【授業研究6】
  高校地学TB
「太陽放射」における生徒の発想を生かした観察・実験の指導
(1) 授業研究のねらい
   太陽の放射エネルギーの測定の実験は,従来,簡易日射計を用いて行ってきたが,生徒に太陽放射についての理解を深めることが困難であった。そこで,演示実験において太陽の放射エネルギーを実感できるような工夫を行うことと,地球と地球以外の太陽系惑星での明るさの違いを再現する課題を生徒に与え,実験を組立させることとした。生徒が課題について話し合い,自分の考えを自由に表現し,自らの発想を生かして実験機材を考案するなどの創意工夫を行い,課題を解明していく。その過程で生徒の創造的に思考する力が培われるであろうと考える。
(2) 創造的に思考する力を培うための手だて
  指導方法の工夫
    (ア) 太陽の放射エネルギーの大きさを実感する演示実験の工夫
       太陽の放射エネルギーを観察するため,凹面鏡によって集めた太陽光で低融点合金を溶かす実験を行う。また,段ボール紙にアルミ箔を張ったソーラークッカーを自作し,目玉焼きを焼く演示実験も行う。集光した太陽の放射エネルギーの大きさを実感させることにより,生徒の太陽放射に対するの興味・関心が高まると考える。
    (イ) 太陽放射を測定する方法の工夫
       簡易日射計やソーラークッカーは太陽放射の熱としての効果を利用した装置であるのに対し,明るさを利用した太陽放射の測定装置として照度計があることを気付かせる。このように,一つの事象が様々な角度や方法からとらえられることに気付くことは,事象を多面的に検討する力を身に付けさせることにつながるものと考える。
    (ウ) 各惑星での明るさを再現する観察・実験の工夫
       太陽と各惑星との平均距離から各惑星での明るさを予想する課題を与える。地球での明るさを基準に各惑星での明るさを予想し,生徒の発想を生かして機材を考案し,観察・実験を行う。他の惑星ではどのような明るさなのかを体験することによって,生徒の惑星に対する想像力を刺激し,理解を深めることができると考える。
  生徒による実験機材の製作
     アの(ウ)で予想した明るさを地球上で再現するためには,どのようなにしたらよいかを考えさせる。照度計は20万ルクス程度までしか測定できないので,それよりも明るい水星や金星での明るさはどのようにしたら測定できるか。また,太陽からの距離が地球よりも離れたところにある惑星での明るさは,どのようにすれば体験できるか。それぞれについて各班ごとに話し合い,実験機材を工夫し製作させることで,これまでの考え方ややり方にとらわれない新しい生徒の発想や方法をつくりだせるものと考える。
  学習形態の工夫
     惑星での明るさを体験する観察・実験を終了した後,実験班とは別に新たな班を再編成し,それぞれの生徒が行ってきた惑星での明るさを再現する観察・実験の内容や結果を,他の生徒に対し説明する場を設定する。他の生徒に説明する責任を負わせることで,生徒一人一人の実験に対する取り組みをしっかりさせるとともに,表現力を養うことができると考える。また,こうした新たな班での活動は,自分たちの行った観察・実験を振り返り,改善点を見出し,よりよい実験方法について考える機会ともなり,生徒の創造性を養う上で大切だと考える。
(3) 授業の実践
  単元名 大気のエネルギー収支
  指導計画(7時間扱い)
    1次 太陽放射(5時間)………本時
    2次 地球放射と温室効果(2時間)
  「太陽放射」の指導計画
「太陽放射」の指導計画
(4) 授業の結果と考察
  指導方法の工夫について
    (ア) 指導方法の工夫について
      自作ソーラークッカー  単元の導入時の演示実験として太陽光を集めて低融点合金を溶かす実験を行った。生徒たちから金属が溶けた瞬間に大きな歓声が上った。また,ソーラークッカーの実験は,目玉焼きが焼ける程,温度が上昇するとは思っていなかったようで,二つの演示実験ともかなりインパクトがあり,生徒に太陽のエネルギ−に興味を持たせるばかりでなく,その大きさを実感させることができ,効果的であった。さらに発展として,太陽電池を用意し,参考実験として教室内の火星の明るさと同じ場所,木星の明るさと同じ場所を探し,小型モーターを回転させる実験を行い,各惑星での明るさを再現する実験課題に対する生徒の意欲を高めた。
    (イ) 太陽放射を測定する方法の工夫について
       照度計を用いて太陽放射を実感させる方法は,生徒が直接感じ取れる明るさという感覚を,照度(ルクス)という日常よく使われる単位で表す身近な計測器具であり,どの生徒も抵抗なく観察・実験に取り組めた。
    (ウ) 各惑星での明るさを再現する観察・実験の工夫について
      屋上で惑星での明るさを再現する観察・実験  地球より太陽に近い惑星では地球上より明るいため,水星班と金星班では平面鏡を角材に取り付け,一カ所に太陽光を集めることによって惑星での明るさを再現した。水星では7枚,金星では2枚の平面鏡からの反射光を一カ所に集めて照度計で測定した。また,測定の際,水星の場合は周囲との明るさの差が大きいので,相対的に迷光を無視することができたが,金星での明るさは周囲の明るさの2倍とあまり差がないため迷光を防ぐための覆いをかけて測定した。 また,市販の照度計は20万ルクス程度までしか測定できないので,地球より太陽に近い惑星での明るさについては直接測定することはできない。再現した金星と水星での明るさを測定するために,照度計に減光フィルターのND8フィルターを装着して用いた。 火星の場合には,地球よりやや暗い程度であるため,虚焦点距離が45pのコーティングしていない凹レンズを段ボール箱に固定し,太陽光を拡散し,凹レンズより33pのところで測定した。生徒たちは次々に段ボール箱に頭を入れて観察をし,「結構明るいんだ。」などと感想を述べ合っていた。 冥王星についても同様に焦点距離3pの凸レンズをボイド管の先端に取り付け,レンズから126pのところで観察や測定をした。
  生徒による実験機材の製作について
     地球より太陽に近い各惑星での明るさの再現方法について,生徒たちは話し合い,創意工夫して製作していた。演示実験などから,鏡を用いて集光すること気付き,放課後残って,反射光が一カ所に集まるように,角材に可動式の平面鏡を取り付けていた。
 生徒たちは地球より太陽から遠い惑星について,太陽光をどのように減光するかについてなかなか思いつかず,悩んでいた。フィルター等の使用については減光の割合を直接調べることができないため,レンズや鏡を使うことを助言し,生徒たちは以前学習した反射望遠鏡の仕組みから減光法に気付くことができた。
  学習形態の工夫について
     各惑星での明るさを再現する実験では,生徒の希望を尊重しながら水星班,金星班,火星班,冥王星班の4つの班に分けた。生徒は自ら選んだ班で,実験課題に取り組むことができ,全員が的確に学習課題を捉え,積極的に自分の考えを出して話合いや実験など,様々な学習場面に臨むようになった。また,屋上での実験の際には,他の班の様子を積極的に観察し,自分たちの班の実験に取り入れるように奨めた。 さらに,それぞれの実験班で,各惑星での明るさの再現実験が終了した後,他の班の実験方法や機材についての工夫や実験結果について理解するために,実験班とは別に全ての班の班員が均等に入る新たな班を編成し,自分の行った実験班の実験装置について新たな班のメンバーに説明する場を設けた。生徒は自分の発想や創意工夫,観察・実験の様子や結果などを生き生きと他の班員に説明することで,学習や実験の過程を振り返り,深めることができた。
  観察・実験の結果について
     観察・実験の結果は表に示した。
 水星・金星・火星では予想値より実測値が小さくなり,冥王星のみ大きくなった。原因についてさまざまな話合いが行われ,鏡の反射率およびレンズの透過率などが主な原因であることに気付くことができた。
表 観察・実験結果(再現した惑星の照度)
  実験結果(ルクス) 地球上の明るさに対する比率
(実測倍率) (予想倍率)
水星 590,000 4.7 6.6
金星 175,000 1.4 1.9
地球上 125,000
火星 44,200 0.35 0.44
冥王星 100 0.00080 0.00063
  生徒の意識調査結果から
     次の図は授業を実施した地学選択クラスの生徒19人を対象に事後調査を行い,10年度の従来の方法で授業を行った地学選択クラスの生徒40人の学習後の調査結果と比較したものである。
 課題の把握について問Aでは,授業後63%の生徒が肯定的な「よく」と「まあまあ」と答えており,10年度の37%と比較しても課題がよく把握されていることがわかる。
 生徒の発想を生かして実験方法の創意工夫したが,そうした自分たちで考えた方法を取り入れているかとの問Bに,52%の生徒が肯定的に答えている。10年度に比べると,「ない」という答えが,21%から0%となり,生徒たちが自分の発想を生かして創意工夫したことが数字にも表れている。
 既習事項との関連付けについても,問Cに58%が肯定的に答えており,問Bと同様に「ない」の解答が0%となっており,自ら考え,実験を組み立て,実験機材を工夫し製作したことが,これまで身に付けた知識や経験との関連付けに有効であったと考えられる。
 観察・実験の方法や結果の整理・分類については,問Dに73%が肯定的に答えており,「ない」の解答が0%となっている。これは,実験班を再編成して新たな班をつくり,それぞれの生徒に,自分の創意工夫や実験の内容・結果について説明の機会を設けたことが,自分の学習活動を振り返り,整理・分類することにつながったといえる。
 既習事項を身近な事象に当てはめるかとの問Eには,69%が肯定的に答えている。10年度に比べると,「ない」という答えは0%となり,否定的な解答はわずか5%となっている。
 全体的に肯定的な答えが多く,問@〜Eの全ての解答から「ない」が0となったことは授業を実践したものとしても予想外の数字で,生徒が授業に主体的に取り組んでいたことが現れている。
 こうした調査結果や,授業での生徒の行動や感想などから,今回の授業研究が生徒の課題把握,創意工夫,既習事項との関連付け,実験結果の整理・分類,既習事項の当てはめなどの創造的な態度を高めるのに有効であったといえる。
  図 授業前後の意識実態調査
(5) 授業研究の成果と課題
  授業研究の成果
    (ア)  太陽放射について,明るさに置き換えて実感できるようにしたことにより,生徒の興味関心を引きだし,各太陽系惑星に到達する太陽の放射エネルギーを具体的に想像させることができた。
    (イ)  実験方法を考え機材を製作させる過程で,様々な予備実験が必要になり,機材を創意工夫して自然現象をとらえようとする態度を育てることができた。
    (ウ)  こうした過程で,生徒は自ら発想し,創意工夫を行い,他者に説明し,機材を製作するなど主体的に活動し,既習事項と関連付けて考えるなど,様々な活動を行った。これらは生徒の創造性の基礎を培う上で有効であったと考えられる。
  今後の課題
     生徒の表現力や論理的な思考力を高めるため,学習形態や教材・教具について,今後さらに工夫・改善を図っていきたい。

[目次へ]