【授業研究2】
   高等学校工業「機械設計」において生徒一人一人の豊かな発想を引き出し,課題解決を図るために創意工夫する態度を育てる授業の実践
(1)  授業研究のねらい
   昨年度の「工業数理」における授業実践において,グループ学習の形態が,生徒の自主的活動や,自ら学ぶ意欲を高めるのに有効であることが確認できた。しかし,グループ毎に異なるテーマを与えた場合は,教師側のきめ細かな指導が行き届かなかった。そこで,本年度は共通のテーマでグループ毎に実験を行い,検証していくことにより,既習の学習で得た知識をもとに生徒一人一人の豊かな発想を引き出せるような実験装置の工夫・改良などを行い,生徒が自主的に活動し,自らの力で課題解決を図るための態度を育てたいと考え授業実践を行った。
(2)  生徒一人一人の豊かな発想や,創意工夫する態度を引き出すための授業の手だて
   生徒の問題意識やイメージを膨らませる教材の工夫
     生徒は,日頃の学習内容が身近にある機械や構造物の設計に関連しているということが理解できていないため,学習した内容と日常生活におけるいろいろな場面とを結びつけることができず,授業がただ暗記するだけのつまらないものになっていた。そこで,身近に利用している発泡スチロールを素材として利用するとともに,身近な建築構造物でよく見かけられる「はり」を利用した学習を進めることにより,学習へ取り組む姿勢を育てる。
   生徒一人一人のアイデアを引き出す工夫
     生徒一人一人を学習活動に参加させるため,少人数のグループ学習の形態を取り入れる。また,検証実験においても,素材・実験器具等について生徒の発想を生かせるように,できる限りグループ独自の方法で行うことを目指すように指導する。さらに,予備実験で使用した実験器具についても教師が苦労した点,改良が必要だと思われる点を提示し生徒にアイデアの提供を呼びかけながら実験を行ってみる。
   体験的な活動の場を設定し,課題の焦点化を図る工夫
     これまでの授業においては課題について口頭で提起したため,具体的な取り組みができずに過ごしてしまう生徒が見受けられた。そこで,「はり」についての予備実験を行い,現時点において考えられるすべての疑問や理論の予想を実験のまとめとして提出させ,これから自分たちが何を行っていくか方向付けを行う。
   表現力を高める工夫
     学習内容の検証実験を行うだけでなく,実験結果のまとめや発表の機会を設定し,各グループの学習の成果をお互いに評価できる時間を設ける。また,発表に際しては,発表内容が聞く側に十分伝わるように,工夫した発表ができるように指導する。
(3) 授業の実践
  単元名  材料の強さ
  単元目標  機械や構造物にどの程度まで安全に力を加えられるかを判断するため,必要な強度計算・寸法計算の基本的な知識を身につけさせる。
   指導上の留意点
    (ア)  本単元に入るとき,教師による予備実験を見学させ,自分たちも同様の確認実験にて本単元の学習内容を確認することを促し,学習に積極的に取り組むように指示する。
    (イ)  確認実験の器具等についても自作が望ましいことを伝え,自由な発想で望むことができることを予告すると同時に,いろいろな教科で学習したことを生かして,十分に考えておくことを確認する。
    (ウ)  4人を標準として10グループ編成とした。グループのメンバーは,生徒同士で自由に決める事にするが,今後の活動がうまくいくようにメンバー構成を十分考えるように指示し,予備実験が終了後,グループ編成について,話し合いをもたせ決定させる。
    (エ)  確認実験終了後のまとめの提出,結果の発表会について予告し,グループ内で役割分担等をきちんと決め,記録等についても正確に残すように指示する。
   指導計画
    (ア)  材料に加わる荷重…1時間
    (イ)  引張・圧縮荷重を受ける材料の強さ…3時間
    (ウ)  せん断荷重を受ける材料の強さ…2時間
    (エ)  熱応力…1時間
    (オ)  材料の破壊と強さ…4時間
    (カ)  教師による予備実験…1時間 (本時はその1時間)
    (キ)  曲げ…18時間 (確認実習…8時間)
    (ク)  ねじり…3時間
   準備・資料
     実習レポート用紙・教科書・参考資料
   本時の展開
展開
予備実験風景
予備実験風景
資料 生徒が提出した予備実験のまとめ
資料 生徒が提出した予備実験のまとめ
表 予備実験データ
(4) 授業の結果と考察
   生徒の問題意識やイメージを膨らませる教材の工夫
    (ア)  今回実験で使用した「はり」は,身近な素材ということで発泡スチロールを選択したが,理論を検証するには適切な素材とはいえなかった。しかし,予備実験前には検証実験など自分たちにできるかと考えていた生徒たちも,簡単に実験が行えることを目の当たりにして,自分たちもすぐにでも実験してみたいと話し始め,学習への取り組みとしての試みは十分効果があった。
    (イ)  予備実験で十分な結果が得られなかったことが幸いしたのか,生徒たちは口々に素材や実験装置の改良について発言するようになり,普段,学習について質問などしたことの無い生徒も教師に質問に来るなど,各グループで実験のイメージを描いている様子が見られた。
   生徒一人一人のアイデアを引き出す工夫
    (ア)  少人数のグループの形態(特に自由に構成させた)であったために話し合いがスムーズに行われ,活動に参加しない・できないという生徒は少なくなったと思われる。しかし,中には話し合いが脱線し,騒がしくなるグループも見受けられた。
    (イ)  予備実験の改良を呼びかけをしたこともあり,アの(イ)にも記述したが,改良に向けて生徒の質問が多数寄せられ,実験に向けてのアイデアを絞っている様子が見られた。
   体験的な活動の場を設定し,課題の焦点化を図る工夫
     予備実験という体験的な場を設定したことで,実験結果のまとめの話し合いにスムーズに入れた。また,器具の改良や材料の変更などの話し合いを積極的に行うなど,今後の新たな課題についても十分受け止められ,その課題解決を図るために創意工夫しようとする姿勢が芽生えつつあるように見受けられた。
   表現力を高める工夫
     打ち込んだ鉄棒を目安に砂入れを行ったところ,砂と鉄棒の色が似ているため見づらく,砂を水平にする作業に支障がでたが,生徒の発案で鉄棒を着色することにより容易に作業を進めることができた。このように,結果にこだわらず生徒の意見や考えを積極的に取り入れたり賞賛したりすることにより,生徒の発言が増し,さらによりよい発想を導き出すことができた。
生徒検証実験風景
生徒検証実験風景
検証結果発表会風景
検証結果発表会風景
(5) 授業研究の成果と課題
   研究の成果
     本研究は,「機械設計」の授業で学習した内容を検証実験で確認していく中で,学習内容を十分理解するとともに,材料・実験器具を考えることによって生徒一人一人のアイデアを引き出し,課題解決を図るための創意工夫する態度を育てることを目的に研究を進めてきた。その結果,次のような成果が得られた。
    (ア)  身近にみられる構造物に使われている「はり」を取り上げたことにより,理論的にはわからなくても経験的に結果の予測ができ,積極的な取り組む姿勢が見受けられた。
    (イ)  通常の一斉授業でなく少人数のグループ学習の授業形態を取り入れたことにより,個々の発言が出やすく,生徒一人一人の活動する機会が多くなるとともに,各自の役割分担が明確にされ,より意欲的に課題解決に取り組む姿勢がみられた。
    (ウ)  予備実験という体験的な場を設定したことにより,明確な目標を容易に設定することができ,よりスムーズに学習活動に取り組むことができた。
    (エ)  発表会を設けたことにより,生徒は,より学習の目標を明確にすることができ,同時に,自分の意見を伝えるために様々な努力をしたことによって,表現力の難しさ,大切さが実感できたと思われる。
    (オ)  題材も共通であるため,自分たちが苦労した課題を他のグループはどう解決したか興味をもち,他のグループの発表をしっかり聞こうという態度が見られるようになった。
    (カ)  グループ学習にしたために,他のグループよりもよりよい結果を残そうと競争心が生まれ,授業の中にヒントを探そうと意欲的に授業を受けようとする態度が育ってきた。
    (キ)  教師の実施した予備実験が満足する結果を得られなかったため,逆に自分たちが成功させようと創意工夫する態度が見られた。
   今後の課題
    (ア)  授業計画を作成するに当たっては,年間を通してすべての単元において検証ができないため,学習意欲の向上が一時的なものにならないよう工夫する必要がある。
    (イ)  機械設計は,本校では4単位で実施している。今回のように,検証実験を行うと機器の製作等のために多くの時間が取られてしまうため,授業内容を精選し,生徒が検証実験を通して思考できるよう十分な時間の確保が必要である。
    (ウ)  現在工業高校で行われている機械実習は,授業で学習した理論の実践・検証を目的に行われており,テーマもたくさん用意されている。本校機械科でも実習の一つとして材料試験があり,機械設計で学習した機械材料について検証していく実習では,実際には独立した実習になってお互いの連携はほとんどない。その他にも現在行われている実習のほとんどが実施学年・時期・人数等の問題から独立した実習になってしまっている。
 今後,学校週五日制の導入,本校が平成12年度入学生から実施予定の大幅な選択制等の導入で,ますます連携が難しくなることも予想されるが,実習との連携を行うため,授業の内容の精選・指導内容の順番等の工夫が重要になってくる。
    (エ)  今回の授業研究の結果,生徒は授業の目的・目標が,より簡単な形で明確になれば意欲的に学習に取り組むことがわかった。そのことをふまえ,我々は,生徒の興味を引く身近な素材を利用した教材の工夫・改善に取り組む必要がある。

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