【授業研究2】 中学校第1学年「音の性質」における比較・検討の場面を中心に科学的な思考力を育てる指導の工夫
(1)  授業研究のねらい
 理科の学習においては,生徒の主体的な観察,実験などの探究活動を通して,自然の事物・現象のなかに問題を見いだし,事象を実証的,論理的に考えたり分析的,総合的に考察したりして問題を解決することが大切であると考える。特に,中学校理科の第1分野においては,物質やエネルギーに関する事象が比較的容易に再現しやすく,観察や実験などを通して, 巨視的・微視的にみたり,分析的に考えたりするなど,論理的,実証的,数量的に考察し, 問題を解決に取り組むことができる。こうした観察,実験を通して,生徒の事象に対する, 論理的,実証的,数量的な活動や考察を引き出すことができれば,科学的な見方や考え方が育つであろうと考えた。
 本授業研究の中では,「比較・検討」に焦点をあて,教具の開発,コンピュータの活用,主体的に予想や考察,まとめの活動ができるような話し合いの工夫,学習活動の振り返りができるようなワークシートの工夫などを通して,科学的な思考力を育てる理科学習の指導の在り方を究明する。
(2)  科学的な思考力を育てるための手だて
 互いの考えを比較・検討する場面の工夫
 学習活動における比較・検討の場面を次のように考えた。
(ア)  個人と個人の場面
 予想や結果をまとめる場面で話し合いを行う。一人一人のもつ予想や結果をグループとしてまとめるとき,そこには互いの考えの比較・検討の場面が生まれ,多様な考えを知ることができると考える。
(イ)  グループとグループの場面
 グループでまとめた予想やグループで得られた結果を発表する場面での比較・検討を行う。ほかのグループの考えや結果と自分たちのグループのそれとの比較・検討することで,自分たちの考えや結果の正当性を確かめられるとともに,多様な結果を知ることで,規則性,類似性を見出すことができると考える。
 グループ同士で比較・検討がしやすいように,予想や結果を発表する模造紙大の発表シートを準備する。(資料1,2)
資料1 予想発表シート
資料2 結果発表シート
(ウ)  コンピュータの活用した観察の場面
 人の感覚で得られた結果とコンピュータで得られた結果を比較・検討する場面を設定した。本授業研究で扱う事象は「音」であり,聴覚や視覚といった感覚を使った実験では,個人差や曖昧さがでてきてしまう。そこで,コンピュータを使うことで,生徒によっては見えなかったり,聞こえなかったりする事象を具体的に計測することで,実験の客観性が生まれると考える。
 これら比較・検討の場面を様々な問題解決の過程で設定することにより,生徒自身の考えを修正, 変更し,広がりをもたせることができるようになり,生徒はより主体的な思考活動ができるようになると考える。
 自作教具による実験の簡便化
 本授業研究では,糸の長さの違いと音の高低の関係から振動数と音の高低についてとらえる学習活動である。モノコードを使い問題解決するが,市販のモノコードでは,糸の長さの違いについては,とらえにくいところがある。市販のモノコードでは,糸の長さはいわゆる「まくら」の位置の違いであって,糸そのものの長さが違うとはとらえにくいのである。そこで,モノコードを自作し実験に用いた。(資料3,4)
 この特徴は,幅の広い支柱と狭い支柱(資料4)を作り,それに糸をかけるだけで,長さを調節できる点である。また,背面に目盛りを記入したことで,振幅の大小もとらえやすくした。さらに,おもりの重さを変えることで,糸の張りと音の高低の違いについても簡単に実験条件を変えられるところである。
 自作モノコードを使うことにより,実験の操作は2組の支柱に糸をのせ,その音の違いを比較するだけになり,生徒の意識は糸の長さと音の高低に集約できるであろうと考えた。また簡単に反復でき,より比較・検討がしやすいと考えた。

資料3 自作モノコード全体図 資料4 自作モノコード(拡大)
 相互評価,自己評価のできるワークシートの工夫(資料5)
 生徒一人一人が目的意識をもって実験に取り組むためには,観察,実験の方法が具体的にわかり,自分の役割が認識できること,予想と観察,実験の結果を照らし合わせ,考察ができること,互いの活動に対し認めあい次の活動に意欲がもてること,などの工夫が必要であると考える。そこで,そうした工夫によって,観察,実験に対する見通しがもて,評価にも活用できるように補助するワークシートを作成し学習活動に取り入れることにした。

資料5 ワークシート
(3)  授業研究
 授業の導入場面では,既習事項の振幅,振動数について振り返り,本授業が,糸の長さと音の高低について調べながら,音の高低と振動数との関係について追究していくことをつかませた。
 実験の内容を確認する場面では,自作モノコードを使い,糸の長さと音の高低,さらには糸の振動数について,視覚的,聴覚的にとらえること,さらに,コンピュータを使い,振動数を感覚的なとらえから,科学的,数理的にとらえることを確認した。
 予想を立てる場面では, 個人の予想を出し合って比較・検討し,まとめ, さらに予想発表シートに記入することで,ほかのグループの予想と比較・検討する場面を設けた。
 実験の準備の場面では, グループの全員が取り組むよう話し合い,実験内容について分担しあった。
 実験を行う場面では,各自の分担に従って行い,グループの誰もがかかわるように指導した。結果については,ワークシートに文章で表現するとともに,結果発表シートに記入し,ほかのグループとの違いが比較・検討できるようにした。
 まとめの場面では,予想と結果の違いに注目させるとともに,人の感覚でとらえた振動数とコンピュータでとらえた振動数の違いに注目させ,音の高低と振動数の関係について気づくよう考えさせた。

資料6 授業の展開
(4)  授業研究の結果と考察
 互いの考えを比較・検討する場面の工夫
(ア)  個人と個人の場面について
 図1のアンケート結果から,一人一人のもつ予想や結果をまとめるとき,多くの生徒が話し合いに積極的に参加するとともに,他の人の意見を参考にしているのがうかがえた。
 例として,予想の場面において,個人では,糸を長くすると音が高くなり,振動数は増えるとした生徒は,グループの予想では,糸を長くすると音は低くなり,振動数は増える,としている。これは,話し合いを通して自分の考えと他の人の考えを比較検討することで,予想について,修正,変更し,広がりをもたせることができたものと考える。


図1 話し合いの場面についてのアンケート

(イ)  グループとグループの場面について
 図2のアンケートから,多くのグループが,ほかのグループの考えや結果と自分たちのグループのそれとの比較・検討していることがわかる。自分たちの考えや結果の正当性を確かめられるとともに,多くのグループの結果を知ることで,規則性,類似性を見出すことができたと考える。


図2 グループ間の比較・検討のアンケート

(ウ)  コンピュータを活用した振動数の確認について
 右の写真はコンピュータを活用した振動数の計測の場面である。自分たちの目や耳で確かめたときには,「糸を長くすると,音は低くなり振動数は大きくなる(増える)。」としたグループが5グループ(8グループ中)あったのに,コンピュータを使って確かめた後は,「すべてのグループが音は低くなり振動数は小さくなる(減る)。」となった。そしてその理由として多くの生徒が,コンピュータで確かめて振動を表す波の数に注目し結果を出していた。このように,人の感覚でとらえた振動数とコンピュータでとらえた振動数の違いを比較検討し,より客観性のある答えを導き出した生徒の姿が多くみられた。


コンピュータを使って振動数を確認

 自作教具による実験の簡便化
 右の写真は自作ものコードを用いて実験に取り組んでいる場面である。自作モノコードを使うことにより,実験の操作は2組の支柱に糸をのせ,その音の違いを比較するだけとなりになり,生徒の意識は糸の長さと音の高低に集約できたようであった。また簡単に反復でき,より比較・検討がしやすいようであった。


自作モノコードを使った実験

 相互評価,自己評価のできるワークシートの工夫
 観察,実験の具体的な方法や,自分の役割,予想と観察,実験の結果を照らし合わせ, 考察ができる欄,互いの活動に対し認めうための相互評価の欄などをつくったワークシートを作成した。その結果,どのグループも,目的意識,意欲を持って学習活動に取り組めたようである。また,全てのグループにおいて問題の解決ができていた。
(5)  授業研究の成果
 本授業研究の中では,「比較・検討」に焦点をあて,教具の開発,コンピュータの活用,主体的に予想や考察,まとめの活動ができるような話し合いの工夫,学習活動の振り返りができるようなワークシートの工夫を通して,科学的な思考力を育てる理科学習の指導の在り方を究明してきた。その結果以下のような成果が得られた。
 自作教具の開発により,実験を単純化することで,生徒の意識を集約できた。さらに簡単に反復できることで,事象の比較・検討が進み,問題解決に有効であった。
 相互評価,自己評価のできるワークシートの工夫をしたことで,学習活動に見通しがもつことができ,さらに,互いを認めあうことで,次の活動への意欲づけになった。
 互いの考えを比較・検討する場面の工夫では,予想や結果をまとめるときに,個人と個人,あるいはグループ同士の考えを発表しあい比較・検討することで,互いの考えを修正,変更し,広がりをもつことができ,問題に取り組み,解決することができた。

 以上のような成果から,生徒の科学的な思考力を育てることができたと考える。
(6)  今後の課題
 「観察,実験を通し,科学的な思考力を育てる理科学習の指導の在り方」の研究テーマで「音の性質」の単元で授業研究に取り組んだが,次のような課題が残された。
 予想やまとめの根拠(理由)を自分の言葉で表現する力の育成
 生徒の科学的な見方,考え方を客観的に評価する方法の開発

 今後,生徒一人一人に個に応じた指導を展開することを通して,更に研究を深めていきた い。

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