(2)  ティーム・ティーチングの実際について
A  ティーム・ティーチングで気を遣うこと
 整理と分析
 アンケートでは,「複数教員で指導するとき,どんな点に気を遣って指導していますか。」という問いかけを授業の主担当の時と副担当の時と立場を区分して調査した。結果的にはティーム・ティーチングが有効に機能するための配慮点や行いが記されていた。内容ごとに分類し項目をつくり集約したものを以下にまとめた。
 数字は,同様な記述の総数であり,枠内は主な内容である。
(ア)  主担当者(MT)として気を遣うこと
 共通理解(共通理解をもつ,事前の打ち合わせ,略案の提示)−−−122
  • 授業の進め方,児童の見方,授業の目標,個別の目標,指導方法など共通理解を図る。
  • 話し合いながら授業を計画する。
  • 事前の打ち合わせをもつ。
  • 普段から情報交換をしておく。
  • 略案を作成し配付する。他
 役割分担(分担を明確にする,役割を事前に伝える)−−−52
  • 支援して欲しいことを伝える。
  • 子どもの担当を決めておく。
  • 子どもとの相性を考慮する。
  • 教材準備の分担をする。
  • 授業の中での役割を分担する。他
 授業の流れ −−−41
  • 全体を見る。
  • 授業の流れに注意を払う。
  • 時間や指導内容を考慮して全体的に進める。
  • スムーズな流れを作ることに専念する。他
 活動の提示(授業の中で提示,指示の仕方)−−−38
  • みんなが戸惑わないような語り,指示の出し方をする。
  • 活動内容がよく分かるような話し方をする。
  • 副担の先生方が動きやすいよう具体的な説明をする。
  • 子どもと共に教師にも手順が分かるよう指示を出す。他
 気遣い(相手への気遣い,配慮)−−−36
  • 一部の教師に負担がかかっていないか気をつける。
  • 相手の立場を尊重する。副担の役割に必要以上に立ち入らない。
  • 副担の活躍の場を作る。(モデルとして出てもらう−存在のアピール)
  • 役割に偏りがないか,適切な役割があるか配慮する。(疎外感をなくす)
  • 副担に迷惑とならないよう教材を準備する。
  • 副担が戸惑わないような活動内容にする。
  • 児童のみならずATにも楽しく参加できるような気配りと工夫をする。
  • MTの授業ではなくみんなの授業という雰囲気を作る。
  • 話し合って,副担の意見を尊重して,普段から何事も情報を入れる。他
 ATの活用 −−−18
  • 随時ATに指導内容を伝える。
  • 指導に入りやすいように授業の流れの中に指導を分担する場面を作る。
  • サポートが必要なときは躊躇せず声を掛ける。
  • 動きやすいような声かけをする。
  • 世話係ではなく共同の授業者として動いてもらう。他
 個々の目標(個別の目標の達成)−−−14
  • 子どもの様子を観ることに力をおきながら全体を進める。
  • 個別の対応が必要な子どもとそれを支援する教師の動きを見ながら授業を進める。
  • どの子も目にはいるように注意しながら授業する。
  • 全体の動きを把握しながら,個々の指導目標に沿うようにまとめていく。
  • 全体の授業の流れの中で,個別の目標が達成できるように配慮する。他
 全体目標(授業全体の進行)−−−13
  • リード役として主題をはっきりとさせる。
  • MTとしての自覚を持つ。(授業を組み立てる,進行させる)
  • 授業のねらいを明確にしながら進める。他
 ATへの指示(支援を導く)−−−7
  • ATが注目するように声を大きくする。
  • 子どもをしっかり見るよう促す(評価など具体的な課題を出す)。
  • 教師同士の会話を少なくするよう促す。
  • それぞれの教師が動くべき具体的な指導課題を授業の中に盛り込む。他
 子どもの気持ち(授業への集中)−−−3
  • 明確な声で子どもの気持ちがそれないように授業を進める。他
(イ)  アシストティーチャーとして気を遣うこと
 共通理解 −−−65
  • 共通理解のもと一緒に授業を作っていく意識を持つよう心掛ける。
  • ねらいや内容,方法を事前に理解しておく。
  • 求められる役割を理解して授業に望む。
  • 授業のねらいを把握しておく。
  • 略案等に目を通しておく。
  • 自分の役割や指導の内容,方法等についてMTに聞いておく。
  • MTの意図をよく理解する。
  • MTの思いを共通理解しようとする。
  • MTの意向をくみ取る。他
 児童の支援 −−−52
  • 担当の児童の支援にあたる。
  • MTの課題を理解できていない児童に分かるように説明する。
  • 自分の担当する子どもがその時間の課題に向かえるように支援する。
  • 児童の様子を見守る。
  • MTの指示や話を子どもに分かりやすく伝えたり,ポイントになることを押さえる。
  • 共通理解を心掛けながら子ども一人一人を見る。
  • 子どもがつまずいているときタイミング良く支援する。
  • 個々の課題が達成しやすいように支援する。
  • 個々の目標達成のために自分ができることを臨機応変に行う。
  • MTの意図をくんで授業の流れにのりずらい子どもに適切に支援するよう心掛ける。
  • 子どもの動き,表情をMTへ返すようにする。他
 脇役として −−−49
  • 主担当の指導の流れに沿って出過ぎないようにする。
  • 授業の妨げにならないように支援に入る。
  • 主担当より目立たないようにあくまでサポートする。
  • 出しゃばりすぎないように心掛ける。
  • MTの意向に忠実に動く。
  • 口を出さないようにする。
  • じゃまをしない(無駄話を含む)ようにする。他
 MTの意図 −−−47
  • MTの意図を読みとって支援する。
  • MTのねらいを生かすようにする。
  • MTの考えに従って支援する。
  • 指示に従って動く。他
 授業の流れ(やりやすさ,スムーズな流れ) −−−34
  • 授業の状況変化に対応して臨機応変に対応する。
  • MTが授業をやりやすいように協力する。
  • 円滑に授業が進められるように支援する。
  • MTが動きやすいように場の設定をする。
  • 教材を適時適切に提示する。他
 MTへの集中 −−−23
  • MTが授業を進めやすいように子どもを補助して授業に参加させる。
  • 子ども達の注意をMTに向けられるような声かけや援助をする。
  • 子どもが授業にのれるような支援を心掛ける。他
 雰囲気作り −−−19
  • 全体の流れや雰囲気に注意する。
  • MTが指導しやすいように雰囲気作りを支援する。
  • 授業が盛り上がるよう支援する。
  • 子どもの代わりに発言して盛り上げる。
 役割・連携 −−−17
  • MTや教員間の連携に努める。
  • 協力し合う。
  • チームとしての共通の目標を持つよう心掛ける。
  • パートナーとして振る舞うようにする。
  • 役割分担に適切に従う。
  • 役割として教材,教具のスムーズな提示や片づけをする。
 子どもの気持ち −−−4
  • 生徒の意見や考えを尊重ししながら一緒に活動する。
  • 児童への言葉かけが適切か考えながら支援にあたる。
  • 子どもがやろうとする気持ちを大事にする。
  • 生徒の介助をしすぎるのではなく,なるべく生徒の主体的な動きが出てくるように努める。
 ポジション(ATの位置) −−−4
  • ポジションを考える。
  • 全体の中の自分の位置を意識して支援する。
  • MTの位置をとらえ補助に回る。
  • MTが全体を見渡せるよう障害が重度の子を見る。
 その他 −−−8
  • どこで支援して欲しいか考えながら授業に参加する。
  • MTの行動をよく見て大変そうだったら手伝ったりする。
  • 自分のできることは何かを考えて参加する。
  • MTの見えていない,気づいていない部分をサポートする。
  • ねらいへのサイドからのサポートを心掛ける。
  • 緊張感を持って授業に望む。
  • 指導方法等について疑問を感じても話は後にする。
  • 主担当者の指示が全体活動に適しているか見る。
 考察
 アンケートの回答を内容ごとに項目に分け集計した結果をグラフとして図9「T・Tで気を遣うこと(MT)」,図10「T・Tで気を遣うこと(AT)」に示した。MT,AT共に共通理解を持つように心掛けることが最も多く現れた。ティーム・ティーチングにおいては教師間の協力,連携のために,幅広い内容を共通理解しようと心掛けていることが分かる。他の項目は立場によってそれぞれ特徴を表している。
 MTの立場では図9のように,「役割分担」,「授業の流れ」,など授業をリードする責任をもった立場としての項目が多く見られる。更にパートナーであるATが動きやすいように「活動の提示」をしたり,ATが参観者とならないよう「ATの活用」,役割分担が過重な負担とならないよう「気遣う」などの項目が比較的多かった。MTとして授業を成功させるために,目標や授業のねらい,それぞれの役割分担などを事前に打ち合わせを持って授業に臨む姿がうかがわれる。反面,そうした打ち合わせがもてず,授業の中で児童生徒等へ課題を出す形でATにやって欲しいことを伝えたり,望むような支援がされない状況の中でATの適切な協力を得ようと苦慮している授業風景もATの活用やATへの指示の項目から読みとれる。また,ATへの気遣いからは,ティ−ムとして共同で授業を組むという意識が弱く,ATに手伝ってもらってるという感覚があり,教材準備などはMTが一人でやっているという姿も見られた。
 ATの立場では図10のように,授業に臨むにあたり,授業のねらいや個々の児童生徒等の目標,果たすべき支援の内容や役割分担など「共通理解」を持とうとすることが最多であった。そして,積極的に個々の児童生徒等に支援していこうとする「児童の支援」が多く,個に応じた指導への意識の高さがうかがわれる。また,児童生徒等が混乱しないよう授業の中心はMTであることを意識した「脇役として」支援にあたる項目や,学習目標に沿ってMTをサポートする「MTの意図」をくみ取りながら支援にあたる項目も多かった。ATとしてMTが授業をやりやすいよう「授業の流れ」を意識したり,子ども達がMTへ注目するよう働きかけたり,楽しい雰囲気をつくったり,と積極的にMTへ協力する姿が見られる。しかし,授業の場で,MTが何をやろうとしているか,MTが望む補助は何なのか探りながら授業に参加しているという回答もあった。これは,事前の打ち合わせが十分でなく,その授業において何を支援して良いのかわからない状況があるということであり,推測による意に添わない支援はMTにとって迷惑な活動になり授業を混乱させかねない。そのようなことからも,役割分担など事前の共通理解が重要であることがわかった。


図9 T・Tで気を使うこと(MT)


図10 T・Tで気を使うこと(AT)

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