第11 これからの「総合的な学習の時間」の在り方
 
 カリキュラム開発
   各学校が創意工夫を生かした特色ある教育課程を編成し,実施することが求められている。教育課程の基準の大綱化や弾力的な運用を図っていくことを踏まえ,「学習指導要領で示された内容を教科書によって教えておればよいという立場から内容そのものを自ら選択し組織し,提供する」(筑波大学 山口満教授)というカリキュラム開発の視点に立って考えていくことが求められているということである。「総合的な学習の時間」は,まさに各学校が目標及び内容をつくっていかなければならない。
 また,単に「どんな活動をするか」という発想ではなく,児童生徒の学びの姿をとらえていくこと(評価)に視点をあてることから,取り上げる学習活動の目標を踏まえ,どのような資質や能力,態度等を育てるのかという「内容」に迫っていく「総合的な学習の時間」の在り方を考えていきたい。
 今回の研究で作成した「単元構想案」は,「カリキュラム開発」の中でとらえ直していくことで,今後,より工夫された活用ができるものと考える。ここで言う「カリキュラム」とは,学習の計画やその内容,そして実践をも包含したもので,児童生徒の学習活動の枠組みすべてにかかわる広範囲なものを指す。また,「カリキュラム開発」とは,目標,教材,指導法,学習過程,評価の計画と構成を絶えず検討,評価,修正していく過程のことを意味する。
 今回の教育課程の基準の改訂は,完全学校週5日制の実施を前提として,ゆとりの中で「生 きる力」を育てることができる教育課程の編成と実施を求めている。また,そのために教育課程の基準の大綱化や弾力的な運用を図り,創意工夫を生かした特色ある教育活動を展開できるようにすることが「改善のねらい」として示されている。さらに,これからの学校教育に求められる課題は,児童生徒が主体的に学び,自分の考えを持ちそれを的確に表現することができるようにする教育へと質的転換を図ることであり,これらのことは創意工夫を生かし特色ある教育活動を展開することにより実現される。「総合的な学習の時間」も,以上の趣旨を踏まえ創設されたが,新たに各学校が創意工夫を生かした特色ある教育課程を編成し,実施することが求められている。そのためのキーワードが「カリキュラム開発」である。
 以下,「カリキュラム開発」について,「教育展望」(1998.3)所収の筑波大学 山口 満教授の論文をもとに,「カリキュラム開発」あるいは「カリキュラム」の概念について整理しておきたい。
 
 教育課程の基準の大綱化,弾力的運用などを前提として,創意工夫を生かし,個性的な教育課程を編成し,実施するという課題の重視は,当然,学校におけるカリキュラムと教師との関係を変えることになる。それは,端的に言えば,教師がカリキュラムのユーザー(利用者)の立場からメーカー(作成者,開発者)の立場に変わるということである。学習指導要領で示された内容を教科書によって教えておればよいという立場から内容そのものを自ら選択し,組織し,提供するという本来の意味でのカリキュラム開発者,実践者の立場へと変わることが求められている。「カリキュラム開発」という言葉に込められた意味は,具体的には,次のような4つのことを指している。

(1)  「教育課程」という言葉は,実際の授業に先立って作成されるペーパー・プランというイメージでとらえられることが多かった。「カリキュラム開発」で言うところの「カリキュラム」とは,児童生徒の学習を成り立たせている,いわば生きて働いて血となり肉となるような教育内容,即ち機能的に働いている教育内容のことを指している。
(2)  カリキュラムとは,単にコース・オブ・サブジェクトを意味するだけではなく,広くコース・オブ・ライフのことを指している。即ち,顕在的なものと潜在的なものとの両者を含めて,学校において児童生徒がもつところの全ての教育的な経験のことを指している。
(3)  「カリキュラム開発」とは,教育内容についての計画,実施,評価,改善のすべてを含む一連の動的なプロセスを指す概念である。従来の「教育課程の編成」と異なる点は,カリキュラムをA意図された教育内容,A実際に生きて働いている教育内容,B児童生徒の学力の向上という形で結果としてあらわれた教育内容という3つのレベルでとらえた上で,結果から得られた情報をフィードバック情報として絶えずカリキュラム作成者の手元に提供し,次のカリキュラムの編成に役立てることが意図されているというところにある。
(4)  生きて働く機能としてのカリキュラムという考え方に立つカリキュラム開発では,何よりも,学校,教室,授業に基礎を置くカリキュラム開発の進め方を重視する。カリキュラム開発が依って立つべき視座は,個々の学校,教室での授業,そして児童生徒の学習ということである。

 今後の,学校における教育の実践的研究をカリキュラム開発研究を一層重視するという方向へ変えていくことが必要である。(「教育展望」1998.3より)
   ここに指摘された「カリキュラム開発」とは,「計画,実施,評価,改善の一連の動的なプロセス」を指しており,この意味でまさに単元(活動)をどうつくるか,児童生徒の学びの姿をどのようにとらえていくか,また学びをどう成立させていくかの視点とも重なってくるものである。「この学習を通して育てたい,学ばせたいこと」とは何かを踏まえ,目標の設定,活動や内容についての構成や選択,評価計画が立てられる。また,「総合的な学習の時間」の学校としてのカリキュラム(例えば,どんな内容を各学年に配置していくか等)をどうつくるかなど,学校としてのカリキュラム開発にどう取り組むかは,今後の重要な課題である。
 
 学び合いの重視
   総合的な学習の時間」は,課題追究を基本にして進められる。ここに「総合的な学習の時間」ならではの特色がある。そこで,課題追究の過程には様々な活動が入ってくるが,児童生徒の「学び合い」の重視を提言したい。課題追究の過程で,報告,発表,話し合いなどを通して,仲間の考えを聞き,意見の交流をすることによって,自らの学びを深めていくことになるからである。
 「学び合い」とは,児童生徒に学び合う関係をつくりだしていくことでもある。学び合う関係をつくりだすとは,学び合うかかわりをつくっていくということである。
 例えば,「学び合いの重視」という観点から,グループワークを基本とした学習形態を取り入れることで,児童生徒相互のかかわり合いを深め,学び合いの経験を多くすることもできる。あるいは,一人一課題で取り組む場合でも,課題追究の過程で互いに活動を報告したり,意見交換をしたり(相互評価の活動にもなる),中間発表等を設けるなど,児童生徒が互いにかかわり合う場を工夫することで,学び合う関係をつくりだすことができる。
 
 評価の工夫,改善
  (1)  子ども一人一人の学びをつくる(ねらいを踏まえた学習の成立)ための評価
     自ら学びをつくりだしていく評価
       児童生徒による自己評価を中心に据えていく。また,各学習段階の評価の観点を踏まえて,振り返りの観点をわかりやすく具体的に示していく工夫が必要である。「振り返り」では,何をねらいとして,どのように評価していくことかを明確にしておきたい。
       児童生徒自らの学びを深めていくためにも,他者評価(児童生徒相互による評価,教師の評価,地域の方の評価等)を取り入れる。
     学びの成立を確かめる評価
       【学習過程での一人一人の学びを確かめる】
       各学習段階での育てたい力を踏まえ,「ここの学習で育てたい力とは何か,どのような学びが成立したのか」の視点から,一人一人の学びの成立を確かめることである。
       【単元終了時の児童生徒の育ちの姿をとらえる】
       学習終了時には,児童生徒が学習を通してどのような力をつけてきたのか,あるいはどのような自己の生き方について考えるようになってきたのか,一人一人の育ちの姿をとらえていくことが必要である。この評価が,カリキュラムの評価にもつながり改善への視点を見出すことになる。
  (2)  教師自身が指導を振り返り改善していくための評価
     単元構想(カリキュラム)の評価
       目標,活動構想,評価の観点,支援の在り方など,カリキュラム開発の視点から「単元の評価」を行い,改善への視点を整理していく。具体的には,単元構想に学びの事実(履歴)を記入しておくことで,次のよりよい単元構想につなげていきたい。
     教師自身の指導の在り方の評価
       本研究で提示した「単元構想案」を活用して各学習段階の観点を踏まえ,単元の評価(カリキュラム評価)をしていくことは,教師自身の指導を振り返り改善していくことにもつながる。また,教師自身の指導の在り方は,学習全体にかかわることであり,学習を通して育てたい児童生徒像,例えば「こんなことを学んでほしい」「こんな見方,考え方が育ってほしい」という目指すべき育ちの姿を持って指導にあたることが大切である。目指すべき育ちの姿をもっていることで,多少遠回りに見える学びの道筋であっても,児童生徒の学びに沿った展開ができ,カリキュラムの弾力的な運用も可能にするのである。
 下の図は,学習活動と評価との関連を図示したものである。
        図
         「総合的な学習の時間」の評価の特色は,学習の過程にそって評価活動を位置づけていくということにある。また,学習過程の評価では,児童生徒の自己評価,相互評価,教師による評価等と多面的な評価活動が考えられる。さらに,学習カードの活用やポートフォリオ評価の工夫などが挙げられる。こうした一人一人の学びをつくる評価が行われ,単元の評価や改善への視点が導かれてくる。

 評価を考えることは,児童生徒一人一人をより深く理解することであり,一人一人に合った支援の在り方を考えていくことと言える。また,学習活動の中で評価活動をいかに機能させていくかがこれからの実践に向けてのポイントとなる。
 児童生徒と教師との日々のかかわりから生まれる様々な「対話」を大切にし,また学習活動に沿いながら,児童生徒とともに学ぶ姿勢を大切にしていくことによって,評価の材料がたくさん見えてくることも忘れてはならない。

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