【授業研究2】
  高等学校第3学年  Lesson 6  The Internet Era (Reading)
(1) 授業の構想
   Lesson 6 は,インターネットが可能にさせたマルチメディア時代の現状と今後が題材となっている。全体的に英文の構造は単純ながら,内容や語句にはやや難解なものもある。
 本授業研究では,実際にインターネットを利用し,ホームページから情報を得たり,電子メールで必要な情報を収集・伝達することによって,題材に対する興味・関心や,英文読解への意欲を生徒に喚起し,内容の理解を深める手助けにしたい。さらに,自ら選んだ相手に対して,目的を持って電子メールを「書くこと」によって,生徒が自分の考えや思いを表現するような授業を展開したいと考えた。
 具体的に授業は以下のように進める。第1時は本文読解の導入とする。実際にインターネットを利用してみるための準備として電子メールで送る英文を作成する。送信の相手は7月にカナダへ帰国した前ALTで,内容は生徒の近況報告とする。第1時終
 第2,第3時と教科書の本文を読み進める。この間に前ALTからの返信が届き次第,生徒に披露することにする。あわせて,教科書本文の読解の授業と並行して授業外に行うインターネットを利用したグループ課題を提示する。
 課題は生徒の興味やコンピュータの利用経験の有無に応じて選択できるよう4種類設定する。生徒はここから課題を1つ選択し,同じ課題を選んだ生徒同士で5人程度のグループを作る。その後,第9時まで,約2週間をかけて電子メールを作成し,送信し,できれば返事を受信する。
 教科書本文の読解を行う第4時から第8時までの授業と並行して,グループごとに昼休みや放課後を利用して,前述の課題学習を行い,第9時(本時)に課題学習の成果を発表する。
 本時は授業のまとめの活動に当たる。本文に描かれているインターネットが実現したマルチメディア時代について,英文を理解して知識を得るだけではなく,自らも体験することによって,生徒の主体性や創造性を引き出すことにつながることを期待する。
(2) 指導の手だて
  「読むこと」と「書くこと」を関連付けた段階的な指導
 課題発表に至るまで,次の4つの段階を設定する。第1段階として,生徒には前ALTから学校宛に届いた近況報告のファックスを読ませ,それに対して各自返事を作成させる。それを代表の生徒3名に電子メールとして入力し送信させる。第2段階として,マルチメディア社会を題材に取り上げたリーディング教材を読解させる。第3段階として,前ALTから届いた生徒への電子メールを教室で一緒に読み,電子メールの便利さを体験させる。第4段階として,その後2週間をかけて,授業での教科書本文の読解と並行して,昼休みや放課後に,グループごとにインターネットや電子メールを利用して,各自が選択した課題を行わせる。最終段階でグループごとに課題に取り組んだ成果を発表させ,作成した電子メールが適切なものであったのかどうか検討する。
 以上のような「読むこと」と「書くこと」を関連付けた段階的な指導によって,生徒が教科書本文の内容理解を深め,読み手を意識し,自分が伝えたい内容を,相手にうまく伝わるよう工夫しながら,電子メールを書けるようにする。
  グループごとのインターネット・電子メールの利用
 ほとんどの生徒がこれまでインターネットを利用したことがない。個人でパソコンを所有し,インターネットや電子メールを利用したことのある生徒2名と教師がパソコン操作の中心となり,グループごとの活動を支援する。インターネットに接続されたコンピュータは本校には1台のみなので,生徒の自宅のコンピュータ2台と合わせて3台を使用する。
  複数の課題よりの選択
 生徒の興味やコンピュータの利用経験の有無に対応できるよう,課題を生徒に次の4つから選ばせることにした。
    課題1 インターネットを利用して各自が興味を持つ事柄についての情報を収集し,関連するホームページに質問や意見等を電子メールで送る。
    課題2 語学学習者用の電子メール交換のホームページ(http://esljapan.com/students/penpals.htm)を利用し,電子メールを送信する相手を選びメールを交換する。
    課題3 本校と交流のある英国の Rivington and Blackrod High Schoolの生徒と電子メールを交換する。
    課題4 カナダに帰国した前ALTと電子メールを交換する。
(3) 学習指導案
  題材  Lesson 6  The Internet Era, MILESTONE ENGLISH READING
  時間配当  9時間(本時は第9時,1授業時間50分)
    時間配当
  本時の学習
    (ア)  目 標
 電子メールを用いて取り組んだ課題学習の成果を,グループごとに発表し,インターネットや電子メールを利用することのよさと課題についての理解を深める。
    (イ) 展開
    展開
(4) 授業の考察
  第1時(前ALTへの近況報告文作成)について
 2学期直前に前ALTから届いた学校宛のファックスをコピーし,配付した。英文の内容は生徒にとって関心のある事柄であり,興味を持って読ませることができた。そのため,生徒自身の近況報告を作成する際にも,英文を作成することへの抵抗感がなく,すぐに取りかかれる生徒が多かった。また,挨拶を含めて5文程度でよいことを指示し,間違いをあまり気にせず,伝えたい内容をできるだけ自分の知っている表現を用いて書くことを強調し,英文作成への抵抗感を一層軽減させることができた。
  第2時,第3時(教科書本文読解)について
 情報化社会には,いまだ安全性の面で不安な点もあるという記述が教科書にあり,特に個人の情報に関しては慎重な扱いが必要である旨を授業で話題にした。後に課題学習を行う際,間違った相手に電子メールを送ってしまったグループがあった。実際に情報の管理には慎重さを要することを体験し,教科書の内容をより深く理解させることができた。
  第3時(課題提示)について
 生徒に希望をとったところ,インターネットで情報収集し,電子メールで質問や意見を送る課題1の希望者が9名,電子メール交換のホームページを活用して相手を見付け,電子メールを送る課題2の希望者が18名,英国の交流校と電子メール交換をする課題3の希望者が11名であった。しかし,前ALTとの電子メール交換をする課題4の希望者はなかった。これは,この時点で前ALTから返信がまだ届いていなかったためであろう。
  第4時〜第8時(教科書本文読解)について
 本文中に,「情報の洪水の中で情報を取捨選択する能力が重要である。」という記述があった。その際,ダイエットという語をキーワードにして,インターネットで情報を取捨選択して収集している課題学習グループのことを話題にした。「マルチメディア時代」,「将来的には国境は意味をなさない」という本文中の記述を読む際には,アメリカからあるグループに届いた写真入りの電子メールを見せ,その写真の中の学生が日本人で,元パイロットの筆者とメール等を通じて交流していることなどを話題にした。このように課題学習と本文読解を有機的に結びつけ,本文の理解を深めることができた。
  第6時(前ALTからの電子メールの紹介)について
 生徒の電子メールに対する返信が届いたのは,帰国後間もない前ALTの様々な事情により13日後となった。生徒が送った英文に対する丁寧な返信は,生徒への直接のメッセージであり,生徒には興味を持って読ませることができた。
  各課題への取り組みについて
    課題1: 2つのグループがこの作業を行ったが,検索ツールを利用し,興味を持った語句(ディズニーワールド,ダイエット)を入力し,関連したホームページを閲覧し,ページの管理者に質問をメールで送った。コンピュータの操作は,パソコン担当の生徒と教師が中心となって行った。インターネットを十分に活用するには,情報の検索法に習熟する必要があるということが分かった。
    課題2: 5つのグループがこの作業を行った。ペンパル募集のホームページを印刷した資料を各グループに配付し,そこから電子メールを送る相手を選ばせた。各自が作成した英文を,送信相手を指定してパソコン担当の生徒2名に提出させた。パソコン担当の生徒は,提出された手紙をパソコンに入力し,送信した。提出された英文は入力するのに支障のない程度に完成されたものであった。
    課題3: 2つのグループがこの作業を行った。英文の入力はグループの代表が行った。送信の段階で教師が英文ワープロのスペルチェックをかけ,いくつかの英文については,構文や文法の誤りを多少訂正している。相手が英国の高校生であることは分かっているが,それ以外は何も情報がないため,英文を書く際に書く内容がイメージしづらいようであった。
  電子メール英文の作成について
 後に行ったアンケートによると,和英辞典や英和辞典を半数以上が利用し,また,友人や教師に質問を積極的に行っている。そのため,形式の上でも,内容的にもしっかりした英文に仕上がっている。しかし,生徒には,誤りに神経質にならないこと,自分の伝えたいことを自分の知っている表現で書くこと以外指示していない。従って,これは生徒が自分の伝えたいことを何とか相手に分かってもらいたいという気持ちの表れであると思われる。今回の場面設定は生徒の主体性を引き出す上で有効であったと考えられる。
  生徒の送信した電子メールへの返信について
 28件の電子メールを送信したのに対し,課題成果の発表の時点で,受け取った返信は12件であった。その後2週間ほどして,2件の返信を受け取った。返信がないことによる生徒の落胆は当初考えていた以上のものであった。課題に取り組んでから課題発表までの期間が2週間しかなかったということには多少検討の余地があろう。
  インターネット,電子メールの利用環境について
 今回,2名の生徒が自宅のパソコンを使用して電子メールの送受信を行った。今後,学校の設備が充実し,多くの生徒がインターネットに慣れ親しみ,操作に慣れれば,生徒個人所有のパソコンに頼らず,一層効果的な指導が期待できる。
  第9時(課題発表)について
 それぞれのグループが,どのような相手にどんな内容のメッセージを送り,それに対してどのような内容の返信があったのか,短時間で手際よく発表できた。聞いている生徒も興味を持って聞くことができた。さらに,返信のメールを検討することで,自分たちの書いた電子メールが適切なものであったのかどうか評価することができた。
  第9時以降の生徒への返信,生徒からの送信について
 合計14件の返信のうち5件については,メールの交換が続いている。3件は自分や家族がパソコンを所有する生徒が継続している。残り2件は教師が代理でメールを送受信している。この点でも学校の設備の充実が早急に望まれる。
  生徒の反応(授業後のアンケート調査から)
 授業後に行ったアンケートから生徒の反応をまとめてみた。「相手から返事が来た人はどう感じたか。」という質問に対して全員が「とてもうれしい。」又は「うれしい。」と答えており,「返事が来ない人はどう感じたか。」に対しては,およそ8割が「残念である」と答えている。この結果は「今回の活動についての感想は。」という質問に対して約3割が「返事が来ないのでつまらなかった。」と答えていることからも分かるように,活動全体への評価にも影響を与えている。
 英文を作成する際に,6割以上の生徒が英和や和英の辞書を利用し,また3割前後が教科書を参考にしている。さらに友人や教師に聞きながら相手に分かってもらえるよう工夫した作文を行っている。電子メールの作成時間は約8割の生徒が1時間以内であった。
 課題2を選択した生徒は電子メールを送る相手を各自の興味に従って選択することができており,英文の内容も自分の表現したいことがだいたい書き表せたとしている。自由に相手を選べることが英文を作成する際のよい動機付けになっているようである。
 「電子メールやインターネットを利用することが英文を読解するのに役立ったか。」という問いに約半数の生徒が役立ったと答えており,当初のねらいはある程度達成されたものと思われる。さらに,課題1を選択した生徒の大半が,今後もっとインターネット等を利用してみたいと答えている。
  まとめ
 本授業研究では,リーディングの授業に,インターネットや電子メールを利用した活動を取り入れ,教科書の題材に対する生徒の興味・関心を高め,教科書の内容の理解を深めることができた。また,自ら選んだ相手に対して,知りたい情報を得ようとして電子メールを書いたため,生徒は何とかして自分の思いや考えを相手に分かってもらおうして,表現を工夫したり,自分の書いた英文を推敲したりし,主体的に「書くこと」のコミュニケーション活動に取り組むことができた。電子メールを送る相手やその内容をある程度自由に生徒に選択させたことが,生徒の興味・関心を引き出す鍵になったものと思われる。さらに,返信を検討することで,自分の書いた電子メールが適切なものであったのか評価できることが分かった。

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