【授業研究1】  高等学校農業「総合実習」において生徒が自ら興味・関心等を生かし,主体的に学習に取り組むことを通した個に応じた学習指導の実践

(1)  授業研究のねらい
   農業科の「総合実習」は生徒が積極的に体を動かして実習に取り組める科目である。
 そこで,生徒一人一人のよさや可能性を伸ばし,個性を生かす教育の一層の充実を図ることを重視し,生徒の興味・関心等を生かし,主体的に学習に取り組むことを通して,個に応じた学習指導の工夫改善を図る研究を行う。事故がないことを基本に積極的に農業機械に触れ,自らが収穫実習に参加できる授業展開について研究する。
 
(2)  生徒が自ら興味・関心等を生かし,主体的に学習に取り組むための手だて
   分かりやすい授業を行うための個に応じた学習指導の工夫
     内容がよく理解できるようにグループ学習を取り入れる。生徒たちがどんな内容の授業に興味・関心があるのかを考えさせ,主体的に学習に取り組むために話し合いをさせる。生徒たちが住んでいる地域ではどのような農作物が作付されているのか,どのような形で年間栽培されているのか,どのような家族形態で管理されているのか,地域の農業経営について深く考えさせる。また,就農希望者等が将来の農業自営に役立つような内容に配慮する。
   実習をともなう授業を取り入れ,個に応じた授業展開の工夫
     生徒が興味・関心をもつことのできる学習方法を考えると,教師の主導的な授業展開ばかりでなく,生徒が自ら積極的に参加できる生徒主体の授業展開を理想と考える。事前にプリント等や実際に機械に触れさせることにより,農業機械の基本操作を作物専攻生全員が習得できるように個別指導を繰り返す。そして,「けがのない農業実習」を基本として,一人一人の生徒が短時間に成果を出せるようにする。
   評価方法の工夫
     総合実習の授業は「記憶忘れ」を防止するために実習内容を「当日記録」することを基本とする。終了の10分前に「総合実習記録簿」に今日の授業の「まとめと反省」として生徒個々に自己評価させる。その記入内容は,期日,時限,場所,テーマ,学習内容について概要を記入させる。また,「自己評価」を評価項目に取り入れ,授業態度などを含めての反省や理解できていない内容,疑問点を記入し提出させる。提出させた「総合実習記録簿」は,その日のうちに点検し,次時までにコメントを記入し,検印を押して生徒に返却する。教師側からの評価と生徒側からの自己評価を行わせることによって,教師の評価と生徒の自己評価の違いが比較できる。生徒は前時の内容を理解でき,教師側が生徒個々の理解度を把握することができるものと考える。年度末には「総合実習記録簿」を見直し,まとめとする。
 
(3)  授業の実践
   年間指導計画
     3年生農業科の総合実習は4単位で実施している。主にイネ栽培とサツマイモ栽培を中心に展開している。生徒の個性を生かし,生徒が主体的に授業に取り組めることを基本に置き,「いいものを多く」生産できるように指導する。
   
   本時指導計画
     本時では限られた時間内に成果(収穫量,鎌の使い方,コンバインの操作,ワラの結び方・干し方,籾の運搬,けがの防止)を出すことを基本として指導する。生徒にとっての「慣れ」が重大な事故や思いもよらない大きな事故につながる場合がある。特にけがの防止については重点を置き指導する。
   
 
   
 
    資料1 運転装置の働き
 
    資料2 反省と自己評価について
 
(4)  授業の結果と考察
   全員が授業に参加するための工夫
     グループ学習を取り入れることで全員が個々の役割分担に責任をもって取り組めた。
 内容を理解しない生徒には事前指導に時間をかけて指導することで全員が参加できた。
    (ア)  分担制をとることで役割分担がしっかりできた。
    (イ)  機械を授業に取り入れることで興味・関心をもつことができた。
   農業機械の操作に慣れるための工夫
     農業機械を好む生徒と好まない生徒がいる。好む生徒は積極的に理解しようとする。しかし,好まない生徒は自ら積極的に触れようとはしない。慣れれば「誰でも機械の操作はできる」と自信をもたせることができた。
    (ア)  個別指導をすることで機械の運転操作について不安なく取り組むことができた。
    (イ)  前時の事前指導によって不安なく取り組むことができた。
   安全な作業について考えるための工夫
     農業機械の操作には常に便利と危険が兼ね備わっている。操作方法一つを間違えれば大きな事故につながってしまうことが学習できた。
    (ア)  仕業点検の必要性について理解できた。
    (イ)  周囲に対する安全確認の必要性について理解できた。
    (ウ)  コンバインの操作について理解できた。
    (エ)  知識不足や油断と慢心が事故の原因であることが理解できた。
   学習評価の工夫
    (ア)  総合実習記録簿を記入させることで,作業内容の確認や理解ができた。
    (イ)  相互評価により,向上心や集中力を高め,興味・関心をもつことができた。
 
(5)  授業研究の成果と課題
   研究の成果
    (ア)  グループ学習を中心とした「実習のある授業」を展開することにより,「受け身」で学習してきた生徒たちが,「生き生きとした表情」で積極的に参加し,生徒間の協力体制が確立できた。
    (イ)  農業機械を生徒自身が操作することで満足感を与え,機械の操作技術は一段と向上し,作業効率が高まった。また,農業機械の使用には細心の注意をして,正しい操作方法で利用すれば,便利で効率的な作業ができ,生徒に充実感を与えることができた。
    (ウ)  就農志向者に対して,将来の農業経営の省力化,効率化などを考えさせることができ,農業経営に対する意識の高揚にもつながった。農業機械を取り入れることで「勤労意欲とやる気」を育てることができた。自ら率先して農業実習に取り組み,積極的な姿勢が見られるようになり,家庭では「農業の手伝いが増える」など教育的効果が上がった。
    (エ)  自己評価や相互評価を取り入れることで,自分自身の取り組みを反省したり,生徒同士が学び合うという光景がみられた。
   今後の課題
    (ア)  安全な農業機械の操作法についてさらに真剣に生徒に考えさせたい。
    (イ)  農業機械とケガの事例等について研究し,事故の未然防止に役立てたい。
    (ウ)  総合実習記録簿の記入方法,記入内容,記入時間など検討を重ねていきたい。


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