【授業研究1】
   小学校第5学年「伝え方を選んで,ニュースを発信しよう」
 
(1)  授業の構想
   以下に示す三つの視点から,本単元における授業を構想した。
 第一に,小学校解説には,「基礎的な内容を繰り返し学習し確実に言語能力を育成することを重視して,改善を図る」,また,「螺旋的・反復的な繰り返しの学習を基本としている」と述べられている。これらのことから,基礎・基本の定着を図るためには,各領域ごとの各段階におけるねらいを年間指導計画や各単元における学習指導計画に適切に位置付け,繰り返し学習することを意識して指導することが重要であると考えた。
 第二に,本研究における実態調査結果から,児童の「話すこと・聞くこと」に関する目標認識の甘さ,及び,評価を生かして目標を達成しようとする学習意欲の低さをうかがうことができる。そこで,学習目標が児童自身のものとして意識されるように工夫すること,主体的な学習活動を支える評価活動を工夫することが必要であると考えた。
 第三に,本学級の児童の実態として,第5・6学年の「話すこと・聞くこと」における基礎的な学習内容(話の組立て,適切な言葉遣い等)についての理解が不十分であり,個人差が大きいことが挙げられる。そこで,「話すこと・聞くこと」に関する言語能力を高めるための学習指導の工夫,及び,個に応じた学習指導の工夫をする必要があると考えた。具体的な指導の手だては,以下のとおりである。
 
(2)  指導の手だて
   基礎・基本の定着を図るために
    (ア)  年間指導計画,学習指導計画の見直し
 繰り返し学習することを意識した指導をするために,小学校解説の指導事項の位置付けが一覧できるような年間指導計画の形式を工夫し,それをもとに学習指導計画の中に評価計画を設定した。
    (イ)  学習の手引きのカード化
 各単元で学習した技能的内容をカード化し,振り返ることができるようにした。
    (ウ)  構成カードの活用
 一枚一事項とし,構成カードの順番を入れ替えることで話の組立てを考えられるようにした。また,推敲しても,清書し直す必要がないようにした。
   主体的に学習を進めさせるために
    (ア)  学習カード,学習進度チェック表の活用
 学習指導計画に基づいて作成した学習カードには,スタート(課題)とゴール(学習後の変化)の欄を設定し,学習の深まりを児童自身が実感できるようにした。また,各自の学習進度状況に応じて自己評価できるよう,学習進度チェック表を活用した。
    (イ)  学習活動の工夫
 一人一ニュースとし,題材や伝達方法を一人一人選択できるようにした。また,「めざせ!ニュース大賞!!」というゲーム感覚の活動目標を設定した。
   学習に生きる評価活動のために
    (ア)  個人カルテの活用
 上記(ア,(ア))の年間指導計画の形式をそのまま個人カルテとし,評価の累積をもとに一人一人の言語能力を把握し,指導に生かすことができるようにした。
    (イ)  評価表(座席表型の台紙と付箋紙)の活用
 教師の評価(助言や称賛等)を付箋紙に記入し,座席表型の台紙に貼付する。児童が学習に生かすことができる内容のものは,学習カードに貼付し直した。
    (ウ)  自己評価,相互評価活動の工夫(学習カード・聞き取りメモ)
 学習カードにおける自己評価と教師の評価(付箋紙),及び,聞き取りメモによる相互評価をすることで,一人一人が評価を学習に生かすことができるようにした。
   相手意識,目的意識を明らかにさせるための情報カードの活用
 収集した情報の中から必要な情報を選択させるために情報カードを活用した。選択の根拠として相手意識・目的意識をもたせ,自分の考えを振り返らせるようにした。
(3)  学習指導案
   単元名 伝え方を選んで,ニュースを発信しよう
   目標(一部省略)
    (ア)  ニュースの伝え方の工夫に関心をもち,自分の伝えたいことを明らかにしながらニュースを発信しようとする。
      (関心・意欲・態度)
    (イ)  相手に対して,自分の考えや思いが明確に伝わるようにニュースの組立てを工夫し,目的や場に応じた適切な言葉遣いで話すことができる。
      (話すこと・聞くこと)
   指導計画(17時間取り扱い)
   
   本時の学習
    (ア)  目標
 自分の考えが伝わるように,事実と感想,意見との組立て,資料の活用,結論や山場の位置付けなどを効果的に工夫することができる。
    (イ)  展開(本時は,第2次 第7〜10時の1・2時間目)
   
(4)  授業の考察
   基礎・基本の定着を図るには,まず,何が基礎・基本であるかを押さえ,繰り返し学習することを意識して指導に当たることが必要であると考えた。そこで,小学校解説の指導事項の位置付けが一覧できるような年間指導計画の形式を見直し,学習指導計画の中に評価計画を設定した。次に,児童自身にも学習の積み重ねを意識させることが必要であると考え,学習の手引きをカード化し,繰り返し学習するようにした。これらのことにより,年間を通して,学習の連続性を踏まえた学習活動を展開することができるようになった。
 本授業においては,「話の組立てを工夫」することと「適切な言葉遣い」で話すことに重点をおいて指導に当たった。児童の言語能力を高めることができたかについて,学習意欲,評価活動,言語活動の3点から指導の手だてに沿って考察する。
   学習意欲
    (ア)  学習カード,学習進度チェック表の活用
 学習進度チェック表を活用し,学習カードに自己評価して提出するようにしたことで,主体的な学習活動を促し,教師の助言を適時行うことができるようになった。児童の学習状況を把握し,自己評価に合わせて教師の評価(助言や称賛等)を積み重ねていくことは,学習意欲の継続を図る上でも学習の深まりを促す上でも有効であった。
      資料1「学習カードによる児童の自己評価及び教師の評価」と児童の変容
児童の自己評価 教師の評価(助言や称賛等) 児童の変容
  •  事実,感想,意見のちがいが分からなかったけど練習問題と話を聞いて分かった。
  •  みんなに伝えたあとに,賛成や反対が出てくるような文章が意見ですね。
  •  事実,感想,意見の違いを理解した上で組立てを考える姿が見られるようになった。
  •  友達にアドバイスしてもらったところを直すようにしたい。
  •  意見を話す時は,みんなの方を見て話すことができるようにがんばろう。
  •  意見を伝える時には,読んでいた原稿を後ろに持ち替えるといった仕草が見られた。
    (イ)  学習活動の工夫
 一人一ニュースとし,題材や伝達方法を選択できるようにしたことは,興味あるものに取り組むことができるという楽しさと,自分がやらなければ学習が成立しないという意識をもたせることになり,学習意欲を高めることにつながった。また,「ニュース大賞」を目指して,一つ一つの学習内容を達成していくようにしたことは,学習意欲の継続につながった。
 学習意欲を高め,意欲の継続を図り,主体的に学習に取り組ませることができたことは,児童の言語能力を高める土台となったと考える。
   評価活動
    (ア)  個人カルテの活用
 児童一人一人の前単元までにおける基礎的・基本的な内容の定着状況を把握したで,指導に当たることができたことは,個に応じるために有効であった。
    (イ)  評価表(座席表型の台紙と付箋紙)の活用
 児童一人一人の学習状況に応じることができ,付箋紙の貼付状況から意図的な評価をすることもできた。また,座席表型の台紙と付箋紙の活用により,短時間で教師の評価を行うことができるようになった。
    (ウ)  自己評価・相互評価活動の工夫(学習カード・聞き取りメモ)
 評価を学習に生かすという意識を児童にもたせ,評価活動を繰り返したことにより,学習内容の深まりをみることができた。
 評価活動が学習活動になるように工夫し,指導に生きる評価,学習に生きる評価をすることができたことは,一人一人の言語能力を高めることにつながったと考える。
   言語活動
    (ア)  構成カードの活用
 自分が伝えようとする内容を一枚一項として記入することで話のまとまりを意識したり,意見を書く構成カードを別の色にして事実,感想,意見等の区別を記入することで話の組立てを考えたりすることができた。構成カードを入れ替えるという活動を通して,話の順序を実感できたと考える。構成カードを活用し,話す練習を繰り返すことにより,徐々に原稿から離れ,組立てを意識して話す姿や言葉の使い方を工夫する姿が見られるようになった。(資料1参照)
      資料1「児童の構成カード(学習カードでの教師の助言を学習に生かした例)」
    (イ)  録音・録画での振り返り(聞き取りメモ)
 録音・録画を繰り返し,聞き取りメモの観点に従って自己評価・相互評価を繰り返すことで,声量や速度の工夫,意見を述べる際の間や視線等を工夫する姿が見られた。
    (ウ)  情報カードの活用
 情報の選択をさせたことは,相手意識・目的意識をもち,伝えたい自分の考えを明確にすることが必要であるということを意識付けることになった。
 ニュースを正確に伝え,自分の考えを伝えたいという目的の実現に向かい,言語活動をする中で「話の組立てを工夫」しながら,「適切な言葉遣い」で話すことを意識するようになったと考える。


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