【授業研究4】 高等学校第1学年現代社会
「手作り石けんを作ろう」において体験を通して環境問題への関心を高める学習指導の在り方
(1) 授業の構想
   本研究のテーマは「自ら問題を見付け,主体的に問題解決に取り組む社会科学習の指導の在り方」であり,このテーマに迫るためには,社会的な事象との出会いの中で,自ら問題を見付け,問いつづけることによって,自分なりの見方や考え方をもてるようにする学習の場を設定していくことが必要である。
 本単元では,身近な環境問題を調べることによって,生徒一人一人がどのような取り組みができるかについて考えさせたい。その中でさまざまな環境問題を調査する作業的学習や,手作り石けんを作る体験的学習を取り入れる。環境問題を調査する際には,最新の情報を得るためにインターネットの活用もすすめた。こうした活動を通じて,生徒一人一人の興味・関心を大切にし,自分なりの問題意識を持つことができ,自分なりの考え方をもてるようになると考えた。またグループ学習を取り入れることによって,生徒同士がお互いの意見を聞き,知識を深め合い,意欲的に取り組めるよう配慮した。公民科の指導方法については定型化されたものが確立しておらず,教師側の働きかけによって生徒たちの取り組みが大きく変わってくる。また暗記科目ではなく,自ら考え取り組む科目であることを実感させなければならない。そのために本単元のみならず,環境問題について常に関心を持ち,多角的な視点で見つめ,自分自身の「ライフスタイル」を考えることができる授業を目指していきたいと考えている。
(2) 指導の手だて
  社会的事象とのかかわりの中で,自分なりに問題を見付けることができるようにするための工夫
    (ア) アンケートの実施
 これから実施する一連の授業の導入として,アンケートによって生徒が環境問題をどれだけ知っていて,どの程度関心を持っているのかを把握する。
    (イ) 生活の中の環境問題(ゴミ問題)の実態把握
 自分自身の家庭のゴミや教室のゴミがどれだけでているかを調べる。これだけのゴミがでる原因は何かを考えさせ,過剰包装やトレイ,ペットボトルの増加が原因であることに気付かせる。また,これらのゴミはどう処理されるのかを調べさせ,どうすればゴミが減らせるのかグループで話し合う。
    (ウ) 手作り石けんをつくろう
 家庭からでる廃油は,捨てると配水管を詰まらせたり,河川の汚染の原因にもなっている。この厄介な廃油が苛性ソーダと反応すると,石けんに変身する。この体験の意義は,物質が変化する不思議な現象との出合いとともに,自分たちで作ったという満足感を与えることにある。さまざま環境問題を考えるうえで,必ず心に残る体験であると考えられる。生徒はこのような体験学習から,環境問題に関心を示し,それについて意欲的に取り組むことが予想される。
    (エ) 身近な環境問題を調べる(生徒の調査活動)
 われわれの身近にある環境問題で関心をもったことをグループで調べる。インターネットによって情報を検索したり,環境問題に関する本にあたって,どのような問題が起こっており,それらについてどう考え,今後どうすべきかをまとめる。
    (オ) 発表をする(生徒が主体となって参加できる授業)
 小学校,中学校を通じてさまざまな発表を体験してきた生徒達だが,残念ながら高校に入ると発表をする機会が少なくなっている現状がある。発表するためには,自分たちが調査した内容をまとめ,グループで協力し,意見をまとめることなどが必要となってくる。なぜ調べようと思ったのか,どういった内容なのか,解決にはどうしたらいいのかの三点を発表のポイントとする。発表した内容について全員で話し合い,解決の糸口を見つけられれば,さらに大きな成果が得られると確信している。また他の班の問題提示を聞くことは生徒一人一人が問題意識を持つためにも重要な材料となってくる。さまざまな機会を使って発表の場を設定し,生徒が主体となって参加できる授業を展開する必要がある。生徒の「共感的理解」が深まるような調査学習や体験学習によって,教科をこえた教材づくりを行っていかなければならない。
  自分の問題解決に向けて見通しをもつことができるようにするための工夫
    (ア) 身近な環境問題を学ぶ
 ゴミ問題の中で疑問に思った点を確認し,授業を展開する。身近な環境問題が広がり  を見せ,世界的な問題に広がっている点を重視し,自然環境の保全との調和をどう図っていくか,世界の動きを見つめながら,生徒自身に考えさせる。
    (イ) グループ内での意見交換によって,自分の考えを問い直す
 発表するにあたって,自分の意見だけでなく,友達の意見を参考にし,どこに問題が潜んでいるのか,単元全体を見通す問題に目を向けられるように注意し,幅広い視点をもてるようにする。これまでよいと考えられてきた日常生活を抜本的に見直す機会とし,生徒一人一人が環境にやさしいライフスタイルを目指せるよう指導していきたい。
(3) 学習指導案
  単元 環境保全と倫理
  目標
    (ア) 中間発表の様子 本時の目標
 主題学習のテーマに沿って中間発表を行い,グループの調査内容・進行状況について,簡潔に説明する。他の生徒の意見・質問を聞き,今後の調査の課題を発見する。また,他のグループの発表を聞き,内容の把握と理解に努め,意見や疑問点を表明する。
    (イ) 地球全体の環境問題がなぜ引き起こされ,何をもたらすのかを理解する。
    (ウ) 日本の公害の歴史と実状を理解し,一住民として今後取り組んでいかなければならないことについて考える。
    (エ) 人間は生態系のなかで生存していることを哲学的な側面から考え,日本とヨーロッパの自然観の違いを理解する。
    (オ) 地球規模の環境問題を理解するために身近な問題を取り上げ,どのような広がりのある問題なのか考える。
    (カ) 環境問題を自らの問題として捉え,具体的にどんなことが必要で,どのような行動がとれるのか考える。
  学習計画(11時間)
    (ア) 自然と人間(1時間)
    (イ) 世界の環境問題(2時間)
    (ウ) 日本の環境問題(1時間)
    (エ) 自然と人間の調和(1時間)
    (オ) ゴミ問題とは(1時間)
    (カ) 手作り石けんを作ろう(1時間,本時)
    (キ) 身近な環境問題を調べよう(1時間)
    (カ) 身近な環境問題を調べよう(1時間)
    (ク) 身近な環境問題を考えよう(1時間)
    (ケ) 身近な環境問題への対応を発表しよう(1時間)
    (コ) 手作り石けんを塩析しよう(1時間)
  本時の学習
    (ア) 目標 a  食用廃油から,簡単に石けんが作れ,家庭生活でも充分役立つことを理解する。
        b  生活に身近な石けんを取り上げることで,環境問題を自らの問題として関心を持つことができるようにする。
    (イ) 準備 a 食用廃油
        b 苛性ソーダ
        c
        d ゴム手袋
        e 丸型オイル缶
        f かくはん棒
        g 牛乳パック
        h 卓上コンロ
        i 手作り石けんマニュアル
    (ウ) 展開
    展開
    資料1 手作り石けんマニュアル
(4) 授業の考察
  社会的事象とのかかわりの中で,自分なりに問題を見付けることができるようにするための工夫
 事前学習として,まずアンケートをとって生徒の認識度を確認した。それによって環境問題にどの程度知識があり,どの程度関心があるか一連の授業の参考になった。次にゴミ問題を取り上げた。ゴミの増加の原因を探り,ゴミはどう処理されているのか,ゴミを減らすにはどうしたらいいのかを考えた。また体験的学習として石けんづくりを行った。普段使われている食用廃油から石けんが作れることは新鮮な驚きであり,自分たちが石けんを作ったという満足感がうかがえた。廃油は家庭科の調理実習で使用したものをいただいた。またグループで身近な環境問題を様々な資料によって調べた。特にインターネットの活用については,生徒の情報活用能力が養われるように各教科で協力していることが活かされたと考えている。発表は緊張したなか行われたが,予想以上に積極的に調査した内容やその後の対応など自分たちで考えたものが多く見られ,大変有意義であった。「生徒が主体となって参加できる授業」を目指していたが,大きな成果が得られたと感じている。今後も継続的にこういった授業を行っていくことがわれわれの課題である。
    資料2 アンケートとその集計  (第1学年1・2組 80人)
  自分の問題解決に向けて見通しをもつことができるようにするための工夫
 環境問題の学習目的である「環境とそれにかかわる問題に気づき,関心を持つとともに,直面する問題を解決したり,新しい問題の発生を未然に防止するために,個人及び集団として必要な知識,技能,態度,意欲,実行力などを身につけた人々を育てることにある」を目指し,ひとりでは解決できないことを,グループで話し合うことでその解決策を探ろうとした。生徒達は調査学習や発表を通じて,環境問題を身近な問題としてとらえるようになってきた。また環境教育は小・中・高と発達段階に応じて,系統的に指導していく必要がある。そのために多くの資料を収集したり,生徒の心情に訴える視聴覚教材を活用し,体験学習を一層取り入れていかなければならない。授業後の生徒の感想を見てみると,「石けんづくりがとても楽しかった」,「自分でできるリサイクルを実行したい」,「今度は別の環境問題を調べてみたい」,など環境問題に具体的に取り組む姿勢が育ってきた。今後もまずは身近な問題から取り上げ,それを発展させ世界へ目を向けさせる教材づくりを行っていきたい。
    資料3     石けんづくりの感想
(5) まとめ
   環境問題の学習はひとつの単元で終わらせることはできない。われわれの生活が「豊か」になった陰でおこっている現実に目を向け,科学技術の発展や資源問題などと関連させた授業の展開が求められる。またひとりの消費者として日常生活での廃棄の問題が環境を悪化させている一因であることにも触れなければならない。今までの生活を見直し,どうしたら地球と共存でき,環境に優しく生活できるのか,正しい商品選択やリサイクル運動ができるような姿勢を育てていきたい。普段,教室での講義形式の授業が多いなか,今回の授業を通じて生徒の生き生きとした表情がとても印象的であった。作業的学習や体験的学習が生徒にとっていかに生きた教材となっているかを身をもって感じとることができた。今回のさまざまな環境問題との出会いで生徒達が新たな発見をし,問題を見つけ,どう対処していくことができるのかを少しでも考えてくれたことは大変素晴らしいことである。石けんづくりでは,理科や家庭科の先生方のご協力を頂いた。今後も教科をこえての協力体制のもと,生徒が自らのライフスタイルを考えていけるような環境教育の教材化をはかり,「総合的な学習の時間」にも対応していきたいと考える。

[目次へ]