第9 まとめ/中学校
 
 平成12年5月に開講した「総合的な学習の時間」研修講座(中学校)での受講者アンケートによると,県内中学校の約76%が今年度より取り組むと答えている(その他の学校では前年度より実施)。また,取り組みにあたっての課題として挙げられたことは,以下の通りである。(複数回答)
   どのように課題をもたせるか ─────── 48.9%  
   年間活動計画の作成 ─────── 40.0%  
   活動をどうつくるか(単元のつくり方) ─────── 39.6%  
   指導体制をどうつくっていくか ─────── 28.9%  
 これらは,まさに活動をどう立ち上げるかという各学校がかかえている課題を示す数字となっている。また,6月の職務研修講座(校長,教頭,教務主任)でのアンケートでは,テーマ設定から課題設定にいたる支援の在り方,時間割の作り方,及び校内での共通理解が不十分といったことが挙げられていた。8月に回収した研究実践校へのアンケートでは,選択教科との関連,学年間の系統性など,さらに具体的な課題が出されている。
 評価については,「まとめの段階で振り返り活動を位置づけている程度」,「明確には位置付けていない」,「未定」を合わせると9割を超える学校が評価の在り方が課題となっている(6月のアンケートより)。今年度の実践を振り返るとともに,今後,評価の具体的な取り組みを進めていくことが課題となる。
 
 実践事例について
  (1)  多様な評価活動
     各学校とも,評価についての「基本的な考え方」をもとに「評価の観点」を設定し,各学習段階に沿って,自己評価や相互評価等についての場の設定や方法に工夫が見られる。また,生徒の評価活動に対してていねいな支援が行われていった様子が見られる。
 生徒の活動に沿いながら振り返りカードを活用したり,発表会では相互評価を取り入れ振り返り活動に生かしている。地域に出ての活動では,協力先の方からも「コメント」をいただいて,自己評価に生かしている実践例も紹介されており,評価の方法についても参考となる事例である。
 さらに,自己評価,相互評価,ポートフォリオ評価を取り入れるなど,多様な評価活動が取り入れられているのも,各事例共通の特色である。
 今後,蓄積されていく評価資料をもとにして,生徒一人一人の学びに着目した評価をさらに進め,指導の改善に生かしていく具体的な取り組みを期待したい。
  (2)   地域に目を向けた実践
     各学校とも,地域に目を向けた実践を取り上げている。また,活動にあたっては共通テーマのもとに生徒が課題を設定し,追究活動に向かうという共通した学習過程が見られる。
 特に,学校共通のテーマを設定して,それを受けた学年ごとの取り組みの事例があるが,今後,学年縦割りでの活動の場をとったり,3年間を見通してどのような活動へと発展していくかなど,興味ある実践例である。また,「トライアルデイ」として,2日間にわたり生徒が地域に出て,調査活動に取り組んだという報告もある。こうした,地域に目を向けたテーマを取り上げることにともなって,生徒が地域に出ていく活動が多くなることから,今後,地域の関係機関等との連携の在り方も重要になってくる。
 さらに,生徒が自分の課題をもって現地調査,体験活動,あるいは地域の公共機関の利用など,学校外に学習の場を広げていく活動へと展開していった事例が報告されている。いずれも,生徒の興味関心を大切にしながら課題づくり,追究活動に取り組んだ実践である。体験活動等を通してどのような課題を生み,それがどのように追究活動につながっていったかという流れで生徒の学びの姿をとらえていくと,ここに一つの単元ができる。単元のつくり方を示す事例としても参考になる。
 今後,生徒が地域に出ての活動が増えていくことを考えるとき,生徒の活動に沿って課題となることは何か,今年度の実践を振り返り整理しておくことが,次年度に生きることになる。
 
 評価の在り方について
  (1)  ポートフォリオ評価の工夫を
     ポートフォリオは,必要な時に生徒が自らの学習を振り返ることができる資料として,またそれを通して自己評価を進めていく上で有効であると考えるが,生徒が自らフィードバックするための活用法の工夫がさらに必要である。なお,その手順には,基本的に以下のような流れが考えられる。
    図
     手順の流れとしては,「集める」「選ぶ」「振り返る」となるが,実際には,集めた資料をもとに学習を振り返り,学習のまとめの段階では,学習全体を振り返りながら必要な資料を選んで,まとめのポートフォリオが作成される。また,ポートフォリオを作成していく過程は,生徒自らの学習の改善や活動の見通しを立てていくことにもなる。作成過程での教師との面談資料として,あるいは教師と語り合いながら振り返ることで,今後の課題や追究方法について,あるいは自分の考えの変化にも気づいていくのである。
  (2)  評価活動をどう定着させていくか
     評価活動の定着のためには,課題追究のしっかりとした取り組みが前提となる。また,生徒にもわかるように評価の観点を示していくことで,教師と生徒が評価の観点を共有していくことができる。これを踏まえ,「ここまでできた,・・ここが課題」というように具体的な助言に生かされたり,生徒自身にとっても観点をもとにして自らの学びを振り返ることができる。また,教師は,「単元構想図」(P.18)で示したように,「育てたい力」や「学習過程における評価」(評価規準)をもとにして,生徒の学びの姿をとらえていくことを通して支援の在り方の改善点も見つけることができる。
 生徒の学びに沿った教師による評価を,どのように生徒に返していくかが,生徒の次の学びに向けた意欲づけとなり,評価活動を定着させていくことになる。
 
 改善への視点について
  (1)  体験活動の位置付けをはっきりと
     総合的な学習は,体験活動を重視するがそれ自体が目的ではない。教師も生徒も何をやるかという活動に目がいきがちになるが,体験活動は生徒の課題意識を高めたり,その後の追究活動につながるなど,学びを深めていく場として位置付けられることが必要である。すなわち,生徒が「何をしたのか」よりも「どのように取り組んだか」の過程こそが重要なのであって,そこでの学びの姿勢や質に目を向けていきたい。
  (2)  「学び方」をどう育てていくか
     「学び方」を重視するという学校としての考え方はかなり出されている。また,各学習段 階で必要とされる学習技能とは何かを明確にしていくことは,適切な支援をしていく上で重要である。
 「学び方」とは,追究する上で何が必要か,どうすればよいのかに気づき,課題の解決への見通しと学習方法を身に付けていくことである。また,そのためには単に体験活動や情緒的な側面にとどまる評価ではなく,生徒が,追究しようとする課題にどう向き合い,学びへの姿勢を強くしていくか。そのための支援の在り方が重要となる。生徒の中に何の課題も生まれていないところで,技能だけを身に付けさせようとするよりも,むしろ,必要性,切実性が高まってきて始めて,必要な資料とは何か,どうすれば調べられるのかという学習が展開される。
  (3)  テーマ,課題の絞り込みを
     学年ごとにテーマを設定して,それを受けて生徒は個々に課題を設定する。こうしたテーマ型の学習の場合,テーマが大きいほど生徒の課題も拡散する傾向がある。例えば,地域に関するテーマを取り上げる場合,「地域の何を追究するのか」について,さらにテーマを絞り込む学習過程を取り入れることで,生徒の課題も焦点化され,追究内容もはっきりとしてくる。例を挙げるなら,「・・について・・なのはどうしてだろう」といった,より焦点化・具体化された課題が設定できる。生徒から出された課題が,そのまま課題となるとは限らない。学習計画表を活用したり,課題設定の目安となる観点を示したり,必要に応じて面談をしたりなど,生徒個々へのかかわり方を大切にしたい。
 また,追究過程の中から新たな課題が生まれて課題の見直しや修正をしたり,課題の設定までには時間がかかる。課題への取り組みが次の新たな課題を生み,次々に追究活動が広がっていくところに,総合的な学習ならではの学びがある。

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