【授業研究6】 高等学校地学TB「鉱物生成の仕組み」における指導方法の改善
          ー 教材の工夫を通して ー

(1)  授業研究のねらい
 造岩鉱物のほとんどは,高等学校の実験室では再現不可能な,地下の高温・高圧の環境下で晶出する。そのため,鉱物生成の仕組みについては,従来,結晶構造の模式図や模型などを使った学習になりがちで,観察・実験の場面に乏しかった。そこで,鉱物も結晶の一つであることから中学校や高等学校化学TBで学習する再結晶の原理を利用して,鉱物生成の仕組みについて観察・実験を行うことのできる教材の工夫を行う。さらに,その教材を利用して,生徒自らが問題意識を持って観察・実験に創造的に取り組み,問題を解決する地学学習の指導の在り方を究明する。
(2)  創造的に取り組むようにするための手だて
 問題把握のための工夫
 鉱物生成の仕組みを考える手がかりを,実際の鉱物に求めることにした。火成岩や火山灰などに含まれる鉱物の観察を通して,生徒の興味・関心を高めるとともに,同種または異種の鉱物間における様々な相違点や特徴に気付かせる。そして,生徒自身が見いだした相違点や特徴が生じる仕組みの中から,観察・実験を通して追究していくテーマを,グループごとに興味・関心に応じて選択させる。さらに,それらの相違点や特徴が生じる仕組みについて仮説を立てることにより,問題意識を持って実験に取り組めるようになるとともに,創造性の基礎となる論理的思考力や想像力が培えると考える。
 教材の工夫
 鉱物の代わりに,水溶液から再結晶するいくつかの化合物の結晶を用いることとした。化合物の選定に際しては,各テーマの解決に役立つような特徴をもつものであることの他に,次の3つの条件を考える。
(ア)  結晶の色・形が比較的明瞭なものであること。
(イ)  比較的短時間で,簡単に大きな結晶が作れるものであること。
(ウ)  入手が容易で,比較的安全なものであること。

 そして,これらの条件を満たすものとして,以下の化合物を用いる。
 化合物
 生徒の発想を取り入れた検証の場の工夫
 本研究で扱う実験は,再結晶の原理を基本としている。ガスバーナーやいくつかの化合物を使うが,高校生が行う実験としては危険性の高いものではない。そのため,実験の実施はもちろんのこと,生徒が自らの発想を生かして創造的に実験に取り組めるよう,実験の方法・計画の検討や立案もグループごとに行う。また,生徒が選択したテーマに対応できるような複数の実験器具などをあらかじめ準備しておき,自由に選べるようにした。ただし,実験方法全てを立案することは難しい場合もあるので,計画立案の参考として,次の(ア)〜(ウ)を記した簡単な補助プリントを用意する。
(ア)  実験に使う物質の物質名,化学式とその量
(イ)  実験に使用する主な器具
(ウ)  実験の方法についてのヒント
 発表の場の工夫
 追究してきた内容についてミニ発表会を行う。実験結果をもとにした考察,発表の資料づくり,さらに発表という活動の中で,論理的思考,自分なりの表現の仕方の工夫など創造的な取り組みがなされ,発表する生徒自身の理解が一層深まると考える。また,選択しなかったテーマについても,他のグループの発表を通して,理解を深めることができると考える。
(3)  授業の実践
 単元 地殻の構成物質 −鉱物− 鉱物生成の仕組み
 指導計画(3時間)
指導計画
 本時の指導
(ア)  目標
 実験結果から,鉱物生成の仕組みを,論理的に考察することができる。
 仮説・実験計画・実験結果・考察を工夫して分かりやすく発表することができる。
(イ)  準備・資料
 発表用プリント(クラス全員分),OHP,TPシート,TPペン,偏光顕微鏡,ルーペ,実体顕微鏡,顕微鏡投影装置,岩石プレパラート,鉱物プレパラート
(ウ)  展開
展開
(4)  授業の結果と考察
 本授業を実施した生徒14人(選択クラスのため人数が少ない)について,平成9年9月に事前調査を行った。その一部を表1〜3に示す。また,10月には事後調査を行った。その一部を表4,5に示す。

表1 鉱物の種類 表2 鉱物の分類基準 表3 鉱物の特徴の成因
知っている鉱物の名前を,すべて答えなさい。(人数)
7種類 4種類
6種類 3種類
5種類 1種類
鉱物はどのような特徴をもとに,各種類に分類されていますか。(複数回答・人数)
12 硬さ
10 化学組成
大きさ  9 その他
鉱物の特徴は何の相違により生じますか。(正解者数)
大きさ


表4 実験後の生徒の意識 表5 話合い
質 問 事 項
@  仮説を立てるのは簡単でしたか。
 3
A  仮説を立てることにより,実験でどのようなことを調べればよいのかよく分かりましたか。
11
B  実験方法の検討は難しかったですか。
 4
C  実験方法を自分たちで計画しましたが,計画しない場合より興味を持って積極的に取り組めましたか。
11
D  発表の際に自分の考えが他の人に伝わるよう,工夫できましたか。
 6
E  発表することにより,実験についての理解が深まりましたか。
11
F  他のグープの発表を聞いてその内容がよく分かりましたか。
 7
 授業のどの場面で,最も多く話合いを持ちましたか。(人数)
@ 考察のとき
A 仮説を立てたとき
B 結果を確認したとき
C 発表準備のとき
D 実験方法の検討のとき
E 実験を実施したとき
(人数)(A:はい,B:どちらでもない,C:いいえ)
 問題把握のための工夫について
 事前調査から,鉱物の種類や,鉱物を分類する際の特徴が比較的よく理解されている(表1,2)のに対し,今回取り上げる,「鉱物の特徴の相違がどのようにして生じるのかー鉱物生成の仕組みー」については,理解している生徒が少ないことが分かった(表3)。
 そのため,授業では,各種鉱物を観察し,相違点や特徴を見いだした後の,特徴の相違が生じる仕組みについて仮説を立てることに重点を置いた。今まで学んだ事項を復習しながら,仮説を立てさせたのだが,化学組成の類似や相違,鉱物が成長する条件などをもとに論理的に考えることが要求されるため,表4の@にあるように,難しいと感じた生徒が多かったようである。「仮説を立てたときに,最も多く話合いを持った。」という生徒が比較的多いこと(表5)からも,仮説を立てるのに苦労した様子がうかがえる。そして,その中での話合いを通じて表4のAにあるように,追究する問題をしっかりと把握して,その後の実験の計画と実施に取り組めるようになったのではないかと考えられる。
 生徒の発想を取り入れた問題解決の場の工夫について
 実験の計画立案に際しては,グループごとに実験計画書を作成させた。実験を実施する前に各グループの計画書を検討したが,5グループ中2グループで少し手直しを要する程度であった。また,実験方法の検討が難しかったと答えたのは生徒の約3分の1以下であった(表4B)。実験の原理が「化合物を温水に溶解させ,冷却し再結晶させる。」という単純なものであったことにもよると思うが,対照実験を意識して試行錯誤しながら,予想した以上の実験方法を考え出したグループもあり,テーマとその追究の方法をよく把握し,実験の方法を立案したのではないかと考えられる。また,表4のCからは,生徒のほとんどが与えられた方法で実験を行う場合以上に興味をもち,積極的に取り組んでいたことがうかがえる。各グループの人数を2〜3人としたこともあり,各自が主体的に活動していた。
図1 実験方法の検討
図1 実験方法の検討
 まとめの工夫(本時)について
 グループ数が少ないこともあり,「結果の把握・考察・発表資料の準備・発表・まとめ」を1時間のうちに行った。本時には,表5の「@考察のとき」「B結果を確認したとき」「C発表準備のとき」が含まれ,活発な話合いや作業が行われた。テーマがグループごとに異なり,それぞれ違った実験をしているため他のグループに頼れないこと,異なったテーマを追究している生徒に実験内容・結果・考察を分かりやすく説明しなければならないこと,OHPなどを使った発表の場が設けられていることなどから,真剣かつ活発な取り組みがなされたものと考えられる。気温変化と溶解させた化合物の量の関係などから,生成した結晶が比較的小さかったグループなどでは,実体顕微鏡やルーペを自ら使用するなど,実験結果の把握および考察においても生徒の自主的な活動が見られた。
 発表については,表4のD〜Fに調査結果があるが,発表することによる実験への理解の深まりがみられ,他のグループの発表に対する理解も比較的よかったことがうかがえる。発表の際,工夫して発表できたかとの問いに「いいえ」と回答した者が比較的多いが,その理由として時間不足をあげた者が多かった。資料に生徒の作った発表資料の一部を示すが,このように,図を使ったり,いくつかの結晶を紙にセロテープで貼って比較させたり(図2),結晶の形をOHPで投影したりするなど,工夫した,分かり易い発表が多かった。
 まとめにおいては,顕微鏡投影装置を用いての実際の鉱物と実験で得られた結晶との比較,視覚的に捉えられない結晶構造とイオン半径についてはモデルの提示を行って,総合的な理解を深められるようにした。

資料 生徒の発表資料の一部
資料 生徒の発表資料の一部
図2 結晶の比較
図2 結晶の比較
(5)  授業研究の成果
 問題を生徒自らが見いだし,仮説を立て,検証し解決して行く中で,生徒の学習に対する自発的な取り組み,論理的な話合い,表現方法の工夫など,創造的な活動を行うことができた。
 化合物による再結晶の観察・実験により,「鉱物生成の仕組み」における「色の相違」「形の相違など,鉱物の特徴についての理解を深めることができた。
(6)  今後の課題
 問題の把握,仮説の設定,問題解決の方法の検討,検証,結果に対する考察とまとめなどの一連の学習過程の中で,生徒が自らの発想を生かし,より一層意欲的に取り組めるような指導方法の改善について継続して研究に努める。
 再結晶に用いる化合物および再結晶させる場合の条件の再検討を行い,より短時間により分かりやすい結果が得られるような教材の開発をする。
 [参考文献] 高田雅介(1983)私の鉱物ノート,地学教育と科学運動,No12:p27ー36
山本大二郎他(1973)化学実験辞典,講談社

理科目次に戻る