問題解決能力を育成する総合的な学習の指導の在り方
―中学校第1学年「発見アサヒ村」におけるポートフォリオ評価の工夫を通して―
旭村立旭中学校
 主題設定の理由
   平成14年度から完全実施される新学習指導要領は,学校週5日制の下,ゆとりの中で一人一人の子どもたちに「生きる力」を育成することを基本的なねらいとしている。このねらいを達成する大きな役割を担うために創設されたのが「総合的な学習の時間」であり,そこでは「自ら課題を見付け,主体的に判断する力の育成」「学び方やものの考え方を身に付け,問題の解決や探究活動に取り組む態度の育成」等が求められている。
 本校の教育目標においても「自ら学び,自ら考えることのできる生徒の育成」「情操豊かで心身ともに健康な生徒の育成」の二つの目標を掲げ,その実現のために教育活動を行っており,自ら学び,学習を深めていく生徒の育成を重視している。
 本校の生徒の実態としては,明るく,素直で,活動的(運動好き)だが,学習態度は受け身がちである。また,総合的な学習に関するアンケートを実施したところ,「課題をもって生活をしている生徒」の割合が84.0%であるのに対して「課題解決のための工夫・努力をしている生徒」の割合が74.7%,「課題解決のための学び方を知っている生徒」の割合が70.0%であった。課題の把握に比べて学習意欲の持続,学び方の習得が十分でないことがうかがえる。
 以上のことから,本校では,問題解決能力の育成をメインとした総合的な学習を進めることとした。特に,評価の在り方についてはテーマと深く結びついているにもかかわらずその研究 は浅く,改善の余地が多くある。つまり「教師が生徒を評価する評価対象が知識の習得に偏った一面的な評価」「評価したことを指導に十分生かしていない評価」では問題解決能力の育成は難しいと考えた。そこで,生徒の自己評価等も加味したポートフォリオ評価を行うようにすれば,問題解決能力が育成でき,学習の自立化が図れると考え,本研究主題を設定した。
 
 研究のねらい
   ポートフォリオ評価を行い,一人一人のよさをとらえ,生徒自身が評価したことを学習活動 に生かすことを通して,問題解決能力を育成する総合的な学習の指導の在り方を究明する。
 
 「評価」の基本的な考え方
  (1)  自己評価の重視
     自己評価の意義と課題
       総合的な学習のねらいの一つは問題解決能力の育成であり,その中には,生徒が自分の追究活動を振り返り,反省し,問題をよりよく解決することができる能力の育成も含まれる。総合的な学習において自己評価を取り入れることは重要なことであると考える。
 しかし,本校において行ってきた自己評価は教師が行う評価の補助手段として行われることが多く,評価項目も教師が一方的に作ることが多かった。また,生徒の自己評価に対する規準が甘くなりがちで,実態とかけ離れた評価をする生徒も少なくなかった。
     自己評価の工夫
      表1  生徒が自己評価を適切に行えるようにするためには,生徒自身が自己を評価する規準をしっかりもって,活動を振り返れるようにすることが重要である。そのために右の表1のような工夫が必要だと考える。
  (2)  ポートフォリオ評価の導入
     ポートフォリオ評価とは
       生徒が学習過程で作成・収集した資料等(記録したノート・作品・ワークシート・作文・写真・ビデオなど)を蓄積し,まとめたのものをポートフォリオとよび,それにもとづいて評価することをポートフォリオ評価という。
     総合的な学習におけるポートフォリオ評価の有効性
       次の点からポートフォリオ評価が総合的な学習の評価として有効であると考える。
 一つは,長期的な視点から生徒の学習の様子を追えるので,生徒がなぜそう考えたのか,今後どうしていくのがよいのかといった形成的な情報が得られるなど,一人一人の生徒の学びの姿をより適切に捉えることができる。また,それに基づいて個に応じた指導を行える。二つ目は,ポートフォリオが,自らの学習を振り返り,修正したり,あるいは学習成果を確認し,自信を深めたりするなど,いわば学習のベース基地として機能し,自己教育力につながる自己評価能力を育成することに役立つ。
     ポートフォリオ評価を行うにあたって
       これまで評価は教師が学習の最後に行うことか多かったが,ポートフォリオ評価では学習の過程の段階から,教師だけでなく,児童生徒も評価活動に参画し,その後の学習に評価したことを生かしていくようにすることが大切だと考える。
 
 活動の実際とその考察
  (1)  ガイダンス
     総合的な学習は生徒にとって初めて行う学習であり,どんな学習をするか期待と不安を抱いている。そこで,学習の始めにガイダンスを開催し,総合的な学習とはどのような学習活動を行うのか等,総合的な学習の概要について先進校の活動例をビデオで視聴しながら学年全体で学習した。その際,生徒自身も自分の学習を振り返り,評価できるように総合的な学習のねらいの説明も行った。ガイダンス中の生徒の表情やワークシートに書かれた内容から総合的な学習に対する興味・関心が高まったことがうかがえた。
  (2)  ベース学習
     自ら学ぶ学習ができるようになるためには,その基盤となる学び方が身に付いていなければ自立した学習ができない。本校の生徒の実態を考慮すると問題解決的な学習を行う前に基礎的な学び方について学習を行う必要があると考え,ベース学習と称して学び方についてのを学習する時間を設けた。生徒は,「課題を見つけるには」「発表の仕方」「人に会う−予約とお礼・インタビュー−」等について学習した。学習後,実際に学び方を身に付けることができたのか,例えば,電話のかけ方の場合,取材場面を想定して原稿を書き,友人や教師の前で実演するなどして確認した。和やかな雰囲気の中で生徒同士お互いにアドバイスし合い,何回もやり直しながら取り組み,調べる技能を身に付けることができた。
  (3)  つかむ段階
     「発見アサヒ村−旭村を地域の人に見直してもらおう−」という大きな共通テーマを教師が示し,それをもとに学習問題・学習計画づくりを行なった。問題づくりに際しては,先ず,一人一人の生徒が旭村について知っていることや村に対する思いを(自慢できること,疑問,興味ある事柄…) を振り返る活動をしたのち,担当の教師と対話(生徒が記入したワークシートをもとに評価し,それを踏まえて助言をした)をしながら,自分の調べたいことを絞っていった。その後,調べたいことが共通している生徒同士でグループを編成し,学習問題をつくったり,その解決のための調べ方やまとめ方等まで見通した学習計画をづくりを行ったりした。生徒の多くは追究したいことがらを見付けることができた。しかし,学習問題が「〜について調べる」といった表現が多く,焦点化された学習問題がつくれるよう支援していく必要がある。
  (4)  調べる段階
     生徒が問題として追究したい対象として取り上げたものは,産業(特に農業…メロン),施設,職業,政治,村の様子(自然環境等)等である。生徒は39のグループに分かれて,学習計画にしたがってそれぞれの学習問題に取り組んだ。
 始めは友人や両親など身近な人から情報を聞いたり,心当たりの関係諸機関等から資料を集めたりするなど予備調査的な活動から始め,取材先や取材内容がはっきりした時点で,電話等で取材の予約をとった。実際の取材活動はトライアルデイと称した2日間の調査活動日に行なった。調査活動が早く終わったグループは,まとめの作業を行うなど,全体の学習計画を踏まえた自主的な活動が見られた。
 教師は場面ごとにワークシートを用意した。生徒はワークシートに具体的な活動内容等を記入しながらをそれにもとづいて調査活動を行った。教師はファイリングされたワークシート等を見ながら,グループの活動を把握し,称賛したり,助言したりした。また,時間の関係上,教師が直接指導助言できなかったグループにはポストイットに助言等を書いて生徒のファイルに添付するようにした。生徒もファイルされたワークシートを読み返し,活動を見直したり,確認したりしながら意欲的に取り組んでいた。
  (5)  まとめる段階
    資料4  今回は模造紙にまとめるということで統一し,それを発表の掲示資料とした。掲示資料や発表原稿の作成にあたっては,「学習成果(発見・感動)を相手に分かりやすく伝えられるか」という視点で作品を見直し,教師と対話しながらよりよいものになるよう改善を加えていった。発表会は保護者も参加する中で行った。発表も,村の政治についての要望を村長さんに伝え,受け入れてもらえたという発表,旭村にコンビニが少ない理由を地域の特性から原因を究明した発表,カーネーションづくり名人の発表,村にあった外資系のハイテク工場の発表などユニークな内容もみられた。これは個性的な追究活動が行われた結果の表れだと考られる。感想の中でも,人の生き方に触れた感動,地域を再発見できた喜び,今までの自分の行為を反省し,改めていこうとする気持ち等が述べられていた。自己の生き方についての自覚を深めることができた生徒も多くいた。
 
 今後の「評価」の在り方と改善への視点
  (1)  ポートフォリオ評価をするにあたって,作品分析の検討会を行うなどして,評価の手順や視点を明らかにするようにする。
  (2)  活動場面に応じた自己評価カードを作成・活用し,自分の学習活動を振り返り,次の活動の適切な方向性が見いだせるようにする。その評価項目についても,生徒自身が作る項目を増やしていくなど,自己評価能力の育ちに合わせて自己評価カードを工夫していく。
  (3)  生徒の作品や活動の様子を記録したビデオ等を保管し,次年度の総合的な学習の参考例として活用する。
  (4)  自己評価するにあたって,独りよがりな自己評価にならないように,学習のねらいや自分がかかげた目標,教師の評価,生徒同士の相互評価,保護者や取材先の方からの評価(第三者からの評価)等を踏まえた上で,自己評価するようにする。
  (5)  評価項目の内容を目標や評価の観点に準拠した内容にする。
  (6) 体験的な活動を重視し,生徒の主体的な活動を促すようにするとともに,学習の各段階ごとに自己評価等を行う場面を位置づけるなど,学習の過程における評価を工夫し,次の活動に生かすようにする。

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