【授業研究1】 小学校第6学年体育 身体感や運動感,仲間との一体感に焦点を当てた「体ほぐしの運動」の指導
(1)  はじめに
 体ほぐしの運動がねらいとするところは,運動によって体を動かすことの楽しさや心地よさを感じたり,仲間と一緒に運動することで一体感を味わったりすることである。そのような運動を行うことで,心も体も伸びやかにそう快な気分を味わい,自分や仲間の体の状態に気付き,体の調子を整え,仲間と交流することの大切さを学び取れるようにしたい。  心と体が一体になる体ほぐしの運動を行うためには,特にその運動の行い方と指導の在り方が重要となってくる。そのためには,心と体を開放できるような誰もが楽しめる運動で構成し,児童の内面や仲間とのかかわりに重点を置いた指導が求められる。  このことから,体ほぐしの運動の特性は,機能的特性としての欲求の充足(楽しさ)や必要の充足(体力づくり)といった観点とは別に,児童が身体感や運動感,仲間との一体感などを感じ取る運動として,また子どもが自分や仲間の体に気付く運動として理解することができる。
(2)  児童の実態
 本学級は,男子16人,女子15人,計31人である。また,男子6人,女子1人が肥満である。学年始めには,休み時間に元気に外で体を動かす児童と室内で過ごす児童に分かれ,運動の行い方に二極化の一面が見られたが,学級での活動が深まるにつれ,少しずつ外遊びを好む児童が増えてきている。
 診断的授業評価を見ると,四つの次元のうち技能に関する評価が低いが,協力,意欲・関心といった態度にかかわる観点の評価が高い。また,意欲・関心に関する項目の中でも,Q 4「体育では精いっぱい運動することができます」,Q5「体育で体を動かすと,とても気持ちがいいです」などの質問に対しての評価は低い。このことから,みんなで協力して楽しく運動を行っているが,運動に伴う欲求の充足感を味わうことが不十分であることがうかがえる。
 学び方に関する次元については「めあてを持つ」ことの評価は高いが,Q6「体育をしているとき,どうしたら運動がうまくできるかを考えながら勉強しています」などの質問への評価が低い。このことは,めあてを持つことはできるが,その解決をめざした工夫や練習といった活動が不足していることが考えられる。
(3)  主題に迫るための指導の手だて
 自ら学び,自ら考える力を育てるために,次のような手だてを考えた。
 資料集「体ほぐしの運動いろいろ」の作成
 動きが視覚的にとらえやすいよう,図入り資料集にする。
 人とのかかわりに注目し,2人組,グループ,クラス全員などさまざまな学習形態を盛り込みながらも種目を精選し,24の運動を例示する。
 運動の行い方が工夫できるような発展性のある種目を例示する。
 興味・関心が継続していけるよう,ゲーム的な要素をもった運動も例示する。
 学習カードの工夫
 「ほぐしT」で使用する学習カードに「工夫メモ欄」を設け,「ほぐしU」に進むまでにアイディアを記録させていく。そのアイディアに教師が言葉や赤ペンでかかわり,期待感を膨らませる。
 オリエンテーションの工夫
 体ほぐしの運動の行い方について,VTRの資料を用い,視覚的にとらえさせ,興味・関心を持たせる。
 体ほぐしの運動のねらいと意義をしっかり理解させる。
 図入り資料集「体ほぐしの運動いろいろ」を活用する。
 「ほぐしT」から「ほぐしU」へと自分たちで学習を進展させていく学習の流れであることを明確にする。
 教師の積極的なかかわり
 指導者としてのみならず「仲間」として運動に参加し,一体感を味わう。
 よい動きや運動を楽しんでいる児童への言葉かけを継続し,肯定的な雰囲気をつくり出していく。
 学習情報や資料の提示
 興味・関心が継続していけるよう,毎時間「前時の学習の様子」を写真で掲示し,明るい表情の学習が展開されている実感を共有する。
 人とのかかわりを生む多様な学習形態
 1単位時間の中でさまざまな人間関係がつくれるよう,学習形態を変化させる。
  • ペアで協同・補助し合う
  • グループで協同・交流し合う
  • クラス全員で一体感を味わう
 話し合う時間の確保
 「ほぐしU」では学習カードに記録してきた「工夫メモ」をもとに,互いのアイデアを尊重し,共有し,統合し,活動に生かしていく。
(4)  授業の実際
 運動名 体つくり運動(「体ほぐしの運動」単独単元)
 指導観
 「体ほぐしの運動」は,運動そのものを体験的な学習として展開することが求められるので,複雑な学習方法をとらず,いろいろな運動を“やってみる”ことが重要であるとの考えでスタートした。児童にとって単元として学習する「体ほぐしの運動」は,初めての経験であり,「ほぐしT」において“やってみる”ことでいろいろ感じたり,仲間との楽しい運動の体験を共有したりできるようにしたいと考えた。「ほぐしU」では“もっと楽しくやってみよう”と活動を考えたり,応用したりする楽しさが加わることをねらいとした。その過程で,互いの体の状態に気付き,交流を深め自分の生活に取り入れ生かされることを期待したものである。
 学習のねらい
 体ほぐしの運動を行い,気付き,調整,交流のねらいに即した楽しみ方を味わうことができる。
 互いに協力して,運動を行うことができる。
 各種の運動を「もっと楽しく」できるように,工夫して行うことができる。
 学習活動と支援
(5)  授業の結果と考察
 子どもによる形成的授業評価の推移より
 「ほぐしT」(第1時〜第3時)では,教師主導で意図された体ほぐしの運動を行いながらも,『意欲・関心』』,『協力,『成果』の三つの次元共に右上がりに向上をし続けた。教師も仲間として積極的にかかわり,人間関係が心配された個々に対しては,さまざまな学習形態(ペアで協同・グループで協同等)を盛り込みながら,温かい言葉かけで肯定的な雰囲気をつくれたためと思われる。また,「ほぐしU」へと自分たちで学習を進展させていくことを意識させるための「工夫メモ欄」への教師のかかわりが個々のアイディアを肯定的にとらえ「ほぐしU」への期待を膨らませ『意欲・関心』の次元も向上したと思われる。「自ら学ぶ」姿の向上が見られたと言えよう。
 「ほぐしU」(第4時)では,前時からに比べ『学び方』の評価が大きく上昇している。カードに個々にためてきたアイデアをもとに話し合い,共有し,ルールを一つにまとめて, 自分たちで考えた体ほぐしをもっと楽しくやろうという意識が『学び方』次元をも引き上げたと思われる。



図1 形成的授業評価の推移
 診断的・総括的授業評価の変容より
 ほとんどの項目で,態度スコアが向上し, 『学び方』という次元の「工夫して勉強」,「他人を参考」, 「時間外練習」の項目は大きく向上している。カードの「工夫メモ欄」の活用や,見合ったり発表し合う活動を共有する時間を意図的に設けたことが深く関与していると思われる。「自ら考える」姿の向上が見られたと言えよう。
 『技能』の次元では,「運動の有能感」,「できる自信」,「自発的運動」の項目について特に評価が向上している。体ほぐしの運動自体は技能習得や向上を目指したものではないが,仲間と肯定的にかかわりをもち続けたことで, 積極的に授業に取り組むことができ,自信がもてる経験を多く有したためと思われる。
 『協力』の次元では, ゲーム的要素をもった体ほぐしの運動を多く取り入れたことで,ルールをも守ってこそグループで競う楽しさがあることを実感したため,「自分勝手」,「約束ごとを守る」の項目での伸びが見られたものと思われる。

表1 診断的・総括的授業評価
 授業を終えて
 今回の授業における総括的評価では,「できる自信」以外すべての項目において5の評価を得た。「意欲,関心」,「協力」などは「体ほぐし」の本来のねらいであり,これが充足されないと「体ほぐし」ではないともいえるが,このように運動への志向が高まったということは,自ら「体育」という学習を「学ぶ」意欲につながっていくものと考える。また,ねらいは持っても,その達成のための工夫などが足りないという実態があったが,今回の授業で「ほぐし2」が運動の工夫そのものであったため,その「工夫する楽しさ」を味わうことができたといえる。このことが今後の学習においても発展していければと考える。

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