【授業研究5】
  高等学校生物TB
「光合成」における生徒の発想を生かした観察・実験の指導
(1) 授業研究のねらい
   光合成は,小学校や中学校でも学習されており,比較的簡単に実験できる事項であるが,その仕組みや働きについては,詳細な学習はなされていない。また,光合成の機構は大変複雑であるが,教科書では簡単に記述されているのみであり,授業での取り扱いが難しい事項でもある。
 本授業研究では,光の波長の説明のために自作の光の三原色説明器を,光合成の測定器具としてデジタル表示型簡易比色計を活用し,光合成で利用される光の波長を調べる実験を行う。実験方法は,生徒の発想を生かして実験方法を考え,実験装置を組み立てるという方法で行い,予想を立て,実験を行い,実験終了後にはまとめを行う。まとめの段階では,実験結果と予想とを比較検討する場を設ける。このように生徒が発想を生かして実験方法を考え,予想をもって実験に取り組み,予想を確かめ,自らの考えを再検討する学習活動を通して,既有の知識との関連付けを行い,事象を多面的・総合的に考察し,思考力を高めることができると考えた。
(2) 生徒の発想を生かすための手だて
  測定器具の製作と実験方法の工夫
    (ア) デジタル表示型簡易比色計の製作
       オオカナダモを材料に,BTB溶液の色の変化を用いて光合成量を測定する実験を行う。BTB溶液は水素イオン濃度に呼応して呈色するpH指示薬であり,水に溶けた二酸化炭素の濃度に応じて色が変化する。BTB溶液については中学校で既に学習しているので,生徒も理解し易いと考えられる。
 BTB溶液の色の変化を測定するために,測定器具としてデジタル表示型簡易比色計を製作する。この装置は紺野昇氏他(1998)の比色計を参考に,電源とデジタル電流計を組み込んだもので,コンピュータに接続しなくてもBTB溶液の色の変化をデジタル表示できるようにする。オオカナダモの光合成によって溶液中に含まれる二酸化炭素が消費されると,BTB溶液の色の変化が起こり,デジタル表示型簡易比色計に表示される数値が増え,光合成の進み具合が一目で読みとれる。
 実験方法は,試験管に二酸化炭素を吹き込んだBTB溶液を入れ,まず一度,簡易比色計で測定し,その後オオカナダモを試験管に入れ光を当てる。一定時間経過後,BTB溶液を回収し,簡易比色計で測定する。実験前後に表示された数値の差が光合成量を示す相対値として求められる。
 今回製作したデジタル表示型簡易比色計を用いることにより,わずかな光の量の変化でも光合成量の変化を測定できるので,今までのわずらわしい実験操作から開放され,生徒は実験の本質について考える時間を多く取れるようになると考えられる。また,デジタル表示型簡易比色計の感度を調節することができるようにしてあるので,その日の天候に左右されずに授業の進度に応じて実験を行うことが可能となる。
    (イ) 光の三原色説明器
       今回の光合成色素の吸収スペクトルの学習で使われる光の三原色について,生徒たちはこの時点まで学習していない。生徒は白色光が光の三原色からなっているという知識を持たないため,従来の方法では光の波長(色)と光合成についての理解が不十分と感じられることが多かった。そこで発光ダイオードを用い,それぞれの色ごとに抵抗を付け,輝度を調節できるようにした光の三原色説明器を製作する。それぞれの光(色)を単色で示した後,様々な光の色の組み合わせがどのような色になるかを示しながら説明することによって,生徒の光合成色素と吸収スペクトルについての理解が深まると考えた。
  生徒実験の工夫
     生徒が観察・実験を組み立て易くするため,光合成に関する実験を実験T「光の強さと光合成」と実験U「光の波長(色)と光合成」の二つに分けて行うようにする。
 最初に「光の強さと光合成」の実験を全員で行い,生徒が実験方法について理解し,技法を習得できるようにする。次の「光の波長(色)と光合成」の実験については,その技法を基にして生徒が実験方法を考え,予想を立てて進めて行けるようにする。
    (ア) 実験T「光の強さと光合成」
       光の強さを変え,光の強さに対する光合成速度の関係を調べ,「光−光合成曲線」にまとめる実験である。光の強さを強くしても光合成速度が変わらなくなる光飽和点が存在することを調べる実験でもある。オオカナダモを入れた試験管に紙(上質紙)を巻き,透過光の強さを調節しながら光合成量を測定する。
    (イ) 実験U「光の波長(色)と光合成」
       この実験では,実験Tの実験方法を応用し,色セロハン紙を試験管に巻くなどの方法で,透過光を変え,光合成量の違いについて調べる。透過する光の波長(色)による光合成量の違いから,光合成に使用される光はどのような波長(色)の光であるかを知ることによって,光合成の仕組みについての理解が深まると考える。
 さらにこの実験Uについては,生徒に自分の発想を生かして実験方法を考えさせ,教科書や図説などの資料を参考に結果を予想させる。自ら方法を考え,予想をもつことで,生徒は自ら積極的に実験に取り組むようになると考える。
(3) 授業の実践
  単元名 光合成と窒素同化(12時間扱い)
    第1次 植物と光合成(10時間)
      植物と光合成 …… 2時間
      光合成反応の仕組み …… 2時間
      光合成と光の強さ …… 6時間(本時)
    第2次 細菌の光合成と化学合成(1時間)
    第3次 窒素同化(1時間)
  「光合成と光の強さ」の指導計画
「光合成と光の強さ」の指導計画
(4) 授業の結果と考察
  実験Tへの取り組みについて
    実験風景(BTB溶液の変化の計測)  BTB溶液については,中学校で既に学んでおり,また,事前に演示実験で示しておいたので,適度なBTB溶液の色の濃さになるまで二酸化炭素を吹き込み,実験を始めていた。実験では,予定の15分の光照射時間内に十分な色の変化が得られていた。
 今回新しく開発したデジタル表示型簡易比色計の使用によって測定が簡便になったため,生徒はとまどうことなく,きれいな「光−光合成曲線」のグラフにまとめることができた。曇天時の実験となり,人工照明のため,低照度部分のグラフの落ち込みが見られたが,約20分間の光照射によって,きれいな光合成曲線が得られた。
  実験Uへの取り組みについて
     10年度は,どんな光の波長(色)が光合成に最適かとの問いに,様々な答え,とりわけ黄色を光合成に適した色と選んだ生徒が多かった。11年度も実験で使用する色セロハン紙についての事前調査では,黄色や緑色を選ぶ傾向があった。しかし,三原色説明器を使用した説明とそれぞれの色セロハン紙の透過光について事前に示したことにより,実際の実験時には黄色を選ぶ生徒は少なかった。光の三原色説明器の提示によって,光の三原色の理解が進み,生徒は,光の三原色について十分理解して実験に臨んでいた。
 実験当日はあいにく雨天であったため,予定していた直射日光による実験ではなく,顕微鏡用の照明装置を光源にして実験を行った。光の強さが少ないため反応に少し時間がかかったが,すべての班でBTB溶液の色の変化が観察され,きれいな結果が得られた。
  まとめへの取り組みについて
     第4時の実験計画の際に,班ごとの予想と結果を,一覧表(表)に記入させ,次の授業で実験結果と比較しながらまとめを行った。光合成が十分行われた試験管ではBTB液が青緑色に変色したが,そうでない試験管では,肉眼では色の変化が確認しにくいものもあった。しかしデジタル表示型簡易比色計を用いると,色の変化が数値に現れ,簡単に測定することができた。
 実験の結果は,緑色セロハン紙を巻いた試験管では光合成がほとんど行われていないという結果となった。一方,黄色セロハン紙,赤色セロハン紙を巻いたものが青色セロハン紙を巻いたものより光合成量がやや多い結果となったが,これについては,黄色セロハン紙は広域の光の波長を透過させることや青色セロハン紙は光の透過率が他のセロハン紙の半分以下であることなどを資料に基づいて生徒に説明した。
表 実験Uの予想と結果
結果 予想
赤と青
赤と黄
全て同じ
赤と青
  生徒の意識実態調査について
     図は研究授業前の9月7日と授業後の9月28日にクラスの生徒33人に意識実態調査を行った結果である。
 自分の発想を生かして実験方法の創意工夫ができたかとの問いに,授業後には「よく」と「まあまあ」を合わせ18人の生徒が肯定的に答えている。一方,「あまり」と「ない」の否定的解答は授業前で12人であったものが6人に減少しており,多くの生徒が自分の発想を生かし,創意工夫して実験に取り組んだといえる。
 予想をもって実験に取り組めたかとの問いに,授業後には19人の生徒が肯定的に答えている。また,実験に自主的に取り組めたかとの問いに,授業後には22人の生徒が肯定的に答えており,「ふつう」を合わせると32人となり,ほとんどの生徒が自主的に取り組めている。これは,生徒自身が発想を生かして実験方法を考え,予想をもって実験に取り組んだ結果と考えられる。
 生徒が自らの考えを再検討する結果の整理分類については,授業前では10人の生徒が肯定的に答えていたが,授業後は12人にわずかに増えただけであった。しかし,「あまり」と「ない」の否定的解答は授業前で19人であったものが15人に減少しており,わずかではあるが効果があったといえる。
 既習事項との関連付けについては,授業前は6人であった肯定的な答えが授業後は10人と増えている。多面的・総合的見方については,授業前は13人だった肯定的な答えが授業後は18人と増えている。これはそれぞれ班で自分の考えを積極的に出して話し合い,まとめを行ったことが,既有の知識と関連付けることや多面的・総合的に見ることにつながったと考えられる。
 これらの調査結果から,今回の生徒の発想を生かした観察・実験の指導は,生徒の思考力を高めるうえで有効であったといえる。
  図 授業前後の意識実態調査
(5) 授業研究の成果と課題
  授業研究の成果
    (ア)  生徒が発想を生かして自ら実験方法を考え,予想を立て,まとめを行ったことが,既有の知識との関連付けを通して,事象を多面的・総合的に考察し,思考力を高めるうえで有効であった。
    (イ)  デジタル表示型簡易比色計を製作し使用することによって,光合成の変化を的確かつ簡単に測定できるようになり,生徒はゆとりを持って実験に取り組むことができた。
    (ウ)  光の三原色説明器は,わかりにくかった光の三原色について,各色ごとに直接提示したり,任意の二色や全ての色を合成し提示できるため,生徒の理解を確実なものとすることができた。
  今後の課題
     色セロハン紙の透過率の関係で,青色セロハン紙の方が黄色や赤色の色セロハン紙と比べると光合成量がやや少ない結果となった。今後,光源を工夫するなど,色セロハン紙によらない方法でより適切な結果を出せるようにしたい。
     
参考文献 紺野 昇他(1998) 発達段階に応じた環境調査の教材化に関する研究
平成8年度・9年度科学研究費補助金(基盤研究C)

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