5.授業研究

 研究主題に基づき,指導方法の改善や教材・教具の手だてを講じ,小学校・中学校・高等学校(化学・生物)で四つの授業研究を行った。
【授業研究1】 小学校第6学年「電流のはたらき」における主体的な活動を通して科学的な思考力を育てる指導の在り方
(1)  授業研究のねらい
 理科の学習では,「自ら学び,自ら考える力」を育てるために,自然の事物・現象の変化や働きをその要因と関係付けながら調べ,情報を収集していく活動が大切であると考える。さらに,児童一人一人が問題を見いだし,見いだした問題を多面的に追究する活動を通して, 問題の解決方法を身に付け,科学的な思考力を育てることができると考える。
 そこで,観察,実験などの自然の事物・現象との直接体験が十分できるような教材・教具を工夫し,自然の事物・現象の相互関係や規則性を見いだすことができるようにしたい。また,問題解決の過程や結果を検討するための児童相互での話し合い活動や情報を得られる様々な体験活動などを指導計画に位置付け,科学的な思考力を育てていきたいと考える。
(2)  科学的な思考力を育てるための手だて
 自ら学ぶための情報収集の場を取り入れた単元計画
 「自ら学ぶ」ということは,観察,実験を通して対象から情報を収集することである。事象提示では,児童がこれまでもっていた考えでは説明できない事象に出会ったり,自然の事物・現象を観察する中で,これまでの考えと矛盾する事象に直面したりする場面を工夫することが必要であると考える。そこで,日常生活において電磁石についての認識がほとんどない児童に対して,強力な電磁石や電流により動く装置を提示することで電磁石への興味・関心を高めたい。また,追究場面では,児童一人一人が自由に試みたり,操作したりする活動を位置づけて,問題を発見できるようにし,自らの問題を解決できるよう観察・実験の方法を提示し,対象から情報を集めることができるようにしたい。
 自ら考えるための児童相互の話し合い活動
 「自ら考える」ということは,自ら思考活動を行い,集めた情報を多面的に追究し考えることである。グループや全体での話し合い活動の場を設定することで,児童は友達の考えのよさを取り入れたり,自らの考えを振り返り修正したりしながら科学的な思考力を育てることができると考える。個々の問題解決では見方や考え方の広がりや深まりを期待できない。そこで,児童が自然の事物・現象に接したときの感じ方や疑問,自ら考えた観察,実験の方法,結果や結論などを発表し話し合う中で,多様な見方や考え方に触れ自分の見方や考え方を深める場を設けたい。問題解決の様々な過程に話し合い活動を積極的に位置づけることで,これまでの児童自身の考えを拡大したり,修正したりして学習計画の見直しができるようにする。
 よりよく問題を解決するためのワークシートの工夫
 一連の問題解決の活動において,観察,実験の方法や結果を振り返り,新たに質的に高まった問題解決の活動が展開できるように,ワークシートを工夫する。学習過程における予想や仮説,観察,実験の計画や結果などを照らし合わせたり振り返ったりできるようにする。また,刺激を受けた友達の意見や考えのよさや,それによって変容した自分の考えを繰り返し記入していくことで,問題を解決する能力を高め,科学的な思考力を育てることができると考える。
(3)  授業の実践
 単元名  電流のはたらき
 学習計画(15時間取り扱い)
 導入場面においては,簡易検流計の動きからコイルの存在に気づき,電流には磁力を発生させる働きがあることを描画法を用いてとらえられるようにする。また,強力な電磁石を提示することで問題解決の意欲を喚起することができると考える。
 単元の学習過程の中でコンセプトマップや描画法を用い,電流に対する自分の考えを図や絵で表現することを通して,関心を高め,新たな問題を発見したり考えを深めたりすることができると考える。教師は子どもの考えを把握しやすくなり,支援の方向付けができる。
 追究場面では,自ら考える力を養うために,予想や仮説,構想を検討できる計画づくりや観察,実験を行う場を保障し,児童が問題解決の活動に主体的に取り組めるように支援する。また,観察,実験後は情報交換の場を設け,一人一人の解決過程が相互に関わり,結果や考察の比較や検討を行うことで,科学的な思考力を育てる。そして,ワークシート(資料2)を使用し,自ら考えた観察,実験の方法や結果,考察を記入するとともに,刺激を受けた友達の意見を記入することを通して,自己の見方や考え方の変容を捉えられるようにし,自己評価能力の向上を目指す。特に,共通課題「強力な電磁石を作ってみよう」における個別自由試行の場面では,教師がばねや粘土,マグチップなどを使った電磁力の測定方法を示し,児童自ら選択して実験が主体的に進められるよう支援する。このように適切な測定方法を示すことで,児童は目的意識をもって実験ができ,科学的に調べる能力と態度が育つと考える。

資料1 学習計画


資料2 自己評価能力を高めるワークシート
 本時の学習(情報交換会A,個別自由試行2)
(ア) 目標  学習課題を解決するための計画を話し合う中から,自分の新しい問題を発見したり,計画を練り直したりするなど,問題を多面的に追究できる。
(イ) 準備・資料  ワークシート,ノートパソコン,プロジェクター,スクリーン,実験用具
(ウ) 展開
(4)  授業の結果と考察
 自ら学ぶための主体的な活動
(ア)  導入における事象提示
 導入場面での簡易検流計の提示は,電池を使わずに動く不思議さからコイルを流れる電流のはたらきを解き明かそうとする興味・関心を喚起し,児童に電磁石の存在に気付くことができた。問題解決の際に描画法を用い,電流のはたらきを描き表すことで,一人一人から多様な問いを引き出すことができた。また,強力電磁石の提示は電磁石の性質を調べたり強い電磁石を作りたいという意欲を高めた。

資料3 問題解決の際に用いた描画法
(イ)  自由試行による問題解決
 自由試行の場面では,個々の問題の解決を保障した観察,実験を位置づけることで主体的な問題解決の活動が展開できた。強力な電磁石を作る方法を考える際,教師が適切な電磁力の測定方法を提示した。そのことにより児童は実験によって信頼できるデータを得ることができ,自分の結果を他と比較・検討しやすくなり結論を導くことができたと言える。また,グラフに表して説明している児童も見られ,科学的に調べる態度が身に付いてきたと言える。

資料4 電磁力の測定方法
 児童相互での話し合い活動
 話合いの場面では,デジタルカメラで撮影し,プロジェクターでスクリーンに映されたワークシートの実験計画を見合いながら話し合った。児童は,実験器具についての質問や実験を計画した理由を問う意見に真剣に答えていた。また,調べること以外の条件を変えないで実験することに注意を払い説明していた。話し合いの後,友達から刺激を受けた考えをもとに,自らの実験方法に改善を加えて発表風景実験に取り組んでいった。このように,強力な電磁石を作る方法について,他の児童から自分考えと異なった考えを聞き,自分の考えを確信したり,実験方法について良い考えを取り入れたりして見直すことができた。


発 表 風 景

 ワークシートの活用
 ワークシートに,自らの計画や考察を振り返ることができるよう,「刺激を受けた友達の意見」,「計画の見直し」等の欄を設けたことは,話し合う場面で自らの考えを明確にすることに役だった。また,児童は自分のワークシートの記録を振り返ったり,そこに書かれた実験方法を見せ合ったりしながら話し合いに参加していた。学習が進んでいく中でも前の学習を振り返ることができ,観察,実験の方法,予想,結果を照らし合わせ振り返えることができた。さらに,結果をグラフで表し考えをまとめる児童の姿も見られ,科学的な思考力を育てることができたと言える。
 意識調査より
 調査結果から,「実験で疑問を感じ,その疑問に対し自分の考えをもてた」児童が増加している。このことから,簡易電流計や強力電磁石の提示により児童の関心・意欲を喚起し,描画法によって思考を働かせている様子がうかがえる。また,「実験に目的意識をもって予想し,結果を自分で考えてまとめている」児童も増加している。このことから,ワークシートの活用や話し合い活動等によって実験計画を綿密に立て,他の考えと比較しながら自分の考えを明確化していっていると言える。さらに,結果の考察において,「きまり(規則性)を見つけ,さらに調べたいと思っている」児童が増えている。これは,信頼できる測定結果から明確な結論を導くことができ,きまりを発見しやすくなり,話し合い活動によって,強力な電磁石をつくる方法を結論付けることができたからであると考える。このように,授業後の意識が高まっていることから,科学的な思考力が育っていると言える。

図 授業前後の意識調査
 (前 平成13年9月18日 後 平成13年10月11日実施 第6学年2組25人)
(5)  授業研究の成果
 事象提示では,電磁石への興味・関心を高め,それについての情報を収集することができた。また,追究場面では,自由試行により児童が自ら問題を発見できるようにし,対象から情報を集めることができ,自ら学ぶ力を育成することができた。
 児童相互での話し合い活動を通して,友達の考えのよさを取り入れたり,自らの考えを振り返り修正したりしながら,自ら考える力を育成することができた。
 ワークシートを工夫したことは,一連の問題解決の活動において,観察,実験の方法や結果を振り返ることができ,新たに質的に高まった問題解決の活動が展開できた。
(6)  今後の課題
 身近な素材を用いて科学的な思考力を育てる教材を開発したい。
 児童が問題を見い出し,自ら考え,問題を解決する過程において,互いにかかわり合い,科学的な思考力を伸ばすことのできる話し合い活動を創造したい。

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