【授業研究1】
   小学校第6学年「ぼくもわたしも買い物名人」における生活に生かす力をはぐくむ問題解決的な学習における指導の在り方
 
(1)  授業研究のねらい
   本題材は,児童が学習意欲を感じる問題解決的な学習を通して,児童一人一人が自分の生活の中での物の使い方や選び方に関する課題を見つけ,主体的に課題解決に取り組み,生活に生かす力をはぐくむことをねらいとしている。
 そこで,児童が日常の消費行動を見つめ直し,自分の消費行動の選択や意志決定の基準を明確にしながら,友達と話し合う活動を取り入れることによって多様な選択の仕方を理解し,自分とものとのかかわりを考え,ものを大切にする心やものを選んだり使用したりする時に環境に配慮した適切な意志決定ができるようにしたい。しかし,児童一人一人の買い物の経験や消費行動に関する考え方は様々である。そこで,友達と学び合う場を設けたり,遠足のおやつの購入の体験や「わが家のこだわりみそ汁をつくろう」の材料選びの体験をクロスさせたりして学習していくことによって,かしこい消費者としての知識を理解するだけでなく,生活に生かすことができるだろうと考え題材構成の工夫を中心に授業研究を行った。
 
(2)  研究主題に迫るための手立て
   自分の生活を見つめ,問題をとらえるための題材構成の工夫
     常に自分の生活と学習とを関連させながら進めていくことが生活に生かしていくためには必要であると考えた。そこで,課題に気付く導入の段階で,自分の日常の消費行動を振り返る「買い物アンケート」をもとにした「買い物シミュレーション」から生活を見つめ直し,自分の消費行動の選択や意志決定の基準に客観的に気付くことができるようにする。
 また,友達と自分の消費行動の考えを交流しながら,科学的に生活を視る目や知識を培うことによって,ものの適切な選び方や判断基準があることに気付き,自分の問題を課題に高めていくことが必要であると考える。そこで,具体的に物を選び,各自の選択基準を述べ合うディベート「わたしはこっちを選ぶ」を設定する。
   とらえた問題を自分の生活に生かせるような課題として設定するための題材構成の工夫
     ものを選ぶための客観的な判断基準を自分自身の価値判断とするためには自分たちの言葉や文で表すことが大切であると考え,「買い物名人憲法」や「買い物チェックリスト」を創り合う場を設定する。この憲法やチェックリストは自分の選び方を客観的に見つめるめやすとなり,自分たちの問題を課題として設定する際の,一つの視点となると考える。さらに,課題追究中や振り返りの場やその後の日常生活での消費行動の自己評価の視点ともなると考える。また,「めざせ買い物名人」を「これぞわが家のこだわりみそ汁をつくろう」とクロスさせて学習することによって,学んだ知識や技能が生活の中で生かされると考える。さらに,自己の学びを振り返りさらによりよい学びに向かっていくために,多面的に評価できるルーブリック的な評価やワークシートを工夫していきたい。
   学びを生活に生かそうとする意欲を高めるための学習形態の工夫
     一人一人の学びを交流する場を工夫することによって,自分の課題追究の中で得た学びに自信がもて,生活の中で生かそうとする意欲が高まると考えられる。そこで,課題追究の基本グループを調理実習のグループとし,基本グループの中で「みそ」「だし」「実」の分担を決めて,材料ごとの同質グループでの交流の場を報告だけでなく情報収集する場とするためにワークシートやコーナーを工夫する。さらに,質の高い学び合いの場となるように学習活動を,情報収集を目的としたマーケティング・ディスカッション(以下MD法と表す)の手法を取り入れたジグソー学習をできるように工夫する。
 
(3)  授業の実践
   題材名  買い物名人
   題材の目標
   
家庭生活への関心・意欲・態度  身の回りの物や金銭の計画的な使い方に関心をもち,目的や必要性を考えて適切な買い物の判断基準をつくろうとしている。
生活を創意工夫する能力  身の回りの物や金銭の使い方や購入の仕方を見直し,計画的な使い方や適切な買い物について考えている。
生活の技能  身の回りの物や金銭を計画的に使うことができ,適切に日常で使う物を選ぶことができる。
家庭生活についての知識・理解  身の回りの物や金銭を計画的に使うことの大切さが分かり,身の回りの物の適切な選び方が理解できる。
   指導と評価の計画
   
 
    本時の学習
    (ア)  目 標
       各自調べたことの意見の交流を通して「わが家のこだわりみそ汁」の材料を選ぶ視点が分かり,適切に選ぶことができる。
    (イ)  展 開
     
 
(4)  授業の結果と考察
   自分の生活を見つめ,問題をとらえるための題材構成の工夫
    (ア)  児童の実態調査「買い物アンケート」をも とに,自分の買い物や使い方を振り返ったり,今,必要なものの「買い物シミュレーション」をしたりすることにより,ゲーム感覚で楽しく自分の意志決定の基準を客観的に見つめることができた。この活動によって,ものを選ぶときはいろいろな判断の仕方があることに気づくことができたと考える。
    (イ)  「1冊105円のノート」と「5冊215円のノート」「ペットボトルの飲み物」と「缶の飲み物」の中から1つを選び,「わたしはこっちを選ぶ」のディベートに参加したり,2色のカードを持って判定員になったり,司会や記録を担当したりした。事前に,ワークシートに選んだ自分の考えや予想される相手の質問に対する回答,相手への質問等を記入し,小グループで話し合いをもってから時間を決めて,ディベートを行った。(図1)ノートの場合は,値段が安いので5冊がよいという主張が人数的に多かったが,5冊を包んだセロハン紙がゴミになる,残りのノートを忘れて使わない場合が多いので無駄になるという主張でのやりとりが続いた。このディベートでの児童の感想は,「いろいろな意見が分かった。」「どっちの方が本当に便利なのか考えるのが楽しかった。」「またやりたい。」等様々であった。この活動は,児童にとって,楽しく適切な選択基準を学ぶ場となったと考えられる。
   とらえた問題を自分の生活に生かせるような課題として設定するための題材構成の工夫
     「買い物シミュレーション」と「ディベート」で培った価値判断を生かして,自分たちの言葉で図2のように「買い物名人憲法」をまとめた。方法は,最初に付せん紙に自分の考えをいくつでも自由に書く。次に,グループになって,班の憲法をB5版の半分の画用紙に付せん紙をはりながら作っていく。最後に,班の第1条を発表しながら全員でクラスの憲法をラシャ紙にまとめていく活動を行った。この活動で,第1条は「最後のごみの量を考えて買う。」と決定した。これは,前のディベートで,普段はあまり主張しない1人の女子が,「ゴミを考えて値段は高いが1冊のノートがいい。」という判断基準が児童の心に残ったためと考えられる。
 次に,「買い物名人憲法」から,実際に買い物をするときの判断基準となるとともに,買い物をした後の自分の自己評価の視点となる「チェックリスト」を創り合う活動を取り入れた。さらに,このチェックリストを使って,おやつの買い物の自己評価を行う場面を取り入れ,買い物名人を決定した。これらの活動の中で総合的な学習の時間で2年間活用しているルーブリック的な評価を取り入れることによって,多面的に自己評価を繰り返しながら学びの質を高めていく姿が見受けられた。さらにこのチェックリストを具体的な体験の場で生かすために,「これぞわが家のこだわりみそ汁」をクロスさせて学習した。
   学びを生活に生かそうとする意欲を高めるための支援と評価の工夫
     「こだわりみそ汁買い物大作戦」での課題は,調理実習のグループの中で,みそ,だし,実の材料を分担し,本やインターネットで調べたり,家の人に聞いたり,お店で調べたりする活動の後の交流の場でさらによりよい買い物作戦を立てていく活動である。個々の課題追究が話し合いに生かされるようにワークシートを9切りの画用紙に印刷し,そのまま話し合いでの発表資料とした。また,ワークシートの記入項目もそのまま話し合いに使えるように工夫した。児童の実態から,一人一人の学びをグループで交流することによってさらに学びの質が高まると考えた。そこで,調理実習のグループと同じ材料グループの中でそれぞれに交流を繰り返すジグソー学習を取り入れた。質の高い買い物大作戦につながるように,最初に「みそ」「だし」「実」の材料の課題グループで交流した。一般的な交流の場では報告に重きをおいているが,情報収集に重きを置くMD法の手法を活用するためにワークシート「買い物大作戦メモ」を使って交流した。その結果,調理実習グループでの話し合いでは,自分の調べたことだけでなく,材料グループでの学びが生かされ,質の高い話し合いになった。さらに,「短時間での話し合いで十分話が聞けなかった。」「もう少し○○さんの話を聞きたい」という児童に対応するために,廊下の各自のコーナーに縮小コピーしたワークシートを掲示しておき,情報収集コーナーを設けた。この活動後のアンケート結果を分析すると,同じ課題の友達の報告や同じ調理実習のグループの友達の報告は作戦を立てるのに役にたったという意見が多かった。
 
(5)  授業研究の成果と課題
   生活を見つめ問題をとらえ,課題意識を高め課題を設定していくためのアンケートをもとにしたシミュレーション,ディベート,買い物憲法やチェックリストの活動は,児童が楽しみながら適切な物の選び方が学べる活動となり,実生活での実践意欲にもつながった。
   問題解決的学習では,課題追究の質を高めるために情報収集に重きを置いたMD法を取り入れたジグソー学習によって,グループ学習のねらいが明確になり友達の考えを学び合える交流の場を作ることができた。
   ワークシート,ルーブリックやチェックリスト等で自己評価や相互評価を行ったが,さらに,相互評価を生かした自己評価の方法や場を工夫して自己評価の質を高めていきたい。


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