(3)  ティーム・ティーチングの在り方について
 特殊教育諸学校の教師がティーム・ティーチングをどのように考えているかを知る目的で「@ティーム・ティーチングの良い点は何だと思いますか。」,「Aティーム・ティーチングの欠点は何だと思いますか。」,「Bティーム・ティーチングを成功させるために重要なことは何だと思いますか。(項目を5つ選択)」という内容で調査した。@,Aについては,それぞれの回答を内容ごとに分類し,項目を立て,主な回答を例示した。下線の文言は,グラフの項目である。
@  ティーム・ティーチングの長所
 教師の高め合い(教師同士が指導力を高め合える。)−−− 61
  • 他の教師の良い指導法が学べる。
  • MTの主観的な指導だけでなくバランスのとれた授業ができる。
  • 新たな指導観,指導方法が発見できる。
  • 教員同士の長所を伸ばしたり欠点を補ったりできる。
  • いろいろな指導法の検討ができる。
  • 生徒への対応や授業の方法など学び合うことが多く,固定観念やマンネリから脱することができる。
  • 指導の行き詰まりをみんなで考えられる。
  • 欠点を補い合いながら授業ができる。
  • 授業について評価し合える。他
 子どもの理解を深められる −−− 56
  • いろいろな視点から子どもを見ることができる。
  • 複数の目で見ていくことによって独りよがりにならずに,多面的に生徒の実態をつかむことができる。
  • 複数の目で子どもの良さ,問題点を見ることができる。
  • 生徒を多面的にとらえ,長所を伸ばすことができる。他
 幅のある対応ができる −−− 16
  • 教員それぞれの特性を生かしつつ,幅広い視点から指導が行える。
  • 生徒への対応の幅が広がる。
  • 教師の個性を生かした対応ができる。(優しい先生,厳しい先生,実技のうまい先生など)
  • 教員の特性の違いが,子どもの個性を掌握する場合,観点の違いとなって幅広く対応できる。
  • それぞれの教師の得意分野を分担できる。他
 指導の向上 −−− 14
  • 障害の重い子の場合,応答や動作訓練等で協力して指導ができる。
  • お互いの支援の不十分なところを補完しあえる。
  • 必要に応じて全体,グループ,個と分けて指導できる。
  • 指導の分担ができる。他
 実態にあった指導ができる −−− 10
  • 集団の学習の中で子どもへの個別の支援ができる。
  • 実態に開きのある子ども達を集団として活動させられる。
  • 多くの生徒に細かな指導ができる。
  • 集団から逸脱した生徒へのスムーズな対応が可能である。
  • 1人では指導しきれない点などを,それぞれの生徒にくまなく接することができる。
  • 生徒の実態に合わせて担当を決められる。他
 多様な活動を実現する −−− 9
  • たくさんのアイディアが集まり授業に創意工夫が感じられる。
  • 教員相互の特性を生かして,多様な活動が行える。他
 大規模な活動を実現する −−− 8
  • ダイナミックな活動ができる。
  • 生徒の人数が少ない学校では,生徒と一緒に活動してもらうことで集団になる。
  • 大勢での楽しさをともに味わうことができる。他
 十分な準備をすることができる −−− 8
  • 一人一人に合わせた教材の準備ができる。
  • 教材教具を分担して作れる。
  • 様々な視点からの教材研究ができる。他
 その他 −−− 7
  • 緊急時の対応ができる。
  • 事務処理等を分担して負担の軽減が図れる。他
 これらを項目ごとに集計した結果を図11に示した。ティーム・ティーチングの長所として,高い数値を示したのは「教師の高め合い(教師同士が指導力を高め合える)」や「子どもの理解を深められる」であった。
 一人の担任による授業では,指導上の悩みをなかなか解決できず手探りで指導を続けることも多いが,ティーム・ティーチングによって一緒に授業をする他の教師の子どもへの指導を見ることができたり,自分が修得していない指導法を目の前で見ることができるなど指導力の向上としての「教師の高め合い」ができることは,ティーム・ティーチングの大きな長所である。また,複数の教師によって多面的な視野から児童生徒等の実態をとらえたり,障害について共にティームを組む教師から教えてもらえることは「子どもの理解を深められる」貴重な場である。
 これまで培ってきた複数教師で担当することのよさを再確認することができた。


図11 ティーム・ティーチングの長所
A  ティーム・ティーチングの欠点
 共通理解の困難 (意志疎通上の困難)−−− 129
  • 時間がとれない。時間がかかる。            (55)
  • 信頼関係ができないと共通理解は持てず授業は失敗する。 (65)
  • 意志の疎通がうまくいかず話し合いがもてない。
  • 他の教員への遠慮などで意見を出せない。
  • 教師間の関係が直接影響する。他
 指導の不統一(共通した理解や対応上の困難)−−− 125
  • 指導法の違いや子供観,教育観の違いがあるとうまく機能しない。
  • 指導目標の不一致が出やすい。
  • 理解を心掛けても難しい。
  • 話し合いをもっても十分に理解し合えない。
  • 人数が多くなるにつれ授業の意図が伝わらなくなる。
  • 自分のカラーが出せない。他
 責任感の薄れ −−− 40
  • 自分がやらなくても誰かがやるだろうと,他人に頼る。
  • 分担の曖昧さがある。
  • 人数が多いと責任を負わない立場ができる。
  • 自分の担当のみを見て授業全体への視点が欠ける。他
 指導力の低下(混乱)−−− 25
  • 複数の教員が主担当として動いてしまい子どもが混乱する。
  • ATが動きすぎると子ども自身による活動が乏しくなる。
  • 副担の面倒まで主担当が見る。
  • 話し合いがないと指導にズレが出てしまう。
  • 5人の教師が居ても2人しか動かなければ十分な指導はできない。
  • 言葉かけが多すぎる。他
 MTの負担増 −−− 11
  • 主担当に任せすぎてしまう。
  • MTにばかり責任がかかってしまう。
 連携の難しさ −−− 5
  • 教員間の連携・協力が難しい
  • 他の教師の顔色をうかがう
  • 1人の教員の影響力が大きい。
  • 主担と副担の考え方が同じだと生徒は辛い。(フォローがなく責められっぱなし)
 関係の希薄化(担任と子どもの関係)−−− 2
  • 課題別などグループを組むと担任している子どもの様子がわからない。
  • 担任の指導観を子どもに十分伝えられない。
 その他 −−− 3
  • 人間関係が悪化する。
  • 難しい。

 欠点についての結果(図12)は,「共通理解の困難」や「指導の不統一」の項目が多かった。「共通理解の困難」の項目は,共通理解のための時間がとりにくいことや時間がかかるという内容と,教師間の信頼関係(良好な人間関係)がないと共通理解の場を設定することも難しいという内容に分けることができた。
 「指導の不統一」は,教育観の違いからや人間関係上の気遣いから率直な意見交換がしにくいこと等によって共通理解が得にくく指導の不統一や一貫性の崩れが起き,うまくティーム・ティーチングが機能しないことを危惧している。こうした要因によって指導力が低下してしまったり,明確な指導目標の認識や役割分担がないため授業はMT任せとなり,責任感が薄れてしまう等の課題がアンケートの結果に明確に表れている。


図12 ティーム・ティーチングの欠点
 しかし,これらの課題は,ティーム・ティーチングという授業技術の機能的な欠点ではなく,教師同士が信頼関係を高めながら,連携を取り合い,児童生徒等の実態・学習目標・指導計画・指導方法を一つ一つ共通理解を積み重ねることで改善できる課題である。今,目の前にいる児童生徒等にどのような支援を行うかが最優先されることであり,共通項を探していくことによって教育観,指導観,指導方法の理念の違いを包括し,教師間の協力・連携による効果的な指導が実現できる。
 共通理解のための時間がとれないという意見も多かった。学級事務,教材作成,諸会議と時間がとりにくいという状況は,改善すべき大きな課題でもある。
B  ティーム・ティーチングを成功させる項目
 ティーム・ティーチングを成功させるため重要なことは何かというアンケートでは,29項目(巻末の資料参照)から5項目を選択した。
 「指導目標の共通理解」の項目が212人と圧倒的に多く,回答者の約57%が選んでいる。類似項目の「個別の目標の共通理解」92人を合わせるとなお高い比率となり,ティーム・ティーチングを成功させるため目標に関して共通理解を持つべきと考えていることが分かる。「役割の分担」と狭い意味の「主と副の役割分担」を合わせると175人であった。「事前事後の打ち合わせ」113人,「臨機応変な対応」98人と続く。注目すべきは,「良い人間関係」96人,「信頼関係」83人,「教員間の相互理解]57人,「協調性」53人,「意志疎通」48人,「教員相互の個性の尊重]21人などを合わせると,358人(アンケート回答者数371人)となり複数項目を選択したことを考慮しても教員同士のチームワークに影響する心情的な項目に対する意識が高いことが分かる。同じ職場で働く同僚という関係だけでは,ティーム・ティーチングによる授業は難しく,いわゆる「息のあった」信頼できる関係の教師がティームを組めばティーム・ティーチングによる良い授業ができる,と考えているとも言える。また,目標の共通理解に比べ,「共通の児童・生徒観」,「情報交換」,「子どもの実態把握」,「発達段階の共通理解」,「障害の共通理解」等は,合わせると268人であり,一つ一つの項目ごとには目立たないが多くの教師が子どもの実態に関する共通理解を心掛けようとしていることも分かる。
 ティーム・ティーチングによる授業を成功させるためには,事前の打ち合わせにおいて,授業全体の目標や児童生徒等一人一人の目標を話し合い,授業の流れの中での役割分担を明確にし,授業場面では共同の授業者としての関係を保ち,児童生徒等の反応に臨機応変な支援をし,事後に児童の様子や授業について振り返る場を設け,共通の授業観,児童生徒観を育んでいくことが共通項といえることを示している。そして,常日頃から児童生徒等のことに関する情報交換を密に行い,個別の指導計画や年間指導計画,学級経営方針,授業案などをティームのメンバーによって共同で検討し,作成していくことがティーム・ティーチングを有効に機能させる鍵と言えることが分かる。


図13 ティーム・ティーチングを成功させるための項目

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