第3 「総合的な学習の時間」における評価の在り方
 
 評価の基本的な考え方
  (1)  学習の過程を重視した評価
     「総合的な学習の時間」の評価については,すでに教育課程審議会答申(平成10年7月)において,「この時間の趣旨,ねらい等の特質が生かされるよう,教科のように試験の成績によって数値的に評価することはせず,活動や学習の過程,報告書や作品,発表や討論などに見られる学習の状況や成果などについて,児童生徒のよい点,学習に対する意欲や態度,進歩の状況などを踏まえて適切に評価することとし,例えば指導要録の記載においては,評定は行わず,所見等を記述することが適当である」と指摘されている。
 また,「学習指導要領解説総則編」(小・中学校,高等学校)では,評価の基本的な考え方について,次のように述べていることに注目したい。
 
(ア) 自ら課題を見付け,課題を設定し,その解決の解決に向けての学習活動を展開する中で,自ら設定した課題や学習計画,追究の過程を自ら振り返り,評価し,改善を図っていくことは,この時間のねらいを実現する上で極めて重要な役割を果たすものである。
(イ) どのような課題に取り組んだとしても,具体的な学習活動を通して,探究したこと,感じたこと,学んだことを振り返り,その課題について今後どのように関わっていくべきかを考えることが大切であり,活動全体を振り返り,生き方を探るための評価を工夫する必要がある。
     (ア)の指摘は,「総合的な学習の時間」における評価では,学習の過程に沿った自己評価(自らの学びを自らがつくっていくための評価)が重視されると言えよう。
 (イ)に述べられていることは,評価を通して課題についての今後のかかわり方を考えること,また「生き方を探るための評価」を工夫することが必要であるということであり,総合的な学習における評価が,「何のための評価なのか」について明らかにしているわけである。ここに総合的な学習ならではの評価の在り方と目指すべき評価のねらいが示されている。
 したがって,これまでの学習の結果(達成度)に重きをおいた評価から,学習の過程を一層重視するとともに学び方や生き方を探るための評価の在り方への転換(学習観の転換)が求められているということである。
  (2)  指導と評価の一体化
     「小学校学習指導要領」の「総則」の第5(中学校は第6,高等学校は第6款5)では,評価について,「児童(生徒)のよい点や進歩の状況などを積極的に評価するとともに,指導の過程や成果を評価し,指導の改善を行い学習意欲の向上に生かすようにすること。」と述べている。
 これは各教科等の指導においてもあてはまるものであるが,ここで指摘していることは,まさに「指導と評価の一体化」を求めていくということである。すなわち,教師の指導の改善のための評価(教師自身の評価)と児童生徒の学習意欲を高めるための評価とが一体となっていくことが必要であるということである。
  (3)  自己評価の重要性
     教育課程審議会答申(平成12年12月)では,学力を知識の量のみでとらえるのではなく,学習指導要領に示す基礎的・基本的な内容を確実に身に付けることはもとより,自ら学び自ら考える力などの「生きる力」がはぐくまれているかどうかによってとらえる必要があるとして,以下のようにこれからの評価の考え方を示している。
     観点別学習状況の評価を基本とした現行の評価方法を発展させ,目標に準拠した評価(いわゆる絶対評価)を一層重視する。
     指導と評価の一体化を図り,学習指導の過程における評価の工夫を進めるとともに,評価の方法,場面,時期などを工夫し,児童生徒の成長の状況を総合的に評価することが重要である。
     これらは,総合的な学習の評価にも通じるものであり,特に評価方法の工夫・改善として,「自己評価」の重要性について次のように述べていることに注目したい。
   
 自己評価については,自ら学ぶ意欲などを見る上で有効であるばかりでなく,児童生徒が自分自身を評価する力や他人からの評価を受け止める力を身に付け,自己の能力や適性などを自分で確認し,将来を探究できるようにするためにも大切である。
(「教育課程審議会答申」 平成12年12月 )
     自分のよさに気づき,他人から認められることは,なによりも自信を生み学習への意欲,よりよい生き方への意欲となっていく。
 学習指導要領解説総則編(小・中学校)では,評価の方法について,「ワークシート,ノート,作文,絵,レポートなどの製作物,発表や話し合いの様子などから評価したり,生徒の自己評価や相互評価を活用したり,活動の状況を教師が観察して評価したりするなどして,その生徒なりのよい点,学習に対する意欲や態度,進歩の状況などを評価すること。」と述べられている。客観的な評価データの収集と蓄積,そして児童生徒が自分の学習を振り返っていく時の拠り所となる評価の在り方が求められている。この意味で,ポートフォリオ評価がかなりの学校で取り上げられ実践報告がされており,自己評価を進めていく上でも取り入れたい手法の1つである。
 「総合的な学習の時間」における自己評価とは,学習の過程で自らの学びを振り返る活動であり,どんなことに気づき,どのように考えを深めたかといった自らの学びを確かめることであり,また追究の内容や方法,見通し等について吟味し,改善していくためのものである。
 こうした児童生徒の自己評価活動では,教師の見取りの他に,児童生徒との話し合いを通して進歩の状況や課題追究の見通しや方向性を確認していくといった教師の支援の在り方が大きな意味を持つようになる。したがって,児童生徒の学習ファイル(ポートフォリオ)は,児童生徒自身が学びを振り返るためだけではなく,教師の支援のための資料としても大いに活用することができる。
 
 何のために,どのように評価していくのか
  (1)  何のための評価か
     「総合的な学習の時間」の「ねらい」を踏まえ,以下の2つの点から評価が求められる。
   
子ども一人一人の学びをつくる(ねらいを踏まえた学習の成立)ための評価
教師自身が指導を振り返り改善していくための評価
     「総合的な学習の時間」の評価は,これまで後手に回っていた感がある。実際,県内の各学校のアンケート調査においても,このことは端的に表れている。今年度,次年度における実践を通して,「子どもたちはどのように取り組み,そこから何を学び,どんな力をつけたのか」について,すなわち一人一人の学びの姿をどうとらえていくかについて省察していくことが求められてくる。また,先に示した「ねらい」にある資質や能力を育てていくには,児童生徒がどのようにして学んでいくかという学習の過程に重点をおくなど,児童生徒側に立った学習活動に対する新たな視点が必要となる。少なくとも,今年度の取り組みについて,前述した振り返りの観点から「成果と課題」「改善への視点」について整理しておくことが必要である。
 そこで,研究主題にある「評価の在り方と改善への視点」について,次のようにとらえた。
   
評価を通して,児童生徒の学びの姿をどうとらえ,指導の改善への視点をどう導き出していくか。
     単元の目標や評価の観点を踏まえ,学習の過程に沿って,どんな学びの姿が見られ,何を学んだのか(学習の成立)について振り返る。また,活動の過程や振り返りの場面で子どもの自己評価や相互評価を生かしながら見ていくことで,学習の見通しや修正がどのように行われたか,さらに活動の過程での児童生徒の学びの姿をとらえなおしていくことで,今後の「総合的な学習の時間」のその学校としての評価の在り方を見出していきたい。
 評価とは,その子の「よさ」をどう引き出すかということであり,自らの学びを確かめ,自らの「よさ」をどう伸ばしたかを見て,学ぶ意欲を高めていく資料として生かされていくものでなくてはならない。
 活動を構想する上でも,このことは大切となる。総合的な学習では,子どもの「もっと知りたい」「このことを何とかしたい」という思いが膨らんで,それをもとにして試行錯誤する中にこそ学びがあるととらえたい。総合的な学習における学びとは,児童生徒が追究活動を通して課題が次の課題を生んでいくといった膨らみのある学習となっていくことで,追究への意欲を高め,学び方や考え方,生き方を見つめる学習となる。また,こうした追究活動の過程でどのように児童生徒をとらえ,支援していくかという教師の役割,支援の在り方が問われることになる。
  (2)  どのように評価していくか
     この活動で児童生徒は,どのように自らの課題を設定し,どのように学んでいるか。ここの考察を適切に行いたい。このことは,目標や育てたい力,さらに評価の在り方を考える上で大切な視点となる。例えば,振り返り(学習)カードの活用がかなり進んでいるが,そこに示されている観点は何をねらいとしたものなのだろうか。何について,どう振り返るかについては,各学習段階で身に付けたい資質や能力とは何なのかを踏まえ,その上で具体的な振り返りの観点を示すようにしたい。
 教師が一人一人の学びに沿った評価をしていくとき,ポートフォリオ評価は総合的な学習にふさわしい評価の取り組みの一つといえるが,その取り組みについては,単に資料を「ファイルしていく」という作業だけでは不十分であり,今後さらに実践を積み重ねる中から工夫・改善されていくことが必要である。
 今年は多くの学校にとって取り組み1年目である。もう一度,育てたい力とは何かを明確にした上で,活動の構想をしっかりと立てるとともに,学習の過程に視点を置いた評価の在り方の検討が必要ではないだろうか。こうした見直しと具体的な改善策を検討することが,今後の「総合的な学習の時間」における「一歩前へ」踏み出す取り組みとなる。
 
 評価の観点
  (1)  評価の観点の必要性
     学習活動にあたって,この学習で身に付けさせたい資質や能力とは何かを明らかにすること。また,評価の観点を示すことで,学習活動でねらう内容とその方向性が押さえられる。例えば,今日の学習ではこの観点を重点に据えて,追究活動に沿って児童生徒の学びの姿をとらえていこうということが明らかになる。ここに評価の観点の必要性がある。
 さらに,評価の観点をもとに個々の活動や多様な子どもの評価資料を見ていくことで,それぞれの観点における一人一人の学習の状況や成果,よい点,進歩の状況等が明らかになる。このことは教師の目を鍛え,指導の改善にもつながる。
 単元の目標や各学習段階で身に付けさせたい資質や能力を踏まえ,児童生徒の学びの姿をどのようにとらえ,適切な支援をしていくか。目標を踏まえ,その達成のためにどのような観点から学びの姿をとらえていくかがはっきりしなくては,一人一人の学びの姿に着目した評価はできない。また,ねらい(あるいは単元の目標)にある資質や能力が身に付いているのか,評価の観点をもとに(各学習段階に沿って,あるいは単元の評価の上からも)とらえていくことは,適切な支援に結びつくことでもある。
 さらに,評価の観点を設定し,児童生徒の多様な評価資料を収集しても,それが指導の改善に結びつかなければ何にもならない。そのためには,評価の観点だけではなく,それをより具体化した評価の規準(あるいは基準)が明らかになっていなければならない。
 そこで本研究では,「単元構想案」の中に「評価の観点」の他に,各学習段階に沿って身に付けさせたい資質や能力を「育てたい力」として押さえるとともに「評価規準」を明らかにしておこうと考えた。
 自己評価にあたっては,各学習段階に沿って,何について振り返るのかという観点が大切になる。例えば,互いの活動やアイディア,よさに着目させるなどの具体的な観点を示したり,評価規準に基づいて,振り返りの観点を示すなど,児童生徒と教師が「振り返り」の観点を共有化していくなどの工夫が必要である。また,児童生徒が自分の目標(めあて)を設定した上で振り返っていく取り組みも考えられる。さらに,活動の途中で相互に活動を報告し合ったり,話し合うなどの活動を通して相互評価を取り入れたり,保護者や学習に協力をいただいた方のコメントをいただくなど,より豊かな評価活動を実現させたい。
 児島邦宏氏(東京学芸大学教授)は,「それぞれの子どもが,自らの学習問題にどう取り組み追究しているか,その学習の姿を見ることが評価」と述べ,以下のような点から評価すること(以下要約)が求められるとしている。評価の観点を考える際に参考としたい。
   
@  子どもに何を学ばせようとしたかではなくて,子ども自ら何を学んだかを見てとる。
A  それぞの子どもの多様な行動を,受け入れ,認め,いろいろな観点から評価する。
B  学習の対象の中に,それぞれの子どもが価値を感じとる力(感性),すなわちそれぞれの考えや美しさやよさを感取することを大事にしていく。
C  活動への参加意欲と参加状況を評価する。そのことによって,子どもの学習意欲の向上へとつなげていく。そのためには以下のような「よさ」の評価が求められる。
 ほめられ好きになる評価,感動や喜びを味わえる評価,成就感を味わえる評価,自信のもてる評価,必要性や使命感のもてる評価,自分の発想をもてる評価,日常の生活に発展できる評価,友達との学び合いを強める評価,学習の見通しのもてる評価。
  (児島邦宏 「教育の流れを変える総合的学習」 ぎょうせい 1999)
  (2)  評価の観点を具体化する
     「評価の観点」は設定したが,実際の学習活動や評価活動に生かしきれていないのではないかとの指摘がかなり以前から言われている。その原因の一つとして,設定された「評価の観点」が具体化されず評価規準や評価基準が明確でなかったことが挙げられよう。
 小島宏氏(東京都台東区立根岸小学校長)は,「指導と評価」(日本教育評価研究会 1999.3)において,「総合的な学習については,ねらいを評価の観点として,単純化し,明確化し,重点化していくこと」を提案されている。
 また,評価にあたって,小島宏氏は,評価の観点,規準,基準について,「総合的な学習の時間」のねらいを評価の観点として説明している。小島宏氏が示した資料を表にまとめたものが次ページに示したものである。なお,ここに示した観点例は,「総合的な学習の時間」の「ねらい」を拠り所として,総合的な学習独自の発想をとりたいとする氏の考え方に基づいている。
 表に示すように,まず「総合的な学習の時間」のねらいを評価の観点として,問題解決,学び方・考え方,主体性・創造性,生き方の4つの観点を設定している。そして,どのようなことについて評価するかについて,「総合的な学習の時間」のねらいに即して「評価規準」を示している。さらに,「評価規準」を具体化し,達成の状況を判定するよりどころとなる「評価基準」を示している。
 「評価の観点」,「評価の規準」,「評価の基準」と,表を左から右へと見ていくと,どのような観点から評価するのかについて,観点が具体化されていくことがわかる。なお,「評価基準」について,小島宏氏は「焦点化して評価していくことを想定し,あまりにも詳細多岐にならないようにする」ことも指摘している。

図
  (3)  指導要録における「総合的な学習の時間の記録」
     平成12年12月4日に出された教育課程審議会答申「児童生徒の学習と教育課程の実施状況の評価の在り方について」において,「総合的な学習の時間」における評価の在り方及び指導要録における「総合的な学習の時間の記録」が示された。ここで示された「総合的な学習の時間」の評価については,3つのポイントがある。「学習活動」,「観点」,「評価」の欄の記入である。学習活動で身に付ける資質や能力を観点として示し,児童生徒の学習状況を各教科の学習の評価と同様に,観点別学習状況の評価を基本としていくことが示された。
 実際の記入の仕方にあたっては,おおよそ以下のようになる。
「学習活動」の欄には,単元名あるいは実際に取り組んだ学習活動がわかる表現で記入する。
「評価」の欄については,「総合的な学習の時間」が「各学校において,具体的な目標,内容を定めて指導を行うことが必要」(答申)であることから,各学校が「その目標,内容基づき,観点を定めて評価を行うことが必要である。」(答申)とされており,3つのカテゴリーが示されている。
    @  「総合的な学習の時間」のねらいを踏まえ,「課題設定の能力」「問題解決の能力」「学び方,ものの考え方」「学習への主体的,創造的な態度」「自己の生き方」という観点を定める。
    A  教科との関連を明確にして,「学習活動への関心・意欲・態度」,「総合的な思考・判断」,「学習活動にかかわる技能・表現」,「知識を応用し総合する能力」という観点などを定める。
    B  各学校の定める目標,内容に基づき,例えば「コミュニケーション能力」,「情報活  用能力」などの観点を定める。
     「評価」の欄については,「学習活動」を記述した上で,指導の目標や内容に基づいて定めた「観点」のうち「児童生徒の学習状況に顕著な事項がある場合などにその特徴を記載するなど,児童生徒にどのような力が身に付いたかを文章で記述する」(前掲 答申)と述べている。
 以上を考えると,今後,各学校とも「総合的な学習の時間」において身に付けさせる資質や能力を踏まえ,「評価の観点」を学年ごとに明らかにする必要があるということになる。

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