はじめに
 今日,インターネット等様々なメディアの普及にともない,英語による表現能力は,国際交流活動,学術研究活動,経済活動の面で必須のものになっている。国際社会に生きる日本人として,世界の人々と協調し,国際交流などを積極的に行っていけるような,外国語による実践的コミュニケーション能力の育成が外国語科(以下英語で外国語を表す)の指導に求められている。将来,社会に出たときに生きるような英語の力を生徒に身に付けさせたいものである。そこで,生徒の創造的な資質や能力の育成の視点に立ち,生徒が主体的に「書くこと」の学習活動に取り組む指導を展開する中で,実践的コミュニケーション能力の育成を図りたいと考える。
   
研究のねらい
   英語科における創造性に関する意識・実態調査を踏まえ,「書くこと」と他の領域との有機的な関連を図りながら,生徒一人一人の思いや考えを引き出すコミュニケーション活動場面設定の工夫を通して,自ら表現する力を育てる「書くこと」の指導の在り方を究明する。
   
研究主題に関する基本的な考え方
  (1) 研究主題と学習指導要領との関係
 「外国語で表現する能力」の育成は,現行の学習指導要領における外国語の目標の中核となるものである。さらに,教育課程審議会答申(平成10年7月29日)では,外国語での「実践的コミュニケーション能力」を育成することの重要性が指摘され,英語をコミュニケーションの手段として使い,文字で情報や自分の考えなどを表現できる,発信型の英語力の育成が求められている。
  (2) 自ら表現する力を育てる「書くこと」の指導
     「自ら表現する力」とは,実際のコミュニケーション活動において,相手に伝えるために,自分の主体的な判断で,自分が表現したいと考える情報や自分の考えなどを表現できる能力である。
     「書くこと」の指導とは,コミュニケーション活動を通して,情報や自分の考えを,場面や目的に応じて的確に相手に伝わるように文字で表現する力を育てる指導である。
   
英語科における創造性に関する意識・実態調査
   県内の中・高等学校の生徒及び教師を対象として,英語科における創造性に関する意識・実態調査を実施した。
  (1) 調査対象
    生徒 …… 校種別に学校規模や地域性を考慮して,調査校を抽出した。抽出した中学校の生徒数は1416人で県内全中学校生徒数の1.2 %,高等学校の生徒数は1155人で県内全高等学校生徒数の1.6 %である。
    教師 …… 生徒の調査対象として抽出した中・高等学校の英語担当者を対象とした。抽出した中学校の教師数は33人で県内全中学校教師数の0.6 %,高等学校の教師数は81人で県内全高等学校教師数の1.7 %である。
  (2) 実施時期  平成10年9月25日から10月9日まで
  (3) 集計結果の分析と考察
   
  • 英語学習指導に関する調査項目数は,教師と生徒に対してそれぞれ7項目とした。
  • 生徒,教師ともに中学校と高等学校の質問内容は同一である。
  • ア〜キの調査項目についての質問を枠内に示し,その結果を表1〜7に示した。
  • 表中の数値は各問ごとの回答者数に対する回答数の割合(%)である。
    興味・関心について(表1)
    興味・関心について
    表1 興味・関心に関する調査  中学校,高等学校ともに生徒は,「話すことを中心とした学習活動」に一番興味・関心を持っているが,他の三つの活動にもそれぞれ2割程度の生徒が興味・関心を持っている。一方,教師は中学校,高等学校とも,「話すことを中心とした学習活動」に生徒が興味・関心を持っていると考える傾向が強く,特にほとんどの中学校の教師が「話すことを中心とした学習活動」に生徒の興味・関心があると思っているのが特徴と言える。
    充実感について(表2)
    充実感について
    表2 充実感に関する調査  中学校,高等学校ともに生徒は,「英語の文を読んで理解できたとき」に一番喜びを感じていることが分かる。次いで,中学生は「自分の話す英語が人に通じたとき」を選んでおり,高校生は「人の話す英語が聞いて分かったとき」となっている。
 教師の多くは,質問アと同じように「話すことを中心とした学習活動」を選んでおり,生徒との意識の違いが一層顕著に見られる。生徒の「書くこと」から得られる充実感については,教師はあまり意識していないようである。
    不足している学習について(表3)
    不足している学習について
    表3 不足している学習に関する調査  中学校の生徒は,「書くことの学習」,「話すことの学習」という表現活動が不足していると感じていることが分かる。高等学校の生徒は,「話すことの学習」が特に不足していると感じているようである。一方,中学校の教師は「書くことの学習」が特に不足していると感じており,「話すことの学習」を不足していると答えているのは2割以下である。高等学校の教師の7割以上が,「話すことの学習」という音声によるコミュニケーション活動分野が学習不足であると答えており,生徒の意識と一致している。
    「英語で書く力」をつけるのに必要なもの(表4)
    「英語で書く力」をつけるのに必要なもの
    表4 「英語で書く力」をつけるのに必要なものに関する調査  生徒は中学校,高等学校ともに,書くためには,「単語が分かり,使えるようになること」が必要だと多くが感じ,言語材料に視点が向けられている。ところが,中学校の教師は,「直接英語で自分の考えなどを書くこと」が必要であると答えている数がもっとも多く,ついで「単語が分かり,使えるようになること」が必要だと感じている。高等学校の教師は,「英語の文章をたくさん読むこと」,「単語が分かり,使えるようになること」,「英語の文章の組み立てについて学ぶこと」が必要であると答えている数が多い。
    学習形態について(表5)
    学習形態について
    表5 学習形態に関する調査  中学生は「グループでの学習」,高校生は「グループでの学習」に加え「1人での学習」が学習しやすいと多くが回答している。一方,教師は,中学校,高等学校とも「個別学習」,「グループ学習」で8割が越えているが,高等学校では個を重視していることからか,「個別学習」が優位になっている。それに対し,「クラス全体での学習」を選んでいる教師は中学校,高等学校ともにきわめて少ない。「書くこと」の指導にあたっては,「個別学習」や「グループ学習」等学習形態を工夫し,「クラス全体での学習」の中に効果的に取り入れることが大切であると考えられる。
    「書くこと」の充実感について(表6)
    「書くこと」の充実感について
    表6 「書くこと」の充実感に関する調査  中学校,高等学校ともに「学習した英文法や単語の表現を利用して英語の文を書いたとき」を4割の生徒が選んでいる。学習した言語材料が使えた時に充実感を持つことができていると言える。次に生徒は,「日本語の文を英語に訳しているとき」を多く選んでいる。ところが,教師は中学校,高等学校ともに「和文英訳しているとき」を選んでいる割合が低い。「書くこと」の指導では,既習事項を利用した学習から,段階的に発展的な活動に進め,あわせて,教師が与えた日本語の文を生徒に英訳させることで終わらせず,生徒自身にテーマを決めさせて英作文をさせるなど,生徒の主体性,創造性を引き出す学習指導方法を工夫する必要があると考えられる。
    学習したい内容について(表7)
    学習したい内容について
     中学校の生徒は,「ゲームなどが多く取り入れられた授業」を受けたいと考えている割合が多いが,高等学校ではその割合が半減している。これは学習段階の違いの現れだと考えられる。それに対し,中学校の生徒が2番目に多く選んでいる「外国の人と,手紙やインターネットで交流する授業」の割合は,高等学校で増加し,最も多くの生徒が受けたいと考えている。「外国の人と,手紙やインターネットで交流する授業」では,実際の読み手に対し,何かを伝えるという目的を持ったコミュニケーション活動が展開できる。英語の学習が進むにつれて,生徒はより本格的に英語でコミュニケーションを図りたい考えるようになることが分かる。一方,中学校の教師は6割が,「課題を生徒自らが選択して行うような授業」が効果的だと考えている。これは生徒の主体性を引き出したいという思いの表れだと考えられる。また,高等学校の教師は,「個別に行う添削指導」と「外国の人との,手紙やインター ネットでの交流」が効果があると考えている。これは個性を重視した指導を展開したいという思いの表れだと考えられる。
    表7 学習内容に関する調査
  (4) 調査のまとめ
 本調査を通して,「書くこと」の指導にあたっては,他の領域の指導と関連付け,既習事項を生かし,無理なく段階を追って「書くこと」の活動に発展させるような指導をすることが大切であることが明らかになった。また,多様な学習形態を効果的に取り入れることが大切であることが分かった。さらに,生徒は学習が進むにつれて,より本格的に英語でコミュニケーションを図る内容の授業を受けたいと考えるようになることが分かった。
   
研究主題に迫るための手だて
  (1) コミュニケーション活動場面設定の工夫
     誰に対して,何を目的に,どのような内容を伝えるのかが明確になるような活動場面設定の工夫をする。
     すでに持っている情報をもとに,さらに知りたい事柄を認識し,その事柄に関する情報を得たいと生徒が思うような活動場面設定の工夫をする。
  (2) 「聞くこと」,「話すこと」,「読むこと」の活動と関連付けた「書くこと」の活動設定
     聞き取った内容,読み取った内容をもとに,自分の考えをまとめ,英語で書く活動を行えるようにしたり,書く活動をする過程で,書き方についてALTに英語で尋ねたりするなど,「書くこと」と他の領域を有機的に関連付ける。
  (3) 生徒の個に応じた指導を配慮した学習形態の工夫
     学習形態を工夫し,集団の中で,生徒が個性を発揮し,主体的に自分の考えや思いを表現できるようにする。
   
授業研究
   研究主題に基づき,コミュニケーション活動場面設定の工夫等の手だてを講じ,中学校,高等学校各1校で授業研究を行った。


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