【授業研究3】 高等学校第2学年保健体育 自己の体力に応じた運動を工夫し実践することに焦点を当てた「体つくり運動」(体ほぐしの運動,体力を高める運動)の指導
(1)  はじめに
 高等学校では,「体ほぐしの運動」の実践を通して,体を動かすことの楽しさや心地よさを味わわせ,自分や仲間の体や心の状態に気付き,体の調子を整え,仲間との交流を豊かにするような運動経験をさせる。これをもとに,体つくりに対する関心や意欲を高めるとともに,互いに生徒が協力して,ねらいをもって「体つくり運動」に取り組むことで「自ら学ぶ」生徒の育成を目指した。
 また,体力の必要性を理解し生徒の体力の向上を直接のねらいとして行う「体力を高める運動」の合理的な運動の仕方と計画の立て方を学習し,自己に応じた体力の高め方を工夫して実践できるようにすることで,「自ら考える」生徒の育成を目指した。
(2)  生徒の実態
 本校は男子167人,女子486人合計653人であり,男女の生徒数に格差があることから,各担当クラスの授業において種目を選択するうえで制限がでてきてしまう。
 生徒は,体力の低下傾向に対する意識が低く,体力テストの結果から学年が上がるごとに県平均を下回る種目が多くなる傾向がみられる。本校のA・B級の合計は全体の32%であり, 本県の教育プランの目標値であるA・B級で40%を下回っている。
 また,部活動加入率は,男子38%,女子25%であり県平均を上回っている。しかし,運動を積極的に行う生徒が多い反面消極的な生徒もおり,本校でも運動の二極化は否めない。

(平成13年度の体力テストにおいて,県平均より劣る種目)
<全学年>男子・女子…長座体前屈
<1年> 男子 握力,ハンドボール投げ
女子 反復横跳び
<2年> 男子 反復横跳び,ハンドボール投げ
女子 反復横跳び,シャトルラン,ハンドボール投げ
<3年> 男子 握力,反復横跳び,ハンドボール投げ
女子 握力,反復横跳び,シャトルラン,ハンドボール投げ
(3)  主題に迫るための指導の手だて
 自ら学び,自ら考える力を育てるために,次のような手だてを考えた。
 「体ほぐしの運動」を学ばせる手だて
 「体ほぐしの運動」の実践を通して,自分の体力や日頃の生活に応じた課題を見つけ, 「体力を高める運動」や単元の学習活動をより意欲的に行えるきっかけとするために,ゲーム的な要素を持った運動を取り入れ「体ほぐしの運動」への興味・関心を継続していけるように,学習に必要な情報や資料の提示の仕方を工夫する。
 「体力を高める運動」を学ばせる手だて
 体力を高める必要性を理解させ,体力テストの結果をフィードバックし自己の体力の現状を把握させる。次に,トレーニングの原則や心拍数と主観的運動強度の関係,ストレッチング等についての基本を理解させ,運動処方の基礎を学ばせるとともに,PDCAサイクル「Plan(計画)」,「Do(実践)」,「Check(チェック)」,「Action(見直し)」を回し,生涯にわたって計画的に体力の維持・向上ができる態度や実践力を身に付けさせる。
 生徒の自主的な学習活動と教師の支援を結びつける手だて
 生徒の視点と教師の視点をつなげるために,体育の授業に関する調査内容(資料3参照) や個人学習ノートを作成し,「体力を高める運動」の活動内容と単元での学習内容を確認する。また,毎時間の導入では,ポイントを絞って体育理論の内容を提示しながら授業を展開する。

資料3 体育の授業に関する調査内容
体育の授業に関する調査(次の質問に,5段階の尺度で答えて下さい)
@ 自分の体の状態や変化に気づいたことがありますか。 H 体ほぐしの運動の意義と行い方が分かりましたか。
A 体を動かす楽しさや心地よさを味わおうとしましたか。 I 体力を高める運動が身に付きましたか。
B 自ら進んで体力を高めようとしましたか。 J トレーニング理論を理解したうえで,体力を高めることができましたか。
C 仲間と協力してお互いの体の状態に気を配ろうとしましたか。 K 「自分の理想とする体」とはどの様なものですか。
D 安全に留意して運動をしようとしましたか。 L なぜ,そのような体が必要だと感じるのですか。
E 自分の体力や生活の状態を踏まえて,目的にあった運動を選び体力を高めようとしましたか。 M どうすれば「自分の理想とする体」に近づけると思いますか。
F グループや友達と体力を高めるための運動を考えたりしましたか。
G 施設や用具の工夫をしたことはありますか。
(4)  授業の実際(「体つくり運動」を中心に表記した。)
 運動名  「体つくり運動」(体ほぐしの運動,体力を高める運動)
選択制授業(バスケットボール)
 学習のねらい
 いろいろな手軽な運動や律動的な運動を行い,体を動かす楽しさや心地よさを味わうことによって,自分や仲間の体や心の状態に気付き,体の調子を整え,仲間との交流を豊かにする。
 自己の体力に応じた体力の高め方を知るとともに,自ら進んで体力の向上のための運動に取り組み,仲間と協力しながら効果的に体力を高められるようにする。
 学習の道筋と時間配分
(5)  学習活動と支援(体つくり運動を中心に表記した。)
(6)  授業の結果と考察
 「体ほぐしの運動」を学ばせる手だてについて
 体育の授業に関する調査の設問H(図3)より授業前より授業後の方が「あてはまる」,「ややあてはまる」と答えた生徒が増えており,「体ほぐし運動」の意義を理解して実践している生徒が増えているようである。また,「体ほぐし運動」の実施後,明るい雰囲気のなかで単元の学習ができるようになった。


図2 形成的授業評価
 「体力を高める運動」を学ばせる手だてについて
 体育の授業に関する調査の設問I・J(図4,5)より,授業前より授業後の方が「あてはまる」,「ややあてはまる」と答えた生徒が増えており,「体力を高める運動」の意義を理解して実践する生徒が増えたと考えられる。


図3 体ほぐしの運動の意義と行い方が分かりましたか


図4 体力を高める運動が身に付きましたか


図5 トレーニング理論を理解した上で,体力を高められましたか
 生徒の自主的な学習活動と教師の支援を結びつける手だてについて
 「はじめ」の体育の授業に関する調査結果から「理想とする体は?」という設問に「筋肉をつけ,柔らかい体にしたい」と回答し,「なぜ,必要性を感じるか?」という設問には,「体が硬いとけがをしやすいから」と回答した生徒が多かった。「理想とする体」に近づくためには「筋トレ・ストレッチ」と回答した生徒が多かった。
 「なか」の体育の授業に関する調査結果からは,「ツー・メンは最初はつらかったが, だんだん慣れ心拍数が少なくなってきた」「体が柔らかくなった」「少し体力が付いた気がして自信がでてきた」など前向きの感想が得られた。
 また,生徒が,個人学習カードを使用することで自分の体の状態にも気付くことができるようになったり,PDCAサイクルを考えたりすることで「自ら学び,自ら考える」場面を経験することができるようになった。
(7)  授業研究のまとめと今後の課題
 生徒に体力を高める必要性を認識させ,自分の体力や生活に応じて「体つくり運動」(体ほぐしの運動,体力を高める運動)の行い方を工夫して,それを実践できる資質や能力を育てようと試みた結果,次のようなことが明らかになった。
 授業を展開するにあたり,準備運動の後に「体ほぐしの運動」の実践や体育理論の理解, また,ゲームの待ち時間を利用して「体力を高める運動」の実践をすることで,理論と実践のバランスがとれ,「自ら学ぶ」意欲が高まり,積極的に体力を高めようとする態度が見られるようになった。
 実践的に体力の高め方を学ばせるために,体育授業に関する調査や個人学習カード等を利用することで,生徒が「計画」,「実践」,「チェック」,「見直し」を行なったり,運動の課題をもったりすることで,「自ら考える」ことを意識した学習活動が展開されるようになった。
 「体ほぐしの運動」は,今後,小・中学校での学習が進み,高等学校では「ほぐしU」の扱い方が重要になってくるため,より工夫した学習内容が求められる。

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