自己評価を支える相互評価の在り方
鉾田町立串挽小学校
 主題設定の理由
   本校における「総合的な学習の時間」は,学校テーマを「地域の中の私たち」とし,学習の場を地域に求め,自然・人と触れ合うことにより地域の中で自分を再発見していこうとするものである。そして,この「総合的な学習の時間」をルッキングタイムと称している。
 内容における自分の再発見とは,地域の中で自分の存在に気づき,今の自分にできることは何なのか問い続けていくことと捉えた。この自分への問いかけが,自らの生き方を考えることができる学びにつながっていくものと考えた。それには,他者が見た自分と比較して自分に迫ることが重要である。その中でも,児童が互いに高め合いながら自分に迫ることが効果的であると考え本主題を設定した。
 
 研究のねらい
  (1)  学習過程ごとの評価活動(子どもの思い・願い・評価の観点・評価の方法)を明らかにする。
  (2)  自己評価を支える相互評価の在り方を究明する。
 
 「評価」の基本的な考え方
  (1)  学習過程ごとの評価活動
     学習過程においてどこでどのような評価活動をするのかを明らかにしておくことは活動を高める上で大切なことである。このことにより教師は評価活動に見通しを持ち,自己評価と相互評価をどこで関連させるのか明らかになり,児童により質の高い自己評価を促すことができる。そして,学習過程における児童の思いや願いを知り,適切な支援を行うことができる。
   
学習過程 子どもの思い・願い 評価の観点 評価の方法
課題把握 不思議だ
知りたい
どのようなことに気づき,どのような課題を持ったのか 記録(ルッキングファイル)
振り返りカード
発表 メッセージカード
教師の見取り
追  究 こうしてみよう
方法を変えよう
調べよう
どのような方法で取り組むのか
どのような資料を収集したのか
記録 意見交換による教師の見取り
メッセージカード
振り返りカード
保護者の感想
まとめ まとめよう
分かった
どのようにまとめるのか 意見交換
メッセージカード
振り返りカード
発  表 わかりやすく伝えよう
発表しよう
どのように発表するのか 意見交換
メッセージカード
振り返りカード
教師の見取り
保護者の感想
学習の振り返り もっとこうしていきたい
もっと知りたい
どのような学びをしてきたのか 発表用ポートフォリオの作成
振り返りカード
教師の見取り
表1 学習過程ごとの評価活動
※ ルッキングファイル(活動の記録を綴じたファイル・振り返りカード・メッセージカードも綴じ込まれている)
  (2)  自己評価を支える相互評価
     自分への問い続けを行うためには,学習過程に即して自分を振り返ることが必要である。そこに自己評価を支える他者評価を取り入れることが効果的である。他者が見た自分の姿を知り,自分をもう一度振り返り,新たな自分を再認識していくのである。
 他者評価には児童同士による評価,教師による評価,保護者や地域の人による評価などが考えられる。
 他者の中でも,自分自身に身近な存在で,いつでも共に活動できるのは児童である。児童同士が共に学び合う中で活動の高まり,自己の成長を図りたい。そこで,自己評価を支える相互評価を実施することにより,「友達が見た自分の姿を知り,自分をもう一度振り返る。」それにより,自分に深く迫っていくのである。
    図
 
 活動の実際とその考察
  (1)  学習過程における評価(ポートフォリオ利用)
     学習過程を通してルッキングファイルを活用する。学習活動中に収集した資料や調べたことや振り返りカード,メッセージカードをルッキングファイルに綴じ込み,自分の取り組んだ活動を見直していく。こうしてできあがった活動の足跡を自分の課題にそって再構成する。そこには,今まで児童が自分を振り返りながら取り組んできたしっかりとした足跡ができあがるのである。
     ルッキングファイル
       ルッキングファイルに自分の追究内容についてどんどんメモを取り,自分の追究の足跡をファイルに残しておく。このことは自己の活動に対して振り返りの資料となる。
      図 これは,ルッキングファイルの記録の一部で,友達に伝えたいことが書き込んである。このような記録が絵や文章で活動後にルッキングファイルに書き込まれる。この記録をもとに今までの活動方法や内容について振り返ることがでる。
     振り返りカード
       活動終了後に児童の負担にならないように簡単な形式で記入できるようにした。振り返りの観点をもとに,活動の意欲,態度,方法,内容,疑問,感想等を毎回振り返りカードに記入するようにした。
      図
       B男は,植物を調べることを楽しみに巴川に探検に行ったが,川の臭いやゴミに驚きを感じ,このような感想を書いた。
 振り返りカードは,教師にとっても活動後の児童の思いや願い等を見取ることができる大事な記録である。
  (2)  自己評価を支える相互評価(メッセージカード)
     自分の活動内容,考え,行動について友達から評価を受ける。相互評価方法は,活動の様子,記録,発表,話し合いの様子等をメッセージカード・ポスターセッションによる意見交換により意見,感想をもらう。
 メッセージカードの内容には,活動の情報提供,方向性の示唆,励まし,認め合い等がある。ポスターセッションによる意見交換でもメッセージカードと同じ内容のものが得られるが,意見の内容が形に残り,後で自分を振り返るには記録として残るものがよいと考え,メッセージカードも取り上げてきた。
    資料1
     資料1のメッセージカードは友達に自分の思いや疑問を呼びかけたものである。これを受け取った児童は,鳥の名前を調べようとする意欲を持つことができた。
    資料2
     資料2のメッセージカードは友達の児童に自分の情報を伝えたものである。他の児童がどんな活動をして,どんなところで困っているか知っていないと,この情報のやりとりはできない。児童は互いに活動を通して,互いの活動を知り,活動に対して自分が知り得た情報を互いに提供し合っている。そして,活動の内容を互いに深め合っているのである。
 活動の方向性を示唆したメッセージカードでは,「Mさんが拾った木の実をもちいてみんなでゲームをしたら楽しそうだね」と自分の考えを相手に伝えている。伝えられた児童は木の実のゲームを友達が望んでいることを知り,自分の活動を伝える一つの方法を得ることができた。
    資料3
     資料3のメッセージカードは友達が活動に取り組む姿を見て,友達の姿を素直に伝えたものである。友達はこのメッセージカードを読んで自分の活動が友達に認められ,励まされていることを知り,さらに,活動への意欲が高まってきた。
 このように,児童からのメッセージを通して,「他者が見た自分の姿」を知り,自分をもう一度振り返り,新たな自分を再認識していくのである。
 自分を振り返り,見つめ直す上で,相互評価が必要なのである。
  (3)  相互評価を元にした自己評価
    資料4  メッセージカードなどにより,自分を見る力が徐々に育ち,右の振り返りカードでは友達の発表を聞き,自分に何が足りなかったのか自己を振り返っている。次に何をしたらよいのか自分の姿が見えてきているのである。
 相互評価によって自己評価はさらに高められいくのである。
 
 今後の「評価」の在り方と改善への視点
  (1)  自己評価を支えるために,教師による評価,保護者・地域の人による評価をどのような場で,どのような方法で行い,それをどのように児童の自己評価に結びつけていけばよいか実践を通して明らかにする。
  (2)  ファイルをどのように再構成したら自分の考えを伝えるのに効果的なポートフォリオができ  るのか実践を通して明らかにする。
  (3)  単元が,児童・地域の実態に適したものだったか,児童に必要な力が育てられたかの視点から単元を見直す評価方法を検討する。

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