「創造性を培う学習指導」
 研究の趣旨
   児童生徒一人一人の能力・適性に応じ,自ら学び自ら考える授業を通して,創造性を培う学習指導(理科,生活,音楽,図画工作・美術,家庭及び技術・家庭,農業・工業・商業)に関する研究を行い,各学校での学習指導の改善・充実に役立てる。
   
 研究主題
  (1) 研究主題
創造性を培う学習指導
  (2) 教科別研究主題
    理  科 …… 発想を生かし思考力を高める理科学習指導の在り方
    生  活 …… 子どもの創造性を培う生活科学習の支援の在り方
    音  楽 …… 一人一人の感性と創造性を高める音楽科学習指導の在り方
    図画工作・美術 …… 自らの発想や夢を大切にし,主体的に表現できる力を育てる支援の工夫
    家庭及び技術・家庭 …… 児童生徒の創造性を培う問題解決的な学習における支援の在り方
    農業・工業・商業 …… 自ら学ぶ意欲を高め,創意工夫する態度を育てる学習指導の在り方
   
研究を行う教科(校種)
  理科(小学校・中学校・高等学校),生活(小学校),音楽(小学校・中学校),図画工作(小学校)・美術(中学校),家庭(小学校)及び技術・家庭の家庭(中学校),農業・工業・商業(高等学校)
   
研究期間
  平成10年度から平成11年度の2年間
   
研究方法及び研究経過
  (1)  研究協力員を委嘱して,2年間にわたり8回の研究協議会を開催した。
  (2)  研究主題「創造性を培う学習指導」を設定するとともに,各教科ごとに教科別研究主題を設定して研究を進めた。
  (3)  研究主題に係る創造性について理論研究を行うとともに,創造性に係る教師の意識,授業の実態及び学習指導上の諸問題について調査研究を行った。調査は,県内小学校100校,中学校100校,高等学校56校の教師及び県内小学校10校,中学校8校,高等学校14校の児童生徒を対象とした。また,教科別研究主題に基づき,研究協力員の所属学校で,校種(小学校,中学校,高等学校)ごとに,平成10年,11年ともに9月から11月にかけて授業研究を実施した。
   
研究内容
  (1) 研究主題に関する基本的な考え方
    これからの激しい変化が予想される社会に対応できる創造的な人材を育成し,創造性を涵養することは教育における極めて重要な課題である。教育課程審議会は,教育課程の基準の改善のねらいの一つとして,自ら学び自ら考える力を育成することをかかげ,思考力,判断力,表現力,問題解決能力を育成し、創造性の基礎を培い、社会の変化に主体的に対応し行動できるようにすることを重視する必要があるとしている。
 そこで,本研究では,児童生徒の創造性を培うことをめざして,各学校における学習指導の改善・充実に役立てることができるように,研究主題として「創造性を培う学習指導」を設定し,研究に取り組むことにした。
    創造性の概念及び研究の視点
       児童生徒の創造性を「新しい状況に出会ったとき,これまでに身に付けた知識や経験を十分に活用して,新しい解決をしようとする態度と能力」ととらえた。 児童生徒はすでに潜在能力としての創造的な能力をもっていると考えられ,こうした創造性をより高めることが学校教育の重要な役割であると考える。
 そして,創造性を高めるには,単なる知識・技能の教授ではなく,新たな発想を生み出すもとになる論理的な思考力,想像力,直感力を養うことが大切であり,特に,
      (ア) あたりまえと見逃さず,そこから新しい問題点をみつけ出すこと
      (イ) これまでの考え方ややり方にとらわれず,自分の考え方ややり方をつくり出すこと
      (ウ) ものごとを多面的に検討し,ほかのことと関係付けて考えること
      (エ) 一見して複雑に見えるものでも,基本的なものの組み合わせから成り立っているととらえられること
      (オ) 観察・実験においても,得られた内容を整理分類し,他の事物や現象と関連付けられること
      といった「思考の仕方」を身に付けることが重要である。
    創造的に思考する仕方を身に付けるための場面の設定
       教育実践の場では,潜在能力としての創造性を保持しつつ,思考の仕方をよりよく身に付けるように配慮することが大切であり,構造図に示したように,
      (ア) いろいろな角度から問題を見ることができる場面
      (イ) 活動を通して,アイデアやヒントが得られるような場面
      (ウ) 一つの解き方にこだわって固定した考え方だけに左右されないような場面
      などの場面を授業の中に意図的に設定していく必要がある。
 なお,構造図については,渋谷憲一氏のご助言及び著書を参考にしている。
創造性を培う学習指導の構造図
  (2)  研究主題に関する意識・実態調査
     研究主題に関する学習指導の実態と問題点を探るために実態調査を実施した。
     調査期間
       平成10年10月12日(月)から10月17日(土)まで
     教師
       理科,生活,音楽,図画工作・美術,家庭及び技術・家庭,農業・工業・商業の各教科について,任意に抽出した県内の小学校100校,中学校100校から各校の教科主任を,高等学校50校からは2人ずつの教科担当者を対象として行った。ただし,農業・工業・商業は6校から113人の教科担当者を対象とした。
      (ア) 教師
         理科,生活,音楽,図画工作・美術,家庭及び技術・家庭,農業・工業・商業の各教科について,任意に抽出した県内の小学校100校,中学校100校から各校の教科主任を,高等学校50校からは2人ずつの教科担当者を対象として行った。ただし,農業・工業・商業は6校から113人の教科担当者を対象とした。
      (イ) 児童生徒
         理科,音楽,図画工作・美術,家庭及び技術・家庭,農業・工業・商業の各教科について,県内の小学校10校,中学校8校,高等学校8校(農業・工業・商業については6校)から1〜4学級の児童生徒を対象として行った。ただし,生活科は児童の年齢を考慮し調査対象外とした。
     全教科共通設問(教師対象)の調査結果
       普段の学習指導のなかで,児童生徒が潜在的にもっている創造性をどのように育成しているかを把握するため,各学校種,各教科共通の項目「創造性を培うために特に重視している事項」及び「創造的に思考する仕方を学習させるために授業のなかで特に重視している事項」の二つの視点で調査した。調査結果は表のとおりである。
表 全教科共通設問(教員用)集計結果
全教科共通設問(教師対象)の調査結果
      (ア) 「創造性を培うために特に重視している事項」について
  1. 教師全体では約半数の教師が「ア 学ぶ意欲や主体的に学ぶ力」をあげ,教師が児童生徒の主体的な学習活動の展開を目指していることがわかる。
  2. 学校種別に見ると,「ア 学ぶ意欲や主体的に学ぶ力」がもっとも重視されているが,次に多いのは,小・中学校では「ウ 考えや思いを表現する力」であるのに対して,高等学校では「イ 論理的に考え判断する力」となっている。
  3. 教科別に見ると,芸術に関連する教科(音楽と図画工作・美術)では「ウ 考えや思いを表現する力」がもっとも多く,次いで「ア 学ぶ意欲や主体的に学ぶ力」がほぼ同じ割合で重視されている。また,家庭及び技術家庭と職業科では「ア」に次いで「オ 知識や技能を生活に生かす力」が重視されている。表現を重視する教科,技能を重視する教科,それぞれの特質が表れていると言える。
      (イ) 「創造的に思考する仕方を学習させるために授業の中で特に重視している事項」について
  1. 教師全体では「イ これまでにとらわれず,適合した考え方ややり方を作り出すこと」がもっとも多く,児童生徒の発想を重視しようとしている姿勢がうかがえる。
  2. 学校種別に見ると,小・中学校では「イ これまでにとらわれず,適合した考え方ややり方を作り出すこと」をもっとも重視しているが,高等学校では「エ 基本的な組み合わせから成り立っているととらえること」と「ウ 多面的に検討し,他のことと関連付けて考えること」がほぼ同じく重視され,法則や関連付けから思考の仕方を学習させていこうとする姿がうかがえる。
  3. 教科別に見ると,生活,音楽及び図画工作・美術では,「イ」を多くあげており,技術・家庭及び職業科は「イ」と「ウ」をあげ,職業科はこれに加えて「エ」もあげている。理科については「ア」から「オ」までにわたった様々な事項をあげている。これは,調査対象が生活,音楽,図画工作・美術及び技術・家庭については,小学校及び中学校の教師を,職業科は高等学校のみの教師を,理科は小学校,中学校,高等学校の三つの校種にわたる教師であったためとも考える。
     各教科ごとのの調査結果
       このことについては,各教科ごとの報告を参照して下さい。
  (3)  研究主題に基づく授業研究
     教科・校種ごとに,研究協力員の所属学校の17校[小学校理科,中学校理科,高等学校理科(物理・化学・生物・地学),小学校生活,小学校図画工作,中学校美術,小学校音楽,中学校音楽,小学校家庭,中学校技術・家庭(家庭),高等学校(農業・工業・商業)]で授業研究を行った。
   
《主な参考文献》
渋谷憲一 「新しい学力観のなかで創造的能力や創造性をどう捉え,どうそだてるか」『変化の時代の学力観−時代を開く教育課程』,教育開発研究所,1996年


[研究報告書34号目次へ]

[研究報告一覧へ]