)  スモール・ステップによるコース別学習を取り入れ,個の習熟度に応じて選択させることで,それぞれの学習の成果を実感し,能力に応じた学習活動を個別にすすめることで基礎的・基本的な内容の定着につながった。
   今後の課題
    (ア)  プログラムと計測・制御の学習における,指導と評価の一体化を図るための具体的な評価方法の工夫
    (イ)  自己評価表や制御学習プロフィールの継続と実態把握の方法の改善


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