【授業研究3】  高等学校商業「会計」において授業展開を工夫することによる個に応じた学習指導の実践

(1)  授業研究のねらい
   近年,生徒の多様化・個性化が進むなかで,以前にもまして個に応じた指導の必要性が叫ばれている。商業の基礎科目として重要な簿記会計科目は,これまでさまざまな指導内容や指導方法の研究が行われてきた。しかし,これらの科目の授業展開の方法は「知識詰め込み型」の一方的な授業が多く,生徒一人一人が意欲をもって授業にのぞむことが難しい状況になりがちであった。
 そこで,この問題を解決するために,@生徒のレベルに合った学習内容と進度,A少人数化による教師との接触機会の増加,B生徒の自己評価の導入により生徒自身と教師が理解度を把握する,という3つの手だてを考えた。これを生かし,生徒一人一人が興味・関心をもつことのできる授業展開を探る。
 
(2)  授業展開の工夫によって生徒一人一人が意欲的に取り組める授業の手だて
   商業の専門科目は,毎年1年生の1学期終盤でも大きく力の差がついている。それでも検定の期日は決まっているため,授業は進んでいく。従来の,ホームルームを基準とした一斉授業では,教師はなかば強引に全員を達成目標までもっていこうと努力していた。
 その問題点を解決するには,習熟度によるクラス分割が有効ではないかと考えた。理解度の近い者同士が集まることによって,学習内容や進度が合い,生徒のやる気を引き出せるのではないか。また,従来のような画一的な目標でなく,自分の進度に応じて確実に資格を取っていけばよいという方法も,生徒にゆとりを生むのではないか。さらに分割することによって1クラスの人数が元のクラスより少なくなり,より個に応じた学習活動が展開できるのではないかと考えた。
   生徒の理解度に合わせた進度,目標の設定
     入学後ある程度の時期までは同じ内容の授業を行うが,差がついてきたら,理解度が同様な者を同じ授業クラスにするという習熟度別のクラス編成を取る。そして各授業でわからない者がいなくなるまでじっくり学習に取り組ませる。上級のクラスはおのずと進度が早くなり,下級は遅くなる。またそれによって到達目標もそれぞれ異なる。しかし,こうすることによって学習内容が生徒一人一人にとって適切になり,会計嫌いが少なくなり,多くの者が目標に到達しようとする意欲をもつと考える。
   少人数になることによる理解度向上の工夫
     簿記会計は一斉指導の多い授業のように見えるが,実際は理解し,その知識を元に記帳するということを繰り返す,演習を中心とした実技科目に似た性格ももつ。そうであれば,できるだけ少人数のほうがよい結果がもたらせるのは容易に予想がつく。特に理解度の低い生徒は,教師からの教授機会は多ければ多いほどよいと考える。
   評価方法の工夫
     同じ科目を履修していても学習内容が異なるという状況が出てくるので,単純に到達度だけで評価するのは難しい。そこで日ごろの授業での取り組みの状況や,自己評価も評価項目に取り入れてみる。自己評価することによって生徒自身が取り組み方を反省したり,わからない点の把握に役立ち,次のステップへの手助けとなることを期待する。
 
(3)  授業の実践
   生徒の理解度に合わせた進度,目標の設定,少人数になることによる理解度向上の工夫,評価方法の工夫。これら3つの条件を満たす工夫として,習熟度によるクラス分けをした授業展開を実施した。この方法は授業実施の一形態としては知られたものであるが,これまでさまざまな理由であまり積極的に導入されてきていないものである。しかし本校ではこの形態によって得られるメリットを重視し,生徒を伸ばす,生徒をあきらめさせないという目標を掲げて導入し,本年で4年目を迎える。
   本年度3年生の会計の学習状況について
     授業対象は全日制情報会計科3年7組の44名の生徒である。3年次の会計系の基幹科目として「会計」を5単位履修するが,そのクラスを2つに分割する。1年次・2年次と引き続いて分割してきたクラスなので,もとのクラスを基準にした。1・2年次のクラス分割の基準は,学習内容と検定試験の合格状況,教師の判断が主な材料である。3年次は,それに加え本人の進路希望,目標とする資格なども考慮に入れた。
    (ア)  A組は進度が早い。2年次には,全商1級の学習内容を一通り終えている。日商2級既取得者が1名,全商1級既取得者が7名。その他は全商会計のみ取得者が3名,同工業簿記のみが5名。その他は全商1級をチャレンジをするも不合格という生徒で,合計27名が学んでいる。現在の目標資格は,日商1級が1人,日商2級が17人,全商1級が9人で,混在して授業を行っている。
    (イ)  B組は1年で全商の級を1つ受験するという進み具合である。1年次には全商3級を全員が取得。2年次は2級まで学習した。合格者は8名であった。現在は全商1級を目標に,会計分野の学習を進めている。人数は17名である。
   
図1 習熟度別学習の学年進行による分割の仕組みについて
   対象
     今回の授業研究は1クラスを2クラスに分割し同時展開をしているところを対象に行った。以下は特にA組について述べる。
   題材
     第6章 特殊商品売買 総合問題演習
   目標
     特殊な商品の売買に関する取引について理解させ,正確・明瞭に記帳する力を養う。
   教科書・教材
     『会計』一橋出版,『日商簿記検定練習問題集』一橋出版
   
 
(4)  授業の結果と考察
   生徒の理解度に合わせ進度・目標を工夫
    (ア)  今回取り上げた特殊商品売買については,概念で捉えにくい生徒が多いところであるが,一度全商の内容で学習しているので,難しいところだけゆっくり説明することができた。問題演習の時間も取れ,全員がきちんと理解することができた。
    (イ)  通常だと一方的な知識伝達になりがちであったが,教師が発問し,生徒がみな考え,そして答える,という手順を踏んで進めることができ時間を有効に使えた。
    (ウ)  目標が目の前にある資格試験であるということを全員にしっかりと認識させることができ,また確実に課題をこなしていけば無理なく取得できるということを再認識させることができた。
   少人数になることによる理解度向上の工夫
    (ア)  27人と少ない人数であったため机間指導をしても,ひとまわりすれば大体の様子がつかむことができた。また生徒たちも目が届いているという緊張感の中で,問題演習を遅滞なく進めることができた。
    (イ)  質問があった際,個別指導し,更に全体に発問して指導をすることが容易であった。
   評価方法の工夫
     授業1時間だけでは評価については判断が難しいので,目標としていた資格試験の一つ,全商簿記実務検定試験(6月23日実施)後に自分自身の努力の度合い,自己採点による点数評価,今後の目標,会計を将来に生かすかどうかなどについて質問し,教師側からの評価の参考にした。それによると努力をしなかったものはおらず,多くのものがかなりがんばったと答えた。しかし点数から考えると今後さらに努力の必要があると答えたものも多かった。生徒は時に自分に甘い評価をするが,努力不足や力不足は認識しており,また資格取得への強い意欲が感じられた。
  資料1 生徒の自己評価表の例
 
(5)  授業研究の成果と課題
   研究の成果
    (ア)  生徒一人一人が目標をきちんともって授業にのぞむことができた。またそれを達成しようと努力することができた。
    (イ)  最後の生徒が理解するまで質問を受け,全体に対して投げかけることによって,わからないものは理解でき,理解が不十分なものは確実にし,理解しているものは他のものへ教えたりしながら再確認することができた。
    (ウ)  生徒自身が決めた目標設定のため,問題演習にも真剣に取り組み理解が深まった。また資格試験の重要性を生徒自身が認識し,積極的に取り組むことができた。
    (エ)  レベルが同じため臆することなく発言し,的確な質問が目立った。
    (オ)  自己評価を取り入れることにより,生徒が自分自身の力を的確に把握することができた。またそれによって反省し,今後の目標の再確認につながった。
   今後の課題
     今回は習熟度によるクラス分けをした授業が,生徒の理解を深め,興味・関心をもたせるのに有効であることがわかった。資格試験を用いた目標設定が容易な科目での今回の形態は,すぐに他の科目や教科への応用がきくかということに関してはまだまだ研究の余地がある。しかし,小学校の算数や中学校での外国語学習などでも近年導入されているというこの手法は,学校をあげて協力し合い取り組んでいくべきであると思う。
 また自己評価については,生徒によって客観的に自己評価できる生徒とそうでないものがいた。生徒自身の評価をそのまま取り入れるということは難しいが,どうして努力できなかったか,今後どうしたらよいかなどの方針を決めるにあたっての指導資料として大いに役に立った。個人的に話すと生徒はしっかりと自己認識をし,また目標設定もしているので,そういった面からは,点数だけではない評価の方法もあるのだろうと感じた。今回は,その部分も考慮し目標の達成度にかかわらず成績に加味した。
 生徒自身が目標を設定し,そのもてる力に応じて努力したことに対して評価をすれば,生徒自身でPlan−Do−Seeのサイクルが作っていけるだろう。それは,教科学習に限らず,大きな教育効果があると思うので,今後もさらに研究を進めていきたい。
   


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