【授業研究3】 高等学校第3学年日本史
「主題学習」において調べ学習による生徒の主体的活動を育む学習指導の在り方
(1) 授業の構想
   本研究のテーマは「自ら問題を見付け,問題解決に主体的に取り組む社会科学習の指導の在り方」である。これに迫るためには,社会的事象とのかかわりの中で,生徒たちが自分なりに問題を見付け,解決方法を模索し,解決することができるような学習の場を設定することが大切である。
 本主題学習では,日本史の通史の学習と並行してグループによる調べ学習を展開し,発表会を実施することで本研究のテーマに迫ろうとした。日本史の学習では,受験や定期考査などに対応するため,講義中心の「知識詰め込み型」の授業が多くなりがちであるが,生徒を主体とした学習活動を取り入れることにより,知識の定着や応用という点でも,より学習効果を高めることが期待できる。また,グループ学習は,調査内容や発表内容を分担してすすめることができ,個人の研究調査事項を補完し合うことでより多くの知識を得ることも可能である。中間発表レポートの作成や,発表会の実施などの一連の作業を取り入れた学習活動 の中で,生徒相互に評価し合うことや,まとめの段階における最終報告書の刊行により,生徒に充実感を与え,歴史に対する新たな興味・関心を喚起することができる。
(2) 指導の手だて
  社会的事象とのかかわりの中で,自分なりに問題を見付けることができるようにするための工夫
    (ア) アンケートによる生徒の実態把握
 生徒の地歴(社会)科に対する意識を把握するために,授業開始1か月後にアンケートによる実態調査を実施する。授業が理解できているか,学習に興味がもてるか,自分が意欲的に知りたい,調べたいと思うのはどういうときかなどを10項目にわたり調べ,生徒の意欲を喚起するにはどのような要素が必要かを考察する。
    (イ) グループ構成による,協力と話し合いの場の設定
 グループを編成し,テーマを決定させる。生徒たちがテーマの決定について十分に話し合うことで,歴史的な興味や関心を喚起させたい。調査や発表の方法やひとりひとりの分担を決定し,今後の見通しを立てさせる。
  多様な活動を通して自分なりの見方や考え方をもつことができるようにするための工夫
    (ア) 多様な方法によって資料を収集する場の設定
 夏季休業中や週休土曜・日曜日などに,歴史館や美術館,史跡を利用した臨地研究を実施することを奨励し,具体的なアドバイスを与える。これにより動機付けを強め,調査や発表の内容をより具体的で詳しいものにすることができる。
    (イ) グループの研究を問い直し,問題意識を高める工夫
 中間発表レポートを作成させ,それにもとづいて中間発表を実施する。中間発表は,単なる途中経過の発表に止めず,評価用紙により生徒相互が評価し合うことで,問題意識を高めさせたい。評価用紙には内容・レポート・発表・テーマ・総合の5項目について,5段階の評価をさせ,意見や質問があれば具体的に記入させることにする。
    (ウ) グループの研究を発表する場の工夫
 中間発表を実施しての反省や生徒相互の評価,意見,質問に答える形で研究報告書を刊行する。それを用いて自分たちの研究成果を最終発表会で報告する。
(3) 学習指導案
  指導計画
 教科書を用いた通史的な授業と並行してグループによる主題学習を取り入れた。グループによる研究活動は随時進められている。
  指導計画
  本時の学習
    (ア) 中間発表の様子 本時の目標
 主題学習のテーマに沿って中間発表を行い,グループの調査内容・進行状況について,簡潔に説明する。他の生徒の意見・質問を聞き,今後の調査の課題を発見する。また,他のグループの発表を聞き,内容の把握と理解に努め,意見や疑問点を表明する。
    (イ) 準備資料
 教科書,ノート,各班から提出された中間発表レポートまとめ冊子
 写真資料(各グループ)
 評価用紙(教師)
    (ウ) 展開
    展開
(4) 授業の考察
  グループごとの主題学習の展開
     夏季休業前より生徒をグループに分け,主題を決定させ,自分たちの計画にしたがって研究を進めたが,グループ内でなかなかテーマが設定できなかったところもあった。取りかかりが早かったグループは,夏季休業中に茨城県立歴史館・徳川光圀生誕の地・弘道館や,茨城県天心記念五浦美術館・五浦海岸六角堂を訪れて,資料の収集にあたった。また,インターネットを活用して資料を収集したグループもあった。
 『武田信玄』を調べていたグループが,武田氏の出自が「常陸国久慈郡佐竹郷(現在の常陸太田市天神林町)」(『勝田市史』)ということを読み,グループ内のU君の近所ということを知った。それ以来信玄が急に身近な存在に思え,実際に所縁の土地も訪れてみたと述べている。『岡倉天心の生涯について』を研究したグループは,天心の地元,北茨城市出身の生徒4人であった。しかし,深く勉強したことも,所縁の六角堂や記念美術館を訪れたこともなかったので,よい機会を与えられたと述べている。本校所在地の日立市に関連して『小平浪平の功績』をテーマとしたグループもあり,地域の学習を取り上げることもできた。地域の学習については現行学習指導要領及び新学習指導要領でも,その取り扱いについては重視しているが,現実に,生徒の興味・関心を高めるという点からも重要なものである。
  中間発表レポートの作成
     各グループは発表内容を簡単にまとめたものを作成し,それを冊子に編集して,中間発表の資料とした。発表には時間の制約があるので,各グループの研究の内容やポイントが一目で理解できる資料が必要だからである。人物の肖像画や時代背景を知るための年表,簡単な 業績などを掲載することが望ましいと指示したが,生徒はそれぞれ工夫して中間発表レポートを作成した。『新撰組』を取り上げたグループは『豊玉新聞〜瓦版・新撰組』と新聞形式にまとめた(資料1)。『織田信長について』をテーマとしたグループは履歴書風に簡潔にまとめ上げた(資料2)。効果的に発表をするために,グループ内で知恵をしぼり合った結果は予想を超えた素晴らしいものであった。
資料1 『豊玉新聞〜瓦版・新撰組』
資料1 『豊玉新聞〜瓦版・新撰組』

資料2 『織田信長について』
資料2 『織田信長について』
  評価用紙を用いた中間発表の再検討
 中間発表時に評価用紙を配布し,各グループの各項目に対し5段階で評価し,あわせて意見・質問・感想を記入した(資料3)。回収した評価用紙に記載してある評価と事項は,氏名を伏せて各グループに返却した。主題学習に対する意見も求めたが,全体的に好意的であった。しかし,3年生ということもあり,受験を意識し,時期に関しては難色を示した意見も少数とはいえなかった(資料4)。資料5は主題学習で取り上げたテーマとその評価である。a〜eの5段階評価法を取ったが,資料にはaを得た数を示してある。
資料3 評価用紙(中間発表)
資料4 中間発表を実施しての感想
資料5 主題学習のテーマと評価
  研究報告書の刊行と最終発表会の実施
 指導計画にしたがって,10月より12月初旬にかけて,評価用紙の評価・意見・質問・感想に応える形で,さらに研究をすすめた。今年度の授業の成果として研究報告書を刊行し,生徒たちとそれをもとに最終発表会を実施した。中間発表会で自らが抱いた問題意識やクラスメートに指摘された点を考慮した内容であり,充実した主題学習となった。
(5) まとめ
   今回の主題学習を通じて,生徒一人一人が日本史の授業に主体的に取り組む姿がみられるようになった。従来の授業形態はとかく受身で,教師の講義を聞くことが中心であった。疑問点があれば解決すべきであるが,そのままにして未解決にしてしまうことも多かったのではないかと想像される。しかし,自分たちで調べたり,他のグループの評価をもとに,最終的に報告書を作成するという学習形態は真に「自ら」が主体となるものであり,「創造性を培い」,「生きる力」を育むことに直結するものと考える。

[目次へ]