事例一覧に戻る 高等学校2年 英語  単 元:英語U(4単位)
Polestar English CourseU Studyaid D.B. <数研出版>の利用
茨城県立中央高等学校
岡島 岳暁
 英和辞典(仮称・自作)による授業実践

  1. 教科書本文の展開においては
  2. その他

以下(水平線で囲まれた部分)は,数研出版(株)"CHART NETWORK No.47" より転載。


Studyaid D.B."による授業展開- チョークの授業 ITの授業 -岡島 岳暁

クラスでアンケートを実施し,携帯電話の所持率が初めて100%になった。携帯電話が普及し始めた当初,生徒が校内に持ち込むのをいかに防ぐかが議論された。「ジャミング(妨害電波)のような装置はないものか」と真顔で尋ねた同僚がいたのを覚えている。授業中に隠れてメールのやり取りをする者は確かにいるし,様々なサイトを巡るトラブルは今後も絶えそうにない。だが,携帯電話を生徒に持たせる中で,モラルやルールを教える機会ととらえるなら,それの技術的直接的なadvantageとは別な世界が広がるはずだ。そもそも技術の進歩には常にadvantageとdisadvantageの両方があるわけだが,それが避けられないものである限りは,advantageを極大化するとともにdisadvantageを極小化する努力を続ける他にないのではないか。

教育を取り巻く環境も技術の進化とともに変わった。全教室にDeskPCとプロジェクタ(天井固定)が設置され,今では見慣れた光景となったが,費用対効果でどれほどの成果があったのかは当初から疑問視された。実際「無駄なもの」「税金の無駄遣い」という声を耳にしたが,入ってしまったものは教育や授業に役立てれば良いし,それは従来の授業形態を否定するものでは全くない。そこで,この新しい情報機器が,授業展開を支える道具の一つにならないものかと試行錯誤した。既製のアプリケーションで適当なものがないか,Webページを紹介する以外に使い道はないものか。そんな折に数研出版のアプリケーション・ソフトに触れ,今ではそれが授業に欠かせないものとなった。決して従来の授業形態が変わったわけではなく,むしろ従来の授業形態がその延長線で進化したとものと考えている。以下,導入までの経緯や課題を,授業の実際を通して,簡単に紹介したい。

導入の経緯

本校は,コース制(人文・理数・体育・国際)を採用する,創立19年の学校であるが,私は現在,その国際コース二年生の英語Uを担当する。教科書は,昨年度のPOLESTAR English CourseTに引き続き,English CourseUを今年度も採用した。採用を決めたのは,準拠のプレゼンテーション・ソフト"Studyaid D.B. POLESTAR English CourseT(U)指導用CD-ROM"の内容に惹かれたからだ。営業担当のプレゼンテーションを聞き,「これは画期的だ」と教材の可能性を直感した。

白板(ホワイトボード)への直接投影

授業では,通常プロジェクタと組み合わされる投影板 - 通常は白生地の布 - を用いず,教室正面の白板に直接投影している。教科書本文が直接白板上に映されることによる利点は,主に次の3点にある。

  1. 本文中の重要箇所・重点箇所のマークが直接行える。布に投影する場合は,レーザーポインタ等で指し示すことはできるものの,アンダーライン,主語・動詞等の文構成の説明,省略されている語の書き込み等は,十分には行えない。
  2. 投影される本文の構成は,生徒が手にする 実際の教科書と同じであるため,手許の教科書で迷うことなく授業展開が確認できる。Studyaid D.B.の収録内容は,教科書構成そのものが基本に据えられている。
  3. 白板のほぼ左半分を本文の投影に用い,空いている右半分を文法や構文の解説に充てることで,生徒がノート作成の参考とすることができる。従い,生徒の多くは,ノートの見開き左半分を本文の清書に充て右半分を板書項目の記入に充てている。白板の展開がそのままノート作成の目安になっている。

注意点・課題としては,以下の点が挙げられる。

  1. プロジェクタの初期設定(角度・サイズ・明るさ・ピント)の調整が必要である。
    調整は年度初めに行うが,季節により光量(明るさ)を微調整することもある。例.夏季は光量を強くする
  2. モニタケーブル(接続上の問題)
    教室設置のDeskPCは校内LANでつながれ,生徒が自由にインターネットにアクセスできる環境にあるが,モニタケーブルが通常はプロジェクタに接続されているため,起動時のPCモニタには何も映らない。使用時に生徒がケーブルの差し替えをしなければならないのが面倒であり,生徒の使用を事実上妨げている。モニタの切換器(スイッチ等)があれば,今後設置を試みたい。
  3. 暗幕を使用するため,夏季は教室をほぼ閉め切ることになり,蒸し暑く環境が悪い。
    エアコン等の空調設備がある場合は,導入が容易であろう。チョークを使用する従来の黒板が取り除かれ,マーカーを使用する白板になったのが,偶然にもPCとプロジェクタが導入された頃だった。白板の設置は,プロジェクタの投影を想定してのことではなく,チョークの粉が健康や機械に及ぼす悪影響に配慮してのことであったが,同じ時期に設置されたことで新しい組み合わせが可能となった。

学習計画を計画通りに消化

教員になって10年。昨年度,初めて年度内に教科書を終わらせた。今までも年度内に教科書を終わらせたことはあったが,その時は内容を端折って進めたので,教科書内容を必要十分に消化したのは,実質的には昨年度が初めてだった。計画が捗った主な理由は以下の点だ。
  1. 本文を白板に投影することで,板書の手間と時間が相当程度削減できた。
  2. 簡便な操作性 音声(model reading)は,マウスによる操作により,本文上の聞かせたい箇所を即時指定できるので,準拠のCD再生に頼っていた時に比べ,無駄な時間が省けた。
  3. 充実した参考資料・参考文例 本文内容に即した資料(スライドショー)や新出文法・構文を補足する文例が用意されており,マウス操作で適宜引き出すことができる。新しい課の導入に際し,スライドショーは,視覚・聴覚的に内容理解を促すことができるので,生徒の負荷が減ったと考えられる。

従い,

  1. 授業のマンネリ化を避け,飽きさせない工夫をする時間のゆとりが生まれた。例えば,communicativeな教材を授業時間内に取り入れた。
    ex. short sentenceの暗唱
    著名人のspeechやinterviewを聞く
  2. 板書の量が減ったことで,生徒に背を向ける間が少なくなり,生徒がより授業に集中した。

その他の課題

  1. 起動時間(授業開始時の問題)
    コンピュータとプロジェクタの起動には数分を要するので,その間,出席や別途教材を用いる等,生徒が注意を向けるために,若干の工夫が必要である。
  2. スピーカーシステム
    教室設置のDeskPCには,外付けのスピーカーがなかったので,(内蔵スピーカーは音量の性能に欠ける)新たに購入し設置する必要があった。"Studyaid D.B."等のアプリケーションを導入する場合は,予め外付けスピーカーの予算措置が必要であろう。
  3. 表示の拡大
    Studyaid D.B.で表示される本文は拡大表示が可能 −授業ではこの拡大表示を用いている(だが,プロジェクタと白板の距離は教室によって[又は学校によって]微妙に異なるので,拡大[縮小]が細かく調整できる[例.%で率を設定]ようにプログラムが設計されれば,使い勝手がさらに良くなると思われる。)

授業の流れ(Studyaidを用いる部分)

  1. 1. 既習内容の確認
    Easy Versionを起動し,scriptを見せながら確認 → 新しい内容への移行を促す
    keywordを白板上でマークし,大意把握を試みる
    再びmodel readingを聞かせる
  2. model reading
    マウス操作により,新しく進む段階(ページ)のmodel readingを聞かせる
  3. 音読 ×2回
  4. 内容把握(和訳)
    大意・精読を必要に応じ使い分ける挿絵等にStudyaidの付加内容がある場合は適宜紹介する新出文法(構文)に関しStudyaidの付加内容がある場合は適宜紹介する
  5. model reading ×1回
  6. 音読 ×1回

最後に

授業の実践を紹介させていただいたが,PCやプロジェクタを用いたことで「何か新しいことを始めた」つもりもなければ,「ITを活用し新しい授業を展開した」というような意識もない。鳴り物入りの授業,という印象を与えることだけはむしろ避けたいと願っている。従来の,言葉とチョークだけで勝負してきた授業と何らの変わりはない。変わったとすれば,チョークだったところが少々ハイテクになったことか。やはり,どんな授業もいつの授業も既製品を当てはめてお終り,というわけにはいかない。

私自身が為し得た記憶はないが,授業を成り立たせている本質である,「空気を感じ取り,言葉を選び,譬えを洗練させ,感情を交える」中でしか授業は進まない,と肝に銘じてはいる。

冒頭でも述べたが,Studyaidの採用は,そうした授業の本質の延長線上で,進化した道具を積極的に取り入れてみた,というだけのことであり,それ以上でもそれ以下でもない。


英和辞典(仮称・自作)による授業実践

語学の学習過程においては『暗記・暗唱』が決定的に重要である。例えば,新しい構文や文法事項を学ぶ(教える)場合,学習者が最初に目にする例文は『暗記・暗唱』に適しており,学習者の興味を惹起するものが良い。既製の教材で用いられる例文の多くは,その内容が簡潔ではあっても興味を引くものが少ない。一例を挙げる。

構文 " the比較級〜, the比較級… "  「〜すればするほど,ますます…」

既製教材例文

The higher you go, the colder it becomes.

高く行けば行くほど,寒くなる。

The harder she studied,the better her grades became.

勉強すればするほど,彼女の成績は良くなった。


英和辞典(仮称)例文

The larger the island of knowledge, the longer the shoreline of wonder.

- Ralph W Sockman

知識の島が大きくなればなるほど,不思議の海岸線も長くなる。

An archeologist is the best husband any woman can have; the older she gets, the more interested he is in her.

- Agatha Christie

考古学者は,どんな女性にとっても最高の夫。女房が古くなればなるほど,興味をもってくれるから。

The more I learn the more I realize I don't know. The more I realize I don't know the more I want to learn.

- Albert Einstein

学べば学ぶほど,私は何も知らないことがわかる。自分が知らないことを知れば知るほど,私は一層学びたくなる。

授業の実際

英語U(4単位)の導入時(7分前後)に,「英和辞典(仮称)」から一文を音読,暗記暗唱する。

ねらい

  1. repeatを通して英文が体得されていく過程を実感する
  2. 読みの強弱・音の高低・アクセント・連結発音等の英文音読のコツを知る

手順

指示は,必要最低限の日本語を除き,すべて英語で行う

  1. Both the English sentence and the   Japanese counterpart will be given on the board.
  2. Students will repeat the English sentence till it is pronounced fluently.
  3. The words will be taken away from the board one by one while students keep repeating the sentence.
  4. Finally students will repeat the given sentence with nothing on the board except the Japanese counterpart.

暗唱例文 "和英辞典(仮称)"より

  1. 災難には二種類ある。わが身にふりかかる不運と,人様に訪れる幸運。
    Calamities are of two kinds: misfortune to ourselves, and good fortune to others.
    - 'The Devil's Dictionary' Ambrose Bierce
  2. <諺>繁栄が友をつくり,逆境が友を試す。
    Prosperity makes friends, adversity tries  them.
  3. 最初に人が習慣をつくり,それから習慣が人をつくる。
    We first make our habits, and then our habits make us.  - John Dryden

校内LANへの可能性

英和辞典(仮称)は趣味で作ってきた。辞典と言っても,本や雑誌のなかで出会う,私の心をとらえた,きらりと光る言葉を拾い出しては書き綴っているだけだ。従い,それがもともと有名な言葉で,どの類の格言集にも載っているようなものなのに,それを知らなかったのは自分だけである場合もある。

これを始めて15,6年になるが,醍醐味は「安く豊かに」なれることだ。読書一般がそういうものではあるが,ここには,笑い,警鐘,諧謔,思想,恋愛,悲哀,友情,標語,教育,裏切り,哲学,妄想等々,人生にまつわる言葉が,いわば薬局の棚のように並んでいて,私なりの『生きる処方』が詰まっている。必要に応じて読み返している。

この英和辞典を現場でより広く生かすことができるのではないだろうか。校内LANはその可能性を広げるのではないか。英和辞典の共有化とともに,質や量を増すことができるのではないだろうか。英語の教員が,教材研究や研修を通じて,それぞれに得たものを集約することが出来るのではないか。

辞典共有化へ向けての今後の検討事項として,

  1. 活用例を提示
    ・授業や考査での活用例を提示
    例.
    暗記暗唱例文として活用
    例文内容からdebateへの足掛かりを得る
  2. 例文集約の基準を設ける
    ・ファイルサーバの構成
    ・辞典の性格を明らかにし,集約をルール化
    例.
    高校生が理解できる内容とする
    新しい学習内容(構文・文法)の理解を促すものである
    若者を扇動扇情するような内容を避ける