進路研究を柱とする「総合的な学習の時間」の在り方
―自己変革を目指した進路研究と課題研究―
県立日立北高等学校
 主題設定の理由
  (1)  学校と地域と生徒の現状
     工業都市を背景に持つ土地柄から,生徒及びその保護者も進路指導に対して多くの希望と関心とを抱いている。学校自体も創立以来20年,他校に率先して,毎日の課外授業やドリル的学習,さらに模擬試験やサテライト授業等を取り入れ,進路指導に力を入れてきた。生徒は,中学時代の成績では比較的上位に位置する生徒が多くを占め,性格的にも素直な者が多い。本校では,教師の指導に従ってノルマ的学習を実践しているので,ここ4〜5年の進路結果は飛躍的な伸びを見せている。
  (2)  その問題点
     進学態勢作りの急務と生徒の希望をかなえるという教育的配慮から,兎に角,大学(あるいはそれに準ずる機関)に入れるという指導が優先され,本人の適性や長いスパンにおける生徒の自己実現等を考慮する面が,ややなおざりにされてきた経緯がある。生徒たちにも学校側が何とかしてくれるという依存的傾向が目立つ。ドリル的学習の積み重ねによって,受験突破の学力と目的達成の満足感を与えることはできたが,果たして,それだけでよいのかという反省点が,この4〜5年,進学率の伸びと共に教職員間の問題となっている。
  (3)  どのような生徒像を目指したいか
     大学には入れる。しかし,入った後,自分の力で高度な学問を学び,さらにそれを社会で生きるための力とすることができるのか。そこまでの見通しが持てなければ十全な教育とは言えない。どのような生徒を創りあげたいか。進路指導に重点をおいて考えれば,自己の力で自己の進路選択ができる,充分な基礎学力と社会への視点を併せ持つ生徒,受け身でなく主体的に自己の進路を切り開いていく生徒,このような生徒像が浮かんできた。
 
 研究のねらい
  (1)  本校生における「生きる力」とは
     前述のように,進路の選択,決定,実現の諸段階において,本校生は,やや依存的な傾向を見せているが,それを主体的なものへと変えていく力,それを「生きる力」の一番の眼目としたい。そのためには,(a)将来の「なりたい自分」を見据え,(b)具体的な進路先やそれに到る経緯を理解し,(c)広い社会の中で「自己」が占める位置を見極める,ということが必要であると考える。
  (2)  そのために「総合的な学習の時間」をどう生かすか
     上記の(a),(b),(c)をどう育てるか。何よりも教科学習がその基盤であり,優先であるから,それらを横断し,総合する場として「総合的な学習の時間」を考えたい。その時間の学習を通して,真に進路を主体的に選び,実現していく力を養うことができるか。卒業時,あるいは卒業後に,自分は悔いのない進路を選ぶことができ「なりたい自分」になっていると認識できるか,等を,「総合的な学習の時間」を通して研究したい。また,進路選択や学習活動において,受け身的であった生徒たちが,この進路研究を主体に据えた「総合的な学習の時間」を経験することによって,真に主体的な進路選択や学習活動を行い,そのことにより自己実現を図っていくことができるかどうか。それを研究の一番のねらいとしたい。
 
 「評価」の基本的な考え方
  (1)  生徒には次のような自己評価観を最終的に持たせたい。
     3年間を通して,自己の進路希望がどのように変わったか(あるいは変わらなかったか)を自分で把握することができるか。(「早くから進路を決められたので,充分な準備をすることができた。」「3年になってから急に変更することになったが,そのほうがよかった。」等,このように考えられることは,進路の到達度と密接な関係にある。)
     卒業後の具体的な目標(自分のやりたいことも含めて)を見つけることができたか。
     将来にどれだけの見通しを持てるようになったか。(あるいは社会をどれだけ広く見られるようになったか。)
     社会に対する適正な批判力を持てるようになったか。(あるいは気づくようになったか)
  (2)  教師は次のような評価観を持ちたい。
     面談や提出物を通して,生徒が描く将来像に真剣さと具体性が見えるようになったかどうかを確認する観点。
     普段の会話や学習活動等の中に社会性を持った視野の広さが感じられるようになったかをどうかを見極めるる視点。
     学習方法や家庭学習等,生徒に自主的な学習の習慣が身に付いたかどうかを確認する視点。
 
 活動の実際とその考察
  (1)  「総合的な学習の時間」の計画の立案と概要
     「進路研究」の発展
       平成15年度より「総合的な学習の時間」を取り入れるに当たり,「進路研究」をその柱とすることを計画した。これはここ数年来,本校が学年やクラスで独自に取り組んできた「職業調べ」や「学部学科研究」などをより系統的に発展させようというものである。
     「進路研究」の反省
       現3年生は,1年次に「職業調べ」2年次に「学部学科研究」及び「キャンパス見学」3年次に「大学による出張講義参加」というように,進路研究を学年主体で(1年次はクラス独自)で行ってきた。ここに2クラス90名を対象に行ったアンケートでは,46%の生徒が上記の研究を,おおむね「熱心にやった」,44%の生徒がおおむね「役に立った」という感想を述べている。だが,「『進路研究』が自己の進路決定に際して影響を与えたと思うか」という問いには,39%の生徒が「思わない」と答えている。
     「進路研究」のあり方
       上述のアンケート結果において半数前後の生徒にマイナス評価が付いた理由は何か。一つは,系統だった視点がなかったこと,二つ目は,それぞれの場面での評価活動(自己評価,教師評価)を行わなかったことが考えられる。これらの反省を踏まえて,次のような展開を計画した。まず(ア)「進路調査」や「適性検査」などを通して,自己の「進路についての適性と興味を知る」。次に(イ)「保護者や一般の人への調査・研究を通して,職業や職種を生の声で知る」。この段階で教師との個人面談等を通して,自己のおおよその方向性を決めていく。それから(ウ)それぞれの進路実現に向けての「大学・短大の学部学科研究」や「企業や公務員の研究」などを諸々の資料を通して行い,各自のレポートを作成する。さらに(エ)具体的な場への見学・訪問を実施する。ここまでを1つの区切りとし,教師との話し合いやレポートの点検を通して,自己の進路の方向性を吟味する。そして,おおよそ確定した段階で,(オ)「ボランティア活動」「福祉体験」「職場勤労体験(インターンシップ)」等の実践体験に入る。ただし,これは活動・実践を重視するので,自己の進路の細かい方向性とは別のものと考える。こうした,(ア)〜(オ)の段階をそれまでのレポートや活動記録簿から,2〜3ページの小論文としてまとめ,小グループあるいはクラスごとに発表を行っていく。
     「課題研究」への発展
       前述までの活動計画は,現在本校で行っていることを系統化させて発展させたものである。これによって,進路目標実現に到る道筋は把握されると思うが,社会における自分の位置や真に自分がやりたいことを知り,大学等上級の学校に進んでからの主体的学習法を身につけたりするには不十分である。前述までの具体的な「進路調査」をAテーマとするなら,Bテーマとして,自己の興味関心・趣味等を知るために,グループによる「課題研究」を行いたい。
     「課題研究」のあり方
       「生きる力」を養う源泉は「教科教育」であるが,それを横断化し,将来の専門性に結びつける視点を養うため,自主研究を進める「課題研究」講座を設定する。まず,「環境」「国際」「戦争」「歴史」「情報」「観察」「福祉」「健康」「郷土」「芸術」「技術」「制作」「芸能」等の大テーマを20位設定し,オリエンテーションにより,その中味概要を知らせる。生徒は各自の興味・関心により,その大テーマ講座を選び,それぞれの講座ごとに担当教師の概要説明を受ける。担当教師はその大テーマを考えるに当たりどのようなアプローチがあるか,その方法論を紹介・説明し,個人又はグループにそれぞれの小テーマを決めさせる。そこまで決定できた後は,各自の研究に入り,月ごとに1回(輪番で)教師に中間報告を行い,アドバイスを受ける。おおよその研究が進む中で,小論文の書き方の指導を受け,各自,研究レポート,論文,制作品,技能等の完成を目指し,最終的に大テーマごとの発表会を行う。
     二つのテーマの展開方法
       この「進路研究」と「課題研究」の両テーマを3年間(105時間)の中でどのように展開していくか。これには二つの方法が考えられる。「進路研究」を1年次から2年次の前半期にかけて行い,ある程度の進路を見極めた上で自己の進路の方向に向けて「課題研究」を選んでいく。もう一つは,二つのテーマを交互に,そのスパンは3か月とか半年で行っていく。計画としては後者の方法を採ってみたいと考える。その方がより自己の興味・関心が分かり,学習活動を行う上で互いに刺激となって意欲を促すと思うからである。
  (2)  活動計画の実践化(教職員の理解と連携をいかに図るか)
     本校では15年度より「総合的な学習の時間」を取り入れることにしているので,それまでに上記の構想について職員間で理解を図り,さらに新しい視点や構想を加え,実現に向けての具体的な準備に入らなければならない。それに対しておおよそ次のような計画を立てた。
     小委員会での計画 ・・・・・・ 上記(1)の計画を企画・立案する
     職員会議での概要発表 ・・・・・・ 上記(1)の構想を発表し,意見,異論を出してもらう
     小委員会での手直し ・・・・・・ イの参考意見を基に構想の手直しや拡大を計画する
     職員会議での構想設定 ・・・・・・ おおよその構想と計画を決定する
     職員間の役割分担 ・・・・・・ Aテーマを担任主導型,Bテーマを教科主導型とし,学年主任と教科主任とによる合同チームで3年間(105時間)の計画を立てる。特にBテーマについては具体的な講座を決め,担当教員を決定する。
     資料の確保と研修 ・・・・・・ Aテーマの過去の実践資料の整理と確保。Bテーマのそれぞれの研修をスタートさせる。
  (3)  活動計画への考察
     何度も述べてきたように,これは活動以前の構想計画である。学習活動の中味とその実践化は計画としては立案できるが,実際に押し進めていく際にはその動機付けがどうしても必要となる。新課程において必置というだけでは生徒も教師も表面的な取り組みしか出来ないのではないかという懸念がある。そういう意味で,生徒には様々な学習方法の可能性をどう知らせていくか,教師側には本校生徒の真の問題点をどれだけ深く,また共通して認識していけるか,これらの点も計画全体の中に組み込むべき視点であると思われる。
 
 今後の「評価」の在り方と改善への視点
  (1)  生徒の自己評価について
     生徒の自己評価が個々人の単なる思いこみだけによってなされるのなら,それは真の教育活動とは言えない。むしろ,どれだけ客観的な自己評価を行えるかがこの「総合的な学習の時間」の存在意義であろう。本校の計画の中でテーマを二つに分けたのも,この二つが相関関係を持ち,互いに他を評価し合うことができないかという視点からである。Aテーマで選びつつある進路の方向性にBテーマで学習している内容が適不適の判断を少しでも与えることが出来れば,よい意味での自己評価というものになるのではないかと考えたのである。もちろんそう簡単にいくとは思えないが,自己の活動の到達度を知ることは,点数化や偏差値を用いない限り非常に難しいことなので,様々な方法が試されてしかるべきでろう。
  (2)  教師側からの評価について
     まず,明確な教師側の評価観を設定することが生徒への動機付けにもなると思われる。ただ,固定化した評価基準は必ずマンネリ化を招来するだろう。前述したように点数化ではないから,そこを最も警戒しなければならない。計画のスパンごとに評価基準の見直しが必ず行われるようにすることがこの時間を成功させる鍵になると思われる。
  (3)  改善への視点
     全体の構想計画を終えて,最も弱いと思われる点を反省するならば,上述の4の(2)になるだろうか。入学して来る生徒達が小・中学校でどのような「総合的な学習の時間」を経験してきたのか。それを理解せず自分たちの計画を押しつけるだけでは,動機付けとして失敗であろう。高校側にはこの時間の最終的なまとめ(達成)という役割があることを忘れてはなるまい。そのためにどのような意識の改革を行っていくかが最も重要なポイントになっていく筈である。

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