• 3.体育・保健体育科における学習指導に関する実態調査
  •  県内の公立小学校,中学校,県立高等学校の児童生徒及び教師を対象として実態調査を実施した。児童生徒へは,体育・保健体育の授業に対する意識に関する実態を質問紙により調査した。また,教師へは,体ほぐしの運動の指導の実態と体力向上の指導の実態について, 同じく質問紙により調査した。
    (1)  調査の対象
    ア 児童生徒 県内の小学校10校の第5,6学年,中学校12校の第1,2,3学年,高等学校11校の第1,2,3学年からそれぞれ1学級を抽出して行った。回答者数は小学校490人,中学校1,229人,高等学校1,255人の計2,974人である。
    イ 教師 無作為に抽出した県内の小学校100校,中学校100校の体育主任を,高等学校50校からは2人ずつの教科担当者を対象とした。回答者数は小学校99人, 中学校99人,高等学校99人の計297人である。
    (2)  実施時期 平成12年9月2日(土)から9月8日(金)まで
    (3)  調査結果及び分析
     児童生徒を対象とした調査内容と結果については,表1〜5及び図1,2に示し, 教師を対象とした調査内容と結果については,表6〜9に示す。なお,表中の数値は各問ごとの回答者数に対する回答数の割合(%)である。
     児童生徒の実態調査の分析
     児童生徒を対象とした調査では,児童生徒の体育・保健体育科学習への取り組み等を調べ,その現状を明らかにするとともに,授業研究の参考にすることを目的として行った。その結果の概要については次のとおりである。
    (ア)  体育・保健体育の授業に対する児童の実態(表1,図2)
     体育の授業に対する児童の実態を調査するために,「体育の授業は好きですか」という質問をした。その結果を表1に示した。「大好き」,「好き」と回答した児童生徒が,小学校では61.4%,中学校では52.6%,高等学校では54.4%と過半数を越える結果となった。体育の授業に対して,児童生徒は肯定的にとらえていることが分かる。
     次に「どんな体育の授業が好きですか」という質問により,児童生徒がどんな体育の授業を望んでいるかを調査した。その結果を,体育が「大好き」と「好き」と回答した児童生徒を「好き」群,「大嫌い」,「嫌い」と回答した児童生徒を「嫌い」群として比較した。その結果を次頁の図2に示した。
     この結果から,「好き」群の児童生徒は「思い切り体を動かす授業」が最も好きであるということが分かる。また,「嫌い」群の児童生徒は「友達と教え合い仲良く活動できる授業」が最も好きであるとしている。
     つまり,自ら運動に取り組む児童生徒を育成する上では,思い切り体を動かしたり友達とかかわって活動できるような授業の工夫が必要であると考える。
     さらに,学年ごとの推移を見ると,「思い切り体を動かす」が好きと回答した児童生徒は, 小学校が15.9%,中学校が19.3%,高等学校が28.6%となっている。「仲良く活動できる」については,小学校が18.7%,中学校が20.6%,高等学校が25.2%となっている。このことより,小学校,中学校,高等学校と年齢が高くなっても,「思い切り体を動かすことのできる授業」と「人とかかわり合うことのできる授業」の工夫が,より自ら学ぶ力を育成する上で大切な手だてになると考える。

     表1 体育の授業は好きですか(%)
    選 択 肢 全体
    大好き 35.8 20.7 19.5 22.9
    好き 25.6 31.9 34.9 31.9
    ふつう 32.7 38.5 36.9 36.9
    嫌い   4.0   6.7   6.9   6.3
    大嫌い   1.9   2.2   1.8   2.0


    図2 どんな体育の授業が好きですか(%)
    (イ)  自ら考えて授業に取り組む姿勢(表2,3,4)
     体育の授業に対して,自ら考えて授業に取り組んでいるかどうかを,「めあての決定」,「ルールの工夫」,「場の工夫」の三つの観点に絞って質問した。
     学習の「めあて」を自分で考えているかを質問した結果を示したのが表2である。小学校,中学校,高等学校と年齢が上がるに従って,「よく考えている」,「考えている」と回答している児童生徒の割合が下がっている。小学校は,「めあて学習」が中心となって授業が展開されている。それでも調査結果では「よく考えている」と回答しているのは10%しかいない。全体でも「よく考えている」が4.5%と低い。「めあて」をもっと意識させ,めあてが達成できるように,様々な手だてを講じ,児童生徒に考える機会を与える必要があると考える。

     表2 学習のめあてを自分で考えていますか(%)
    選 択 肢 全体
    よく考えている 10.1   3.5   3.0   4.5
    少し考えている 42.9 26.5 13.4 24.8
    どちらともいえない 30.2 37.8 31.9 34.2
    あまり考えていない 12.3 23.1 32.6 24.6
    まったく考えていない   4.5   9.1 19.1 11.9

     表3は,授業の中でゲームのルールを自分なりに考えているかどうか質問した結果を示したものである。小学校,中学校,高等学校と年齢が上がるに従って,「よく考えている」,「考えている」と回答している児童生徒の割合が59.5%,46.2%,39.9%と徐々に低下している。表4は,体育の授業で運動の練習の場を自分なりに工夫しているかどうかを質問した結果を示したものである。「よく工夫している」,「少し工夫している」と回答した児童生徒の割合が,48.8%,33.1%,24.3%と徐々に低下している。表3,表4の数値から,体育の授業の中で,ゲームのルールを考えたり運動の練習の場を工夫することに関心を示さないという児童生徒の実態が明らかとなった。「自ら考える力を育てる」という視点で考えると,授業の中で児童生徒がより考えて運動する機会を,意図的に設けることが重要であると考える。

     表3 ゲームのルールを自分なりに考えていますか(%)
    選 択 肢 全体
    よく考えている 16.9 11.0   9.8 11.6
    少し考えている 42.6 35.2 30.1 34.8
    どちらともいえない 29.1 35.3 35.8 34.4
    あまり考えていない   9.1 14.8 18.0 14.9
    まったく考えていない   2.3   3.7   6.3   4.3

     表4 運動の練習の場を自分で工夫していますか(%)
    選 択 肢 全体
    よく工夫している   9.1   4.8   5.2   5.7
    少し工夫している 39.7 28.3 19.1 27.0
    どちらともいえない 36.6 45.3 47.8 44.7
    あまり工夫していない 11.3 18.0 19.6 17.4
    まったく工夫していない   3.3   3.6   8.3   5.2
    (ウ)  児童生徒の授業後のそう快感について(図3)
     体育の授業後にそう快感を感じているかどうか,児童生徒に「体育の授業後はさわやかな気分になりますか。」と質問した。「とてもさわやかな気分になる」を5点,「全くさわやかな気分にならない」を1点として5段階の間隔尺度を設定し回答を得た。さらに,その結果を校種ごとに「好き群」と「嫌い群」に分けて平均で示したのが図3である。全体としては校種ごとに大きな差はないが「好き群」の平均がどの校種も高い平均値を示している。体育を嫌いと感じている児童生徒にも,そう快感を感じさせられるような内容の運動の実践が重要と考える。


    図3 体育の授業後はさわやかな気分になりますか
        (全体,好き群及び嫌い群の比較)
    (エ)  体育の授業と健康(表5)
     表5は,体育の授業を行うことが健康につながると思うかどうか質問した結果である。「強くそう思う」,「そう思う」と回答した児童生徒は,小学生が78.0%,中学生が72.5%,高校生が78.5%と高い割合を示している。児童生徒は,体育の授業において運動に取り組むことは,自分の健康と密接に関係しているのではないかと感じていることがうかがえる。

     表5 体育の授業を行うことは健康につながると思いますか。(%)
    選 択 肢 全体
    強くそう思う 25.1 19.1 23.5 21.8
    そう思う 52.9 53.4 55.0 53.9
    どちらともいえない 17.1 22.8 16.7 19.6
    そう思わない   2.9   2.7   3.5   3.0
    まったくそう思わない   2.0   2.0   1.3   1.7
     教師の実態調査の分析
    (ア)  「体ほぐしの運動」に関する実態調査
     現在,体ほぐしの運動を実践しているかどうか質問した。小学校では76.0%,中学校では59.6%,高等学校では43.4%,全体でも59.7%の教師がすでに実践しているという回答であった。
     さらに,「実践している」と回答した教員に対し,「体ほぐしの運動」が児童生徒が自ら運動に取り組む手だてとして有効であるかを質問した。その結果を表6に示した。小学校教師の78.0%,中学校教師の56.7%,高等学校教師の57.6%が有効であると回答し,全体でも64.1%の教師が有効であるとしている。今回の研究において「自ら学ぶ力を育てる」学習指導の在り方の中で,体ほぐしの運動を取り上げ,研究成果を学校での教育に還元していくことは,意義あるものと考える。

     表6 「体ほぐしの運動」は自ら運動に取り組む手だてとして有効であると思いますか(%)
    選 択 肢 全体
    有効である 78.0 56.7 57.6 64.1
    有効ではない   2.0   4.0   6.0   4.0
    分からない 20.0 39.3 36.4 31.9

     次に体ほぐしの運動が「有効である」と回答している教師に対し「どうして有効であると思いますか」と質問した。その結果を表7に示した。小学校,中学校,高等学校の全体では「自分の心や体の状態に気付くことができる」が25.7%と最も高く,「心や体をほぐすことができる」が23.2%,「運動が苦手な児童生徒でも取り組める」が15.3%,「友達と心が通い合うことができる」が14.4%という結果であった。この結果から,体ほぐしの運動の実践は, 児童生徒に心や体の状態に気付かせたり,心や体をほぐしたり, 友達と心が通い合うことができることに気付かせたりして,運動の楽しさを味わわせる手だてとして有効ではないかと考えられる。

     表7 どうしてそう思いますか(%)
    選 択 肢 全体
    自分の心や体の状態に気付くことができる 26.9 24.5 25.9 25.7
    友達の心や体の状態に気付くことができる   6.5 10.9   4.6   7.4
    心や体をほぐすことができる 19.4 25.6 25.0 23.2
    ストレスを解消できる   0.9   3.6   6.5   3.7
    友達と心が通い合うことができる 20.4 10.0 13.0 14.4
    運動が苦手な児童生徒でも取り組める 17.6 14.5 13.9 15.3
    運動を好きにさせる要素がある   6.5   5.5   4.6   5.5
    体力が向上する   0.0   0.9   0.9   0.6
    きまりや約束を学ぶことができる   0.9   4.5   5.6   3.9
    その他   0.9   0.0   0.0   0.3
    (イ)  児童生徒の体力を高めるために
     児童生徒の体力を高めるために,どんな点に留意しているか質問した。その結果を表8に示した。小学校の教師の回答で最も多かったのは「個人または集団に課題をもたせる」の23.8%であった。中学校では「一人一人の体力に応じた指導」22.2%であった。高等学校では「高めなければならない体力は何かを分からせる」であり18.6%であった。この数値は,中学校においても19.6%を示している。このことから,中学校と高等学校の体育の授業では,生徒の体力を高めるためには各個人に必要な体力は何であるかを理解させることが大切であると教師が考えていることが分かる。

     表8 体力を高めるために,どんな点に留意していますか(%)
    選 択 肢 全体
    一人一人の体力に応じた指導 22.2 22.2 17.5 20.6
    同じ運動の繰り返しにならないようにする   5.5   5.2   8.8   6.5
    高めなければならない体力は何かを分からせる 10.6 19.6 18.6 16.2
    個人または集団に課題をもたせる 23.8 17.5 16.5 19.3
    自分で計画し実践できるようにする 11.1 19.1 13.9 14.7
    遊びながら高められるような施設や道具を準備する 17.2   5.6   9.8 10.9
    授業の中で時間をとって体力を高める運動をする   7.6   9.8 14.9 10.8
    その他   2.0   1.0   0.0   1.0

     また,児童生徒が自分なりに工夫・改善して実践できるためにどんな手だてを講じているのか質問した。その結果を表9に示した。小学校,中学校,高等学校とも「グループで話し合う時間を設ける」という回答が最も多かった。校種別では,小学校,中学校では「学習カードを用意する」,高等学校では,「個人で考える時間を設ける」という回答が多かった。この結果より,児童生徒が自分なりに工夫・改善して実践できるためには,小学校,中学校では「学習カードの工夫改善」,「グループでの話し合いの仕方の工夫」が手だてとして多く用いられ,高等学校では,「グループでの話し合いの仕方の工夫」と「個人で考える時間の設定」が手だてとして多く用いられていることが分かった。

     表9 児童生徒が自分なりに工夫・改善して実践できるためにどんな手だてを講じていますか(%)
    選 択 肢 全体
    個人で考える時間を設ける 17.4 16.3 28.0 20.3
    グループで話し合う時間を設ける 32.1 30.9 30.3 31.1
    学習カードを用意する 32.7 32.1 15.4 27.1
    掲示資料を用意する 12.6 16.5 14.3 14.5
    特に手だては講じていない   2.6   2.1   9.7   4.7
    その他   2.6   2.1   2.3   2.3
     実態調査のまとめ
     実態調査の結果,次のようなことが分かった。
    (ア)  教師は,「体ほぐしの運動」の実践が,「自ら運動に取り組む手だて」として有効ではないかと考えている。
     その理由としては,「自分の心や体の状態に気付くことができる」,「心や体をほぐすことができる」,「運動が苦手な児童生徒でも取り組める」,「友達と心が通い合うことができる」をあげている。
    (イ)  教師は,児童生徒の体力を高めるために,体育の授業において「一人一人の体力に応じた指導」,「課題をもたせる指導」,「高めなければならない体力は何かを分からせる指導」を心がけている。そして,児童生徒が自分なりに工夫・改善して体力向上に取り組めるように「グループで話し合う時間を設ける」,「学習カードを用意する」,「個人で考える時間を設ける」等の手だてを講じている。
    (ウ)  児童生徒の約過半数は,体育の授業に対して「好き」という肯定的な感情をもっている。そして,「思い切りからだを動かせる授業」,「友達と仲良く活動できる授業」を望んでいる。
    (エ)  児童生徒は,体育の授業の中でめあてをよく考えたり,ゲームのルールをよく工夫したり,練習の場をよく工夫したりすることを余りしていない。
    (オ)  体育の授業後に爽快感を感じるのは,「体育が好き」と感じている児童生徒ほど強く感じることが分かった。また,体育の授業は自分の健康につながると約7割の児童生徒が考えている。

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