生きる力を育む「総合的な学習の時間」の在り方
―WBLシートを活用した評価の工夫―
総和町立総和中学校
 主題設定の理由
   本校は,古河市に隣接し総和町のほぼ中心に位置している。周りには住宅地と田園地帯が広がっている。生徒は明るく素直であり,与えられた課題や活動に熱心に取り組んでいる。また,行事への取り組みが積極的である。しかし,恵まれた環境の中で,何不自由なく生活し,自分工夫創造する生活体験が少なく,自分で課題を見つけ解決することが苦手な面が見られる。そこで,本校では,今年度から「総合的な学習の時間」を実践するに当たり,生徒の実態,これからの社会の実態(少子高齢化が進むことは避けられないこと),平成10年度よりボランティア推進協力校としての取り組みを通し,「福祉」の目を養っていること等から,「福祉」を学校テーマとして取り組むことにした。「福祉」は英語で「well-being(よりよく生きる)」ということから,「WBL(well-being learning)」と名付けた。様々な福祉に関する体験を通して,福祉とは一人一人がよりよく生きることであることを認識させるとともに,みんなの幸せを考えて行動できる態度を身に付けさせ,また問題解決的な学習を進める中でのWBLシートを活用した自己評価と個に応じた支援により「生きる力」を身に付けさせたく,この主題を設定した。
 
 研究のねらい
   生徒が自ら課題を見つけ,自ら考え,自ら問題を解決できる資質や能力を育てる「総合的な学習の時間」の評価の在り方を究明する。
 生徒が学校のテーマ「福祉」(よりよい生き方,みんなの幸せを追求しよう)から問題意識を持って取り組めるように,学び方を重視し,生徒主体の問題解決的な学習を進める中で支援と評価を工夫する。
 本校で考える育てたい「生きる力」として,次の4点をおさえて進める。
  • 自ら学び,解決する力
  • 主体的に考え,判断する力
  • 地域や社会に貢献しようとする力
  • 自他の幸せを考えて行動できる力
 
 「評価」の基本的な考え方
   「総合的な学習の時間」で育成しようとしているのは,具体的には問題解決能力や学び方,ものの考え方,そして問題の解決や探究活動に主体的に取り組む態度などである。これらは,学習の結果というより学習の過程で育つ能力であり,継続的,系統的な学習の積み重ねによって育つ能力である。そうした能力や態度が身に付いたかどうかは,短期間ではなく,比較的長い期間をかけて,一人一人の生徒の変化,成長の軌跡を追いかけ,とらえるような評価を柱にする必要がある。学習活動の中で生徒の取り組みのよさや気づきを賞賛し,探究活動への励ましや助言等適切な支援をすることが,生徒のやる気や自信を喚起する。そのために,その時間の取り組みについて,生徒自身が「振り返り」をしやすいような学習シートと自己評価(記述式)を作成し,毎時間積み重ねるようにした。 また,学習を進める中で,収集した資料及び,学習シート等総合的な学習の時間の学習のすべてをファイル化(ポートフォリオ)し,いつでもどこでもフィードバックできるようにすることにより,「これまでの自分と今の自分」を比べ,「自己の伸び」が自分でわかるようにしていきたい。
 
 活動の実際とその考察
  (1)  実施時間と方法
     本校では,今年度から「総合的な学習の時間」を「学校裁量の時間」に実施している。「WBL」の時間は全校一斉に,原則として土曜日に2単位時間続きで実施している。
 WBLの時間は生徒と深く関わることができ,生徒たちの普段の学校生活では見ることができない姿を見ることもでき,生徒を多面的に捉えることができている。活動計画はガイダンスの時間に配付してあるので,生徒たちは見通しを持って学習に取り組むことができていた。
  (2)  活動計画(35時間)
    資料@  右が本校で実践しているWBLの活動計画である。
 学習のまとめの段階まで進んできて言えることは,ガイダンス及び課題の発見とテーマ設定の時間をより十分にとることが必要であった。最初の段階で十分に時間をかけて深く考えさせ,テーマを決めさせることが,より深い探究活動につながっていくであろう。
  (3)  評価
     評価の観点
      図 本校では,評価の観点を資料Aのように設定した。
     評価の実際と考察
      (ア)  ガイダンス(資料@)
         学年集会の形で研究主任より「総合的な学習の時間(WBL)」,学校テーマについて説明し,生活の中での「福祉」を考える時間を設定した。この活動により生徒たちの様々な意見を聞くことができた。
 また,教師からのアドバイス,賞賛等を記入し,返すことで生徒の学習への意欲が高まった。
      (イ)  課題の発見・学習テーマの設定(資料C)
         学級ごとに担任から福祉の概要について説明し,福祉について学習シートにまとめる時間と,自分たちのテーマを決める時間を4時間で行った。自己評価欄を見ると,「いろいろ調べていきたい」から「このテーマを追求していきたい」に自分の気持ちの中ではっきりとした意志が表れてきている。アドバイスの記入で次時への意欲の持続につながった。しかし,面談等を実施し,時間をかけて考えさせた方が,生徒たちのテーマがより深まり,その後の活動もよりスムーズにできたであろう。
      (ウ)  学習計画
         自己課題を決定し,解決方法を予想し,学習計画を立てさせた。どの学級でも,試行錯誤をしながらも教師の支援を受けて立案することができた。具体的な活動計画については教師の支援,十分な時間の確保がより必要である。
      (エ)  課題追求 (資料BC)
         課題追求の段階では,資料Bの学習シートを毎回活用した。今日の課題を決め,活動内容を確認し,活動に入るようにさせた。活動後には,次時の確認と今日の学習を振り返らせ,自己評価の記述を必ず行った。これにより,生徒たちは自分の活動がはっきりわかり,一生懸命取り組むことができていた。また,教師のアドバイス記入が次時の活動へのヒントと意欲付けになったまた,資料Cのように学級通信を活用し「WBL」の活動と生徒の「思い」の変化を生徒に返すと共に家庭にも知らせることで保護者からの評価も得ることができた。
      (オ)  中間発表会(資料DE)
        資料D  課題追求が進んだ段階で中間発表会として相互評価できる場を設定した。これまでの活動をグループで模造紙やTPにまとめ様々な方法で意欲的に取り組むことができた。資料Dの学習シートで中間検討をし,自己評価をさせ,資料Eのアドバイスカードで相互評価を行った。
      (カ)  学習発表会 (資料F)
        資料E  中間発表会からあまり時間がなかったが生徒たちは足りなかった部分を補足したり修正を加えたりして,発表会の資料を作成し,精一杯の発表をすることができた。
 グループごとの発表後のまとめ(生徒の自己評価)の記述を見ると,自分たちのこれまでの活動に満足しているものがほとんどであり,福祉が大切であることを体験から学び,活動の意欲も高まってきている。また,学習発表会を保護者に参観していただき,感想・意見を書いてもらった。資料Fはその一部だが,来年度の計画作成に生かすことができる貴重な意見が多くあった。
      (キ)  学習のまとめと評価 (資料G)
        資料F  今後は,発表資料も含めて,自分たちの活動を振り返り,「学習の足跡づくり」としての「WBL新聞」を作成することを計画している。この新聞を作成することによって生徒たちは自分の活動を振り返りながらオリジナルな新聞づくりの活動をしていく予定である。
 
 今後の「評価」の在り方と改善への視点
  (1)  段階ごとの評価観点の明確な設定
     今年度は,指導計画作成と授業実践を平行して進めている状況であり,それぞれの段階での評価について明確な設定ができていないのが現状である。指導計画と合わせて,各段階での基礎・基本,身に付けさせたい力の分析をさらに進め,評価観点を明確にする。
  (2)  評価計画の作成と客観的な評価方法の工夫改善
     各学習段階ごとの評価だけでなく,単位時間の中のどの場面でどのように評価をしていくかについてもより明確にし,評価計画を作成する必要がある。 評価資料としてのポートフォリオの蓄積と整理活用を図っていく。
  (3)   評価の生かし方
     評価は生徒の活動への意欲,さらに新しい課題への広がりにつながるものである。生徒のもつ「知識」が問題解決的な学習や体験活動を通して「知恵」となるようなよりよい変容を求めていきたい。また,指導者として「総合的な学習の時間」で育む能力や態度の分析,構造化を進め,より系統的なカリキュラム開発に生かしていく。

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