【授業研究5】 高等学校生物TB「生物の集団」の植物の分類における思考過程を重視した野外実習

(1)  授業研究のねらい
 平成6年度から導入された学習指導要領では,「生物TB」において探究活動,「生物U」において課題研究を設けている。これらは観察・実験を一層充実するとともに,観察・実験を通して,科学の方法を習得させ,問題解決能力を育てようとするものである。このような意味でも観察・実験は欠かせないが,理科の他科目と異なり,生物の観察・実験では季節性や材料となる生物の調整の困難さ等があり,敬遠されがちである。
 「生物の集団」の単元では野外実習が重要である。本研究では教材に植物の分類を取り上げ,教師が植物名に詳しくなくても野外実習を指導できる方法を考えることにする。すなわち,個々の植物名を知ることを目的にせず,植物のいろいろな特徴(主に外見的特徴)に気付き,それをもとに違う種類を識別するための検索表を作成する。実際の植物名を知らなくても,個々の植物の特徴を比較することで同じ種類か異なる種類かが分かればよい。
 そこで本研究では,野外実習を行い,検索表を作成するまでの生徒の思考過程を重視した授業展開を工夫するとともに,創り出す喜びを体感できるようにする。
(2)  創造的に取り組むようにするための手だて
 多様な気付きを引き出すための工夫
 生徒が多くの特徴に気付くよう,植物の特徴がはっきり表れる夏季に,身近な草本植物を対象にする。実習は,学校の校庭や周辺の水田,畑のあぜ道で行う。
 植物名が分からない場合は,その植物を見て連想する名前を,各グループで自由に付ける。
 植物の特徴を記録する用紙には,花や果実の有無,葉の形・つき方といったあらかじめ教師の用意した項目以外に,「その他の特徴」という項目を設け,生徒の自由な発見を引き出すようにする。
 思考を深め表現できるようにするための工夫
 初めに,植物の特徴を比較しやすくするために,グループごとに一覧表にまとめる。次に検索表に使えるような特徴を拾い出す。拾い出した特徴を順序よく使い,最終的に1つの植物に行き着くような表にする。
 それぞれの過程で,思考が深まるように話合う場を確保し,個性的な検索表ができるように支援する。
 創り出す喜びを体感できるようにするための工夫
 作成した検索表を使って実際に植物を検索することにより,検索表の有用性を自ら確認し,創り出す喜びを体感する。
(3)  授業の実践
 単元  生物の集団
 指導計画 (25時間扱い)
第一次 個体群(7時間)
第二次 生物群集(12時間)
・生物群集の概念と構造 ・・・ 1時間
・植物の分類・同定の手法 ・・・ 2時間
・植物観察と検索表作成・活用 ・・・ 3時間(本時)
・群集の構造と種類 ・・・ 3時間
・群集の遷移と分布 ・・・ 3時間
第三次 生態系(6時間)
 本時の指導
(ア)  目標
  •  植物の観察を通して外観的特徴に気付き,それらが植物の種類によって異なることを知る。
  •  記載した植物の特徴をもとに,それらを分類する検索表を正確につくることができる。
  •  できあがった検索表で植物を検索し,検索表の有用性が分かる。
(イ)  準備・資料
 記録用紙,筆記用具
(ウ)  展開
展開
(4)  授業の結果と考察
 授業時の生徒の行動観察から
 野外実習の時間,生徒は主体的,積極的に取り組んでいた。図1に示した生徒の記録例を見ると,教師が用意した観察項目以外の特徴にも気付き,生徒自身の言葉で記録していた。植物名についても名前が分からなければ,各グループで連想する名前を付けていた。また,3〜5人という小人数のグループであったため協力して取り組み,まとめの時間でもいろいろ意見を出し合って話し合いが行われ,生徒自ら考える姿勢が見られた(図2,図3)。
 植物の分類の思考過程において,多様な気付きをもとに,自分の考えを深めたり広げたりしたと考えられる。
図1 記録用紙の記入例
図1 記録用紙の記入例

図2 植物の採取の様子
図2 植物の採取の様子

図3 植物の特徴の観察
図3 植物の特徴の観察
 作成された検索表から
 検索表の作成では,グループごとに分類の特徴や表現の仕方に違いが見られ,個性的なものとなった。図4に検索表の一例を示す。検索表は,生徒にとって新しい価値あるものとなり,成就感が達成されたと考えられる。
 採取した植物に関しては,検索表を使ってきちんと分類できることを確認できた。また,最後にどのグループも自信をもって発表できた。
図4 検索表の例
図4 検索表の例
 授業後のアンケートから
 アンケートの結果を図5に示す。実習に興味をもった生徒が約70%であり,さらに,積極的に参加した生徒は約90%なので,主体的に行動できたと考えられる。その結果,ほとんどの生徒は実習の内容を理解できた。また,身近な植物を観察する眼も養われ,半数以上の生徒が,植物への興味・関心及び植物の分類に対する興味を深められた。検索表作成の過程では,ほとんどのグループでよく話し合われており,その結果約80%の生徒が個性的な作品を作り上げられたと答えている。
図5 授業後のアンケート
図5 授業後のアンケート(平成9年7月10日実施 第1学年1,3,4組 65人)
(5)  授業研究の成果
 植物を観察する過程で様々な特徴に気付き,植物を見る眼が養われた。
 検索表を作成する過程で,意見を出し合いながら筋道を立てて考えることができた。
 自由な思考活動を通して,自分なりの表し方を工夫し,個性的な検索表ができた。
 植物名に詳しくなくても行える野外実習の展開例を開発することができた。
(6)  今後の課題
 本時の展開について
 本時では,一つのテーマに3時間をかけ,その中で生徒の多様な気付きが得られ,思考や表現の仕方が深められた。しかし長時間の活動のため,目的が曖昧になり,興味・関心が薄れがちである。教師の支援の仕方に,工夫を要する。
 年間指導計画について
 本研究は,校庭の樹木や学校周辺の草本植物を教材として研究してきた。しかし一般に「生物の集団」は学習計画の上で年度末に位置付けられ,そのような時期には植物の大きな特徴である花や果実のついているものがあまりない。そこで「生物の集団」を花が観察できる春や果実が観察できる秋に行えるよう,年間指導計画を工夫する。

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