【授業研究2】
   高等学校第2学年 英語による日本文化の紹介を通じたコミュニケーション活動の指導
 
(1)  授業の構想
   本研究における英語科の研究主題「生徒の興味・関心を高め,実践的コミュニケーション能力を育てる学習指導の在り方」に基づき,さらに,現在第2学年において,「英語U」とともに「ライティング」を履修している学習段階にも配慮した上で,以下の三点に重点を置き授業の構想をたてた。
   学習材料の中に他国・自国の文化についての興味・関心が高まるような要素を取り入れ,コミュニケーション活動へと発展させる。
   発表者は自分の伝えたいことを選定し,それを英文で簡潔にまとめ,さらに聞き手であるALTやクラスメートに正確に英語で伝える。聞き手は,内容を正確に聞き取り,必要に応じて発問する。
   事前の授業を通して,アイコンタクトや声の大きさ,ジェスチャーなど効果的なプレゼンテーションをするために必要な技能を身につけておく。
   コミュニケーション活動を効果的に行うためには,その前段階として,日常の授業を通して様々な基本的な知識や技能が必要である。音読に十分時間をかけ,発話するための基礎的な練習を日常的に行うことや,スポーツやテレビ番組など,生徒に背景知識(スキーマ)があり,話しやすいテーマで,実際に英語で会話をさせるなどの場面設定をし,自分の思いや考えを英語で表現させる体験をさせておくことが必要である。これらのことは,年度当初から,ある程度意識して授業を行ってきており,本実践ではその成果を期待したいと考える。
 今回は,来日したばかりの新しいALTに,日本人として日本文化について英語で紹介をするという現実的な機会を授業に設ける。自らが,背景知識(スキーマ)をもち, ALTに伝えたいテーマについて,〔調べる→英語にまとめる→プレゼンテーションを行う→ ALTを含む聞き手と英語でのやりとりをする〕という一連の流れの中で生徒が主体的に学ぶことで,研究主題に迫りたいと考える。
 
(2)  授業の手だて
   生徒一人一人の背景知識(スキーマ)を活用したコミュニケーション活動の工夫
     この実践は教科書の題材である紅茶を通して,英国の生活・歴史・文化などについて学習したのち,生徒が背景知識(スキーマ)をもつ自国の文化にも改めて目を向け,それを英語で紹介し,さらにその紹介に関する質疑を通して発展的なコミュニケーション活動へつなげていくという流れをとる。これまでにも生徒たちは,オーストラリアやカナダ出身のALTに自国の文化紹介を受けるという体験をしており,今回はそれを日本人の立場から自らが行うようにする。
   コミュニケーション活動の形態の工夫
    (ア)  グループワークの活用
       授業形態はこれまでも様々な場面で活用してきた6人1組のグループワークの形をとる。グループ内でのブレインストーミング,ディスカッションを通して,各自の背景知識(スキーマ)を活性化し,つながりがもてるようにする。その上で,独自の視点から,日本を象徴すると考えるものを1つ選定し,プレゼンテーションに向けたリサーチに入る。トピックの選定は生徒が行うようにする。
 クラスの全員をコミュニケーション活動に参加させるいう視点から,各グループ6人での役割分担を通して,必ず全員が英語で発話する場を与える。レポートを作成するのは全員の共同作業となるが,プレゼンテーションの段階では発表者2名,さらに内容についての質問に答える生徒2名, そして,シスターグループ(六つのグループをさらに二つずつの三つのペアに分け,互いのグループに必ず質問することを求めた)への質問をする者2名である。それぞれが自分の役割を果たすことで,授業に主体的に加わることを目指すこととする。
    (イ)  プレゼンテーションの準備
       発表時間は3分である。発表するグループの数や質疑,その後のコメントなどに要する時間を考えるとその程度が適当と思われる。発表原稿・配布資料の準備,発表に用いる道具などはすべてグループの裁量とする。
 各グループはトピックについて図書館・インターネットなどを用いて調べ,まず日本文で内容をまとめ,英文に直す。この段階が,現実的な場面で「ライティング」の力を試す絶好の機会となる。表現上難しい部分については質問を受け,ヒントを与えるが,なるべく自らの力でコミュニケーションできたという達成感をもたせたいため,必要以上には手を入れずに発表することを基本とする。
    (ウ)  プレゼンテーション
       各グループの2名が発表原稿に基づいて,アイコンタクトや声の大きさに注意しながら発表する。その際,聞き手が理解しやすいように,実物や説明資料を必要に応じて活用し,グループの他のメンバーが支援する。発表後,ALTから,内容に関して英語による質問を受け,それらに答えていく。聞く側は,シスターグループからは,発表したグループに対して最低二つの質問をすることとし,さらに自主的に質問できた生徒にはインセンティブ(シールなどの簡単な景品)を与えることとし,各グループの発表に対し,積極的に質問をすることを促す。質問に対して答える役割の生徒が英語が出てこなかった場合には,グループ内の他の生徒がサポートしてもよいこととする。
   コミュニケーション能力の評価の工夫
     生徒は,各プレゼンテーションがどの程度理解できたかを4段階で自己評価する。また,発表を聞いて最も興味を覚えたテーマとその理由も書く。さらに,プレゼンテーションの質を向上させるために必要と考える要素と授業についての感想を自由に記述し,英語によるコミュニケーションについて再考できるようにする。
 
(3)  授業の実践
 
題材  Lesson 6 Tea, UNICORN ENGLISH COURSE U
   時間配当 8時間(本時は第8時)
   
 第1時  導入,語彙の整理  
 第2時  読解 (Part 1)  
 第3時  読解 (Part 2)  
 第4時  読解 (Part 3)
 課題設定
 
 第5時  読解 (Part 4)  
 第6時  読解 (Part 5)
約1週間のグループ別
準備期間
 第7時  ALTによるモデルプレゼンテーション
 プレゼンテーションの準備
 第8時(本時)  プレゼンテーション  
   本時の学習
    (ア)  目 標
       生徒が自ら選定したトピックに基づき,グループごとに日本文化について紹介する発表を行い,互いの理解を深める。また互いへの質問を通して, コミュニケーションを創出する。
    (イ)  展 開
     
 
(4)  授業についての考察
   生徒一人一人の背景知識(スキーマ)を活用したコミュニケーション活動の工夫
     最初の発表を例に取ると,まず2人が「団子」について,それが何であるのか,日本文化の中でどのような意味をもっているのかなどについて3分程度で発表した。発表者は本物の団子を持参したり,実際にALTに食べてもらったり,黒板に月見の様子などを示すなどの工夫をし,効果的なプレゼンテーションを心がけた。
 以下順次,各グループが活用した手段を示す。
 大仏 ・・・  大仏の面,大きさを示すための人形,農民の衣装
 金閣寺 ・・・  金閣寺のカラー写真
 日本の玩具 ・・・  メンコとお手玉の実物と遊び方の実演
 ひな祭り ・・・  補助プリント(ひな祭りの歌・日本の祭り),ひな祭りの歌の合唱
 ルーズソックス ・・・  実物のルーズソックスと一般的なハイソックス
 生徒一人一人のもつ背景知識(スキーマ)が,生徒に英語で発表する内容及び現実感をもたせ,一つ一つの発表が個性に満ちた創造的なものとなり,充実したプレゼンテーションとなった。授業で学んだ英語を生かし,自分たちなりに表現した英語が,来日したばかりのALTに日本の紹介をするという,実践的なコミュニケーションの場で通じているという実感を多くの生徒が感じとることができていたようである。その表情から,英語でプレゼンテーションすることに対する興味・関心が高まりつつある様子が十分にうかがえた。ルーズソックスが重要な日本文化かどうかには疑問も残るが,テーマが生徒にとってなじみやすかったため,発表する側の生徒だけでなく,聞いている側の生徒の背景知識(スキーマ)もさらに活性化し,語いが浮かびやすかったり,内容も理解しやすくなったりしたことで,質問も多く,一番充実したコミュニケーションを創出する結果になった。
   
   コミュニケーション活動の形態の工夫
    (ア)  グループワークの活用について
       すべての生徒に授業の中で英語で発話させる機会を作る工夫として,グループの中での役割分担を指示した。どうしても積極的に活動をリードする生徒と,そうでない生徒に分かれてしまう部分はあったが,グループ全員が,自分の役割に責任をもち,英語を話す必要感を感じながら,英語で自分の思いや考えを表現し,コミュニケーション活動の充実につながった。
    (イ)  プレゼンテーションの準備について
       今回の実践においては,自分たちの力でコミュニケーションを成立させることでの達成感を重要視していたために,準備段階での支援は必要最小限度にとどめた。このことにより,与えられた英文ではなく,自分たちの考えや気持ちのこもった英文をもとに発表ができたので, 後述の(ウ)で述べるように,プレゼンテーションを,まさに,実践的なコミュニケーションの場にすることにつながった。
    (ウ)  プレゼンテーションについて
       アイコンタクト,声の大きさ,ジェスチャーなどを課題としておいたが,初めての経験で余裕もなかったせいか,発表原稿を読む感じになりがちであったことは否めない。ALTやシスターグループからの質問に対しては2名が対応したが,質問をきちんと理解し,苦労しながらも,自分が表現しうる範囲の英語で答えること自体が貴重な経験であり,達成感につながり,さらに実践的なコミュニケーション能力を伸ばそうという意欲をもった生徒も,評価カードを見ると多くいた。質問の答えに対してさらに付随的な質問が別の生徒から出るなど,コミュニケーション活動が自然に発展する場面も見られた。
   コミュニケーション能力の評価の工夫
     理解度については,プレゼンテーションの巧拙にも影響されるが,自己評価カードから,各グループの発表内容を7割程度の生徒が理解していた。興味深かった発表という問いに対しては,自分の視点でそれぞれの発表を評価していることがうかがわれ,支持が分散しているのも,生徒一人一人の背景知識(スキーマ)のもち方と関係があると考えられる。発表を向上させるためのポイントとしては,「ゆっくり」「ハッキリ」「アイコンタクト」「自信をもって」「ジェスチャー」などのキーワードを生徒は挙げている。発表を向上させるためのポイントを記入させることを評価カードで求めたことが,生徒のこれらの気付きを引き出すことができた。活動を振り返って見て,良かった部分としては,「英語を話す楽しさを味わえた。」「英語を話さなければならないプレッシャーがよい経験になった。」「達成感が大きい。」「もっと英語を勉強しようという意欲が増した。」など,今後の課題としては,「積極的に参加できなかった。」「準備する時間が短かすぎた。」などであったが,全体的には「またやりたい。」といった肯定的な感想が多く,実践的コミュニケーション能力を育てることにつながる意欲が高まりつつあると考える。
 
(5)  まとめ
   本実践においては,授業内容についての学習・発表を通して,生徒の興味・関心を高め,実践的コミュニケーション能力を育てる学習指導の在り方に迫った。題材の設定もすべて任せたため,生徒はコミュニケーション活動そのものを楽しみ,自分のもたらす情報を本当に必要とする相手に,英語で提供することの達成感を味わうことができた。しかし,さらにこの実践を深化・発展させる余地も多く,今回見えたスキルアップのための課題を解決するために,日常の授業の中で何ができるかについては継続的に取り組んでいかなければならない。発表に対しての答えられなかった質問を,単語が聞き取れなかったのか,質問の内容が理解できなかったのかについてまとめ,それぞれについて改めて応答練習するのも,授業を効果的に振り返るという点で,実践的コミュニケーション能力の育成に大切であると考える。


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