【授業研究2】 中学校第1学年保健体育 仲間との交流に焦点を当てた「体ほぐしの運動」の指導
(1)  はじめに
 体ほぐしの運動は,@自分や仲間の体や心の状態に気付くA体の調子を整えるB仲間と豊かに交流できることをねらいとしている。体ほぐしの運動は,運動の技能が運動の楽しさを左右するものではないので,運動の苦手な生徒にとっても楽しめる運動であるといえる。また,工夫することによって,より楽しい運動にすることができるため,生徒も意欲的に学習に取り組めると思われる。
 中学校の実践では,仲間との交流に焦点を当てた体ほぐしの運動を行い,体育の好き嫌いを問わず,みんなで楽しく学習することで,自ら運動する意欲が高まるように指導していきたい。さらに,自ら考える力を養うために,既習の運動に自分の力や仲間との協力によって工夫を加え,もっと楽しい運動ができるようになることを目指したい。
(2)  生徒の実態
 明るく元気な生徒が多く,まだまだ幼さの残る中学1年生である。初めて行う種目には, 興味・関心が高く,集合や活動の様子などからも学習に対する意欲が感じられる。また,男女の仲も良く,協力的でなごやかな雰囲気である。運動の得意・不得意にかかわらず,用具の準備・片づけを進んで行う姿や,精一杯運動に取り組む姿が見られる。一方,入学して半年が過ぎ,運動部活動に入っている生徒とそうでない生徒や,男女での運動に対する好みの個人差や体力差が生じてきた。
(3)  主題に迫るための指導の手だて
 体ほぐしの運動を5時間計画にし,「ほぐしT」から「ほぐしU」へとステ−ジ型で授業を実施した。
 「ほぐしT」
  • オリエンテ−ションでは,「体ほぐしの運動」のねらいをカードを用いて説明する。
  • 「体ほぐしの運動」の三つのねらいを達成できる運動を行う。
  • 工夫をすれば,「もっと楽しく」なるような「ほぐしT」の運動を全員で行う。
 「ほぐしU」
  • ほぐしT」の運動の中からもっとやりたい運動を自分で選び,その運動を工夫し,「もっと楽しくできる」ような運動に改善していく。
  • 工夫のポイントとして,「時間」,「人数」,「道具」,「場所」,「ル−ル」などを示し,生徒が工夫しやすいように支援する。
  • より楽しい運動づくりができるように,「考える時間」を確保する。
  • 工夫してつくった運動を互いに見せ合い,その中から楽しそうな運動を選び,全員でで実践してみる。
 学習カードの工夫
 運動のやり方が分かるような欄を設ける。
 自由に書き込める「工夫メモ欄」を設け,こうしたらもっと楽しくなるというアイディアを記録し,ほぐしUで活用できるようにする。
(4)  授業の実際
 指導計画
(ア)  運動名 体つくりの運動(「体ほぐしの運動」)
(イ)  学習のねらい
 自分の体に関心をもち,自分や仲間の体や心の状態に気付き,体を動かす楽しさや心地よさそのものを体験し,体の調子を整えることができる。
 運動を通して,仲間と豊かにかかわることの楽しさを体験する。
 自分の体や心の状態に応じた「体ほぐしの運動」を日常生活の中で活用できるようにする。
(ウ)  学習活動と支援
(5)  授業の結果と考察
 形成的授業評価の推移より
 毎回,授業の終了時に,生徒に授業を振り返らせて調査を実施した。図1より全体的な変容を見ると,授業の回数を重ねるごとに少しずつ評価が高くなっている。ほぐしT(1 〜3時間目)とほぐしU(4・5時間目)を比べると,自分で運動を選び,工夫して運動を行ったほぐしUの方が高い数値を示している。
 学び方についてみると,ほぐしTでは教師の指導で全員で運動を行うのに対し,ほぐしUでは,自分で工夫したい運動を選んだもの同士でグル−プを作って学習した。そのため, 自分達の考えが反映され,楽しい運動をすることができ,その結果高い数値になったものと思われる。また,5時間目は運動の工夫の仕方に慣れてきたこと,道具を用いた運動を行ったことで,さらに評価が高まったと考えられる。



図1 全体の変容のグラフ



図2 質問項目ごとの推移

 図2の質問項目6と7が学び方に関する問いであるが,1時間目は,非常に低い数値であった。いろいろな種類の運動を経験することで,体ほぐしの運動の楽しさに触れ,自分達で工夫し,より楽しい運動にしていくという授業を展開することで徐々に意欲的に学習に取り組めたのではないかと推察される。
 成果
(ア)  ほぐしTとほぐしUの二つの段階に分けたことで,考える時間の確保ができ学習が深まった。ほぐしTの段階で,みんなで同じ運動をすることに楽しさを感じていた生徒は多かったが,ほぐしUの段階で,自分達が考え,もとの運動を自由に変えられることでさらに楽しさが増したようであった。また,ほぐしUでは,自分でどう工夫したら楽しい運動になるかを考え,意見を出し合って運動をつくり上げていくことができた。自ら学び,考えようとする姿を見ることができた。
(イ)  初めて行う学習ということもあり,学習の流れ,運動のやり方,授業の反省の仕方等が分かりやすい学習カ−ドを準備した。こうしたら楽しくなるという工夫を記入する「工夫メモ欄」も活用され,ほぐしUの授業で役に立っていたようである。また,反省を記入することで授業を振り返ることができた。単に自分が運動して楽しいということだけでなく, 体ほぐしのねらいでもある仲間との交流について書く生徒も多かった。
(ウ)  体ほぐしの運動は,運動の好き嫌い,運動技能の有無等によって,左右されない,誰にでも取り組みやすく楽しめる運動である。ほぐしTでは,みんなで和気あいあいと,ほぐしUでは,自分達の力に応じた運動づくりをし,楽しめたように見えた。生徒が意欲的に運動に取り組み,自分達の課題を自分達で解決することができた授業になったように思う。
 今後の課題
(ア)  ほぐしTで行う運動数を増やす。生徒から運動を提案させてもいいのではないか。
(イ)  1時間の中で,ほぐしT→ほぐしUという展開があっても良かったのではないか。生徒の授業に対する満足感,達成感というものを考えた時に,その方が有効なのではないかと考える。

[目次へ]